Chapter197. Never Ending Sunset
タイトル【終わらない夕焼け】
——ウイゴン暦8月29日 既定現実9月4日
午後10時
ベストレオ二号機のひざ元までやってきたSoyuz機械化歩兵部隊だったが、最後の最後で竜騎兵という歩兵と最も相性が悪い敵によって足踏みを強いられていた。
「これで2つ目か…!」
マガジンを1本撃ち切ってドラゴンナイトを一つの計算になる。
奴らがこちらを撃たせないよう立ち回るのも勿論の事、鱗と筋肉の装甲に身を包んだ竜に当てても効果が薄い。
なんとか掻い潜って騎手に当てることは出来たが、防御力の高い鎧も相まって上手く受け流されてしまう。
故に30発もの弾丸を消費しなければ倒せない相手と化していた。
それは突入部隊全員に言えることで、もちろん3人組にも同じことが起きているはずである。部隊長は一旦後退したようだが様子がおかしい。
彼らのいる場所には竜共々絶命した騎士の亡骸が転がっている。
此処には帝国の死線を駆け抜けてきた男と図太い男二人が付いている事を忘れてはならない。
「生きた心地しねぇよ!」
グルードは全速力で逃げながら迫りくる竜騎兵に向け銃撃を見舞う。
相手は急降下爆撃めいて高度を下げ、彼にあたれば即死のソルジャーキラーを振りかざそうとした瞬間。
二本の矢が最初に飛竜を、次に騎手を貫いた。
そう、ガンテルは近づかれたら何もできないが、一度距離を取ってしまえば無敵と化す。
つまり二人は優秀な餌役として抜擢されたに過ぎない。
【チョロいチョロい、こいつで3体目。面白いようにやれる】
腕だけしか頼れない男は無線越しで悪趣味な笑いを浮かべながら次の狙撃ポイントへと向かう。
【テメェ少しでもサボったらぶっ殺すからな】
釣り竿を握る釣り人はさぞ楽しい事だろうが、水に沈められた疑似餌役は堪ったものではないだろう。
【俺は栄えある曹長様だぞ、任せとけって】
【降格して伍長のヤツに言われたくなないな。次が来たぞ。——何か様子がおかしい。手前で降りて来た】
二人の間を割ってパルメドが冷徹に状況報告する。
普通は自分たちがいないところで着陸したというのだ。どうにも嫌な予感がする。
敵は地上から狙撃されている事を察知して、スナイパー狩りをし始めたに違いない!
【おい、ガン公。敵はお前を優先して探しにきてる、気を付けろ!】
【わざわざ俺のテリトリーに入ってくるたァ、まだまだ曹長様には及ばねぇらしい】
感じ取ったことを油断という二文字が心底似合う弓引きに伝えるが、慢心は尽きることを知らなかった。
この男、何か策があるのか。
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□
流石に何人もやられておいて作戦を変えない道理はない。
竜騎士たちは一度地上に降下し周囲を捜索する。
「どこに隠れてるんだ」
「クソッ」
二人は怪しい場所を全て火炎放射器のような、さながらビームにすら見える火のブレスで掃討していた。
もはやこの工場が息を吹き返すこともないだろう。
手当たり次第にやっているが総じて反応がない。
相方が上を見張るも影も形もつかめないのは同じ事だった。
異端軍の主兵装は音が出る事が多く、音を辿れば根絶できるはずだろうと考えていると遠方から銃声が響く。
———BANG!!———
味方の騎手が後頭部から竜の頭部を貫かれ即死。だが音を鳴らしたのが命取りだ、そのまま敵が待ち伏せている場所へ突貫するも、ドラゴンナイトを待っていたのは誰もいない虚無。
銃撃でまんまとおびき出されたのである!姿を見せて止まったのが最期。
5.56mm弾が騎士を、対装甲矢が飛竜を仕留めた。
【ケッ、甘ちゃんが】
ともあれすべては配管に上り、足だけで全体重を支えているガンテルの思い付きだった。
影に隠れた狙撃手を探す場合、帝国軍は音を基に探るだろう。
それにとりわけ銃は大きな音を立てる。
だが音の方向は気にしても、肝心の入射角がどこなのか考えはしないだろう。
過貫通を起こすガローバンなら猶更で、方向を誤魔化しやすい事を利用したのだ。
ゲリラ戦を仕掛けていた帝国軍がまんまとゲリラのやり方にハマってしまうとはなんとも皮肉とも言えよう。
