Chapter196. Weapon Manufacturing Plant
タイトル【兵器製造プラント】
——閉鎖都市 【ニョムニル】
隔壁付近
安全を確保した以上、BTRやBMD-4が一気になだれ込んできた。
戦いは最終局面。
ベストレオ二号機が建造されているドッグを制圧、機動を阻止する段階に入った。
「冗談じゃねぇ、地下鉄駅かと思ったら夕焼けの街じゃねぇか」
グルード・ガンテル・パルメドを乗せたBMDの操縦手は思わず声を上げる。
画像ではただの夕焼け小焼けが流れていそうな街並みではあるが、何を隠そうここは地中。
今までに経験したことのない変化を前に誰もかもが驚き、戸惑うのも無理はない。
例えそれが帝国の人間、ガンテルもその一人である。
彼はオフラインのスマホで録画された動画を食い入るように見ていた。
「何ィを寝ぼけたこと言ってんだ、んなわけ——マジかよ、こんなの聞いてねぇぞ」
「誰だって聞いてないだろう」
パルメドが鋭く指摘するも、当人もこの光景は受け入れ難いもの。SFめいた通路を抜けたと思ったらスチームパンクがお出迎え。
少しでも常識のかけらが残っていれば必ず脳が理解を拒むような光景である。
その中でもスイッチの入ったグルードはAK片手に呟く。
「Ah…問題は今度攻めるのは秘密基地だろ?敵さん絶対防御を固めてるに決まってる。こんな訳わからんトコでも俺たちの命を狙ってくるに違いねぇさ」
どんな見たことのない場所であってもありとあらゆる武器で命を狙っていることは変わらぬ事実。
今でさえもどこからゲリラが狙っているか分かったものではないし、装甲薄い揺り籠では木っ端みじんも十分にあり得る。
戦場はどこにいても死角はないのだ。
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——閉鎖都市【ニョムニル】
——雷雲号建造ドッグ
Soyuzの軍勢は既に建造ドッグまで来ていた。
これだけの精鋭を集めたところで少しの足止めも出来ないときて、司令官ギン・ラゾールは主砲発射を断念。
ありったけの魔力を自爆に回すように決断したのである。
「これだけでは脚部を爆破するので精一杯です」
「できるなら良い。やはり進軍速度が遅すぎる、捕獲されて帝都に攻め込まれたら終わりだ。異端共に魔法のあれこれはわからん、適度に破壊するだけで事足りる。急げ」
進軍速度は凄まじく、既に喉元まで来られている。
勝てる見込みはもうないだろう。
図面の焼却は既に完了している以上、残るは本体の破壊だけ。
建造まで何年と費やしてきたが、それのお陰で晴れある帝国が滅ぼされては元も子もないだろう。
動力炉は強固な設計なため破壊は困難に近い
魔導を全く知らない異端にとって破壊工作に手を抜いても修復は不可能なはず。
移動できる能力さえ破壊してしまえば兵器としての価値は無くなるだろう。
次に伝令は更なる命令を伺う。
「いつ起爆なさいますか」
「今だ」
もはや残されている時間はない。
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彼らを乗せた車両が到着する前に、三人組は工場制圧について振り返えることにした。
作戦の名前はそうなっているものの、実際に抑えるのはベストレオそのものである。
たとえ工場を占領したとしても起動されて動き出されては何もかもがおしまいだ。
あまりに巨大な兵器故に道に迷うことはないだろうが、やはりと言うべきか地の利が無いのは痛い。
戦車部隊の砲撃によって既に侵入口は確保できているらしく、中央にある2号機までたどり着き、敵を排除して初めて作戦が成功と言えるだろう。
全焼した戦車乗員を回収。その後しばらくして外壁を攻撃し続ける戦車部隊と合流。
BMD-4も砲撃に加わりながら兵員はようやく地に足を下ろした。
搬入口は防壁によって固く閉鎖され、破壊することができたのは作業員用の通用口。
車両による援護は時間がかかるだろう。
「やべぇな、どんだけ焼かれたんだよ」
真っ黒に焼けた915を指さしながら大弓引きのガンテルが呟く。
あの感じでは大人数のソーサラーからゲグルネインでも食らったのだろうか。
呆れる程の防御力に思わず困惑を隠せない。
「突入開始」
機械化部隊の降車が完了次第、部隊長の命令で突入が始められた。
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——閉鎖都市【ニョムニル】
雷雲工場作業員通用口
——BLATATATA!!!——GARCH…ZTATATA!!!!!!
