Chapter221. Reality without hope
タイトル【希望なき現実】
グラニオーツの追手を退けた次に現れたのは、強力な軍用竜たち。
それはコノヴァレンコ達だけではなく、閉鎖された壁を次々と破壊した他戦車分隊からも報告が入るようになった。
【LONGPATから各車、新たに出現した大型敵目標に構うな。可能な限り戦闘を回避せよ】
消耗すれば戦車はただの木偶。こんな連中に無駄弾を使う必要などはないと冴島は判断、無線を飛ばす。
だが最初に怪物と遭遇してしまった中尉は逃げ隠れも出来ない状況にあった。
魔竜は四方八方から飛んでくる魔法を物ともせず、動きの鈍いSU-152に向け前足を振りかぶる!
——ZDaaaAAASH!!!!——KA-BoooOOOMMM!!!!
100mm砲が化け物の足先を吹き飛ばし、破片が目を抉る。
【A-CAREER16からNartsiss08、此処は戦車と俺達で蹴散らす。他分隊と合流せよ】
【…Nartsiss08了解】
GrrrRRRRaaaAAAHH!!!!!
想像を凌駕する激痛に竜は怒り狂い、その矛先はT-55に向けられた。
逆鱗に触れたが最後、場を構わず暴れ続けるだろう。運が良ければ伏兵も一掃できるかもしれない。
「戦車砲が効くなら殺れるな…狙いはそっちに任せる」
これから始まる大乱闘を前に、中尉は乾いた唇を潤し、車長に問う。
乗員二人のBTR-Tはある種、サイドカーを付けたバイクと同じ。
暴れ馬を制する人間と狙いをつける人間の信頼あって成立するものだ。
「了解」
車長からは頼もしい答えが返ってくる。
如何にして、この場を切り抜けられるか。やってみるしかない!
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猛烈な憤怒を力に。魔竜は全力で一面に黒いブレスを吐き出した。
これは高純度かつ不安定な魔力の雲。
即座に強力な爆発魔導と化し、次々と反応していく。
——BPHooOOOOOOMMMMM!!!!———
その威力は人間の魔導士が放つものを凌駕し、強力な火砲が炸裂したかのような強烈な爆風が戦車たちに襲い掛かる。
軽装甲車なら大破してしまうだろう。
だが戦車は鉄塊の重装甲。破壊の風に耐えることができる!
視界が利くようになると、建物は半壊しており、飛んでくる魔法攻撃は止んでいた。
恐らく爆風が全ての魔導士らを薙ぎ払ったからに違いない。
「блядь…!」
しかし重装甲が幸いしてか、コノヴァレンコと車長は頭をぶつける程度で済み、乗っていたのがBMP-2などであれば確実に死んでいただろう。
戦車は主砲装填が完了するまでの間、勢いよくバックしてSU-152が逃げられるように囮となる。
【…Ahh…こちらPatton06。車長、砲手…負傷。】
【A-CAREER16了解】
文字通り恐ろしい爆発力を持つドラゴンだが、ここで人間との決定的な「差」があることにまだ気が付いていない。
怒りで視野が狭くなるあまり、BTR-Tを失念していたのである。
気が付かれないよう、細心の注意を払ってアクセルを踏みながら戦車と挟み撃ちになるよう方向転換。
照準をあの大きな頭に向けた。
よく観察すると、怪物は身を縮めているのがわかる。
どうやらネコのように飛び掛かって仕留めようという気らしい。
迷っている暇はない、狙いは後頭部にしっかり付けて引き金を引いた!
