Chapter222. vs Black Knights Battle
タイトル【対黒騎士戦】
——午前7時42分
グライダー部隊構築陣地
ナンノリオンに突如訪れた異変。駐留していた帝国軍も軒並み全滅していく中、異常を察知したものが居た。
「敵発見。距離1500、黒い騎兵です」
双眼鏡を手にした兵が言う。
「数は」
「7!」
この地において黒騎士なる存在はただ一つ。【深淵の槍】である。
ハリソンが占拠された際、彼らの情報網に引っ掛かったがために実働部隊がやって来た。
目の前に居る数は7と少ない。
具体的な情報を収集するためにやって来た、偵察部隊である。
軍部ではないにしろ、情報を帝都に持ち帰るのは確実。戦闘の長期化を避けるためにも、一人たりとも逃がしてはならない。
【総員戦闘配置】
無線口から戦いの大号令が発せられた。
戦車・機銃座・配置された兵員すべてが今、動き出す。
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——KA-BoooOOOMMM!!!!——
道なりに進む騎兵を爆発が襲う。足止め用の遠隔地雷、クレイモアだ。
馬の脚が吹き飛び、騎士が落馬する。
それでもなお、受け身を取りながら着地。
敵の群れは体制を整え、それぞれが草陰へと消えていく。
———BLATATATA!!!!——DANG!!!
対空機関砲から飛び出す鉛の波がかき分け、落馬した騎手の体を貫いた。
深淵の槍が見に纏う黒い鎧にはある程度の耐弾性能がある。故にAK102やM4では倒せない。
——DANG!!——
しかし兵員の射撃は止まず、あらゆる弾薬が消費されていく。
それ自体に仕留められなくとも、動きをコントロールすることは出来るのだ。
車体を埋めたM22軽戦車や迫撃、歩兵砲の一撃が馬に向け榴弾を放ち、飛ぶ鳥を落とす勢いで敵を刈る。
無理に接近を試みれば足止めを食って、対空機関砲に撃たれて死ぬ。
頭脳がある人間なら理解できるだろう。
接近できないと。
無数の風切りが音響き、甲冑が弾丸をはじき返す金属質なものも混じる。
草陰に隠れても意味はないと言わんばかりの精度と、豪雨のような一撃は行動を阻害され騎兵は二手に分かれた。
【敵集団、左右に分かれ逃亡中】
陣地に矢が飛び込んでくる最中、兵が無線で報告を上げた。
敵が存在しており、陣地を構築しているという2つさえ掴めれば上等。
戦う必要はない以上、この場に留まる必要はない。
偵察は逃げ時が肝心なのである。
だがSoyuzにしてみれば見られたからには逃す訳にはいかない。3つに分散した部隊が残りの黒騎士を狙う。
敵は機銃や機関砲を嫌い、ちょうど死角になる3本道の一番右端へ誘導されている。
深淵の槍お得意の縦横無尽に動く機動力を削いだ今、ただ狙い撃ちするだけ。
【Right-Team各員。敵はそちらに逃げ込んだ。数は3】
機関砲の餌食になったのが1、砲撃によって砕け散って頭数は確認されたときの半分以下である。
逃亡の連絡を受けたスタッフは、土嚢袋の壁に立てかけられたSVDを取り、スコープを覗き込んだ。
馬に乗った騎士などは体格が良く、迷彩も施していないため非常に目立つ。
倍率を上げながら照準横の距離計に目をやると、ちょうど距離は500mと言ったところ。
すかさずトリガーを引こうとしたその時。
黒騎士は赤く光る仮面をこちらに向け、迫って来た!
狙撃手は咄嗟の動きは出来ないため、必ず歩哨といった護衛が必要になる。それを無視できると敵は判断し、突撃を敢行したのだろう。
ターゲットがどんどんと大きくなっていく。大剣を盾として使いながら迫る!
狙撃手はそれでも焦らない。倍率を落とし、狙いを瞬時に着けトリガーを引いた。
BANG!!……QRAM!!
風よって弾丸は上に逸れ、眉間ではなくヘルムに着弾する。
しかしSVDはセミオート式のスナイパーライフル。チャンスはまだまだ残っている。
BANG!!