【サンキューPAL】
【用事は済んだな。援護に向かうぞ】
彼らの命を狙う竜騎兵を排除した後、ドラゴンバスターズの3人組は後方で苦戦している味方を援護すべく駆け出していった。
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□
【排除完了。制圧に向かいます】
3人組の援護と対策法を編み出した機械化歩兵部隊は増援としてやってきた竜騎士を全て撃退。
ついにベストレオの制圧に乗り出し始めていた。
幸いにも本体へ侵入するためには増援が出てきた建屋から繋がっている可能性があるため、いくらか別れて向かっていく。
プラントの内部はというと、兵どころか人間がおらず廃墟に似た様相を呈していた。
待ち伏せも考えられるため、赤外線暗視ゴーグルを装備して探るも魔力灯の発する熱源しかとらえることが出来ない。
司令部の重要性は低く、歩兵部隊はソ・USEに表示される自身のビーコンと2号機との位置を計算し、あみだくじを辿るように進軍していった。
———ベストレオ2号機 カロナリオ整備ドッグ
厳重な警備と情報統制によってひた隠しにされ続けてきた民族根絶兵器ベストレオ。
その2号機ははじめに出現した1号機とほとんど同じだったが、パッと見て大きさが半分程度まで縮小され各部が精錬されているように思えた。
まさかとは思うが、このようなものを戦艦のように製造するつもりでいたと考えていたとなれば、背筋が凍る。
戦車砲や艦砲と同程度の感覚で核兵器を放てるクリーンな殺戮兵器。
ただ今までとは決定的に違うことがある。
塗装どころか防錆が施されていなかったのか、光り輝いていた。まるでピカピカの甲冑のように。
また脚部が爆破された影響で自重を支えきることが出来ず地に伏せているではないか。
流石に鹵獲するつもりがないとは言え、作れる技術者が限られてくる兵器にとっては致命的。
動けない究極兵器など航空兵器の餌である。
その一方。
閉鎖都市にいる抵抗勢力を完全に黙らせるため司令部制圧に動いていた3人組の一員パルメドから無線が飛び込んだ。
【制圧完了。敵司令逃亡の可能性あり】
既に彼らが来た際にはもぬけの殻と化していた。
道中、いくつもの燃え跡があった時点で察しはついていたが、まるで煙のように消えられるとは思っていない。
【LONGPAT了解。待機せよ】
司令室を確保した三人は待機。
ベストレオの制圧に乗り出した機械化歩兵部隊はついに物言わぬ兵器へと突入していく。
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□
崩落から難を逃れた乗務員用ハッチを発見。
歩兵チームは浸水するかのようになだれ込んでいった。
先ほどまでの戦闘とうって変わって、兵器内部は人の気配が全くしないゴーストタウン。
また単純な大きさが超大和型戦艦を超越するだけあって、内部は完成図のないピースと言えるだろう。
或いは答えのない迷宮と化すのは目に見えている。
だが彼らも無謀ではない。
破壊した一号機から得られた内部図を使い、素早く指揮を執る戦闘ブリッジまで駆け抜けていった。
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——戦闘ブリッジ
艦橋。
この戦略兵器が進路をどう取るのか、どこを砲撃するのかと言ったすべてが行われる場所である。
写真撮影された1号機のものと比べて内装は粗末なもので占められていた。
建造途中とあって最低限の偽装しか行われていないのだろう。
むき出しな黒くさび止めされた鋼体が無骨な印象を抱かせるが、むしろそれが兵器らしさを引き立てる。
部隊長が警戒しながら操作盤に近づくと驚くべきことが発覚した。
「…なんでこんなとこにIMIのロゴが…」
このファルケンシュタイン帝国、いやU.Uに存在するはずがないイスラエルの兵器グループの名前が何故あるのか。
それに操作盤は帝国文字ではなく「ドイツ語」で記されていた。
つまり設計者はこの世界の人間ではなく、既定現実側の人間が作った動かぬ証拠に他ならない。
