Chapter220. Trap of Labyrinth
タイトル【迷宮の罠】
——ナンノリオン魔導工場
戦車部隊の指揮官、つまり冴島の駆る指揮車は後ろにいる。
前にいるのはほとんどが下っ端なのが古今東西の戦場というもの。
———VooOOOMMM!!!——
排ガスを巻き上げながら機甲部隊はついに市街地前の工業地帯に殴り込みをかける。
それぞれ分かれて突入し、先陣を切るコノヴァレンコのお供は鈍足のSU-152とT-55。
防御力の鬼T-55を前に、右に小回りのBTR-T、左にSU-152と鋼鉄の水戸黄門が組まれる。
このチームが組まれたのはお互い速力に極端な差がなく、足並みが揃うからだ。
中尉の車両に歩兵は押し込めていないものの、天板に設けられた武装は自在に動き、市街地に潜む敵を貫くだろう。
突入を敢行しようとした瞬間、門を閉めようとする不届き者の影がちらりと映る。
「3時方向、敵!」
———DAMDAMDAM!!!——
車長が30mm機関砲をぐるりと旋回させ、容赦なく引き金を引く。
何発もの砲弾が門上の兵士に直撃し、二度と閉じることはなくなった。
自分が思ったことを即座に実行する。
腕のいい車長とお陰で中尉は安心してハンドル操作に集中できるのだ。
操縦手としてこれ程まで恵まれた環境はそうないだろう。
GEEKK!!!!
戦車が関門を潜り抜け、後をBTRが追う。突撃砲も側面を門壁に擦りながら突破!
ディーゼルエンジンの心臓を限界まで高鳴らせ、カーブを曲がる。
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茶碗を翻したかのような砲塔のT-55が猛スピードでコーナーに突入、突撃砲もろとも大きく弧を描く傍ら、BTR-Tだけが履帯を滑らせながら鋭く曲がっていく。
その様は猛牛、突き進む姿は世界トップのフォーミュラを連想させる。
BLATATATA!!!!——BRASH!!!!——
戦車が同軸機銃を乱射しながら壁のような障害物を突き崩す。
直後、キャタピラがバリケードを重量にまかせて潰しながら登り、車体がそのまま落下。
着地と同時に激しく揺さぶられるも、何事もなかったかのように走り去る。
数十トンある重量物相手にこの程度の障害物は意味を成さない。
たとえ馬が防げても、履帯は潰して上ることができるのだ!
最低な乗り心地に揺られながらもコノヴァレンコの荒熊めいた視線は小さなペリスコープから食らいついて離れない。
どうせならハンドリングもサスペンションも最低。
そんな中、戦車モドキの車長がすかさず指示を飛ばす。
「11時方向か…!」
すかさず機関砲を叩き込み黙らせる。どうやら魚雷持ちだったらしく、上から撃たれたら突撃砲がやられていた。
しかし幸運は続かない。直前の通路が防壁によって閉鎖されているではないか。
戦車から無線が飛び込む。
【——こちらPatton06、通路が封鎖されている。破壊できそうにない。迂回する】
【A-CAREER15了解】
【Nartsiss08了解】
迂回先なんてあるものか、答えのない迷路に放り込まれた彼らはただ道があるまま進むほかない。陸上兵器の定めだ。
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道行くまま、水が浸透するかのようにコノヴァレンコ達車両は突き進む。
すると車体のあらゆる場所から雨の様に金属音が響き始めた。
QRAM!!QRAM!!!——ZRASHHH!!!!!———
すかさず100mm砲が火を噴き、各車煙幕を張る。
しかし音は絶えず、聞き耳を立てると着弾箇所は真上。
角度的に建造物から前へ狙って撃っても当たるのはせいぜい車体。
では撃ち込まれているのは一体何だと言うのか。
「——この先は行き止まりだ!引き返すか砲撃し続けるように伝えろ」
突如コノヴァレンコは叫ぶ。
「……了解」
車長は納得のいかない返事だが、中尉は攻撃の正体を掴んでいた。
おそらく敵は建物からではなく、遠方からシューターやスナイパーが「曲射」してきていると。
脇から撃っているのなら真横か斜めに射角が取れず、武器の精度が高くない以上、一撃は必ず側面に行く。
故に対RPG用のコイツは履帯に増加装甲を取り付けている。
ならば答えは一つ、放物線を描くことを計算して壁の向こう側。
行き止まりのその先、行き止まりの裏から撃ってきているのだ!
これが正しい場合、狙いをつけるのに目視は使えない。
壁の向こう側から排気音を頼りに当ててきているのだろう。とびきり腕が立つ射手に違いない。
———ZGGGGGAAASHHHH!!!!!
