Chapter211. Impregnable Castle
タイトル【難攻不落のペノン城】
通常作戦に則ってヘリから降下して城内を制圧しようとした矢先、竜騎兵の待ち伏せと猛攻撃にあった特殊部隊Gチーム。
一歩間違えれば撃墜して全滅する未来が待っている筈だったが、その未来も少しずつ変化を見せていた。
VEEEEEE!!!!!———FERRRRRRR!!!!!!
轟音と共に空気が切り裂くソニックブームがヘリの近くを通り過ぎ、黒い影もそれに従うように消えていく。
辺りを見回すとまとわりついていた敵が確実に減っているではないだろうか。
牛歩とは言っても状況は確実に良い方向に傾いている!
ある時、また一機のMiG29が通り過ぎようかとした途端。一本の無線が飛び込んできた。
【こちらHOU-05、曲芸のサービス代は貰っていくぜ】
一度ヘリをフライパスすると、戦闘機はまるで糸で操られているかのように反転。
その上回転しながら敵を追跡、ガトリング砲を放ってきたのである!
その様は正に曲芸。
他に追従を許さない機動力の暴力と腕利きパイロット。双方最高の組み合わせで蚊トンボを一斉に薙ぎ払っていった。
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——高度400m
高度が上がるにつれて、蚊柱のように纏わりついていたドラゴンナイトも今や散り散り。
当然ながらジョンソ含むMiGが大暴れしたお陰なのは言うまでもない。
——KA-BooooOOOOMMM!!!!!
執拗に追いかけてくる敵もミサイルの前には容易に砕け散り、空には異音だけが支配していた。
次第に城が遠ざかっていく。それだけでどれだけありがたい事か。
ニキータはヘリのドアを閉め、隊員に短く告げる。
「今回の戦いは長くなる」
しかし、その言葉に焦りを感じるものは誰もいない。
此処に来てからというもの、修羅という修羅を駆け抜けてきたGチームにとっての日常なのだから。
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かくして撤退に成功したGチームたち。一見して尻尾を撒いて逃げ出したかのように思える。
しかし駆け引きという言葉があるように、時には身を引くことも重要であることはつい忘れがちだ。
また視点を変えて、部隊を仕切る側の立場から見てみよう。
ヘリボンという裏技が使えない以上、正面から城と殴り合う必要が出てくる。
冴島は既に作戦行動中であり、0から編成し直すような余裕はない。
【LONGPATからBIGBROTHER、ペノン城攻略作戦の大幅変更を行う。現在作戦行動中のため部隊編成を
一任したい】
【BIGBROTHER了解。部隊到着まで時間を有す。時間稼ぎは可能か】
ベノマスにある程度の拠点はあると言っても、歩兵や装甲兵器らの補給や準備には時間が必要だ。
それまでの間、敵を何としてでも城内に封じ込めるのが最適解。
しかし今ある主体砲の数と弾ではどうあがいても足りない。
弾切れを起こせば形勢逆転、準備を終えた敵兵がベノマスに向けて侵攻を駆けてくるだろう。
現実問題、170mm榴弾砲40門に匹敵する火砲などは此処「ペノン県」には存在していない。
冴島は考えがあるようで、中将の問いに鋭く答えて見せた。
【LONGPAT了解】
此処にはない、長距離攻撃手段。一体それは何だと言うのか。
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どうにか戦線から離脱したハインド内では、明らかに違う敵の動きで話は持ち切りだった。
そう言っても特殊部隊の隊員が話す事と言えばほとんどがディスカッションのようなものである。
「ゾルターン城の例もあるけどな…ポンっと空にUFOが現れたら誰だって迎撃に出るんじゃ?」
ゴードンはそう言う。
確かにヘリボンの迎撃に上がって来た戦いもあったが、咄嗟に出てきた場合がほとんど。
