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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅳ-4 .ペノン城制圧戦
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Chapter213. The Unknown Universe "Somme"

タイトル【異世界のソンム】

苦難の末、ようやくペノン城内に進行をかけたSoyuz機械化歩兵部隊とGチーム達。

しかし彼らを待ち受けていたのは文字通り圧倒的な火力だった。



照準先からは津波のように火柱が押し寄せ、天井を見上げれば弓から放たれた徹甲弾が降り注ぐ。

回廊の一本道故に遮蔽物は一切なく、攻撃から逃れる術はない。



今までやって来た事をそっくりそのまま返されたのである。



装甲の壁があったからいいものの、歩兵のみで突撃しろと言われた暁には焼死体の山が築かれているだろう。



それに肉壁になっているのは装甲の脆弱な軽戦車。何時までも持ちそうにないのは確か。

限度を迎えて中身がローストされるその前に、なんとしても状況をひっくり返すのだ。



「こんの野郎…ガロ―バンで曲射なんぞしやがって!俺の補給物資がなくなっちまうだろうが!」



ガンテルが感情のまま叫ぶ隣で、グルードが負傷した片腕をかばいながらライフルを撃ち続ける。



避ける術がないのは敵味方同じ。戦車による決死の反撃が功を奏し、少しずつではあるが魔法の雨が弱くなってきた。



だが、嵐に変わりはない。



「Allāhu akbar!!!」



PKMを手にしたパルメドは決死の覚悟で弾をばら撒くが、銃弾は全て回廊の先へと消えていくばかり。


それでもいい。進めるチャンスを全てつかみ取り、例えその手が血に塗れようとも。









———————————————








苦心しながらも進むSoyuz。



続々と負傷者を出しながら奥へ奥へと進むと、次第に攻撃も弱まって来た。

止まない雨などない。まさしくそれは死線を潜り抜けて来た歩兵へ対する褒美のよう。



与えられた絶好のチャンス、掴まない手はない。



【Feather Fから各員、一気に突破する】



【G-Team LEADER了解】



籠城に持ち込まれまいと、スコーピオンの車長は一気に畳みかける気だ。

城のプロであるニキータらGチームもそれを了承。

戦線を一気に押し上げようとした矢先の事である。



【待たれよ。この布陣、何かある】



突如として寡黙なミジューラが口を挟んだではないだろうか。



【どういうことだ】



【儂の教えた戦術では玉石それぞれ、あらゆる兵職を混ぜて攪乱を駆けながら連携させないように動かす。この儂が一番だと見込んだ教え子が基礎を疎かにするはずがない】



【それに駒の摩耗も少ないにも関わらず手を緩めた。マトモな指揮官ならば、脅威を前に普通は手を緩めまい】



数多の戦いでその手腕を振るったからこそわかる「勘」が、敵の罠にはめてやろうという悪意を察知したのである。



ニキータは銃を片手に戦場の混沌に負けないよう、考えを張り巡せる。



装甲を盾にしながら銃撃を喰い込ませたあの時。

突如、火柱の数が減り敵の火力が文字通りガタ落ちし、此処まで来ることが出来た。



しかし改めて考えて欲しい。プロの正規軍が憎き敵を前にして手加減をするのかと。



彼は咄嗟に天井を見上げる。



いくら攻撃力が落ちていると言え、よそ見は即死の元。

ほんの一瞬映るタール塗りの石壁。そこに1つだけある光点を見逃さなかった。



発破用の魔甲式爆発装置である!



例え装甲を貫くことが出来なくとも構わない。


圧倒的な瓦礫で押しつぶしてしまえば戦車もロケットランチャーを持ったスタッフも、全て死ぬ。

城というフィールドを最大限に活用した戦い方であろう。



恐るべき真実を前に動揺することなく、即座に視線を這わせる。

爆破がどの範囲に及ぶか計算を始めるためだ。




特殊部隊的頭脳をフル活用して瞬く星々をつなげると、凡そ今いる機械化歩兵と特殊部隊全域に及ぶという結果がはじき出されたではなかろうか!



