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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅴ-1. ナンノリオン編
244/327

Chapter217. Calm before the storm

タイトル【嵐の前の静けさ】

Gチームと機械化歩兵たちによりペノン県の中心である城と司令官コーネリアス、副官ウィローモを確保。



Soyuzの進路途中に未制圧地は無くなり、県を跨いだ先にあるのは第二の帝都ことナンノリオン。

此処を制圧すれば残すは首都。帝国全土を制圧し、契約は完了される。



大変重要な局面を前にした冴島大佐と中将はある作戦を立案した。


それは無停止進撃作戦。


進軍先に存在する敵の基地・補給路・市街地・拠点を見つけ次第破壊しながら進む、文字通りのローラープレス。




一見して単純明快に思えるが、本作戦が止まることなく破壊を繰り返すのは首都防衛のためのオンヘトゥを起動前に潰す意味合いもある。



そのため、各地に建てられた拠点では超大作戦を実行すべく動き始めていた。



———ペノン県ヴェノマス戦車整備工場



陸の王戦車が集う港ベノマス。夥しい数のT-72や55、火力の鬼突撃砲SU-152に混じって旧軍最後の戦車5式中戦車が混じる。



整備工場の至る所では弾薬の補給や車体後部に着けられた燃料タンクの撤去、ボルト締め点検が入念に行われていたのである。



ペノン県には用はない、後腐れなく鋼鉄の馬は旅立っていくのだ。



「最終点検通し終わったら後戻りできねェぞ!しっかりやれ!」



「戦車兵の命は俺達が握ってることを忘れるな!」



作業の傍ら、無理の利かなくなった体に鞭を打って榊原は整備班の音頭を取る。

機甲師団と同等の数。


およそ数百両近くの面倒を見るのは、整備班や班長にとっても辛い仕事なのには変わりない。



それに自分はメカとしてのガタが来始めている有様だ。



「班長!あれだけかき集めた耐熱塗料が底をつきそうです!」



そんな最中、整備員が榊原にあることを報告する。

火炎瓶やサーモバリック弾などを防ぐ火鼠の衣が残り少ないという。



強力な魔法ゲグルネインや、銀の銃で嫌と言うほど燃やしてくるファルケンシュタイン帝国軍に対抗するのに必須と言えよう。



雨の日に傘がないのと同じ状況に陥っていた。



「あぁ!?そしたら突撃砲を優先的にやれ!敵さんは強いヤツから燃やしてくるからな!美女にしっかりとオイルぬっとけよ、無駄にするな!」



真っ先に狙われるのは重装甲で高火力の鈍足自走砲。全焼した件もあり、班長は慎重になっていたのである。



「了解!」


工場はアドレナリンを注射されたが如く、力強く脈動し続けていた。








————————————————









ところ変わって陸の王者たちがベンチ入りしている駐車場。


最終点検を終えた車両たちはここでまとまって補給などを受ける形になる。



作戦に参加する装甲兵器は本隊のみならずそのバックアップもいるため、依然として多い。

故にここは戦車の動物園状態となっていた。


そんな檻の一角に奇怪な珍獣が数台陳在する。



角を失ったかのようなT-55そのままの車体、イッカクの角のように生える30mm機関砲。そしてオプションのミサイルと煙幕装置。



戦車を素体にしているから故の恐るべき防御力とあらゆる角度に攻撃できる小回りの良さ。市街地戦の古臭い二枚目俳優、BTR-T。



そこに立つ男が一人。



「注文通りスモークディスチャージャーがついてんな。よし」



コノヴァレンンコ中尉だ。



「90や72、64もいいがやっぱり55がしっくりくる。ガキの頃のワル仲間みたいなもんさ、どんな格好になり果てようとな。」



「俺が操縦手をやる。判断は車長、あんたに任せた。」



彼がそう言うが、実際はかなりの無茶もいいところ。

何せ車の指揮官である車長よりも階級が高い部下などいるものか。



どの時代、国でも年上の後輩というものは接し方に困る。



装甲の長は自らの階級章を見ながらつぶやいた。



「……俺より階級上の操縦手かぁ……気まずい…」









—————————









———ジャルニエ大型機発着場



Soyuzの心臓は何も一つとは限らない。

此処、大型機発着場では燃料補給や兵器類の積載のために多くのスタッフが行きかっていた。



——PEEP——PEEP……



「オーライ、オーライ。いよし止まれ」



誘導員の合図と共に無数の空挺車両が積み込まれていく。


その多くはベノマス制圧戦で活躍したBMD-4のみならず、戦車めいた砲塔を付けた車両もいくつか積載されていた。「スプルートSD」である。



空から戦車が降ってくる。それを体現した悪夢がまさにこの車両の神髄。

