Chapter223. Urban Warfare
タイトル【都市に迫る戦火】
——ナンノリオン北部近郊
ヒト、武器、車両。しんしんと空挺部隊の雪が降る。
Soyuzは市街地から城を制圧するため、連隊単位での人員と兵器を投下。
相当な数のため、朝から降り続くこの雪は留まることを知らない。
遠方ではBMDという大荷物を抱えたパラシュートのロケットが点火、速度を殺しながら降下。
その一方では降下の際には別途投下された重火器を回収するための人員が動く。
降下した兵は素早くコンテナのロックを解除し、玉手箱を開くと出てきたのは対戦車ライフルPTRD。
スナイパーライフルでは届かない、あるいは力不足の狙撃場面で使う長物だ。アーマーナイトの装甲対策という一面もある。
車両の降下が済むと、乗員が次々と乗り込んでいった。
エンジンが掛かると、次々とAKだけをもった軽装兵を詰め込んでパレットから出ていく。
脇では対戦車ライフルや機関銃を持った兵士が徒歩で戦場へ向かう。
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——ナンノリオン北部近郊
市街地まで数キロ地点
彼らが目指すは敵拠点であるナンノリオン城の門前 アフェラフィンの街。
脇には頼もしい装甲戦力、BMD-4を揃え準備は万端。
偵察の結果によれば、こちらの人員配置は希薄と判明している。
ミサイルや火砲による奇襲が成功し、戦車部隊が突入してきた一件に気を取られていると見て良いだろう。
しかし作戦はあくまで強襲という側面もあり、彼らの存在を悟られてはならない。
また街への入り口までの距離はキロに達しており、通常のスナイパーライフルでは決め手に欠ける。
そこは対戦車ライフルの出番。シモノフPTRD背負った兵が伏せて狙撃姿勢を取った。
スコープを覗き込みながら、遠方から警備兵の様子を伺う。
こちらの接近に全く気が付いていない。十字線に頭を捕らえ、トリガーを引いた。
——DooOONG!!!! DooOONG!!!!——
小型の砲よろしく、強烈な反動が各方面から砂塵を巻き上げる。狙撃手は決して一人だけではない、この大決戦には無数のスナイパーが投下されているのだ。
市街地侵入を阻むものは何もない。
増援がやってくる前に、城を攻め落とせ。
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アフェラフィン市街入口
街の防衛騎士団は、県内にある軍事基地が襲撃された一件で防備を固めていた。その矢先、おびただしい数のSoyuz空挺部隊と遭遇してしまったのである。
見張りは射程外から狙撃されてしまい、報告が途絶してしまった。
Soyuz側の作戦は成功と言える。
「敵襲だ!」
騎士団の重装騎士が声を上げた。
無数の装甲車両に歩兵。1単位ずつが難戦するような相手が何千という数で攻めてくる。
これらを止めるのは不可能。
急いで竜騎士に伝言を頼んだが、侵入を防ぐには戦力が足りなさすぎる。
——KA-BoooOOOMMM!!!!——
増援を待つ合間もなくアーマーナイトは砲撃の前に散っていった。
膨大な力では百人以下の兵士はものの数にならない。
歩兵が一気に市街地になだれ込む中、BMD-4は一旦停車。
積載していた兵士を下ろし、街へと向かって行く。
【Green Gnome各車、歩兵の盾となれ】
何があるか分からない戦場において、最も防御力の高い存在が先に行き、盾になる必要がある。
家屋を使われることや、敵の「銀の銃」が飛んでくる可能性も無には出来ない。
だが、各紛争地では魔法のマスケット銃の代わりに、RPGなどのロケット弾が飛んでくる環境を経験している彼らにとって造作でもないだろう。
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——市街地
街内は避難なり、屋内へ立てこもっているよう指示が出ているのか、住人が誰一人出歩く様子は見られない。まるでゴーストタウンのような様相を呈していた。
戦争中、それも陸路で攻め込まれる立地である宿命か。
BMD-4が砲塔を嘗め回すようにゆっくりと旋回させる。
そんな時、騒ぎを聞きつけたのか、3頭の馬が現れた。
ソルジャーキラーを持った騎兵である。
——BLATATATA!!!!!——
同軸機銃を前に大槍を振るうことなく倒れた、そう思った瞬間。
SPaaarrrRRRKKK!!!!
