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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅳ-3. 閉鎖都市【■■■■■】編
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Chapter208. Der Kongreß tanzt

タイトル【会議は踊る】

こうして幕を開けた停戦協議だが、肝心の条件を提示してもなお暫定帝国トップであるイベルは重箱の隅を突くような話ばかりで本題に進もうとしない。



だが露骨な時間稼ぎかと言うと話は別。


帝国の領土に関るような話題を選択しているために本心を見せろとはなかなか言い出せない状況となっていた。




Soyuz側にしてみれば話の腰を折ることが出来ず、向こう側の思う壺。


休戦に対し反発こそしてこないが、相変わらず帝国軍が戦略兵器を隠し持っている事を忘れてはならない。



敵はボタン一つでSoyuzを滅ぼしうるスイッチを握っていることに変わりないのだ。

だがこの目の前にいる策士はつけ入るスキを一切与えない。



ドサクサに紛れて自分たちの都合の良い展開に持っていこうとすることくらい、中将はすぐに気が付いていた。



そのため権能は優先権を引き戻すため、強引ながらも軌道修正にかかる。



「いい加減、本題に入ったらどうですか」



彼は思いつめた表情でイベルに迫った。

体のいい言葉ではなく、国家としての本音を聞きたいのがこちら側の要求。


しかし彼女、いや人形を操る黒子は手の内を明かさない。



「といいますと?」



権能の疑念は確信へと変わっていく。

圧力を目一杯かけたはずだが、まるで何事もなかったかのように言葉を返す芸当は早々できないだろう。



言い方は失礼になるかもしれないが、目の前の小娘に出来る芸当では断じてない。



確実に場数を踏んだ人間の仕業だ。










———————————









一向に本音のつかめない人形師に痺れを切らした中将は、より直接的な言葉を選ばざるを得ない。



「あくまで仮定の話をしますが、万が一交渉が決裂した場合。

私はうちの戦略爆撃部隊にね、おたく都市という都市を全部毎日爆撃して、ぺんぺん草すら残すなと言わなきゃいかんのです」



「ゾルターンにある軍事基地。たしかシャービル陸軍基地でしたかな。

あれが一夜にして消滅したことは既にご存じでしょう。それが首都に降りかかれば……

兵士・軍事基地。いや人間や家屋に至るまで、残らず灰にするまで我々は止まらないでしょう」



「また…我々はそれほど暇ではないことをお忘れなく」



彼は帝国の情報網を逆手にとり、実例を交えながら語った。



Tu-95の全力をもってすれば毎日のようにシャービル陸軍基地が一夜で消え去った爆撃を毎日、それも決して迎撃に上がってこれないような高高度から爆弾の雨を降らせることだって出来る。