銃弾と共に空薬莢が辺りにばらまかれ、凶弾を受けて実体化したソーサラーが倒れる。
その傍らKPVを持った3人が設営する間、敵が近づかないよう援護を行う。
三脚を立て固定機銃を設置するとレバーを引き、制圧射撃で敵の攻撃の手を弱めようとする。
圧倒的な貫徹能力を前に壁に隠れた兵士や槍を持ったアーマーナイトを湿ったビスケットのように大穴を開けていった。
あくまでそれは囮。
本命は盾を捨てニースを2つ担いだ超重武装兵が見えた瞬間である。
———BPHooOOOOOOMMM!!!
3連装ニース、合わせて6門一斉射撃である!
精度が悪いのならその分数を撃てば実際、当たりやすい。
放たれた槍はそれぞれあらぬ方向へと飛んでいったが、そのうちの一発が重機関銃を貫通、ものの見事に破壊されてしまう。
貫通力は確実に落ちるがこの程度、銅という事は無いのである。
「クソッ!デカブツだ、やってくれ!」
空のニースを捨て、背中の対装甲粉砕剣ヴェランダルを手に迫るジェネラルだが、入れ替わるようにしてRPGが直撃。
力なく倒れた。
敵を阻む大きな壁がなくなったため、Soyuzスタッフは水桶の底に穴が開いたようにプラントへ突き進む。
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プラント内部はこれまでの帝国では見たことがない設備が並び、スチームパンクの世界やそれを模したテーマパークと言われても違和感がない。
蒸気を排熱する塔や入り組んだ真鍮パイプに魔力を使っているのだろうか。
不気味に光る得体の知れない設備たち。
天井を見上げれば大きな籠めいた2号機が大きくなっていく。
まるで怪獣王にでも出会ったかのようだ。
三人は何とも言えない気持ち悪さを抱きながら突き進む。
前をグルードが。
左右は隠れた兵を探るため、赤外線暗視装置を付けたパルメドとガンテルが目を見張っている。
二人にしてみれば隙間や物陰が多い工場は闇討ちをするのにはうってつけの場所。
———BLATATATA!!!——
時折銃撃を加えているのはPALが敵を見つけて排除した証。
まとめて爆死しないのはこの二人が正確に敵を排除しながら進んでいるからに他ならない。
そんな刹那、ガンテルがどこからともなく向けられる殺気を感じ、ガローバンの矢を取り出した時だった。
突如何の変哲もない物陰から、実体化しかけたアーマーナイトが現れたのである!
分厚い装甲が体温を遮断してしまったのか、この際どうでも良い。
手には盾とソルジャーキラー。
受ければボディーアーマーをまるでコピー用紙のように貫かれて確実に即死するだろう。
足音を察知したパルメドがAKに取り付けられたGP30グレネードランチャーの引き金を引こうとするが、身体が咄嗟に拒んだ。
【この距離で撃てば自分達も巻き込まれるかもしれない】
爆発物の恐ろしさは敵だけではなく、下手を撃てば自分たちにも及ぶことを忘れてはならない。
グルードがありったけの弾を撃ち込んで動きを鈍らせるが気休めにもならず、まずは一番近いパルメドにその槍を向け、絶体絶命かと思われたその時。
———BANNMM!!!!———
アーマーナイトの視界を確保するスリットに一本の矢が突き刺さって倒れる。
「おおこわ、案外やろうと思えば行けるモンだねェ。」
紛れもなくガンテルだ。
装甲が薄い脇腹を狙えばいくらでもスキはあっただろうが、これだけでは仕留めきれないだろう。
死にかけの兵程恐ろしいことは身に染みていた。故にギリギリまで引き付け、一撃で脳天を貫いたのである!
