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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅳ-3. 閉鎖都市【■■■■■】編
231/327

Chapter204. Cultural Singularity(1/2)

タイトル【文化的特異点】

文化と一口で言ってもそれは様々な方面に及ぶ。



衣食住や娯楽と言うように枝別れしていることもあるが、様々な影響が文化を作っているのは事実。



非常に難解な話故に、ここで例を出そう。


本来寿司屋のメニューにサーモンはなかったが、冷凍技術と輸送技術の発達によって全国へ広がった。

脂が乗ったネタが好まれるのも食の欧米化が進んだのもある。




逆説的に言えば文化を紐解くことでその地に何があったか、何が起きたのかを紐解くことが出来るのだ。



ファルケンシュタインの調査も進み、その傾向が少しずつではあるが明らかになって来た矢先に現れた特異的な地 ベノマスの街。



現代人が為政者として統治し、それを広めた汚染源にして正に特異点。



一体この街に何が起きたのか。何が行われていたというのか。

これを明らかにせねばならないのが学術旅団の仕事であり、そして海原としての使命でもある。



そう言った事情で調査する手はずになったが、今回は少しばかり事情が違っていた。


フィールドワークの長のチーフが珍しく立ち入りを拒否したのだ。

制圧された故郷にも一学者の視点として足を踏み入れたことのある彼女が、である。



そこで海原は現地調査について話したのだが、これが間違いだった。



「今までの人生全て否定されたようなところにはどうあがいても行きたくない」



真実を知ってしまったチーフは沼底のような目でそう言っていた事を思い出す。


想い正せばトップに立つのはどこの馬の骨かもしれない、ポッと出の現代人。


それも遙かに劣るはずの人間が、努力の末に勝ち取って来た自分の立ち位置を飛び越え成功しているときた。


その上、サームという女も軍人でありながら女としての幸せを掴み取っているではないか。


ガリーにとって何よりも憎らしく、すべてを否定されたと感じても不思議ではないだろう。



 人生の上位互換を見せられて気持ちの良い人間はいない。



海原もそういった人間を見て来たし、なんなら体験すらしてきている。

はっきりと言えば同情に過ぎないのかも知れない。


だが立っているだけで不愉快な気分になる場所にやせ我慢してきてもらう必要性もない。




あれからというもの、「私の努力と人生はなんだったのか」やら「神からもらった力?だったら私は神からありったけの受難と虚無を貰ったんじゃないか」と誰かを呪うかのような文言を永遠連ねていた。