こちらの動きを読んでくる例はこれが初めてだ。
彼の見解に対し、ニキータは腕を組みながら状況を整理する。
「……この世界でヘリは異物だ。だが、奴らは【装甲貫徹能力のある武器】ばかり持っていた。それもフォーメーションを組んで。咄嗟というには出来過ぎている。」
敵はこちらを確実に追い立てようとしていた。
陣形を組み、Sキラーを持った兵士を囮に、ダールを持った奴が仕留める。
指揮系統が混乱した挙句のやけっぱちではない。
【爺さん。何か心当たりあるか】
ああだ、こうだと考えるのは理論物理者に任せ、正解を知っていそうな人間に直接答えを知るのがGチームのやり方。そう言わんばかりにトムスはミジューラに問う。
【…うむ。うかつに兵を出さず石のように沈黙し、スキを見せた途端に叩く。このやり方は間違いなく儂のやり方だ。司令塔は…コーネリアスか…!】
【そいつは一体誰なんだ】
ニキータが追撃を掛ける。
【儂が育てた一番弟子だ。最も出来が良く、もう一人の息子そのものかもしれぬ。…何某を誰かのせいにするつもりはないが、それにしても世は無常だ】
ミジューラは無線越しにでもわかる程歯を軋ませながらそう言った。
「ケッ、今までもう一人の爺さんと戦ってた訳か。そりゃ強いに決まってる。未来もそうならんように祈りたいトコだな。…お祈りする神が居ればな」
純粋アルコールにゴードンの軽口をどれだけ混ぜても場は軽くなることはない。
イエスと言った神は聖書と言った紙面と文言だけで誰も助けてはくれないのだから。
事実の象徴であるハインドはベノマスへ向かう…
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□
———FEEEEEEE!!!!!!!
Gチームの撤退跡、砲撃の合間を縫って空から柱が降り注いでいた。
ターゲットは当然ペノン城。ではこの飛翔体の正体は一体。
——BoooOOOOOOMMMMM!!!!!
砲弾とは比べ物にはならない爆発が起き、城の石垣が水しぶきの如く飛び散る。
これだけの火力を撃てるのは一つしか存在しないだろう。
ナルベルン自治区から放たれる短距離弾道ミサイル【スカッドD】だ!
主体砲に混ざって降り注ぐ1tの爆弾雨は強固な城壁を少しずつ、そして確実に削いでいく。
絶対防御が剥がれていく様に兵は恐怖を隠せないが、司令官のコーネリアスは石の如く動かない。
何せ本当の勝負はここを守ることではないのだから。
——ベノマス前線基地
将軍の思惑が張り巡らされている裏側で、最前線基地では機械化歩兵を満載にした自動車部隊の出撃準備が進んでいた。
連なるBTR、その中には大量の歩兵が詰まっている事だろう。
「出番の分、報酬はきっちりと頂かせてもらうぜ」
すっかり機械化歩兵が板についたグルードはAKを片手に気合を入れる。
戦場、それも命のやり取りが行われる場では根性がモノを言う。
やられると思ったら命はない。そういうものなのだ。
対するガンテルはガロ―バン片手に愚痴を吐く。
「ケッ…出るたび赤字が増えてくぜ…今度の敵はちゃんとスナイパー配置しとけよな」
大弓使いの生命線である矢は量産品でありながら入手困難。
Soyuzが彼自身の為だけに工場を作れば話は別だが、そんな暇はない。
故に同胞から強奪せざるを得ないのである。
「さっさと乗るぞ」
そして冷たいパルメドの声が締めくくる。
いつもの光景、いつもの出動。
彼らを待ち受けているのは本当にそうなのか。
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砲兵陣地を通り過ぎ、ここは海を間近にした平原。
潮風が常に吹き付ける関係か、ゾルターンやジャルニエとは生えている植物自体が異なり
どこか高原地帯を思わせる。
そこを15両のBTRと先軍915。くわえて1両のFV101が進む。
