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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅳ-3. 閉鎖都市【■■■■■】編
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Chapter201. Sea paradise

タイトル【海の楽園】

ところで話を変えるが、少しばかり研究状況を整理しよう。



陸上方面の調査に関してはU.U(異世界)に初めて来訪してすぐに行われた。

酸素や常在菌の有無等を調べたのがきっかけだ。



しかし海洋調査はどうだろう。



ジャルニエ・シルベーを攻め落とし、港湾都市ギンジバリス市に到達してから始められたこともあって進んでいないのが現状だった。



それに加え、激化していく戦闘とバイオテックの人員が限られていることも大きい。

情勢が安定してから初めて学術調査が行われるのはどこの世界も同じだ。



ゾルターン一帯に生える理不尽な草【ガイアクススキ】の研究に嫌気が差し、発狂寸前まで追い詰められたメンゲレは海に来ていた。



土壌に水分がなくとも空中の湿度を使って補給し、生育に使う窒素分が枯渇すれば大気に含まれる窒素を使って作り出す。


その上断片からもクローンとして増殖する有様。



つまるところ土や水、栄養分がなくとも育つことが出来るのだ。

こんなふざけた植物を研究すればするほどストレスがたまるのも無理はない。



調査は彼と海洋調査隊を引き連れて、仰々しい名前のベノマス海賊団に協力を得て行うことになった。







—————————








——ペノン県ヴェノマス




「江の島より海が綺麗なのは良いな。いや熱海以上か?ただヴェネツィアのパクリみたいなのは気に入らんな。作ったヤツ誰だ?知財マトモにやってないだろコレ。イタリア人に見せたらキレるぞ」