そこで詫びと言っては何だが、彼女は憧れの師匠であるフィリスと共に閉鎖都市の調査に赴くように割り振っておいた。



選ばれたのは代表の海原と、深淵の槍によって消去された証拠を見つけ出した研究員のムーラン。



「久々だな、この組み合わせも」



「そうですね先生」



たまにはこの二人で調査するのも悪くはない。










——————————————









思い立ったが吉日。

ギンジバリス港からベノマスへ回送される戦艦尾道に便乗。

そこから人員を下ろすついでにモーターボートに乗り、ついに現地へやってきた。



ベネツィアに瓜二つとは聞いていたが、精々似たような都市で留まることだろう。

本物を見た人間に言わせれば独自進化を遂げた特有の場所である。



数少ない陸地に降り立つや否や、海原は突拍子もなく言葉を溢した。



「寿司……食ってないな…最近海方面に出かけていたが……どうも生食をしていないせいか?」



最近はギンジバリス市方面へ調査することが多く、食文化はほとんど加熱調理が鉄板。


魔法による冷凍技術を得ていると言え、漁獲される海産物に特有の臭みなどがあるため生食文化は全くと言っていい程存在しない。



「何言ってるんですか先生……」



時々突拍子もないことを口走る彼にムーランは困惑を隠せない。


日本人の感覚で言えば港町に行けば寿司、というのが常識だがアラブ系の人間にしてみれば理解しやすいとは言い難いだろう。



ともあれ情報を得るには全て人が集まる所に向かう必要がある。


二人は酒場へと足を運んだ。











————————————









この世界において酒場とは、嫌なこと全てをアルコールで吹き飛ばすためだけに存在しているわけではない。



冒険者なる非正規労働者向けの職業を提供する職業安定所。


とはまた言い方は違うかもしれないが、賃金を得るための窓口や依頼掲示板などが往々にして存在している。



ひとたび外との境界へ入り込むと、そこは昼でも活気あふれたパブが目の前に広がっていた。



適当な席に着くと、海原は実験ノートにあることを書き連ねながらあることについてムーランとディスカッションを続けているではないか。



ここまで至る道のりでもある発見をしたらしい。


「しかしムーラン君、此処はその…やたら行儀の良い人間が多くないか」



「確かにそれは思います。まるで何か「淘汰された」ような…」



二人が感じた違和感。

それは此処ベノマスの治安の良さだった。



ハリソンやゲンツーでもそうだが、多人数を一か所に集めれば自然と悪徳のひとつや二つ現れても不思議ではない。


21世紀のアメリカや欧州でもそうなのだから。



だがここまで来るまでに騒ぎのひとつすら聞いていないというのはどういう事か。

まるで昼の東京でも来たかのような平穏ぶりである。



まるで整地されているかのように。


違和感の正体は何なのか。


それには訳がある。


治安が良いとしても、何かしらの警備が張り付いていることが多い。

つまり犯罪への抑止力が見られるのだ。



此処ではハリソンよりも防衛騎士団がうろついていない状態であり、不自然さは増していくばかり。



海原とムーランは一番そこが引っ掛かっていた。



これだけで1時間は討論できる内容ではあるが、時間の都合もある。

ムーランは適当なウェイターを捕まえると注文を取る。



「ウチら調査に来たんですけどね、とりあえずこれを」



テーブルを埋め尽くす程にずらりと並んだ注文板。これがオーダーと伝票の代わりとなる。



だがレストランに行ってメニューの全てを出してくれなんて言う注文を取る客はいるだろうか。

あまりに狂った注文にウェイターは困惑を隠せない。



「それなりの時間をいただきますが……」



丁寧な忠告に海原はこう答えた。



「いやぁ全然。その方が助かりますな。我々の方は後回しで結構です」



一つずつ丁寧にすると、彼は厨房へと消えていく。








——————————————









料理が到着するまでの間、二人はこの街で感じた違和感の数々について語り合っていた。



「先生。此処、どうもおかしいですよ。…あれだけの労働力が求められているにも関わらず、奴隷が見当たりませんもん」



帝国を股にかけて調査し続けたムーランにはある程度パートタイム労働者に近い奴隷と、そうではない人間の区別がつくようになっていた。



比率は調べてみないと分からないが、感覚的に理解できるモノなのである。



その彼の目に映るのはそれも正規の人間ばかり。

海原は学術旅団のマスターとして伝えなくてはならない事を告げつつも、自分の考えを投げかける。



「その件に関しては統計を取らねばならないが……。私が思うに良くも悪くも健全過ぎる気がしてならない」



どこの街も自ずとアングラな部分を抱えているものである。


日本でいえば歌舞伎町のきらびやかなネオンに隠れた治安の悪さだろうか。

それが全く見られないというのは最早気味の悪さすら覚える。



「……そうですよね。自分も焦り過ぎたかもしれないですけど、ここで何が起きたかを探る鍵になると思うんです」



「考察の材料はあるに越したことはないが、足を引っ張らない事を祈るしかないな…」



海原がそんなことを言っていると最初の品がやってきた。









———————————————







「ヴェルタルンの刺しです」



「は?」



ウェイターが持ってきたのは紛れもなくタコの刺身だった。

想像の遙か上を行く逸品に海原の理解は追いつかない。



これが回転寿司屋で出てくるならまだしも、ここはあくまで次元の向こう側。

それに見た目故に食べるのが忌避されていたタコが、生で出てくるとは思わなかったのである。



「驚かれましたか?ペノンの珍味ですからねェ……」



「……いや、そういう事じゃないんだ。なんというか……いや何でもない」



技術があるから、理論上可能だからといって必ずしもそれが実現するという訳ではない。

食文化が定着するには、保存がきく、美味といった何かしらの利点があるから定着する訳である。



早速、記録を取るため懐からデジタルカメラを取り出したその時である。


「ひッ」



ウェイターの顔がまるで銃口を向けられたかのように引きつる。そればかりか周りの面々も銀行強盗に向けるような視線が向け続けている。



怪しい行為をしていると言っても、流石にここまでされる謂れはない。

それに怪しまれているというよりは恐れられていると言った方が正しいだろうか。



あまりの異様さに海原の疑念が確信へと変わっていく。

此処では特異的に何かが起きた、と。









——————————————









カメラを仕舞ってもなお騒動は大きくなる一方で、とある酔っ払いすら絡んでくる始末である。

妙な視線をいくら感じてもお構いなしだが、悪人か何かと勘違いされてはたまったものではない。



すると脇からとてつもない大声が海原とムーランに襲う。



「貴様、あの異端人の端くれだな!」



「ちょっと少将!まずいですよ!」



調査団の目の前に現れたのはボロボロの将官と腰巾着の水兵だった。



「貴様らのような人間がいるから——」


すると一番階級の高そうな男が海原の胸倉を掴み上げたではないか!


明らかに酒に飲まれ、心の奥底に潜む悪魔に乗っ取られているのは確か。


アルコールは時に牙を剥く事があることを忘れてはならない。



ムーランは思わず護身用のMP443を抜くが、当人は彼に掌を向けながら銃を納めさせる。



「ムーラン君、そんな物騒なモノで情報をパァにしてはダメだぞ……」



「暴力に訴えるのは結構、私もそうしたいヤツが山のようにいるからね…!

だが私も学者の端くれ。殺される前にこの街に何があったか記録しなければ…死んでも死に切れん…例えあなたを呪い殺しても何が起きたか突き止めるぞ…それでもいいのか?」



あまりの気迫に呆気に取られていると、将官は水兵に取り押さえられていった。

Soyuz、いや向こう側の人間に激しい敵対心を持つこの男は何者なのか。



次回Chapter205は7月23日10時からの公開となります。


登場兵器

・MP443

ロシア製のちょっと古臭い9mmパラベラム弾を使う拳銃。

古臭いが頑丈なのがウリ。Soyuzスタッフの護身用に配られているのはコレ。

慣れていなければ他の拳銃にすることもできる。

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