今度は跳ね返ることなく不気味な仮面を貫通し射殺した。
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残った数は2。
力なく落馬する様を確認すると、他の狙撃手に向け走り始めた騎士にすばやく照準を定める。
隠れているはずの兵士を的確に発見したあたり、あの不気味な仮面はサーマルゴーグルのような役割をしているのだろう。
予断を許さないこの状況。
ここで確実に狙うために、あえて倍率をいじらず中央にヘルムを入れて引き金を引く。
丸裸になった頭を味方が阿吽の呼吸で狙撃し、排除することができた。
次の目標に遷るべく、スコープ内の風景を左右に動かしながら敵を探る。
装備は一式黒染めされており、白シャツに溢したソースのように目立つ。
いとも容易く発見。最後の調整を瞬時に終え、トリガーに手を掛けた瞬間だった。
大弓をもった黒騎士が矢を向けている姿が一瞬だけ映る。
狙撃し返してきたのだ。
狙いをつけている地点が知れている以上、負傷して動けないままでは殺される。
逆に撃ち抜かれるかもしれない逆境。
それでも冷徹に引き金を引く。
——BANG!!!——
銃声と共に最後の騎士は地に伏した。
【こちらRight02、排除完了】
狙撃手は淡々と報告を上げた。
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——魔導工場
午前8時
前衛部隊が取り残した敵を確実に始末するために突入を開始した。
機関砲と装甲のBMP-Tに自走対空砲を連れて来た、ゲリラ殲滅兵器群。
新たな敵を前にしてグラニオーツは飛蝗のように飛び交い、三次元を縫うようにして迎え撃つ。
——PEEP……ZLDADADA!!!!!——
相手は航空機を相手にする対空車両シルカ。すばやく旋回して見せると、23mm機関砲のスコールが降る。
しかし無人機は恐れを知らず、跳び上がりながらマウントした銀の銃を戦車モドキ見舞った!
不死鳥のような一撃に濛々と黒煙が上がるが、煤煙に隠れて機関砲弾が飛び出す。
マシンガンのものとは比較にならない威力を持つそれに、機体の防御力は絶えられず
全身を穴だらけにされて爆散。
無慈悲な殺戮機械を前に蹂躙されていく人形たち。これが本来の戦場だ。
———BPHoOOMMM!!!!……QRAM!!!
BMPらの車列が角を曲がるなり、即座に撃ちだされる誘導ニースも意味を成さない。
無様にはじき返すが、これは陽動。
本命は上に跳び上がったもう一機、とすべてが上手く行く相手なのか。
違った。
———ZLDADADA!!!!!——
ZSU-23-4 シルカが逆転の切り札を容赦なくひねりつぶす。
後続部隊の突入から暫く経った頃。辺りでは銃声に混じって、炸裂が混じるようになっていた。
機械トカゲの残骸を踏みつぶし、車両は進む。
時折、首長竜や真っ赤な火竜の残渣が転がっているものの、戦車部隊が全て片付けた証拠なのだろう。
追い垂れられる立場から「追い詰める役」に転じた機甲部隊は、グラニオーツを破壊しながら進軍を止めない。
3機の群れを発見したシルカは即座に機関砲を発砲するも、反撃と言わんばかりに飛んできた火柱の直撃に遭ってしまった。
【こちらAmur26からTerminator45。被弾した。しばらく撃てない。援護頼む】
損害は特にないものの、直撃した部位は正面の砲身。冷却のためにしばらく撃てなくなるのは確実である。
【Terminator45了解、援護する】
退避すべく機体が姿勢を低く跳躍しようとした瞬間、30mmのにわか雨が降りだした。
全てをあざ笑うような波状攻撃に装甲は突き破られ、爆散。
工場の各方面、戦力を目減りさせていった。
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こうしてナンノリオン魔導工場は蹂躙された。
入り組んだ建物が阻むも、冴島率いる前衛部隊が道を切り開いたおかげで迷宮ではなくなっていたのである。
そして彼らは工場を抜け、魔導都市の中核をなす市街地「アフェラフィン」に突入しようとしていた。
どこまでも広がる石造りの世界。それは巨大な城に放り込まれたかと錯覚するような壮大さを醸し出している。
各々の通路は大きな一本の「動脈」と、そこから枝分かれした毛細血管のように張り巡らされており、その様はパリそのもの。
だが夥しく密集した家屋と、遠方に見える神殿と見まがうような城がこの地は既定現実世界ではないと訴えかけてくる。
一方で、降下に成功した空挺部隊は同じく投下された車両と合流。
軽装備の兵はBMD-4に乗り込み、中枢部を目指す……
次回Chapter223は8月11日10時からの公開となります
・登場兵器
ZSU-23-4
重攻撃を受けてからやや出番が控えめだったソ連製の自走対空機関砲。
旧式化は否めなく、昨今では市街地などで遮蔽物に隠れた敵や戦車などでは小回りが利かないような場所にいる敵を排除するのに使われる。