一歩後ろの突撃砲の重砲が響き、それにつられてT-55も後を追う。
【こちらPatton06 からA-CAREER16・Nartsiss08、停車せよ】
袋小路の底に穴を開けられたか確認するため、戦車から停止指示が下る。
「あの車長とは気が合うぜ…блядь!」
古い戦車は同世代の自動車以上にブレーキの利きが良くない。
コノヴァレンコはアクセルから足を離し、踏み抜く勢いでペダルを切り替えた。
奥歯をしっかりと噛みしめ、スリップしないよう細心の注意を払いながら速度をみるみるうちに落としていく。
戦車モドキはまだいいが、鈍重なパンター殺しの操縦手は恐らく冷や汗を垂らしているに違いない。
案の定、中尉と55の先にSU-152は止まった。突撃砲が後退する傍ら、BTR-Tら車長が見回して状況を確認すると、そこには木と石の残骸しか残っていなかった。
その間も攻撃が続いたが、すべては掃射によって無力と化す。
諸行無常、戦車部隊の魔の手はナンノリオン深部へと迫る。
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——午前7時
工場のジャングルに突入してはや1時間。
全自動とはいかないものの、立ち並ぶ建物は視界を前後左右にしか利かなくなっていた。
この入り組んだ構造と屋根の高さだけでいえば、現代とさして変わらないだろう。
何気ないやりとりの中、突如ヤツが現れた。
【こちらPatton129、迂回するため…なんだアレは!】
ただならぬ何かを察知した冴島が呼びかける。
【LONGPATからPatton129、どうした何が起きた】
【なんだ…?…ラプターだ!甲冑をつけたトカゲに攻撃を受けている!】
車長は形容しがたい物体を前に動転しており、コールサインをかなぐり捨てて無線機に叫んでいる。
【こちらLONGPATから付近各機、Patton129を援護せよ】
姿が見えるなら戦車砲なりで排除しているはず。となれば「トカゲ」は待ち伏せし、Patton129、先軍915を襲ったことになる。
帝国軍の差し向けた刺客を受け止め続けた冴島は 戦車では小回りが利かないとすかさず判断。
近くを飛行している戦闘機に望みを託した。
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Patton129に視点を移そう。
彼らは冴島の指示通り、工場に侵入。
各方面が伏兵によって攻撃を受けていたものの、この分隊だけは抜け穴を走っていたのか、快適にドライブしていた。
だがとある一角を過ぎた途端、妙な二足歩行兵器が追い立ててきたのである。
攻撃そのものは痛くはない。
だが一発のビームで外付け武装を半壊させる火力を持っているだけに、油断はできない。
「まずいな…」
車長が外を覗き込みながらつぶやく。あの鎧をまとったような二足歩行兵器が増え始めている。
VEEEE!!!!!!
そうしている間に次々と光線が当たり、車体塗装を焼いていく。
攻撃は装甲が分厚い砲塔に着弾。
事なきを得たが、いままで見たことのない動きをするせいで反撃しにくい。
とっさに陣形を変えて突撃砲を前に置いたが正解だったようだ。
それに大佐が戦闘機を呼んでくれたものの、安心とはいかない。
機敏と呼ばれる昨今の戦車に走って追いつき、時には壁すら走る機動力。
機械制御で百発百中の主砲が火を噴こうとも、速すぎて当たらないのだ。
おかげで手が出せないでいる。
機銃で薙ぎ払おうとしたが、装甲ではじかれてしまった。
不思議なことにミサイルではロックオンできない辺り、非常に質が悪い。
切り札である連装擲弾銃はビーム砲やら攻撃を受けて大破、まともに使えない。
故に今はただこうして固唾をのむ他なかった。
―――VEEEE……ZDAMDAM!!!!!!
残忍な羽音と共に空から破壊の雨粒が降り注ぐ。近くを飛行中のYak-9が参上。
空挺部隊を護衛していた1機だ。
恵みを受けた機械仕掛けのトカゲは全身を穴だらけにされ爆発四散した。
そんな折、工場の屋根を忍者めいた跳躍で飛び移るトカゲの姿が見える。
1つ2つの次元ではない、数十。おそらくは百。
穴あきチーズにしたのはそのたった1つ、それにまだ追手が降り切れていない。
車長から血の気が抜けていく。
「嘘だろ冗談だろおい……!」
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中腹に突入仕掛けていたSoyuzを待ち受けていたのは謎の二足歩行兵器。
その毒牙はコノヴァレンコ中尉のチームにも向けられていた。
機甲分隊は進まなくてはならず、道順に沿わざるを得ない。
この地図なき迷宮を。
中尉は情報を冷静にまとめていく。
異常な機動性は見るまでもなく、足が遅く砲塔旋回が出来ないSU-152にとって脅威になるのは火を見るよりも明らか。
射角と旋回速度に限界があるT-55に回ってくるのはせいぜい前から来る敵への防壁役だ。
勝ち目があるのはBTR-Tだけ。
乗員は2名、ガンナーを兼ねる車長と操縦手のコンビでなんとかしなくてはならない。
彼は後ろを、コノヴァレンコは前と、見ている視点はまるで違う。
けれども阿吽の呼吸でひっ迫した状況を打開しなければならない。
この先は行き止まり、ラプターの顎下に取り付けられたビーム砲が光を蓄えはじめた。
寸前で戦車や突撃砲が速度を落としながら大きく曲がり、光線は外れる。
——BPHooOOOM!!!
