Chapter218. Wave of destruction
タイトル【破壊の波】
ウイゴン暦9月18日 既定現実9月25日
午後11時
ナンノリオン蹂躙作戦は基本的に「奇襲」の形を取る。
もちろん第二の帝都と言われるだけあって軍事設備などは無数にあるだろうし、それらを相手にする時間も残されていない。
正攻法で戦えばもれなく敵の隠し持つ究極兵器を使われ、逆転負けしてしまうだろう。
よって、兵器始動するまでに何としてでもナンノリオンを制圧しなければならない。
神を名乗る兵器を粉砕したとしても事態は長期化し、盤面を覆される最悪の事態が待っている。
必ず奪われた陣地を取り返す。これがコンクールスの狙いの一つ。
しかしこの前提は正攻法で殴りかかることを前提としている。
だが忘れてはなない、Soyuzは決められた道を必ずしも通らないという事を。
陸と海に置かれたミサイルが動き出したのである。
狙いはナンノリオン県に存在するありとあらゆる軍事施設、全てだ!
————————————
□
——ナルベルン弾道ミサイル基地/ベノマス沖
「これが光の柱っつうモンか、へぇ。…全然光っちゃいねぇじゃねぇか!」
シルベーから仕事で来たという男が発射台を見物に来ていた。
反ラムジャーの象徴であるこのスカッドDは自治区にとって良い外貨獲得手段の一つとなっている。
「慌てなさんな、夜に撃ちだすのはアレだ。秋に雪でも降るのかねぇ」
現代兵器というものをアサルトライフル以外音沙汰がない彼らにとって、ミサイル発射は一種のアトラクションなのだろうか。
そんな中、一人の警備スタッフ。ミサイル・マンが制止に掛かる。
「なんてこった、いつからここは観光地になったんだ!下がって!」
———VRaaaaAAAASHHHHH!!!!!!!!———
そんなこともつゆ知らず、1t爆弾を乗せた光の柱が飛び立っていく。それも1つ2つどころではない、基地にあるすべてのミサイル全てがナンノリオンに向けて飛んでいく!
暗黒の空に推進剤を燃やし、凄まじい光と速度で飛んでいく姿は正に光る柱、あるいは神の槍を連想させる。
「うぉーすっげ、こう、いいな!」
「だから下がれって!」
これは前座に過ぎない。
——————————
□
——洋上
超大和型戦艦 尾道
ナンノリオン一斉攻撃は続く。この超弩級を凌駕するこの尾道からもまた攻めの一手。
この21世紀生まれの超大和型。
宇宙航行は出来ないが、おびただしい数のミサイルを搭載しているのだ。
敵拠点は以前の高高度偵察で場所を突き止めている。それに今は爆弾の詰まったちぎれ雲が空を切り、そろそろ狙いを定めて降下を始めた頃だろうか。
あとはトリガーを引くだけ。
「対地上戦闘。総合指令部指示の目標。撃ち方始め」
——TTTTTAAPP!!!——
正方形の蓋が一斉に開くと、いくつもの火柱が艦を一瞬照らし、柱は闇へと消えていった。
灯台以外の明かりのない夜の帳が切り裂かれ、ミサイルの発射と共に連装砲が影を落とす。
今日は今日とて、誘導弾の雨が降る。
——————————————
□
バケツをひっくり返したかのようなミサイルの雨。それらはナンノリオンに点在する軍事基地を一つずつ、軍人だけを殺す兵器が無慈悲に焼いていく。
——ナンノリオン県 第15航空騎士団駐屯地
「クソッ!」
寝間着姿の兵が様々な感情がまぜこぜになった顔で叫ぶ。
何もかもが遅かった。
弾頭に満載された重爆弾によって静寂が打ち破られた時には全て消し飛んでいたのである。
戦友も、他と比べ設備の良い発着場も。そして自らまたがる飛竜ですら、積み上げてきたものを全てあざ笑うかのように消し飛んだ。
間一髪で逃れることが出来たが、空から降ってくる絶望に対し翼の折れた兵士に何が出来るというのか。