博士は胡椒たっぷりのフランクを口にしながら降り立つや否や、イタリア人のような苦言を呈す。



ともあれ街の調査は学術旅団に任せるとして、生物学的観点に切り替えながら待ち合わせ場所の港へと足を運んだ。



このヴェノマスなる街はイタリアから訴えられるような構造をしているものの、帝国らしさが出ており、辛うじて独自性を保っている。



よく見ると大きな半円上の幹線と、そこから伸びる無数の細い支線が流通をカバーし合い都市圏交通網のような様相を呈す。



ヴェネツィアと非に似て非なる。というのがまた博士の知的好奇心を掻き立てる。



まだまだ衰えを知らぬ夏の日差しを浴びて石造りの建物は鮮やかな色を呈しており、パクリだと言え、この光景は美しいのは事実。



乾いた暑さを吹き飛ばすように潮風が吹き付け、文字通り死人が続出する程暑い江の島や鎌倉とは全く違う魅力を醸し出していた。



なかなか見られない光景故に、観光業で売り込めば相当儲かるに違いない。



美しい光景が立ち並ぶと言っても今は残暑。

汗が額にじんわり滲ませながら港に到着すると、そこには一人の少女とその周りに屈強な海の男たちが待っていた。



あれがベノマス海賊団と見て間違いないだろう。



「私がショーユ・バイオテック所長S.メンゲレだ」



邪悪なオーラがあふれる。


余りの異様さに海賊団の面々の反応は様々で、こちらを怪物か何かのように捉えている連中もいれば、明らかにひきつっているような人間も少なくない。



「海賊団の棟梁やってるヒュドラだぜ。よろしくやってくれ」



いくら余裕の表情を保つ彼女でも、ナチスで理解しがたい実験を繰り返し行っていそうな邪悪極まりない男を前に引きつりを隠せなかった。



メンゲレはお構いなしに攻め続ける。



「邪悪なのは認めるが、それは性根だけだから気にしなくて構わない

…なんかギルなんとかとか言う格ゲーに出てきそうな見た目してんなァ……」



ああ、これは侮蔑ではない。なんか既視感があるだけだ。気にしないでくれ」



「格ゲーってなんだよ」



すかさず斧を持った船員がこの男に割り込んだ。


異世界とナチス・ドイツという悪魔的な組み合わせだが、相性はあながち悪くないのかもしれない。


一通り挨拶を終えると、船は出航準備に移っていく。









————————————










——サルバトーレ級戦艦 ヴェノマス号



街の名前を背負うこの船、もとい戦艦は軍事にわかマニアであるメンゲレでさえも異質に映っていた。



胴体は海賊船のソレだが、船首と船尾には現代戦艦を思わせる巨大な連装シューターが備え付けられている。


戦艦三笠もどきを前に、学術旅団の面々も首を傾げたに違いない。



その上、船がどこの野郎か示す軍艦旗がある場所や帆には主砲が描かれている。



海賊船の旗は近づいたら殺すという意思表示のためドクロを描いているのだが、近づいたら無警告で撃つぞとでも言いたいのか。



乗員をよく見ると、手斧を携えた屈強な男から戦士のような眼光をした魔導士と多種多様。

船の舵取りは魔導を使えるものが行い、帆はその他の面々が行うらしい。



専門的なものは海原や阿部と言った連中に任せるとして、メンゲレはどこか既視感のあるヒュドラに問う。



「この海域ではどんな怪物が出るというんだ?せめて私の発想を覆すようなモノを頼む」



ひねくれた彼の質問に彼女は困惑しながらも口を開いた。



「全く分からない。海はそんなもんだから。面倒なのが出ると言ったら氷竜と魔竜。

氷竜は冬しか出ないからいいとして、申し訳ないが魔竜連中が出てきたらコイツは良くない。なんてったって魔法が効かないから本当に良くない」



この海域には魔竜なる存在が出現するとの事らしい。

メンゲレの連れている部下たちは喜びそうな話だが、肝心要のナチスな男は眉を顰めこうぼやく。



「魔導が効かないのは興味深いが名前が安直すぎるんだよなァ……」



ゾルターンに生息し、爆発的に増殖する謎の植物に対しガイアクススキと名付ける人間に言えたことだろうか。







——————————








——フェロモラス島沖




船は海流を読みながら大戦闘が繰り広げられたフェロモラス島沖に到着。

錨を下ろして海洋調査がようやく行われることになった。



島の方を向けば、最も高所にあるトリプトソーヤン城がこちらを臨み、とても神々ささえ感じる。



本格的な底引き網漁を行う前にプランクトンネットを放り込み、海洋微生物調査と水サンプルの採取を行う予定となっている。



海洋生態系の根本は全てこれら1mmにも満たない生物によって支えられていると言っても過言ではない。



ギンジバリス湾やこの沖合がどういった環境なのか知る一歩となる。



これらの本格的な分析はバイオテックにて行われることとなる。

採取を終え次第、クーラーボックスへ直行するのは当然の成り行きか。



サンプル採取を終えると網を海底に沈め、戦艦は底引き網漁船へとクラスチェンジ。

準備を整え、船を進めようとした時のことだった。



「魔竜発見!」



観測員の大声が響く。噂をすれば何とやら、嫌な予感は見事的中とは不運にも程がある。



「もー滅茶苦茶だ。右舷回頭。1番主砲を撃ちながらラムで突っ込め!」



ヒュドラは頭を掻き、苛立ちながらも的確な指示を下す一方でメンゲレを主体とするバイオテック職員は全く違う事を話し合っていた。