感情を一切波立たせず、ニキータは無線機を取る。



【G-Team LEADER 天井にIED。我々Gチーム近辺の兵は直ちに前進、それ以外は直ちに退避せよ】










—————————————







——BPHooOOOOOOMMMMM!!!———



退避指示後、間髪入れず天井が爆破された。



ちょうどGチームら戦車部隊が前を、機械化歩兵部隊の多くが後退したため直撃を免れたのは言うまでもない。



辺りを凄まじい量の石粉塵が舞い、一瞬にして煙幕が張られた。

ゴードンとトマスはIR-NVGを即座に装着。何としてでも視界を確保してAKの照準を向け続ける。



大半の人間が何もないと思ったその時!



風がないにも関わらず粉塵が揺れると同時に、何かが着地したような音がし始めたではないだろうか。



それは紛れもなく増援。透明化した勇者部隊が天井裏から降下してきたのである!

敵の策謀か、今はそんなことを気にしている場合ではない!



【敵増援出現、応戦せよ】



電波の上をニキータの冷たい声が走る。



相手にとって瓦礫が避けられることも想定の範囲内。

此処の司令官は攻めてくるSoyuzの大部隊を分断するつもりだろう。



つまるところ、攪乱すればそれで良いのだ!



——BANG!!BBANG!!!!——



降りて来た勇者に向けゴードンは超人的反応速度で発砲、数人を射殺するがトムスが止めに入る。



「やめろ、味方がいるんだぞ!」



銃弾は器用にも味方を避けてくれる程賢くはない。

その射線上に敵や味方が居れば容赦なく肉を貫通する、無慈悲な鉛玉なのだから。



「クソッ!」



この苦境。どうするのか。











—————————————








——Soyuz側前線後方 




機械化歩兵部隊は奇襲を受け、大混乱に陥った。



幸い、天井崩落に伴う瓦礫は進軍するのに支障はないと思われたが、Gチームと機械化部隊を分断するのにはあまりにも十分。



よりにもよって、不可視になる兵士が沸いてきたのもその一端と言える。報告では聞いていたが実際に遭遇するのは初めてという兵士も少なくない。



その様をあざ笑うかのように、斧や剣で武装した時代遅れの勇者たちは最新鋭装備で固められた彼らを襲い掛かる。



「曲芸師かよ!」



運よく暗視装置を装着したグルードは襲われている味方を援護しつつ、ライフルを乱射し続けた。


厄介なことに連中は自分たちが見えているのを知っており、照準を合わされないようニンジャ的な動きで飛び回っているのだから堪らない。



「もうダメだ、おしまいだ!俺は撤退する!」



相手は近接戦闘のプロだと悟ったのか、ガンテルは大弓を抱えながら身勝手に後退しようとするも、機関銃を抱えたパルメドが一括する。



「お前、車両から銃持ち出してるだろ!戦え!それなら奴らを倒せる!」



「クソッタレ!」



本気で忘れていたマヌケはMPLを思い出したように取り出し、不慣れな手つきで弾をばら撒いた。



———BLLLLAAAAA!!!!!————



でたらめに放たれた弾丸は奇跡的にも一人の剣士を撃ち抜き、その姿が露わになる。

見えればこちらのもの、追い打ちと言わんばかりに脳天を貫き絶命!