魔法程度の攻撃ではビクともしない基地が、この栄光が。全て崩れ去っていく。
途方もなく辺りを見回すも現状はどうあがいても変わらない。
救援を求めようと見つめた所も遠方からでも見える程に火の手が上がっていた。
何もかもおしまいになったのは此処だけではないらしい。
絶望にくれる兵士の上から再び弾頭が起爆、炸裂していった。
——————————
□
ウイゴン暦9月19日 既定現実9月26日
午前12時30分
——ゾルターン県上空
この作戦において重要なのは「増援を寄せ付けないこと」である。
奇襲をする以上、救援が来たが最期、事態は泥沼と化すだろう。
勝負をいかに早くつけられるかがターニングポイントだ。
グライダーには空挺部隊とは大きな違いがある。
この大きな紙飛行機は数十キロ漂い続けるため、降下する場所よりも後ろで切り離さなくてはならない。
肝心の目標地点は帝都とナンノリオンの県境は北部にある。
そのためゾルターンから降下を開始しようとしていた。
彼らの任務は陣取っての足止め。いかに早く足掛かりを作り、敵を食い止められるか。
その過酷さは尋常ではないだろう。
…TEEP
グライダー本体をつなげるワイヤーが切られる。
竜騎兵も迎撃できない高度故に、横槍を入れる存在は誰一人として存在しない。
動力源を持たない翼は騒がしい音を立てることなく、暗殺者よろしく空を飛ぶ。
日付が変わって久しい深夜。
明かり一つ無いこのファルケンシュタインを照らすのは滅茶苦茶な並びの星空と、海や陸から飛ぶミサイルが時たま照らす程度だろう。
降下部隊は音もなく帝国の心臓向けて忍び寄る。
——————————————
□
ゾルターンを抜け、ぺノンを飛び越えた先、ナンノリオン。ある兵士が窓に目をやると、空が急に明るくなっていた。
星明りとミサイルの尾、それをはるかに凌駕する原始的な灯 「火災」である。
夥しい数の弾頭が陸・空・弾薬庫といった軍事拠点に降り注ぎ、すべてを破壊していった。
爆発の余波が火災を起こし、一度に始末し切れなかった残存兵力をすべて薙ぎ払う。
設備、武器や弾薬。ドラゴンナイト用の飛竜や騎兵用の馬、兵士たち。
なにもかもを焼いていく。
地獄と何の違いがあるというのか。
—————————————
□
燃え盛る火の海を突っ切ってグライダーは帝都との県境に着陸。
歩兵が先陣を取って斥候するも、敵兵を確認することができなかった。
それもそのはず、ナンノリオンは奇襲で前も後ろも寝起きで大パニック。
寝首を狙う存在に手出しできるはずもないだろう。
——午前1時30分
滑空してきた物資は多種多様。人間や機関銃などかわいいもので、ZU-23-2という大物や、迫撃砲に92式歩兵砲。
あろうことか2式軽戦車とM4縮めたようなM22空挺戦車もいる始末。
去ることながら添え物として、とっておきの足止め兵器「地雷」もお忘れきよう。
どれだけ優秀な兵器や設備があった所で、準備や使う人間が居なければ何の意味もなさない。
肝心の降下した地点は3つ。
それぞれ航空偵察によって確認された帝都と県をつなぐ大道路に陣取ることに成功した。
敵はこの血栓を全力で引きはがしてくるだろう。残された時間は少ない。
故に降下した彼らは弾薬や土嚢袋とスコップを手に必死に設営を行っていたのである。
【設営急げ】
部隊長の冷たい声が各員のスピーカーに響く。
何せこの防御陣地、Soyuz勝利のためのピースと言っても過言ではない。
希望、それ故に張り詰めた空気が辺りを漂う。
確かにお手本通りの素晴らしい潜入が出来た所で、偶然通りがかりの警備兵などに発見されてしまえば即座に増援を呼んで叩き潰してくるだろう。