海で船を沈めて回るクラーケンめいて、薙ぎ払ってやるという強い意志の表れだろうか。



誘導スタッフはソ・USEを取りil-76のパイロットと連絡を取った。



【積み込み完了しました、どうぞ】



【Career17了解、ハッチ閉鎖。5番滑走路に出る。退避してくれ】



「仕事が終わらんぜ全く」



貨物をたんまりと詰め込んだ鯨から誘導員は離れていく。



だが、積載されるのは空挺戦車とその乗員に限らない。

ある輸送機の胃袋には、車両の代わりに凄まじい数の兵士を飲み込んでいたのである。



これが本来の空挺。特殊作戦のゴッドハンドこと第893空挺作戦連隊。

また別の輸送機には帝都からの増援を足止めするグライダー部隊が満載され抜け目がない。



893連隊の面々は持ち寄った銃の最終確認を行いつつ、お互いにコミュニケーションを取って精神の調整を行っていた。



「聞いたか、Gチームが仕事納めだとよ」



空挺兵が話を振る。


軽い口ぶりながら、ところどころ塗装が剥げたAKが修羅を掻い潜って来た事を騙っていた。


第893空挺作戦連隊。その正体はGチームの故郷、または地獄。

数多くの人間を超人に育て上げた鬼神の集まりである!



「へぇ、あの単純軟弱石頭のニキータの隊だろ?まったくやってくれるぜ。最近じゃヘリボンにバケモン退治ばっかじゃねぇか、まったくシケてんねぇ」



古巣の習わしを忘れ、独り立ちした若鳥を思い描くとつい悪態が出るもの。

また訳の分からない相手ばかりで感度が鈍っているのではないか、という心配もある。



「こいつァ一つパラシュートで手本の一つくらい見せてやらんとな」



「そいつはいい。生きて帰ったら久しぶりにGの連中、落下傘に括り付けてやるさ」



男はコッキングレバーを目一杯引いて動作を確かめていると、鯨の腹がゆっくりと閉まっていく。



「さて、仕事の時間だ」











————————————————








——同刻

——ナンノリオン城



Soyuzが着々と準備を進めている手前、帝国側も無防備でいる程マヌケかと問われれば

否と答えるだろう。


県の中枢とも言えるこのナンノリオン城で、ある男が全ての指揮を執っていた。



「天から見下ろす余裕は最早ないが…良いだろう。工場方面の防衛兵器の出撃準備は出来ているか?」



「異端がベノマス侵攻をしている間に全て完了させております。」



全身を包む紫の装甲。

椅子に座り、頬杖をつくその姿。賢人会議最高議長のコンクールス本人ではないか。



賢人会議に出席していたのはあくまでも裏の顔。表向きはナンノリオン県のトップとして君臨していたのである。



急速な軍需産業の発展や、軍備増強、そして協力しない民間人への尋常ではない重税は全てこの都で考案されたものに他ならない。



伝令による報告を受けると、兵を帰し一人でこう呟く。



「この頃ファゴットが姿を見せんが…この先のガーラット河城塞、青二才のユンデルで事足りるだろうか。いずれにせよ巻き返しはアレに掛かっている。ファゴットよ、二度はないぞ」



このナンノリオンでやることは全てやった。



人員補填、異端軍に対抗しうる発掘兵器の投入と言いだせばキリがない。だが異端軍の装甲目標を撃破できなくとも構わない。



必要な時間のほとんどをコーネリアス将軍が稼いでくれた以上、少々持ち応えれば良いのである。



敵の進軍がいかに速いとはいえ、足止め出来ないとは限らない。

それにアレとは海岸から離れており、存分に神の怒りを降らせることが出来るだろう。


上等だ。



「さてと……盤面をどれだけ覆せるか……」



混乱すればするほど敵に付け込まれる。故にコンクールスは石のように動ない。

神の怒りが背についているのだから。









———————————————













——ナンノリオン工場



都の防波堤となるのはこの工場。数多の魔道兵器、それどころかオンヘトゥの主要パーツはこの工場で製造され、組み立てられていった。



市街地と隣接することで経済発展と労働者を運ぶ手間が省け、ロスを最低限に。



軍事政権が著しい設備投資を行ったことで、県丸ごと無敵と化した。



堰の内側では迫りくるSoyuzという名の濁流に対して、せっせと土嚢を積み上げていたのである。

魔力精錬用倉庫ではある古代兵器の最終調整が行われていた。



「ほんとにやるのか?えぇ、あのトカゲモドキを?正気で言ってるのかソレ?」



一人の勇者が見上げた先には3m弱のティラノサウルスのようなボディに、武装がついた異形が一体。



古の戦争で使われ、神の怒りを買うまで生産し続けられた自律無人兵器 グラオニーツだ。


主砲として戦艦用の副砲が搭載され、委縮した前足の位置には謎のマジック・アームが装備されている。



背中上には見慣れた3連筒、対装甲槍射出器【ニース】がマウントされているではないか!

