表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅳ-3. 閉鎖都市【■■■■■】編
229/327

Chapter202.Retribution

タイトル【報復】

——本部拠点


Soyuzにものの見事に敗北、捕らえられたアツシは将軍などと言ったVIP収容所に軟禁されていた。

言い草は物々しいが、部屋から出ることが出来ないと言う点を除き、此処はホテルと大差ない。



彼らとて鬼畜な集団ではない事は良く分かるが、一度敵対した存在に対しては全く容赦しないことが嫌でも思い知ってしまった。



しかし此処は虚無だ。


部屋に響くのは戦闘機か爆撃機か知らないが飛行機が発着する音くらいのもの。

この空虚さを例えるなら、学校を休んだ日の朝9時のような感覚だろうか。



そんな誰も何も干渉しない部屋では後悔が次々湧いてくる。



闇討ちをすべきだった、街に戦車を入れさせなければ、いざとなれば全て吹き飛ばすだけの魔力を集中させていれば。



彼が思い描く未来予想図は叶うことなく、変わりようのない残酷な現実として立ちはだかる。


こんな思いをしたのは数え切れない。



異世界に来てまでなぜこんな思いをしなくてはならないのか。

ハッピーライフを送るハズがなぜこんなことに。



アツシは自問自答を繰り返していた。



どれもこれも無意味に終わる中、彼はある事に気が付いてしまう。



過去は変えられなくとも、未来は変えられる。




体勢を整える前に、サームを連れて脱獄。

一度乗っ取られたベノマスを奪還する事さえできれば勝ち筋は見えてくるのではないか、と。



無謀であることは承知の上。此処で動かねば現実世界と同じうじうじとした自分に逆戻りしてしまうだろう。



Soyuzの許可なく、身勝手な英雄碌が次々と描かれていく。










————————————








そんなことを思っている最中。

足音が次第に近づいていき、扉の前で止まる。誰かが部屋の前にやってきたようだ。



アツシにとって最も不快な尋問が幕を開けるのにそう時間はかからない。



扉を潜ってきたのは一人のロシア人。

初めは外国人故に驚いていたが、尋問を連日受けるにつれ外国人も魔法を封じる手錠も慣れてしまった。



今日来た男は何時もとは違う。映画やアニメで見るようなお堅い軍人ではなく、どこか気の抜けた風貌。


走り屋なのではないか見まがうような爽やかすら感じる。



「あまりにボリスがсукаだのうるさくて代理として来た。俺はコノヴァレンコ。階級は中尉、アイツと同じだ」



昨日の頑強な男と違って、今回はフランクな軍人がやって来た。



Soyuz内でトンデモ乗り物狂と評判のコノヴァレンコ中尉である。


どちらにせよ喋る気などない上に頭も弱そうとアツシが思った矢先、彼は途端に口調を変えて威圧し始めた。



「あのクソ真面目なボリスをカンカンにするとは上等な舌を持ってんだろ。

俺を怒らせると異次元ラリーの生きたカメラスタンドかGOPro役にしてやるからな。覚悟しとけ」




軍人連中はそれしか能がないのか。アツシは嫌味を込めて口元を歪ませる。









——————————————








今回の尋問は帝国軍についてではなく、本人が持っていたスマホについて。


当たり前のことだが帝国の工業レベルでいえば半導体どころか、電気すら敵をしびれさせる何かとしか解明されていない。



「オーパーツを作るのは不可能」という結論を前提にして話を進めよう。



取り上げた端末を調査した結果、現実世界で一般流通しているAndroidスマートフォンと判明。



本体にキャリア情報が残っていた事が仇となり、携帯会社に圧力をかけつつ行った身辺調査は答えへと一直線に向かって行く。



奇術師の化けの皮をはがした末、川上篤志という19歳の青年という結論が出た。



これで話が終わり、残すは事後処理だけかと思われた。



学術旅団がベノマス市民や側近であるサームに聞き取り調査を行った所、目を疑うような証言が飛び出してきた。


()()()()()使()()()()()()()()()()()()】と



これに尽きる。


これが事実なら彼は何の変哲もないコンピュータを用いて、敵対的な人間や大量のモンスターのみに向け重電撃魔導 バルベルデを放っていたことになるだろう。



これを受けたSoyuzはデータの隅から隅まで解析したが、何度やっても市販されているものと同じという結果ばかりが出てくる有様。



仮にそんな機能が搭載されていたのなら、ニワトコの杖は全てHuaweiのスマホに置き換わっているはずである。



これらを通して一つの仮説が浮上してきた。



現実世界からU.Uに来るに当たって特殊な何かが付与されたのではないかと。



そして今に至る。



「悪いな。騙しっこナシでいかせてもらうぜ。一体コイツには何がある。一体何が出来る?」



コノヴァレンコの問いにアツシは視線を合わせることなく、何も答えない。静かな抵抗だ。

ダンマリを決め込まれた以上、中尉は続けざるを得ない。



「……そうか。一つ、言う事がある。

お前が黙りこくっても、別に俺はボリスのように怒鳴り散らしたりはしねぇ、ただ耳の穴かっぽじって聞け」



「没収したスマホ、あるだろ。ウチで何から何まで全部引っこ抜いてやった。キャリア・契約情報からお前のオンナとのセルフィー、LINEやメモしてた内容まで全部だ。

夜の時間までしっかり動画にして残していたとは良い趣味してんじゃねぇか、えぇ?」




「そんなのはどうでもいい。

お前が何者で、どこの出身で、どこの学校に通い、故郷で行方不明になる前にどこほっつき歩いてたか、学校じゃどういう素振りでどんなヤツなのか、向こうとこっち、してきたことは全部お見通しだ」