雷に打たれたかのような電撃が迸る!
迅雷魔法バルベルデの力が込められた弾を使った銃だ!
魔竜などの魔法が効かない。あるいは効果が薄い標的を一瞬にして倒す兵器だが
熱に強い金属構造物、それも箱ものである車両には表面を焼くだけ。
———DAMDAM…DONG!!!———
主砲の横にある機関砲を受けながら止めの榴弾砲がお返しとばかりに撃ち込まれた。
活路を開きながら歩兵を入れる戦い。それが市街戦である。
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装甲車両の後を追う歩兵も普通の戦闘とは全く異なる状況に置かれていた。
ここは民間人が住まう街であり、やろうと思えばいくらでも人間を潜ませることが出来る。
Soyuzにとって逆もしかり。
今回の戦闘ではいかに陣取れるかがカギとなってくるだろう。
それに高台に作られたナンノリオン城まではまだまだ遠い。
足掛かりを作ることは極めて重要である。
——教会前広場
大動脈のコブ、まるでリンパ節のように存在する広場を陣取りたい歩兵と、なんとしてでも排除したい防衛騎士団側とでの熾烈な戦闘が繰り広げられていた。
——FEEEENN!!! Spark!!Spark!!……BANG!!!
銃弾、矢とバルベルデが飛び交うここは修羅場。
恐らくアーチャーやソーサラーが礼拝堂に隠れながら撃っているのだろう。
矢は弾と同じ感覚で飛んでくるため対処は簡単だが、電撃魔法だけはこちらを追尾してくるだけに質が悪い。
時々もうもうと白煙と銃声が上がるが、敵は恐らく黒色火薬銃を使ってきているのだろう。
ここにいる空挺兵は全てがエリート。
射手の場所を晒しているのであれば反撃の機会も多い。
魔法を放つため、魔導士が身を乗り出したその時。
BANGBANG!!!
AKの二段射撃が容赦なく魔法使いの脳天を貫く。スキを見せればその数だけ鉛弾を撃ち込まれるのが関の山である。
苛烈な銃撃戦が続く地獄、曇天の空から一筋の光のようにある敵が現れた。
「あれがアーマーか」
戦場の壁、アーマーナイトである。
肩には3連ランチャーを担ぎ、手槍の入った筒を背負い込んだ人間装甲車。
——BPHooOOMMM!!!!——
魔導の力で勢いよく放たれた3つ矛先は兵の潜む遮蔽物を吹き飛ばした。
空挺兵たちがハンドサイン一つで退避の合図で後退する。
弾切れのニースを盾にしながら放り捨てると、背中から槍を抜いて迫る!
距離はざっと150m、全力疾走で走る重装兵にとっては目と鼻の先。
厄介な状況でも彼らには焦りの一つすら浮かばない。
マガジンを弾き飛ばしながら換えると、アーマーナイトに向けて発砲した。
———BLATATATA!!!!!——
衝撃の雨で動きが固めることは可能、しかし装甲そのものは貫けない。
後ろにいた兵士が慎重にヘルムについた視界確保用のスリットに狙いを定め、トリガーを引く!
銃口から放たれた回転する弾は見事隙間を縫って敵の頭に到達。そのまま貫いた。
亡骸と化した鎧武者はそのまま崩れ落ちる。
これでライフル銃を使って倒せない人間は居なくなった。
圧倒的な物量、そして質が全てをなぎ倒す。
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街の戦力を削ぐため進むBMD-4。彼らの道中、あるものを目撃する。
【こちらGreen Gnome23 注意敵目標を確認。黒いヤツだ】
深淵の槍 ナンノリオン支部の人間が目撃されたというのだ。
騎馬と歩兵の相性はまさしく最悪な以上、車両が片付けねば誰がやるというのか。
しかし馬と車両では勝手が違うし、それに相手には地の利というアドバンテージを持っている。
空挺戦車の装甲は強力なバルベルデやゲグルネインといった魔法からある程度守ってくれるが、対装甲兵器には滅法弱い。
雑魚とは違う。如何にして懐に入られないかが生き残るカギだ。
黒騎士はほんの少し姿を晒すと、角を華麗に切り込むようにして曲がり、奥へ奥へと誘い込んでくる。
明らかに罠。だが確実な脅威故に排除せねば歩兵がやられるだろう。
BMDはじわりじわりとにじり寄るが、ここで一旦停車。
砲手は赤外線暗視装置を起動しながら主砲を見舞った。
DONG!!——BooOOMMM!!!!