——DAMDAMDAMDAMDAM!!!——
装甲のような強靭な鱗をいくつも砕きながら砲弾が降り注ぐ。
頭の後ろをナイフでいきなり突き刺されれば、どんな獣であろうと振り向いてしまう。
これが間違いだった。
額や口と言った防御力の低い場所を現代兵器に向ければどうなるか。
その答えは明白。
声を上げる前もなく、砲弾が鱗を弾き飛ばしながら蜂の巣にしていく。
一斉射が止むと魔竜はオブジェめいて力なく倒れていた。
———ZooOOOMM……——
【こちらA-CAREER、敵目標排除】
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思いもよらぬ足止めに冴島は予定を早める手筈を取ることにした。
新兵器について各方面の報告を纏めればこうだ。
ノミのように跳ねまわり、内燃機関を搭載した車両を追跡できる速度で追跡してくる。
高い三次元機動能力を持つため一部戦車の砲塔旋回が間に合わない。
武装は光学エネルギー砲と誘導するニース、添付画像によれば銀の銃を装備したモノも存在している。
重要なのは追い立て役として必ず背後に出現すること。
そこで大佐は市街戦の切り札である後続部隊を突入させることにした。
旋回が速く即応性に優れる対空機関砲と、盾役の戦車支援戦闘車BMP-Tで構成された
ゲリラにとっての死神部隊である。
【LONGPATからBackup全車。突入開始せよ】
冴島は鋭く指示を飛ばす。
【Terminator01了解】
後続部隊が到着する前に、ケリをつけておかねばならないことがある。
あの大型敵目標たちだ。
後には自走対空砲や新世代戦車モドキBMP-Tが支配している。
ここで報告が頭をよぎった。
今回交戦した車両の中には重装甲な戦車が含まれており、少なからず損害を受けていた。
それにあの兵器が連携を取ってくることも十二分に考えられ、真っ先に防御力のないシルカやツングースカがやられるのは確実。
更に大佐は素早くモニタを展開。
各方面のガンカメラで撮影された画像に目を通す。
1枚目、ジャルニエ城で遭遇した火竜。
2枚目、バイオテックに運びこまれた新種の首長竜。
各方面からの報告によれば首長の目撃例が多く、損害はそこから発生している。
次に上空の偵察機に連絡を取った。
【LONGPATからOSKER01。大型敵目標数は変化しているか】
【こちらOSKER01、最初12確認されましたが現在4に減少。座標と画像も送信します】
その最中、ひっきりなしに無線が飛び交う。
【敵機撃墜】
【敵目標撃破!】
恐らく先軍915のミサイルによって飛竜は撃墜、火竜も抵抗させる暇も与えず戦車砲の餌食になったと見ていい。
優秀な部下が着実に始末しつつあるのだ。
【訂正。現在2に減少】
聞き耳を立てながら大佐は自分の置かれている立場をもう一度思い返す。
自分の乗る戦車T-72は前衛と後衛の丁度境なる位置にいる。
ならば敵を殲滅、後続部隊の不安要素を取り除くべく冴島は動いた。
【LONGPAT了解、残り全てを排除する】
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偵察機から送られてきた座標を基に、冴島の戦車は竜が暴れている現場に向かう。
残存しているのは火竜と首長が1つずつ。
全て戦車で事足りるだろう。
——VoooOOOOMM!!!———
排煙を散らしながら直角カーブを猛スピードで曲がる。
最初に片付けるのは飛行物から。地形を無視できる存在は厄介極まりない。
地点D、ジャルニエ城の怪物が発見された地点に接近した。
【指定座標に到着、停車】
大佐は停車命令を下した後、AK102を片手に敵からの攻撃に注意を配りながら、車長用ハッチから身を乗り出す。
獣には餌をぶら下げておけば何が何でも振り向くもの。
威嚇射撃を行い、狙撃する輩を奥に引っ込めてから角度を見定める。
その一方、銃声を聞きつけた竜は戦車の目の前に現れ、大きく口を開けたではないか。
火炎放射を浴びるかもしれないこの状況、彼は無線機片手に動じない、
【10時方向、撃て】
———ZRDaaaaAAAAASHHH!!!!!———
ロケットランチャーの直撃に耐える火竜だが、戦車砲を前に弱点を露出すれば紙同然。
着弾と同時に頭を消し飛ばした!
死体と化した様を見た冴島は戦車内に戻り、次の指示を下す。
【排除完了。地点Cに向かえ】
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OV-10からのリアルタイムで更新される情報を基にしながら怪物を追う。
2兎追うものは1兎も得ず。そうならないよう気を引き締めて様子を伺っていた。
相手は人間の策そっちのけで動く獣。しかし頭脳がないわけではない。
座標を見ると、前衛部隊を追っていたのが一転。
冴島の戦車に接近しつつあるではないか。
【左旋回、9時方向】
探す手間が省けたと言わんばかりに砲塔が回る。
視界を奪い、連鎖爆発を起こす漆黒のブレスを吐かれたら間違いなく戦車の目、光学機器をやられる。
奴に動かれる前に仕留めなくてはならないが、市街地に置かれた戦車は野原と勝手が違う。
しかし、付近についても路地に姿が見えない。
彼は考えた。爬虫類ならばどこに居るのかを。
完全に人間の道理が通じない存在に、いつまでも作戦だのと考えるだけ無駄。
「上か…」
戦車は真上が見えにくい乗り物。冴島はハッチを開け、天を見上げる。
そこには大口を開け、今にも吐息を吐き出そうとする魔竜がいた。
口元には煤煙とは比較にならない真っ黒な霧が立ち込めているではないか。
取れる仰角が狭いT-72のスキを突いたつもりだろうが、所詮はその程度の知恵。
弱点をカバーする方法などいくらでもある。
【11時方向。後退しながら撃て】
戦車は鋭く後退しながら主砲を竜のブラックホールに向けて放つ。
———ZRDaaaaAAAAASHHH!!!!!———……ZOOMM……
物言わぬ亡骸と化したケモノは音もなく崩れ去る……
次回Chapter222は8月10日10時からの公開となります。




