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Chapter 21. Demon hand to abyss

タイトル【悪魔の手から奈落の底へ】

解放されたハリソンの街は未だSoyuzという異物を未だ受け入れられてはいなかった。


帝国軍と同じで暴虐を働くのではないかと思い様子を伺うか、それとも反乱軍と判断されて襲撃から毎日震えて待つかの二択。



その光景を見た少佐は騎士団長との会談で重税がかけられていた酒税等を撤廃し、Soyuz関連の施設には親しみやすさと目印に、と現地銅貨で動作するように整備班の改造を受けたガムボール・マシンが置かれはじめた。



しかしながら街の様子はそう簡単に変わることはないだろう。

そのことは未だ帝国の魔の手から解放されていないことを如実に表している。



 市場に商品が多く入り込みやすくなった影響は大きく、城壁前の検問の仕事が激増することとなった。


X線を使用した非破壊検査が行えるまで依然として時間が掛かるため、人力で入念な検査が行わざるを得ない状況。


人員も限られた中、尋常ではない作業量を要求されたており、騎士団とスタッフは疲労の色を隠せないでいるのも無理はない。根本的に検疫のせいで人員が足りないのだから。


「ほっげぇ、こんな量全部見ろなんて頭どうかしてるぜ」


「ものが安くなるのは結構なんだけどよぉ、これじゃあなぁ…」



検査を担当するソルジャーがあまりの有様に思わず口を滑らせた。


検査を待ち受けているのは大きな荷台に4頭も馬を使った重量貨車で中身は想像を絶する積み荷が待ち受けているに違いない。


これでは全て確認し終わるまで半日を要することが決定的である。



阿鼻叫喚するソルジャーの元に武装したスタッフ数人が応援に駆け付けると絶望の節から救いの手を差し伸べた。



「こんな量一人二人じゃあ無理に決まってる、俺らがいるじゃあねぇか。俺たちゃおたくらの手伝いも任せられてるってわけだ」


「仕事の速さだけは負けやしねぇよ、そういやおたくらで大丈夫だっていうジェスチャー、なんかあるか?」



武装スタッフがそういうと、ソルジャーは安堵したかのように息を吐くと拳を突き出し


「これでも足りねぇが…ありがてぇに越したこたぁねぇ。いいから拳をぶつけてくれ」


スタッフのグローブと兵士の籠手がぶつかり合うと、鈍い音が検問所に響く。





————






 いざ検問を始めてみるとその仕事は見掛け倒しな程に軽いものだった。


多くの大型貨車と馬4頭を使った馬車などではありったけの木箱が詰め込まれているものではある。


いざ中身を覗いてみると多くは小型馬車で済むものが多く、いざ封を開けてみると近くの大河で栽培されたクレソンや雑貨品と思われるものがほとんど。


特に怪しいものは見受けられなかった。


中には馬車そのものが空な回送便もあり、仕事はあっという間に片付いてしまった。

怪しさに気が付いたのは検問担当のソルジャーが馬車入場帳簿を確認した時である。



「あそこの店は武器屋なのに香草なんて頼んでる。新しいもんでも売るつもりにしちゃあ音沙汰がなかったな」



通行手形と宛先は全て正規の手段を踏まれたものだが、時に本当に宛先が正しいものか怪しいものがあった。



武器屋に香草、酒屋に明らかに調理に使わないであろう大剣も入っている始末であり、不自然極まりない。


だが書類が正しく作られたものの以上、宛先に連絡なしで強制的に押収することは禁止されている。