石造りの壁に着弾し、辺りには粉塵が散り視界を妨げる。
その時。黒騎士は粉塵に紛れながら恐ろしい勢いで車両へ接近を試みてきたではないか!
光の反射の如くジグザグになりながら一気に距離を詰める。
だがそれは読めていた。
DAMDAMDAM!!!!!!
騎兵というのは巨大な熱源の塊。砲塔が鋭く旋回し、同軸の30mm機関砲が馬を襲う。
そうして乗馬を生きたまま砕かれ、落馬する武者に追い打ちをかけるべくBMDが逆に迫ってくる。
想像を絶するような金属交じりの轟音を立て、確実に潰した。
機甲部隊は活路を開くべく進み続ける。
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空挺歩兵、戦車の侵入によってアフェラフィンにある帝国軍陣地は狭められていった。
他都市とは比較にならない規模の防衛騎士団と、少数ながら混じる深淵の槍 実働部隊ではSoyuzのエリート部隊に対し足止めすらできなかったのである。
【Green KnockerからLONGPAT。市街北部を制圧】
礼拝堂を占拠した兵が無線機を片手に報告を上げた。BMDの小隊は教会の先を進軍し、一方的に火力で蹂躙。時が進むごとに制圧地域を増やしているのが現状である。
このまま進めば城目前まで占領できるだろう。
【こちらLONGPAT。そのまま司令本部まで侵攻せよ】
冴島はもたらされた情報から次の指示を下す。
グライダー部隊。今は防衛拠点を作っている側も、帝都からやってくる圧倒的な数の増援部隊が来られたらひとたまりもない。
深淵の槍が放った偵察部隊が全滅したということも知れている。
そう考えると敵は必ず相当な数の部隊で取返しに来るだろう。
あるいはナンノリオンがやられていると察知して、帝国にある全ての兵力をもってくるのが妥当か。
そうなればますます勝ち目はなくなる。
この戦いは絶対に足を止めてはならないのだ。
【Green Knocker了解。これより敵司令部侵攻を開始する】
命令を受けた歩兵部隊長はこうこう答えた。
いよいよ、その魔の手は空中の楽園、バビロンへと迫る。
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——ナンノリオン城 執務室
突然の敵襲に当然県の中枢である城も大混乱に陥っていた。
ただ一つだけ、石のように動じない場所がある。
「ナンノリオン県将軍」として君臨するコンクールスがいる執務室だ。
ひどく動揺した様子で伝令が扉を叩く。
「将軍、異端軍がこの城まで迫っています!」
コンクールスは慌てふためく兵に相反するように、眉一つ動かさず淡々と答える。
「慌てず、敵を適正に排除すれば良い。帝都からの部隊が到着するまで持ちこたえよ」
この簡潔な指令は気が動転した伝令でも理解できたようで、下々に伝えるべく去っていった。
自らが組織した防衛騎士団が壊滅。
県内の部隊も敵からの攻撃でほとんど使い物にならないとなると、長期戦に引きずりこんだほうが良いだろう。
制空権を取られてしまっている今、伝聞を持たせたドラゴンナイトを出せただけでも奇跡と言える。
「……こうなれば私も前線を視察しなくてはならないようだ。それに例の兵器と装備も試験せねば」
静寂を取り戻した中で彼はつぶやく。
そんな矢先、再び扉をたたく者が現れた。
「涙の調整、9割まで完了しました」
ファゴット配下のオンヘトゥ技術者である。
「了解。完了次第出撃せよ。それに騎士将軍に伝言だ。失敗は許されないと伝えるように」
双方、不穏な気配が迫る…
次回Chapter224は8月13日10時からの公開となります。
登場兵器
PTRD1941
単発式対戦車ライフル。某有名な映画のガンマンが使って「ない」方。
交戦距離が長いのもそうだが、14.5mm弾であればアーマーナイトの装甲を貫通できることから選ばれたのだろう。
連射できる「PTRS」の方よりも5キロ近く軽い。