一切の脅しではなく「警告」だ。



やろうと思えば命令一つで爆撃機の大編隊と450kg爆弾の大雨をお届けすることが出来るが、民間人を巻き込む可能性が極めて高く、コンプライアンスに底触。


現在はただ足踏みをしているに過ぎないのである。



あまりに衝撃的な内容に、殿下が理解しがたいと言わんばかりの視線を向け、しばしの間沈黙が続く。



ついにイベルという仮面をかぶっていられなくなったのか、黒子はそのヴェールを捲りついに本心を見せ始めた。



「さて…私の本心を他人に話すのは何年振りだろうか」



女性から出たとは思えぬ、闇のような低声が響く。











—————————————









遂に正体を現した真の黒幕。



それが一体誰なのか分からない事に変わりないが、底知れぬ何かが帝国を動かしていることは確か。


気分を変えるためか、わずかに首を傾けると、指同士を絡める。



声と姿は紛れもなくイベル・ワ―レンサットのままにも関わらず、この場にいる誰もが口をそろえて本人だと決して言わないだろう。


ソフィアの眉間に皺が寄り、ふつふつと怒りが煮え始めた。



「さて…。この国において停戦がどういう意味を持つのか。この私が言うまでもないでしょうな。

我々の諜報力もさることながら、貴公らの調査能力も秀でていることは確認が取れている」



「これだけの材料があれば推測するのも造作もなかろう」



警備に深淵の槍が付いている時点で、機密度合いの高いモノであることは明白。



あれだけ強硬な姿勢だった帝国が弱腰になれば国を支える軍人が黙っていないのは分かり切っていた。


故に偽情報をばらまいて隠蔽し、話す相手が誰なのか悟られないようにしていたのである。



「前置きはそのくらいにしておいて…宣言通り、本音で言わせていただこう。声明と受け取ってもらっても結構」



「結果がどうであれ。会談に応じた時点で、私に課せられた使命は終えていると言って良い。貴公らの誠実さに対し、誠に感謝申し上げる」




イベルは相も変わらず無機質に言葉を紡ぐ。

この協議は案の定、罠だった。


帝国のメンツと人民の統率を保つためにも停戦ないし敗戦など絶対にあり得ない。



だが「停戦しようとしている姿勢」を見せたらどうだろうか。

それがどうであれSoyuzは一時的に帝国に引き金を引けなくなる。



国家安全保障委員会の調査により「こちらが与り知らない何等かの規約にそって行動している」という事実があったからこそ取れた作戦だった。



戦争に使われるのは兵士と兵器が全てではない。時には外交的な策謀も立派な武器と成りえるのだ。



軍人至上主義下での独裁という不安定な国家形態にも関わらず、レジスタンス狩りや発展という政策を講じ堅実に基盤を固めた賢明さ。



軍事費を道路整備や工業ギルドといった一見関係のない場所に投下して、いざというときに投資が生きてくるような先見性。



そして圧倒的な敵に自国の領土の7割を制圧されておきながら、一か八かの時間稼ぎに打って出る度胸。



ナポレオン、チトー、カストロ。

これら全て、あるいはそれ以上の数々をこの身に宿した存在。



既定現実ではこのような人間が現れることはないかもしれない。



政治家というものは折しも大変怒りを買いやすい役職である。

痺れを切らしたソフィアは彼女の胸倉を掴むと、殺意に満ち溢れながらこう言う。



「これは初めから罠だった。——御託は結構。…ならば私もこの場をお借りして本音を言わせていただきましょう」



「姉上を人形のように操り、祖国を歪な方向に曲げたのは一体誰か。姉上の名前を騙る貴方は一体何者か。何者であっても構わない。……貴様は一体何がしたい」



奇しくもその声色は正体を現した黒幕と瓜二つだった。

イベルは動じることもなく視線を彼女に移して、淡々と返す。



「国を愛するが故、すべては終わりのない栄光を得るため。そのためなら私は獣神になりましょう」




驚くべきことに全て善意だというのだ。



目的のためなら皇族を全て抹殺しようとし、民に信じがたい程の重税を課してもなお祖国のためだという。



あまりに極端で、残酷までに有効な政策の数々に殿下の怒りはついにピークを迎えようとするも、冴島が話を遮る。



「殿下。お気持ちは分かりますが、あくまでここは協議の場であることをお忘れなく。

私からも一言。貴方の正体などは後にして、時間を稼いで一体何を隠しているというのです」



飛び交う質疑の数々に人形は丁寧に答えていく。



「貴方がたのご想像の通りだと存じていますが」



「それを本気で仰っているのなら中将のお言葉通り、Soyuzはあらゆる手段を講じ帝国を制圧しなくてはなりません」



「時に禁忌の兵器を使っても、幾万という人間を薙ぎ払っても。我々はそれが出来るだけの力があります。そこまでして一体何を隠そうというのです」




場合によっては罪もない人間に向けて核兵器を放たなくてはならない状況も十二分考えられる。

決して脅しではないにも関わらず、黒子は容赦なく突っぱねた。



「軍事機密だ」



鋭い言葉に大佐はこれ以上の情報は引き出せないと判断せざるを得ない。

歴戦の彼でさえも小物のように退けるこの男。


正に国を裏で操るに値すると言っても過言ではないだろう。



一見友好的に見られた協議はこうして決裂した。










—————————————









——ペノン県ヴェノマス駐屯地



交渉決裂に伴い、駐留していた戦車部隊は一斉に動き出した。ジャルニエ飛行場ではTu-95が群れを成している。



レースで言えばファイナルラップに近づこうとしている局面。

リミッターが取り外された以上、抑圧されていた戦力たちは一斉に動き出した。



——GRoooo……———



「はァー、異端の連中も動くシューターを使うんだな。」



「おいバカ、じろじろ見るなよ。絡まれたらどうすんだ!」



ここヴェノマスには170mm自走砲こと主体砲が運び込まれ、威圧感の塊のような様相に住民たちの反応は様々。



アツシがいた影響が色濃く残り、下手にじろじろ見ようものなら目を付けられかねないと思う者も多い。



彼らにとって主体砲は身勝手な為政者から解放した象徴か、それとも新たな支配者に見えるのか。



乗務するスタッフはそのことを全く気にしていなかった。


全世界の戦場を駆け巡っている以上、駐留する兵器を見物する野次馬はやはり多い。



「ソ連の落とし子がまさかベネツィアみてぇな来るたぁな。」



「全くだ。次元飛び越えた先で使われるなんぞ黒電話は夢にも思わんだろ」



多くの視線を受けながら乗員は軽口を飛ばしながら街を進む。






————————————










ここまで段取りが気味の悪い程良いのは、冴島大佐が交渉決裂を予想していたからに他ならない。



平和な協議の下では常に銃を突きつけ合い、先にSoyuzが引き金を引いたに過ぎないのだ。



攻め落とす場所はペノン県の中枢であるペノン城。


ここを乗り越えない限り、陸上部隊がナンノリオンに到達することは出来ないだろう。



作戦内容は至って簡単。



主体砲の進軍砲撃や航空機による飽和攻撃でズタズタにした後、Gチームと5式軽戦車が一気に押し寄せ残存部隊を掃討するというもの。




協議の間に偵察機を飛ばして入念に偵察は行っていたが、空から城の構造図が見て取れるほど現代の文明は発展していない。




ジャルニエのように構造図を獲得後に司令部に殴り込みを仕掛けなければならない訳だが、数々の城を制圧してきた彼らにはさほど問題にならないだろう。



ここまで軽戦車しか出てきていない訳だが、彼らに出番がないかと言われれば話は違ってくる。



ちょうどペノン城が陥落したと同時にナンノリオンに侵攻。

巨大な工場を徹底的に破壊しながら城下町へと進み、制圧する任務が課せられていた。



足枷から解き放たれたSoyuzは止まらない。



次回Chapter209は7月28日10時からの公開となります。


・登場兵器

Tu-95

ソ連製のターボプロップ式の戦略爆撃機。

高速・低燃費・より多くの積載量を誇り、軍事基地1つを消し炭にするのも容易い。

Soyuzは言わずもがな、何十、いや何百機単位で保有しており……

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