だがそんな時、1機のグラニオーツに装着された4連ニースが一発、発射された。
デタラメに撃たれた槍は空を切り、ビームの様に外れるかと思われたが何かが違う!
速度をそのままに器用にカーブを曲がると、BTR-Tの後部に突き刺さった!
——QRAAAMM!!!!——
このニースは魔法を付与することにより敵めがけて追尾してくる特別なもの。
脅威度は帝国軍の道楽から「兵器」へと一気に跳ね上がる。
「блин!あんの野郎、追尾機能付きか!」
コノヴァレンコが悪態を付いていると、横にグラニオーツが張り付いていた!
恐らく曲がるときにかなり減速した際、一気に距離を詰められたのだろう。
車がスピードの出ている状態で曲がろうとするとクラッシュするが、T-REXなら踏ん張ることで速度を維持できる。
それに、現代の装甲車両は上に角度は取れても下に角度を取れない。
これ即ち、数センチ距離で近づかれたら飛び道具を使えなくなる事を意味する。
「ダメだ、——射角が!」
そうしている合間にランチャーではなくマスケット銃を括りつけられたラプターは狙いを定めていく。
「手はある…!」
コノヴァレンコはハンドルを寄せ、むしろグラニオーツに接近を試みた!
撃ってくれと言っているものだろうが、彼には策がある。
GRASHH!!!
幅寄せされた結果、機械仕掛けの爬虫類は建物に挟まれたのである。
BTRはそのまま加速、壁に擦り付け凄まじい勢いで挽肉にしていく!
接近されたときの奥の手は轢き殺すに尽きる。
——KA-BoooOOOMMM!!!!——
鉄屑ミンチになったグラニオーツは魔力の暴走を起こして爆発。
「こっちも負けてられないな」
同時に車長はしつこい追手に狙いを定め、機関砲の引き金を引き続ける。
これら3機全て餌食になり、鉛色の華を咲かせた。
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反撃の狼煙を得たのも束の間、絶望的な事実が二人に直面する。
【Patton06からA-CAREER16・Nartsiss08 この先は行き止まりで…敵からの攻撃を受けている、邪魔な壁をなんとかしろ!】
分隊は知らず知らずのうちに行き止まりへと追い立てられていた。
だが、この程度で止まるほどではない。
すぐさまSU-152の重砲が不可思議な壁に向けて放たれる。
ZGGGGGAAASHHHH!!!!!
圧倒的な榴弾により、バラバラと崩れ落ちるエングレーブ付きの石門。
粉塵と残骸をかき分けながら、野獣の目が光る。
GRRAAASHHHHH!!!!!
火砲があちらこちらで炸裂する中、本能的な恐怖と絶望を掻き立てる雄叫びが木霊した。
首長竜のようなシルエットに細長い前足と鋭利な爪。
門に使われた石板から封印が解かれ、暴走した魔竜が解き放たれたのである!
これこそ帝国軍の用意した策の一つ。
自治区から発掘された封じの壁を各所に配置、破壊することで中身が出てくる寸法だ。
罠を踏み抜いた先にある「更なる罠」
やられてばかりはいられない。
次回Chapter221は8月9日10時からの公開となります。
登場兵器
BTR-T
T-55を素体に、増加装甲と無人砲塔を着けた重歩兵戦闘車。
元が元だけに快適とは口が裂けても言えないが、ちょっとやそっとの機関砲ではビクともしないのが利点。
グラニオーツ
自治区から発掘された恐竜型二足歩行無人機。
銀の銃を着けた改造型と、熱線を放つタイプが存在する。
防御力は機銃弾をはじく程度だが、狙いの遅い重砲では当てられない程素早い。
先軍915
またまた北朝鮮製主力戦車。T-62を設計素体にしている筈が、なんだかおかしなことになってしまった。対空・対戦車ミサイル・連装グレネードマシンガンを搭載しており、手数は非常に多いが露出しているため破壊されてしまうこともしばしば。