空を見上げてみれば超重歩兵ミジューラ、あるいは一両の空挺戦車を吊り下げたスタリオンと、輸送機から投下された空挺自走砲が地上を見下ろす。
彼らの目指す場所はペノン城。絶え間ない砲撃によって鉛色の煙を纏った未だ実態がつかめない虚空間だ。
戦闘機や偵察機が見張っているとはいえ、相手が仕掛けてくる策動までは見通せない。
それを透視するのが指揮官というもの。
そんな最中、敵の立てこもる居城まで10kmまで迫った時だった。
…SMACK!!!———BRoooOOOMMM!!!! BRooooOOOMM!!!!——
「ん?なんだ…クソッ!」
操縦手が悪態を吐く。
それと共に一両のBTRが異様な音を立てながら排気をふかしていた。
今にも暴走して爆発しそうに思える音。その正体は空回りか、あるいはスタックのどちらかだろう。
彼は思わず辺りを見回す。
軍用車両が沼に嵌ることは往々にしてあることだが、感触的にそれとは全く違う。
今まで走ってきたのは安定していた平原で凍土が中途半端に解けた緩い所ではない。
「スタックしたかもしれん、誰か見に行ってくれ」
操縦手は観念したのか車内にいる兵士に声をかける。
「了解」
重い鋼鉄の天板ハッチを開いて装甲車の背に出ると、兵士は覆しようのない異変に気が付いた。
頬をつねるが、これは歪みようのない現実である。
次に思い切りビンタするもドラッグの類ではない、これもまた現実。
思わず口が滑り出す。
「こんなのが夢で堪るかクソッタレ!どうりで進まねぇはずだ、宙に浮いてんだからよ!地に足着けずどう進めってんだ!」
摩訶不思議なことにBTRは無重力空間に放り出されたかの如く浮かび上がっていたのである!
対戦車地雷で吹き飛ぶのは大方想定できたが、ハリーポッターのような事態に陥るとは予想がつく者など誰もいないだろう。
問題はそれだけで済むはずがなかった。
「おい、おいおい、SHIT!!あの城に引き寄せられてねぇか!?」
浮かんでいるだけならまだ良かった。
波打ち際に浮かぶ浮き輪めいて浮くどころか、今度は沖に向かって流されていくではないか。
自動車に空を舞えとは土台無理な話。
成す術もなくBTRは次第に隊列から外れ、引き寄せられていく!
それもこの車両だけの話ではなく、周りにいるいくつかの装甲車と先軍915がその毒牙に掛かっていた。
「コイツ浮いてやがる!」
衝撃的な事実を前に理解を拒む頭を目一杯回し、半ば車長へと怒鳴りつける。
「ふざけているのか!」
張り詰めた空気の中、戯言にもならないバカげた報告に逆上するのも無理ない。
「そいつぁホントです、まるで操作が効かない上に勝手に引き寄せられています!」
険悪な空気に操縦手の悲鳴が割り込んで、鋼鉄の部屋はすぐさま危機感に包まれた。
カウントダウンを迫られた車内。
指揮官に迷っている時間は残されていない。
「了解!総員、脱出!」
その一言で止まった時間は動き出した。
装備をあらんかぎり集めた兵士たちは側面、天板ハッチへと殺到する。
この詰め寄りようでは自分の脱出は後になる。車両火災が起きていない今、出来ることはしておかなければならない。
無線機片手に車長は装甲車を撃破できる味方へ連絡を取る。
【Cart15から各車。車両浮上により行動不能。敵は車両を鹵獲する罠を敷設している可能性あり。浮上車両はただちに撃破されたし!】
【Bonge01了解】
今までは鳴りを潜めていた魔法という底知れぬ脅威は彼らに牙を剥く。
それはまだ、ほんの序の口過ぎなかった。
次回Chapter212は7月31日10時からの公開となります。
・登場兵器
ハインド
Soyuzの使っているのは「P」型。対戦車ミサイルが運用可能で、機関砲が30mmに強化されており
空飛ぶ悪魔を益々強くすることに。
スカッドD
短距離弾道ミサイル。通常弾頭は1tの爆弾をダイレクトアタックすることができ、やろうと思えば核も搭載できる。
洒落にならない威力なのだが、ゾルターン城は100発近く撃ち込まれていた。