別のマシンでは銀の銃単体がそのまま載せられている。


それに側面から伸びる機械的なアームからは魔法が撃てるという。



到底帝国の技術でこれほど精巧な魔導機を量産することはできないだろう。



「ああ、将軍の命令さ。奴らのおかしな歩兵ならまだ殺れないこともないが、奴らもバカじゃない、全力でつぶしに来る。そうなったらおしまいだ、だからそうしたんだろう」



ソーサラーが腹部に仕込まれたメンテナンスハッチを閉じ、次のグラニオーツに取り掛かる。



これが一つや二つだけとは限らない。後ろを見れば数十、100にも匹敵する魂なき獣が並んでいるではないか!



「なんせ砲も魔法もこいつで済むんだろ?こんなのがあるんじゃ俺達兵士はもう用済みだな、クソッタレが…」



重装備かつ、高い機動力を持つ機械を前に勇者は悪態を吐く。優秀な兵器があれば実際歩兵は不要。



無人兵器は軍人至上を掲げている帝国とは矛盾する存在なのである。


そんなことをお構いなしでローブの男は機械をいじる片手間にあることを問う。



「そう言うなって。お前将軍の説明を聞いてなかったのか?コイツは歩兵を【補佐】するモン…だってさ。主力は俺達兵士、コイツは大して賢くねぇから、上手く使うアタマが必要なんだと」



「ていうかお前…アーマーナイトにブースカ文句言ってんのと大差ねぇよ。いるのといないの、どっちがいい?俺は居る方がいいに決まってる」



どう使うか、どう戦術や戦略を使うのか。

それを考え、実行するのは前線で戦っている兵士にしかできない事である。


あくまでこれは便利な道具、決して軍人の必要性を奪うものではない。



「確かにそうだな…。なんかトカゲっぽいが、改めて考えるとアーマーナイトとおんなじじゃねぇか。怒って難しく考えすぎた。んで…調整は済んでんのか?」



「追尾ニースが上手く行かなくて四苦八苦してたが何とかなった。

このドアホ、即座に撃つから追尾しねぇんだ。だんだん腹が立ってきて、コイツ殺してやろうかと思ったよ」



「発射は簡単だったのに…なんで俺がこんな目に合わなくちゃいけねぇんだ、何も悪い事してないぜ」




「…で。発射タイミングを遅延させて無理やり追尾させるようにした。死ぬほど疲れた、もう二度とやらない。」



そんな彼らの前には数多の異形が立ち並んでいた…






————————————————







――ベノマス沖

――空母 北海




現代戦は陸・海・空の三すくみが力を合わせて勝利を得る。

戦車では届かない相手は戦闘機や爆撃機が担う。



一機の戦闘機「Yak-141」に乗る一人のパイロットもその歯車の一つ。ひとたびコックピットに飛び込むと、そこにはメーターとスイッチが織りなす銀河がお出迎え。



TAPTAP,TAP…



有象無象にちりばめられたスイッチ・レバーを慣れた手つきで小気味よく弾いて、戦闘機を眠りから覚醒へと導いていくのだ。


彼の中で冴島大佐のブリーフィングが走馬灯のように駆け巡る。



【クライアントから依頼満了を決定づける重要な作戦だ。敵に戦況を覆させる機会を与えてはならない】



【機甲師団はぺノン県側からナンノリオンへと侵入。目につく敵基地・拠点を発見次第すべて破壊しながら進む。この方法には車両はもちろんのこと、ナルベルン自治区に駐留する弾道ミサイル部隊や自走カノン砲兵部隊も動員し、全て粉砕する無停止進撃を行う】



【航空方面では作戦前にOV-10による偵察を実施、ジャルニエ大機からは車両と第893連隊から構成される空挺部隊をナンノリオン市街付近に降下。敵司令部に攪乱をかける。

北海の第012空母航空団含む全ての部隊は地上部隊の掩護を実施せよ】



QRRR……



慣れのままキャノピーを閉じて、追憶から振り切る。


ふと、天を見上げるとエレベーターに乗っているのか青空が垣間見えた。


男は息を深く吐いて気を引き締める。ここから先、帰りの切符を買えるかは自分の腕前私大なのだと。



そんな時、冴島大佐から無線が入る。



【こちらLONGPAT。ナンノリオン侵攻作戦を開始する】



QRRRRR!!!!!!!!!



それと同時にアドレナリンを得た如く、ジェットエンジンの鼓動が高まっていく。これなら地獄と現世を行き来できそうだ。



【Scud06、発艦します】


今、最大の作戦が始まろうとしていた。


次回Chapter218は8月6日10時からの公開となります。


・2S25 スプルート-SD

BMP-3の車体をベースに車体を延長。

対戦車用の125mm砲を搭載し、空挺降下に対応したモデル。

投下してしまえば生身の人間に過ぎない空挺降下兵を支える存在は大きい。


SU-152

KV-1Sを下敷きに152mm砲を搭載したやたらめったら硬い自走砲。突撃砲とも。

いかにも回りそうな構造物を持つが、戦闘室なので、砲塔旋回が行えないのと弾薬積載量がそこまで多くないのがやや難点。それに鈍重。

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