可能性は限りなく低いものの、0とは誰も言いきれないこの現状。
出来るだけ体制を整えておく必要がある。
地雷を埋めるために掘り出した土砂は、機銃陣地用の土嚢へ詰められていく。
部隊長がどこに埋没したか記録する傍らで次々と指示を出し続けなければならない。
時間短縮は単純に手抜きではなく、順序の合間を縫いながら出来る作業を全て済ませておくのも必要である。
戦車、機銃陣地に対空機関砲。それとハンヴィーに乗せられた対空システム。
まさに役者は揃った。
【こちらHexane-READERからLONGPAT。設営完了】
【LONGPAT了解】
無数の砲門が暗黒星海の中で輝く。
——————————————
□
ナンノリオン県上空
高度800m
——午前2時
果たしてこれだけの猛攻撃の結果はどうなったのか。
ウォーゲームの勝敗を確かめるため、一機のOV-10が飛び立つ。
その名はOSKER01、各方面で戦場の目として働いてきた命がけの偵察機。
飛行場から飛び立った機体は様々な県を突っ切り、ついにナンノリオン県境までやってきた。
夜間偵察用に暗視装置や、県内の基地情報を記録したソ・USEなどを搭載しており、星明りしか頼りがない深夜でもフライト自体問題ない。
星々の灯を受けて輝く海が見えなくなると、その先はついに敵地ナンノリオン。
魔導で栄えた地は太陽が沈めば全てが黒に沈んでいるはずだった。
しかしそこには星座があった。
軍事基地だけが無数のミサイルに襲われ、火の手が上がっているのだろう。
農地も他施設を綺麗に避け、例えるならくり抜かれたクッキーの様。
副機長がソ・USE片手に攻撃されている場所に差異がないか確かめる。
では機長は何を見ているのかというと、地上に配属されている兵の動きだ。
第二首都でもあり、なおかつ敵は陸からSoyuzが攻めてくると踏んでいる。マトモな司令官なら此処に兵を集中させるはず。
結果としれみれば敵戦力は壊滅。つけこめる隙はあったのだが、そうは帝国が卸さない。
「機長。攻撃地点は全て焼き払われています、誤射は今の所…———しまった迎撃が来た!」
敵のスクランブルである!
向こうにも航空戦力という概念がある以上、偵察機の危険性は十分に知っている。
見られてはいけないものを見られた訳である、なんとしても口封じをしなくてはならない。
切迫した状況、無線が入る。
【Echo47からOSKER01、オーディナンス・インバウンド。ETA+1マイク】
ミサイル部隊Echo47からの伝文だ。
1分以内に高度を上げて逃げ切れば、音速の3倍でやってくる追手が全て片付けてくれるだろう。
———KA-BoooOOOMM!!!———
闇夜に榴弾の花火が開いた。
ベノマス付近に設置された9K37によるサプライズ・プレゼントに迎撃はみるみるうちに叩き落されていく。
マッハで迫る飛翔体に逃げ場などない。
その証拠に、レーダー上から自分以外の点が消え失せた。
【OSKER01からLONGPAT、敵航空目標は排除された。偵察を続行する】
【LONGPAT了解】
深夜のランデブーは今だ続く。
夜明けまで残り4時間。帝国軍の大御所が目を覚ます前に、やれることを詰め切れるか。
次回Chapter219は8月7日10時からの公開となります
・登場兵器
空挺グライダー
航空機などで牽引、そのまま滑空飛行して着陸する輸送グライダー。
エンジン音も全くしないため、レーダーがないと探知は非常に困難。夜間に行われた場合は目視ですら極めて難しくなる。
M22空挺戦車
アメリカ開発の空挺戦車。グライダーなどに詰め込まれて送り込むことが可能。それだけ軽量なのだが、やはりその代償は言うまでもないだろう。




