Chapter212. Bite Down on The Trap!
タイトル【罠をかみ砕け!】
物理法則をことごとく無視する地雷を踏んだ戦車・装甲車部隊たち。
大量の爆薬で車両そのものを破壊する、あるいは落とし穴を作って戦力を封じる訳でもない。
この罠は帝国を散々蹂躙してきた悪魔を鹵獲するつもりで仕掛けられていたのである。
空中浮揚の被害に遭ったのは何も彼らだけではない。
不幸と難敵を呼び寄せるパルメド・グルード・ガンテルの三銃士もその餌食になっていた。
「車がなくなっちまった」
子供の手から解き放たれた風船のように漂うBTRを前にグルードは落胆と達観がまぜこぜになった声で言う。
普段とは違う弱音にガンテルは彼をまくしたてた。
「だったら歩けばいいだろ!俺は敵地に歩いて行ったんだからな!待ってろ俺の補給物資!」
兵員輸送車、はてやエンジンのない時代。戦場へは徒歩で向かうのが常識である。
帝国兵によって10km、もう目と鼻の先と言っても過言ではない。
そんな中、理性的なパルメドが無線機片手に状況を整理しはじめた。
「おい、騒ぐな。部隊は一端停止するらしい。それでガンテル、お前はアレをどう思う」
「——あぁ?あんなん魔法に決まってんだろ。」
「それに…限界はあるか?」
彼が発した言葉は突拍子もないように思えるが、きちんと裏付けがある。
派手に浮いているのはどれも装甲と武装が手薄なBTRで、鈍重な主砲や足回りを抱える本格的な先軍915は砂金のように留まっていた。
一体この差を生み出したものは何か。
それは3倍近い「重量差」。
「魔法で人が生き返らせるとでも思ってんのか?そんなんあったら滅茶苦茶になるに決まってらぁ」
「そうか、わかった」
【パルメドからLONGPAT———】
この報告がどう転ぶか。
————————————
□
思わぬ踏み罠に掛かってしまったSoyuzの機甲部隊。
それでもなお、冴島大佐は鋭く脳内サーキットを切り替え、機械的に対処案を導き出した。
【LONGPATからCart、Bonge各車。防衛線まで後退】
最初にやるべきことは損害をこれ以上増やさない事。
罠にかかり始めたのは10キロ地点から下がれば安全は保障されているからだ。
【OSKER01は当該車両の追跡、10キロ地点座標を自走中隊へ送信せよ】
次は浮遊している車両について。
報告によれば比較的重量が軽いBTRがその餌食になっているらしい。
装甲薄く、燃料を馬鹿にならない量詰め込んだ物体を鹵獲しようとするなら、逆に利用してやる。冴島はそう思っていた。
【OSKER01了解】
千里の道も一歩から、罠を着実に砕きながら進む。それがSoyuzのやり方である。
—————————
□
——砲撃陣地
周囲に比べ若干小高い丘陵にある砲撃陣地では前線部隊にあったような悲劇はまるで見当たらず、ひたすら排出される空薬莢と装填される砲弾が行きかっていた。
【仰角修正了解、修正急げ】
砲術長の指示一つで、長い砲身を下に向けながら遙か遠方の敵地へと狙いを定める。
目標はなんと味方の戦車がいるほんの先。
例え罠でも、亡霊や幽霊のような実体がない物体ではない。
火力という名の羽箒で一掃してしまえば良いのである!
砲底が開けば装填手が弾を込め、すかさず密閉と同時に、数十のヒモが一斉に引かれた。
——ZZZRRRRRRRAAAAASHHHHH!!!!!——
天高くそびえたつ黒鉄の柱から放たれる砲火は空を硝煙と炎で覆い隠し、目にもとまらぬ速さで飛び出した榴弾は空を駆ける。
降り注ぐスカッドと並走しながら着弾してくれるだろう。
【仰角修正、+2度!】
緊迫する戦場に感傷に浸る時間は皆無。
砲術長から絶妙な調整が求められ、主体砲はそれに応じることを繰り返すのだ。
一見して何が起きているのか分からない状況。
だが「やらない」選択肢はSoyuzの中には存在しないだろう。
地道に取り組むことの大事さは人類が一番よく知っているのだから。
———————————————
□
——最前線 ペノン城8km地点
———KA-BooooOOOOMMM!!!!! BooooOOOOMMM!!!!!——
降り注ぐ砲弾は戦車部隊のいる場所か、わずか先に着弾していた。
爆発と共に大地と空気すら揺るがし、うっすら植物の生えていた地面は全て茶色に耕されていく。
此処に敵兵がいたなら立ちどころに消し飛ばされているだろう。しかし鉄壁の装甲を前にはすべてが無に帰す。
そんな中、鉛色の煙からいくつか戦車が飛び出した。
手数持ち先軍915と5式とFV101の軽戦車コンビたち。
彼らはいくつもの屍を乗り越え、魔法の不条理を振り切った英雄だ!