「諸君らは調査を続けたまえ、私は空母にイタ電して戦闘機をポチる。私の怪文書を17時間読ませると脅せば1機は出てくるだりう。

機銃で倒せなかったら51cmのデリバリーを取るがサイズは何がいい?どのみちLしかないが…」



「マジですか」




突如懐からソ・USEを取り出す博士に研究員は理解が追いつかないが、この男は一切無視して話を続ける。



「大真面目だ。どう考えてもあんなの当たるわけないだろ。物理的に考えて。クラーケンが出てきたらもうおしまいだ、タコ焼きにして食っちまおう」



ベノマス号に危機が迫る。








—————————————






意図的に風を起こせるファルケンシュタイン帝国の軍艦は、驚くほど加速とトップスピードに優れていた。



大型船ともあって曲がる際には大回りは避けられないものの、速度で押し切ってしまうのか機動力がないと言われれば嘘になる。


同時に重々しい砲塔が旋回しているが、聞く話によれば人力なのだから恐ろしい。



魔竜らしき影は接近するベノマス号に気が付いたらしく、接近し始めた。



「主砲、放て!」



——FRAAASHH!!!!——



船長の指示一つで大槍は風を切り裂きながら宙を舞い、あっという間に消えていった。

射程が短いシューターと言っても、相手が近づいてくるなら都合がいい。



それに致命的な一撃を与えられないのはどちらも同じ。ならばひたすら撃ち続け、ラムアタックで止めを刺すのだろう。



対軍艦とは違う戦術が繰り広げられ、ここに学術旅団が居ないのが悔やまれる。



暫くすると再び観測員の叫びが再び船上を駆け巡った。



「弾着!」



適当なホラを抜かしているのではないかと思った博士は記録用のコンデジを取り出し、目一杯ズームをかけて答え合わせにかかる。



当たってなければ適当にいびるつもりだったが、そこには苦しみもがく首長竜と伝説の剣めいて突き刺さる槍が目に飛び込んできた。



「当たるのか……」



博士は思わず嫌味な性格を忘れて本音を漏らさざるを得ない。









———————————










動きが止まったのをいいことに、ヴェノマス号は自慢の主砲を乱射して応戦。

完璧に沈黙した所をラムで突き刺し、魔竜に引導を渡してしまった。



あれだけ面倒だと言っていた割に完璧な連携を取って仕留めている辺り、相当な手慣れなのは明らか。



すると竜の亡骸近くに船を止め、ヒュドラは血相を変えながらメンゲレに迫る。



「やったぜ。…コイツ、欲しいだろ?——タダでやる訳にはいかないな、シューターの弾は湧き出てくる訳じゃない。それに20発も撃ったんだ、このままじゃ損だ。」



研究員の知的好奇心を察知した彼女は、それを利用して売り飛ばして金を得るか船の設備に変えようと思いついたのである。



この戦艦は見ての通り非常に強力。だが維持するためには相応のコストが掛かるのはどこも同じこと。



船を失えば船団はただのゴロツキと化す以上、死活問題なのだろう。



メンゲレは中指を立ててFワードを叫びたい衝動を抑え込みながらぼそりと呟く。



「Shit……」



「で、買うのか、買わないのか。あんたらがコイツを欲しくてたまらないのは知ってるんだ」



博士とてSoyuz経由で資金が支給されているが決して無限ではない。



実験器具特有の高価さに慣れているので口出しする気はないが、どうにもあの殿様商売する気なのが腹立たしい。



明らかにバイオテックの人間が非武装なのを知って、値段を吊り上げようとしているのは間違いないだろう。



このナチスはダフ屋のような圧力に屈せず、ガトリングガンめいた説教をするかと思われたが一味違っていた。




「私が常日頃取り扱っている試薬類は非常に高価でね…PCRに必須のTaqポリメラーゼも250μl。雨粒以下の雫で2万2000円…2万2000Gと言った方が良いか。

故に、実験に必要ならばどんなものも買う主義になってしまった」



「それがショーユ・バイオテック研究所の悪癖というべきか。そんなことはどうでも良い」



「私らはこの世界における通貨を良く知らなくてね。こんなものしか持っていないのだ。許してほしい」



この男が颯爽と取り出したのは楽天市場で買った税込み643円 GABAN ミル付きコショー。

ファルケンシュタイン帝国において胡椒は金と同等の価値を持つのは言うまでもない。



即ち、この消費税込み643円の物体は札束で満たされたアタッシュケースと同等の価値を持つことになる!


何という大盤振る舞いか。



「なんてやべぇ真っ白連中だ」



取引は成立した。



「コイツに交通系ICカード見せたらどんな反応が返ってくるんだろうなコレ」



少なくとも、良い子の異世界転生者はこうしたおちょくっているようなことを口にしてはならない。

次回Chapter202は7月18日10時からの公開となります。


・ガイアクススキ

ゾルターン県一帯を覆い尽くす草原の正体。

植物とは思えないとんでもない増殖力は真っ先に特定外来生物へ指定されること間違いなし。

研究では強アルカリ性の土壌でしか生育できないことが分かっている。


自然界ではポンポン生えている癖にいざ栽培しようとなるとめんどくさい生物の一例。


・魔竜/氷竜

安直な名前の半水棲の大型爬虫類。少なくともバイオテックの所長には言われたくはない。

性質はまるで違うが、似通った姿かたちを持つ……らしい。

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