この特徴は全て1号機に合致し、製作者は同じである可能性が高い。
探査を続ける他スタッフがあるものを見つけてきた。
「仕様書を発見しました。現地語の他、独語で書かれています」
この無駄に手間のかかった工作。
明らかにファゴット改めハイゼンベルグの仕業に違いない。
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□
かくして閉鎖都市ニョムニルはSoyuzに陥落した。
戦闘部隊による簡易的な探査が行われたが、木板や紙媒体といった可燃性の資料は全て焼却処分されており、2号機が何と呼ばれていたか情報すら見当たらない有様。
肝心の二号機本体は脚部の全域と主砲の一部が爆破され現代科学、工学における修復を受け付けない。
このままでの利用は不可能、帝国軍が遺していったのは利用価値のない何千トンのジャンクだった。
「短い時間で的確に破壊して鉄くずに変えてくれるとはな。手際の良さは尊敬にも値する」
巨大な悪を前に冴島は顎に親指を当て考え込んでいた。
これまでのモノとは違い全長は600m程度で1号機のおおよそ半分。
崩落したため高さは伺い知れない。
それに同型機と言っても可動部がかなり削減され、バランサーとして機能する尾がないお陰でかなりスッキリとした印象を抱かせる。
1号機が巨大なカラクリ兵器なら、目の前にいるコイツはSoyuzが運用している戦車や戦闘機といった具合だろうか。
彼はここで殿下のある言葉を思い出した。帝国軍ならコイツを複数保有している可能性があると。
二号機は戦艦大和に次ぐ武蔵のような複製ではなく、ある程度の量産を前提にした量産先行型である可能性が浮上してきたのである。
【BIGBROTHERからLONGPAT。状況を報告せよ】
【こちらLONGPAT。工場、兵器本体の制圧を完了。2号機は脚部・主砲の深刻な破損により利用不可】
【BIGBROTHER了解。戦車小隊と歩兵中隊を派遣、封鎖する】
ゴーストタウンを警邏するには部隊の規模が大きい。中将の考えでは利用価値が十二分にあるらしい。
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———午前1時
冴島がふと時計を見ると、時刻は既に丑三つ時を一時間ほど過ぎていた。
常に夕方めいた空を見上げていると、此処にいるとそのような感覚は感じられない。
体内時計が明らかに狂い始めている。
故に昼行性の飛龍が活動しており、増援で出てきた兵も手を抜くという事もなく歩兵を容赦なく攻撃してきたという。
労働者に出来るだけ長く働かせるため、そして兵が眠っている間に攻められることのないために常にここは夕焼け空なのだろう。
ここで情景ばかりではなく、置かれている状況や判明している情報を整理することにした。
量産先行試作が存在するということは【量産型第一号】が既に建造されている恐れがある。
何かしなければならないにも関わらず、自分に出来ることは何もない。
それに此処の照明が魔力を使っているのなら、時間切れについて考えなければならなくなる。
戦いのプロではない、あの集団を呼ぶことにしよう。
冴島大佐はソ・USEを取り連絡を取る。
【LONGPATからBIGBROTHER、全学術旅団メンバーの派遣を要請する】
【了解】
学術旅団だ!
次回Chapter198は6月24日10時からの公開となります
・登場兵器
・ドラゴンナイト(2/2)
異次元にしか生息しないワイバーン型ドラゴン「飛竜」に乗った騎士。戦闘機と違い滑走を必要とせず、こういった屋内でも出撃が可能なのが強みでもある。
武器のリーチ・そもそも竜がかなり大きいため、とてもではないが生身の人間では太刀打ちは出来ずミサイル等で撃ち落とさなければ強敵となる。
ベストレオ二号機【カロナリオ】
量産先行試作型。1号機ベストレオよりもさらに洗練されている。
武装・艤装済。
Soyuzが遅く来た場合主砲を発射する計画が立てられており、そうした場合は夥しい戦死者が出ていた。
ファルケンシュタイン帝国軍は少数ながらもある程度、量産するつもりでいたらしい……