時に鈍重な車体すら揺れるような大爆発が起きようと、主砲は敵陣を一身に見つめ、
罠を踏みつぶしながら足を止めることはない。
隣に砲弾が着弾し、土砂が勢いよく降りかかる。
戦車は進む。
目の前が鉛色に染まる。
だが戦車は進む。
人を簡単に殺める破片が辺りを飛び交う。
それでも戦車は進む!
逆襲の始まりだ。
———————————————
□
敵の手に落ち、捕獲されようとしていたBTR80達。戦場にあるモノはそれが例え何であろうとも利用するのが流儀。
それらも大佐にとって利用する価値が残っていた、否。この砲撃のスコールが降りしきるからこそ輝くと言っていい。
———FEEEEEEE!!!!!!!BooooOOOMMM!!!!!——
ペノンの城に無数の砲弾が飛来しようと、スカッド100発を前に原型を保ち続ける強固な要塞を前にすればかすり傷が関の山だ。
しかし、「火の元が懐にあった」のなら。
——KA-BooooOOOOMMM!!!!!——
罠の不具合か、城門の内側で引っ掛かっていた装甲車たちが170mm榴弾やスカッドの爆風に晒され、爆竹のように弾けていく。
外からダメなら内側から突き崩せ。
燃えにくい軽油や弾薬を積載しているが、軍用車両は基本的に危険物の塊である。
スパーク、火気厳禁な棺桶に火を持ち込めばどうなるか。
「城門修復急げ!」
「敵が!」
それに帝国兵が理解した時、既に遅かった。
車両を中心に燃え広がる火の手と巨大な残骸が迎撃の邪魔となり、そればかりか敵の侵入口を作ってしまったのである!
目前まで迫る鋼鉄の悪魔たち。その後ろには生き残ったBTRに山積みにされた機械化歩兵がデザントして乗り込んでくるではないか。
騎士将軍ウィローモが命じた通り、Soyuzの歩兵だけはなんとかしようと思ったが苛烈な砲火の前にすべてが焼き払われているこの状況。
シューターは全滅、スナイパーは城内に配置済みで外に出れば無駄死することとだろう。
万が一アーチャーなどが配置されていたとしても、先軍915の餌食になって終わり。
敵司令を陥落させれば勝利、果たしてこの戦いもそう行くか。
———————————————
□
——ペノン城内部 1F回廊
【こちらFeatherC、現着】
【了解】
ヘリにぶら下げられていた5式が無事届けられ、制圧戦のバトンは先軍915とBTRから日英軽戦車兄弟と機械化歩兵とGチームに託された。
先軍915の猛攻撃を背に受けて城門を突破し、こうして屋内に至る。
攻撃に晒される前方は戦車・ミジューラによる防壁を張り、後方から機械化歩兵部隊とGチームらが混ざった兵士が彼らを援護。
敵を粉砕しながら進むのがSoyuz流攻城戦だ。
———BRRRROOOO……BRASHHHHH!!!!!—
言葉を紡ぐ合間すら許さず、無数の火柱が戦車を包んでは砕けていく。
「クソッ!こいつら蒸し焼きにする気か!」
爆炎魔法を受けたスコーピオンの車長がペリスコープ越しに食いしばる。
彼らFV101の面々は予備戦力として置かれていた経緯がある。
流石に実戦経験はあるが、魔法が飛び交う城内は初めて。
それも地獄にいきなり放り込まれたのだから堪ったものではないだろう。
そんな時、同僚の5式から無線が飛び込んだ。
【FeatherCからFeather E。遠方にいるソーサラーが邪魔だ、榴弾で掃討せよ】
【魔法を浴びても装甲で防げるが、大槍持ちに近づかれたら終わりだ。G-SHIELDが片付けてくれるだろうが限度がある。繰り返す、敵を絶対に近づかせるな。】
いくら装甲があると言ってもソルジャーキラー、あるいはニースの間合いに入り軽戦車は串刺しにされる。
実戦慣れした味方からのありがたい忠告。無碍にするわけにいかない。
【Feather E了解】
———DONG!!!!!———……KA-BooooOOOOMMM!!!!!