「流石にダメかと思ったな」
PALは息を荒げながらライフルを構え直す。
「この俺一押しの店に来てもらうまでお前にくたばってもらっちゃァ困る」
命の恩人は心底ふてぶてしく振舞うが、グルードがくぎを刺す。
「お前もだこの野郎。テメェをアフリカに連れて帰るまで死んでも地獄から引っ張り上げてやるさ」
「そんなの知らねぇぞ!」
気を取り直した彼らはプラントを進む。
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□
工場を突き進むにつれ、精錬施設のようなものから一転、倉庫のような建物が多く見られるようになってきた。
———KA-BoooOOOMMM!!!!———
【なんだ!?】
地面を揺るがす大爆発と崩れ落ちる足場。
何も情報がないため、本当に何が起きているか誰も把握することができず無線口は混乱を隠せない。
【こちらLONGPAT、状況を報告せよ】
少しでも状況を知るため冴島は確認を取ろうとする。
【対象で爆発、一部足場が崩落しているようです】
【LONGPAT了解、十分注意を払い作戦を続行せよ】
部隊長曰く足場の内部、つまりベストレオの脚部が突如爆破されたのだろう。
目立つ損害は見られない今、注意しながら進むよう命令を下した。
だが帝国とて絶好の合図を利用しない手はない。
【了解。——何、倉庫の扉が開き——】
突然固く閉じられていた倉庫の扉がせり上がった事は伝わったが、銃撃に全てかき消される。
一体彼らの身に何が起こったのだろうか。
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魔力の力で勢いよくせりあがる資材搬入口。薄暗い中飛び出してきたのは装甲を貫く大槍を手にした竜騎兵だった!
「こんな話聞いてねぇぞ!」
グルードが咄嗟にライフルで応戦するも、相手は低空とはいえ速度は100キロに達しており、さながらスポーツカーを撃てと言われているようなものである。
誘導ミサイルや対空機関砲を持たないSoyuzスタッフにとってこれほど相性の悪い敵は今だかつて遭遇したことはない。
「俺に近づくなクソッタレェ!野郎はお断りなんだよ!テメェら逃げるぞ!」
勇敢に立ち向かうと思われたガンテルは、あろうことかドラゴンナイトを見るなり一目散に逃走し始めたではないか。
「馬鹿野郎、俺達のこと見捨てんのかよ!」
余りに情けない様を見たグルードはヤツに怒鳴りつける。
元々どうしようもない男なのは知っていたが、味方なぞ知らぬと言って逃げる程だとは思わなかった。
「うるせぇ、このままじゃ勝てる訳ねぇんだ!逃げろ!」
流石にこの男もそこまでは落ちぶれてはいない。
普通の槍でさえも馬を超える圧倒的速さで距離を詰めてくると言うのに、即死のソルジャーキラーを持っていると来た。
自動火器があるとは言え勝てる相手とはとても言い難いだろう。
飛び出してきた竜騎士は一旦旋回すると、次はビームのような炎を吐きながらパルメドに襲い掛かる。
「グルード、コイツの言ってることは間違っちゃいないようだ。逃げるぞ」
ゴジラの放射熱線のように迫る炎を間一髪で躱しながら3人は逃避行を始めていた。
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このように飛びながら出撃できたのならばまだ良い方で、他の騎士は滑空していることが多い。
————BLATATATA!!!
銃撃の先から竜騎兵が突撃してくる。
そのほとんどが銃撃によって対処されるかと思いきや、馬にのった騎兵とは全く事情が異なっていた。
何発か銃撃を浴びせた程度では倒れることなく、また騎手も攻撃を受けないよう竜そのものを盾にしながら襲い掛かっていたからである!
装甲兵器は種類にもよるが爆発炎上させることは比較的容易だが、生物では話が違うし装甲車でさえも貫く大槍を持っているのだから手に負えない。
侵入してくる突入部隊に二手に分かれ、片方は火を噴きながら注意を引き付け、もう一方は歩兵を叩いていた。
「сука——!」
ロシア人スタッフは火のブレスを受けて後ずさりしながら襲撃されている方に気を配る。
敵がこちらの分断を図っているのは周知の事実。
救援に行こうと思うが、この状況がそうさせてはくれない。
竜騎兵が時間を稼いでいる間、自爆の準備は着々と進められていた…
次回Chapter197は6月17日10時からの公開となります。
・登場兵器
BMD-4
空挺戦車。100mm低圧砲と同軸で30mm機関砲を備えており、入り組んだ場所には無類の強さを発揮するが、敵影に気を付けなければたちまち撃破されてしまう。
焼き焦げた先軍915
T-62をベースに新規開発された北朝鮮製の主力戦車。
度重なる火柱を立てる強力な魔導「ゲグルネイン」を受け、真っ黒こげにされてしまった。
・ドラゴンナイト(1/2)
異次元にしか生息しないワイバーン型ドラゴン「飛竜」に乗った騎士。
300km/h近くで飛行し、偵察や空中戦闘などの航空戦力として活躍する。