その上報告を飛ばそうとも届け先の酒屋等が不自然に閉店している場合や、跡地の民家に届くこともあったため、大掛かりな武器は接収することはできた。



加えて、連日の激務が祟ったのか記録帳簿を遡ると通過させてしまっている案件もあり回収は困難。


 これらの便を疑ったスタッフとソルジャーは怪しい馬車に対して食い下がることにした。その相手は次にくる4頭引きの大型貨物馬車である。



「ちょっといいか。あんたらどこの運び屋か商人か証明できるモン持ってるか」



剣を携えたソルジャーが騎手にそう問いかけた。

真っ黒い立派な馬を携えた男は言われるままに証明書を渡すと質問に答える。



「うちはジョヌルス・ドゥ運送だよ。そこらへんにあるだろ、そんなギルド。ただの運び屋だよ。何が怪しいって言うんだい。」



その答えを小耳に挟みながらソルジャーは木簡証明書を確認する。

これも正規のもので国からの刻印が押されており、偽造品ではない正規品で間違いない。



彼は木簡を片手に首をかしげながら積み荷を調べに行くと、入れ替わる形でSoyuzスタッフが黒黒とした馬を見つめていた。


頭は小さく、胸筋が発達している精鋭の馬であることに違いない。とても勇敢とも言えるその姿に目を奪われていたのだ。

さらに馬たちはまるで軍事訓練を受けた兵士のように動こうとしない。


これほどまでにしつけがなされた馬は見たことがなかった。


そのスタッフに気が付いた騎手は自慢げにこう言う。



「あんた変な恰好しているけど、こいつらの価値ってもんがちゃんとわかるらしいな。俺はうれしいよ」



その言葉につられるようにスタッフは興奮を隠せず早口になりながらこう言った。



「ああ、素晴らしい馬だ。全く非の打ち所がないってのはこんなことを言うんだろうな。

何がいいって胸と肩ががっちりしてて競馬に出したら負けなしだ。それでいて気品もあるいいヤツだ、凱旋に出しても主役を張れるくらいだろうよ」



「馬の中の漢ってのはまさにこいつよ。俺の趣味は乗馬なんだがこんな馬に乗って思い切りぶっ飛ばしたら最高だろうなぁ。一生貨物馬車を引かせるなんてかわいそうだ、重荷を引くのより走らせた方がいいに決まってる。こんな逸材そうそう見ないからな」



「いやぁいいモン見たよ、まさかこんな場所で俺の理想そのものと出会えるなんてアンタ最高だよ。こいつはそれだけの価値がある、大事にしてやれよ」



この漢を体現する馬にはこれだけ喋ったとしてもまだ足りぬほどに輝いていた。

この馬はパワーよりも速度が出るタイプの馬であり、こんな水牛でもできる仕事に就かせるのには宝の持ち腐れといっていい。


騎手は徹底的な褒め殺しに機嫌を良くして川の流れのように語り始めた。


「そうなんだよ、わかってるじゃないか!俺もこんな馬みたこたねぇんだ。前いたところは高速馬車をウリにしてんだがよぉ普通の馬をこき使ってもそれでも遅いなんて言われちまう。だから4頭馬車なんて金のかかるモン使って無理やりにも速さを上げてたんだ」



「だけどここに来てから、こいつらにした途端どうなったと思う?まさに風になったよ。もうチンタラ走るおいぼれにはもう戻れねぇな。でもよぉ、馬をハリソンで付け替えるってんでなぁ…世知辛いってもんよ」



「わかってくれるか、あんた!うちのギルドはできてほんの一日二日でいきなり雇われたんだけどよ、最高の馬といい馬車を乗り回せるとは思わなかった。んまぁ行先は此処ばっかだけどな!」