直後、76mm砲が雄叫びを上げた。
———————————————
□
ペノン城では夥しい数の火柱と殺人的な流星と爆発が降り注ぎ、屋内にもかかわらず砲撃を受けているのと大差ない。
それだけに飽き足らず、ガローバンの大矢が歩兵の命を残らず刈り取ってくる有様だ。
ここは地獄。命が紙くずのように散って行く修羅。
【G-SHIELD。先行し足止めする。儂の背に続け。】
痺れを切らしたミジューラはそう言い残し、地響きを起こしながら前進するという。
軽戦車の優に2倍もの装甲を持つ強固な鉄壁が前に出れば敵を押し込むことが出来るだろう。
【G Team LEADER 了解。後退時、援護する】
プロさえ凌駕する鬼神に念仏というべきか。ニキータは「下がる時は任せろ」とだけ伝えた。
【うむ】
その傍ら、ゴードンはグレネードランチャーでソーサラーを討つ。
——BLTATATTA!!!——PONG…BoooOOMMM!!!!!——
魔法を放とうとする手に向け放った榴弾は魔女を八つ裂きにし、容易に死に至らしめるも敵の勢いは衰えない。
そればかりか舞い上がった粉塵が目くらましとなり、そこから魚雷発射管を持ったアーマーナイトが飛び出してくるではないか!
その目標は歩兵ではなくFV101。
非常に高い火力と射程の飛び道具を持ちながら、強固な装甲を振りかざし突破する姿は敵にとって厄介極まりないのだ!
「思い知れーッ!」
喰らえば即死の嵐を切り抜けてきた重騎士は、恐怖を雄叫びで誤魔化しながら狙いを定めたその時。
青い装甲悪魔が射線を遮り
「——何…!——」
「思い知れ」
——BPHooOOOOMMMM!!!——
気が付いた時には時すでに遅し。
ニースを持ったアーマーナイトの胸元にソルジャーキラーが深々と突き刺さっていた。
「——む…——」
———GRRRRASH!!!!!
ミジューラは鋭く引いて槍先を戻すと、隕石による追撃を大盾で逸らしながら後退していく。
味方の死さえもチャンスに変える様はまさに鬼神と言えよう。
お互い、負けられぬ戦いがそこにある。
————————————
□
——ペノン城後方司令部
「前線、依然膠着状態!異端を押し切ります!」
一人の伝令が熟練ソーサラーの騎士将軍ウィローモに報告を上げる。
今まで類を見ない苛烈な魔法の雨を前に、Soyuzは何時ものように進撃できないでいた。
敵のほとんどは魔導に対する耐性は皆無。立案をウィローモが、陣形をコーネリアスが組んだ甲斐があるというもの。
「了解、死力を尽くして戦え。私も手を貸す」
彼はそう答えると、照準杖を片手に視界を闇に捨てて敵を探す。
心眼で見えるは魔力の光。これは味方だろう。すると限りなく魔力がない人影を見つけた。
【ギドゥール】
一気に念を込め、敵に隕石を見舞う。壁越しに撃つ性質上、当たったかどうかは分からない。
しかし放ち続けることに意味がある。
だが、この戦いが仕組まれていたものであることは誰も知らない。
Soyuzや帝国の兵、それどころか冴島大佐や敵方の司令塔 コーネリアスでさえも。
フェーズ1【Soyuzとの善戦】は想定通り終了。
眠りについたその時から、残忍な殺人鬼が動き出す。
戦いの裏でその刃は着実に迫っていた…。
次回Chapter213は8月1日10時からの公開となります。
・登場兵器
FV101
イギリス製の軽戦車。何気に世界一速い量産型戦車のギネス記録を持つ。
76mm砲を備えているが榴弾のみというのが異世界での戦闘でのネック。
5式軽戦車
Soyuzの運用する旧日本軍の試作軽戦車。城制圧戦でのお供と言えばコイツ。
47mm砲を搭載しているが、FV101と違い徹甲弾などを発射可能。
やや装甲に不安が残るが、ヘリから直接派遣できる軽さが一番の強み。