「なぁ。【()() ()()】君よぉ、大人を舐め腐るのは自由だが相手を選ぶんだな」




コノヴァレンコの言う通り、Soyuzは川上篤志の全てを知り尽くしている。

住所・氏名・電話番号・家族構成・経歴・インターネットを含めた友人関係や行動パターンまで至る。



現実世界が嫌で嫌でたまらない彼にとって、これほど効果が見込めるものは無いだろう。


中尉はひたすらソ連式の追い込みをかけた。




「さぞかし報われない生活をしていたらしいな。まぁ…俺がガキの頃よかずいぶんマシだが。

大方田舎でスローライフ気取りでもしていたんだろう。だが……お前の処遇は決まってる」



「この異次元自体、トップシークレットになってる。公開するその時が来たらそっくりそのまま帰らせてやる。

Soyuzに反抗したい気持ちは分からんでもないが、身の振り方次第ではそうならないよう進言してもいい」



なんと恐ろしい事だろうか。




現実から逃避し、地位と女を手に入れ誰も邪魔をする人間がいなくなった理想郷から地獄に再び叩き落そうというのだ。




桃源郷から地獄へ誰しも落ちたくはない。


コノヴァレンコはアツシの抱える闇を見抜いた上で増幅し、心の余裕をなくした所で落としどころを付けて来たのである。










——————————————







日が暮れるまで尋問を行った末、篤志は何も情報を吐くことはなかった。

大の漢に対して何かしらの嫌悪か不信をこじらせている事は中尉にもわかる程に。



丁度冴島が本部拠点に帰投していることもあり、コノヴァレンコは若干苛立ちつつも事のあらましを伝えるのだった。



「ダメっすね。正直指を一本一本へし折って尋問しないと吐かないですよ。それかアイツのしてきたことを一番言われたくない相手にチクるか」



カウンセラーでもない人間が不貞腐れた青年を相手にするのだ。ミジューラのように気が長い人間でもなければ当然機嫌が悪くなるのも腑に落ちる。



「調査によればヤツは佐官クラスの軍人であることが分かっている。…その意味はお前に説明するまでもないな。」



仮にもSoyuzはジュネーブ条約を順守するクリーンな組織。

故に相手の正規軍に対し、世にも恐ろしい拷問や不当な扱いは出来ない。



テロリストやマフィアと言った武装した何かであれば対象外になり、指の爪を端から端まで剥がして尋問したとしても問題はないのである。倫理と良心の呵責を一切無視するのであれば。



——VIP収容室



コノヴァレンコの口から発せられる禁忌の言葉は確実にアツシを追い詰めていた。


一度極楽を知ってしまった罪人が牢獄に放り込まれると聞いて抵抗しないはずがあるだろうか。



「僕にこんなことをしておいてただで、済むと思って…」



彼はぶつぶつと呟きつつ、手にはめられた魔封じの手錠を壁に叩きつけていた。


見た目からして古いものだという事が分かっていた以上、魔法でこれさえ壊せばどうとでもなる。



少しでも硬そうな場所に向けて壊そうと努力していると、それを称えるようにヒビが入っており、もう一息という所。



ヤケを起こしながらコンクリートに振るったその時だった。

嫌な音を立てながら手錠は砕け散ると同時に、魔力が沸いてくる。



魔力が減退していた今までとは違う、言い知れない高揚感と優越感が彼を満たしていった。



これなら奴らを皆殺しに出来る。



「やっぱり神様は見放してなかった、僕…いや俺は強いんだ!のろまの無能にこれ以上好き勝手な事言わせてたまるか!」


今、禁断の扉が開く。









————————————








——KA-BooOOOOMMMM!!!!


本部拠点に耳慣れない爆発音が響く。



「なんだ!」



現実世界出身のスタッフは異質な爆破に困惑する一方で、真っ先に動きだしていたのは帝国出身の現地スタッフ達であった。


遊び惚けているガンテルが本部にいない以上、感覚が人一倍鋭いマリオネスも例外ではない。



「おい、例の捕虜はいるか?」



耳にするなり表情を一転させ、そうマディソンに切り込んだ。



「ああ、うちの世界から来たっていうベノマスのアレのことだな。魔封じの手錠して放り込んであるけど……まさか……!」



「そのまさかかが起きた。多分どうにか破壊して、ヴァドムを使って吹き飛ばしたんだろう。息の根を止めに行くぞ」



ここまでは至極真っ当な判断だった。

しかし決断が出来るからと言って、常に対応できる道具があるとは限らない。



「チャリしかねぇ!」



彼が指さす先にあったのは広大な拠点を移動するために用意された自転車だった。それも6段変速、お値段2万円也。



「やれ!」



「わかってる!」



安いボディに二人を乗せ、コーナンで買ったであろう自転車は脱走者を追う。








——————————————








——BEEP!!!—BEEP!!!——



爆発と同時にけたたましい警報が流れ、しきりに大佐からの指示が繰り返される。



【総員、配置につけ】



【総員、配置につけ】



【第3地区にて収容違反が発生!武装の上、直ちに所定の警戒態勢を取れ。繰り返す——】



発せられた警報は大げさなのかもしれないが、本部拠点は現実世界へ通じるポータルを保有しており、万が一横浜市瀬谷区に逃げられ場合には機密漏洩といった数え切れない問題が積もってくる。




なんとしてでもここから逃げられてはならない。



Soyuz決死の捜索作戦が幕を開けた。


次回Chapter203は7月21日10時からの公開となります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