「やべぇよ、こんなもん撃ってる奴らみんなイカレてるに決まってる!」



彼は自動火器を前に戦慄を抑えられない。







—————————————








同士討ちを防ぐため、戦車部隊はやや後退。Gチームは装甲を背に受けて前衛に出た。



丁度前後バトンタッチした形と言えよう。

これでさらに後にいる機械化歩兵たちが暴れられるよう舞台が整った。



Soyuz側は陣形を組み直して巻き返しを狙うが、ソーサラーによる波状攻撃は留まるところを知らない。



連携が取れている事をいいことに、ソーサラー部隊は苛烈な攻撃を与え続けくるではないか。



5式軽戦車の砲手や装填手は外界から発せられる今にでも発火してしまいそうな高熱に晒されながらも、決死で前進や次弾を込める事から逃げようとしなかった。



ここで踏ん張らねば明日はない。ひょっとしたら、この瞬間生きることすら叶わないのかもしれない。


一分一秒、しのぎを削って砲弾を放つ。



「撃て」



———DONG!!!———……BooooOOMMM!!!!!——



かれこれ持ってきた榴弾の半数を使ったが、炎は燃え盛ったまま。

無線手が機銃を使って牽制するも焼石に水の状態である。



だが完全に役立たずという訳ではなく、ただ効果があまりにも小さすぎて意味がないのだろう。



Feather C。いや軽戦車に乗る誰もが、この湖に浮かぶ藁に縋らなければならないのだ!



【Feather CからFeather E。こちらが榴弾であぶり出す。そちらは超重歩兵狩りを任せた】



車長はソ・USEを手に取ると作戦変更の指示を飛ばした。

スコーピオンの残弾は5式と比べて圧倒的に少ない。


火砲の威力で掃討できないと分かった以上、手の内を返す必要が出てくるのは必然と言えよう。



【Feather E了解】



進軍を阻んでいる敵御柱部隊を排除しなければSoyuzに明日はない。







—————————————









上がらぬ戦線、分断された味方部隊。さらに敵の増援や火力支援。

一兵士から見てみれば、ただマガジン内の弾が底に穴が空いたバスタブめいて消えていく惨状。



一時撤退すら脳裏によぎるような翻しようのない絶対的な不利的状況の中で兵は足掻く。



何らかの突破口が必要だ。そんなことは誰にでもわかる。

しかし神は形勢逆転へのヒントを何一つ溢さない。



それ即ち、地獄。



ニキータはAKの空マガジンを素早く交換しながら、ジリ貧に対し焦りを感じていた。



何せ男一人が持てる弾薬には限りがある。飛び道具というアドバンテージの牙城が崩れ去るだろう。



そうなれば最後、抑え込まれていた獣が一斉に肉に食らいつき、自分たちは成すすべもなく数に押し切られる。



顔すら見えぬ策士は笑っているに違いない。



その矢先、一本の無線がニキータに向けとビンで来た。



【儂が無理にでも前線を押し上げる。ここで前に進まねば全滅するぞ】



ミジューラを視界に入れる。既に青い装甲は真っ黒に焼け、余熱を受けたマントは燃え尽きているではないか。


表情こそ伺えないが、スリット奥では歯を噛みしめ、襲い来る火柱や爆発に耐えているのだろう。



だが実際のところ、遠距離攻撃を止めずに勝利はない。



それに彼は一言しか口にしなかったが、ヘイトを買って囮になっている間に出てきたソーサラーを残らず撃ち殺せと言っているのだろう。



特殊部隊は常に以心伝心。

その一人であるミジューラが多くを語らなくともGチームの全隊員はそのことを理解した。



【G-Team LEADER了解。Gチーム各員、盾を援護せよ】



絶望的な状況を翻して勝利に変えるため、Gチームは死力を尽くして前進し始めた。


今更命などは惜しくない。ここでやらねば全員が死ぬ。何としてでもそれだけは避けねばならないだろう。



帝国軍は後腐れなく無償で火葬してくれるという、ずいぶん気前の良いサービスだ。

それに隕石や魔法的爆発までついてくる大盤振る舞い。



大いに結構。その無料サービスをこの手で今すぐ中止してやろう。

奥で巣食う不安を押し殺し、Gチームはライフルを撃ち続ける。



その先に待っているのは勝利か、あるいは……




やってみなくてはわからない!


次回Chapter214は8月2日10時からの公開となります。


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