スタッフは騎手の言葉に確かな疑いを覚えた。馬を付け替えするのはいいとして、この運送ができて一日二日でこれだけの馬を送り込めるだろうか。


それに速力が出るならハリソンだけではなく他の村に行くはずである。

だがハリソンばかりにどこかの誰かが送り付けていた。


それにハリソンの解放に関しては全面的に知らせていないはずで、外からこのことを知りえる人間はいるのだろうか。


一気にきな臭くなってきたのである。







—————






 このきな臭さは積み荷を調べるソルジャーにも伝わっていた。積み荷には騎兵用の鎧が積み込まれていたのである。


この鎧は真っ黒に塗られており、どこかの誰かが塗ってもらうように依頼してそれが送られたものだろうと思ったが。



木箱に書かれた行先そのものが問題だった。

ハリソン防衛騎士団、騎士団長になっていたのである。

基本的に帝国軍装備統一し、順守する以上このような塗り替えは決して許されるものではない。


あの真面目な団長が背くとは思えなかった。


 ソルジャーは荷台から顔を出すとスタッフに向けてこう言った。



「怪しいものを見つけた、この馬車を止めて他のヤツを調べておいてくれないか。俺は団長にこのブツに関して聞きたいことがある」



「わかった。この馬車は足止めしておく。すまん、次のヤツを案内してくれ」



騎手の顔色など気にせずそう言い放った。

しかしスタッフは検問を控えている馬車にも同様に多くの馬を連れた馬車が多く見られたために一旦検査の流れを止めてから当該貨物馬車の詳細な裏取り調査が行われることに。



 おおよそ1時間ほど経過した頃合いに騎士団長が現場に到着し、この積み荷に対しての検証が始まった。


押収した鎧を担当ソルジャーが見せると団長は首を振りながらこう言う。



「話は聞いているが私はこんな鎧を運んでくれと頼んだ覚えもないし、私は長くハリソンにいるが、届く先は聞いたこともない武器屋だ。そこの場所はつぶれた店ではないのか」



「仮にこれを使おうと言っても鎧は仕事のためだけに使うし、軍規に違反するものは使おうと思わない。それに私の兵職は重装兵で騎兵ではない。それに私は馬に乗れない。

馬に乗れない人間が騎兵用の鎧など送るわけがない」



その言葉を耳にすると唇を左に寄せて、あるものを取り出し始めた。



「本当ですか、団長。これを見てください、宛名と通行手形は正規の物です。本当に頼んだ覚えなんてあるんですか」



そう、宛名と通行手形の木簡である。非合法な輸送にはこれらをありもしない宛先と送り主で偽造されるか、よく見るとその痕跡がある物体が使用される。



この木簡にはそれら情報が正確に記された正規のものであり、品目は皿と記されていた。明らかな品目偽造である。これは密輸することを如実に表したものであり言い逃れのできない証拠である。



 しかし決定的な証拠を見せてもなお団長は首を横に振りながら身に覚えがないというばかりであった。


 検問所はまるで事情聴取を行う小部屋のような様相を呈していた。動かぬ証拠を手にした人間と、濡れ衣を着せられたように否定し続ける人間が居る以上そうなることは時間の問題であった。






————





 この一部始終を見ていたスタッフはこのままでは埒が明かないと判断し、Soyuz側からも聴取を行うことになったが、団長は身に覚えがなく懐に置く理由などなないという主張を崩さなかった。



彼の言葉が正しければ彼は極めて怪しい貨物の保証人に仕立てられたことに他ならない。


また武器数が十分な防衛騎士団はこれ以上武器を買う必要などなく、倉庫も満杯という情報も引き出すことができたため大捜索を決断した。



 騎士団長の言葉を信じたスタッフは団長宛てになっている荷物や、同じような4頭大型馬車に捜索

を入れると案の定次々と不審な物体が出てきたのである。


ヴェランダルと呼ばれる馬上用の大剣や正規の騎兵ではまず使用しないような大槍に留まらず手槍に弓矢まで出てくる始末であった。



 類似する不審な貨物を彼が非番な時に検問を担当する団員がいくらか通してしまったこともあり、それ以前に検問所を通り抜けた物品の回収は後に回された。



曰く、宛名と行先は顔なじみの店舗等も含まれており、区別が付けづらい状態であったこともあった。


これらの貨物は馬を含めて通過拒否の通告を出した後、元の雇い主に送り返した。


 不審な貨物をたたき出すと激増した仕事量は落ち着いたため大方検問を終えることができた。

仕事終わりに息抜きがてら、組んだ腕を首に回してソルジャーはスタッフに対してこうつぶやいた。



「そういえば変なヤツが増えたような気がする。市民のくせしてまるで騎兵みたいな体つきみたいなのが妙に越してきてたりな」


「悪いがここは国境だから住みたがるヤツはあまりいない。新顔が大量に入ることなんてありえないんだ。酒場のヤツはそれを喜んでたよ、客が増えたってな。あんたも感じてるかどうかも知らんが道理に合わねぇっていうか」



この街が次々ときな臭くなってゆく様に素直に喜ぶことができず、どこか不安げな横顔が夕焼けに照らされていた。

すると武装したスタッフが肩に手を置き、ソルジャーにこう言った。

 


「こうなったら突き止めてやろう。このことを聞いた少佐は黙っちゃいねぇよ」

 


外は夕焼けの光が差し、深淵を覗いたような夕闇が訪れようとしていた。

ガス灯も何もないこのハリソンの街は覆い隠すような夜には誰もが寝静まることだろう。




 しかしその深い闇は悪魔の手を忍ばせるにはあまりに都合があまりに良すぎた……

次回Chapter22は7月18日10時からの公開になります

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