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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅳ-3. 閉鎖都市【■■■■■】編
220/327

Chapter194. Hollow Earth

タイトル【地底の天球】

——閉鎖都市【■■■■】

 最終隔壁



工場と外を隔てる最終防壁にたどり着いた戦車部隊だったが、彼らに立ちふさがったのは侵入者を阻む最後の関門。


隔壁だった。


今までのように戦車砲ごときではびくともせず、ここまで来てあと一歩踏み出すことができなかった。



いくら砲を撃ち込んだとて、まるで効果がない。

これ以上は弾薬の無駄だと判断した冴島は無線機を取り、ある場所に連絡を取った。



【LONGPATからBIG BROTHER。搬入通路、制圧完了。現在防壁に阻まれ侵入不能。建設機械師団派遣を要請する】



戦車はあくまでも戦いに特化した車両であり、岩盤のような壁に穴をあけるようには出来ていない。



ならば穴をあけることに特化したプロ集団を送り込めばいい、それが彼ら建設機械師団だ。



【BIG BROTHER了解。時間はかかるぞ】



【了解】



中将とて工場制圧に時間をかけてはならない事くらい承知の上だろう。だが冴島は焦ることはない。

焦りたい気持ちはないと言えば嘘になるが、個人でどうにか出来る問題ではない以上


この時間は「与えられた」と思うべきだろう。



戦車内でため息をつきながらそっと瞳を閉じ、脳のリソースを全て思考に割いた。



恐らく扉の向こうでは敵が首を洗って待っている。


それよりも2号機がどこに存在するのか、最悪起動または自爆される事すら視野に入れなくてはならない。


ただ考えを連ねていても答えはやらねば出て来ないが、白紙よりはマシ。

大佐が考える一方、建設機械師団が到着するのをただ待ち続けるしかなかった。













—————————————————











——ウイゴン暦8月29日 既定現実9月4日

午後6時




要請からはや6時間、ようやくトンネル発破用の爆薬を持ってきた建設機械師団が到着。

この分厚い隔壁を吹き飛ばすべく準備が行われていた。



「こりゃ戦車どころか並みの工兵じゃダメだ。コイツはもはや岩盤か何かだと思った方が良い」



試算を終えた大林は冴島にこう報告する。

壁程度であれば軽い爆薬を仕掛けて吹き飛ばすかそのまま戦車砲で崩しても良い話。



この隔壁は明らかに対爆性能も考えた造りであり、強度はポポルタ線城壁に匹敵するという。


戦車砲でびくともしなかったのは当然だと言えよう。



一旦準備を終えると冴島の部隊は安全のため後退。



ついに発破が行われることになった。


爆薬を仕込むための穴は砲弾によって開けられており、ドリルを使うまでもなく事が進められる。



隊は兵員を搭乗させた状態で突撃に備えている。大林はその遙か後ろ、ほとんど出口に近い場所で待機していた。



改めて再度安全確認を終えた後、運命のボタンを押す。



「爆破」



——BAANM!!BANNMM!!!!——



仕掛けられた爆弾が連鎖的に炸裂し分厚い岩盤に確かなヒビが蝕んでいくと、それぞれが繋がって鈍重な隔壁の結束を失わせ崩落を起こした。


この間たった1秒にも満たず、起爆にはコンマの遅延もないプロの仕事に他ならないだろう。



【LONGPATから各車、進軍開始】



煙が晴れない中、再び光筋からの流星群の洗礼が戦車隊を待っていた。












——————————————











———GRAAASH!!!!





隕石が横殴りの雨となって戦車部隊に襲い掛かる。

当然避ける猶予もつもりもなく正面装甲に着弾し続けた。



軽戦車を屠るような一撃でも相手は主力戦車。衝撃を幾度も受けながら突撃を止めようとはしなかった。

RPGにも劣る攻撃など屁でもないのである。



そんな中の一両。


ボゥールの指揮する牙城、先軍915もその荒波に逆らい砲撃を続けながら進軍していた。

ある時、車外に何かが投げ出されるような音が耳に入る。



落雷に流れ星と凄まじい猛攻に晒され続けた結果、連装擲弾銃が限界を超えて放り出されたのである。


思えば近くにあった2つ対戦車ミサイルも一つは潰れてしまい、擲弾銃は先ほど転げ落ちた。



いかに戦車が無敵だとしても周りの装備は無事であるとは限らない。これが敵の狙いだったのかもしれない。


露出した機銃などをボロボロにしながら隔壁の向こう側へと抜けると、思わず曹長は目を疑った。



「——なんだよコレは……!」



そこに広がっていたのは正にスチームパンクにでも出てきそうな世界。

空はまるで常に夕方のように赤みかかり天井があることをつい忘れてしまう。


ふと周りに目を向ければ、街のようなものが形成されているではないか。

此処は地中で光が一切届かない暗黒が支配する世界であるにも関わらず。


彼の頭は矛盾する光景に理解を拒もうとする。



不条理を前に固まってしまいそうな頭を動かし伏兵がいないか目を凝らすが、蒸気を吐き出す工場のような設備が立ち並ぶだけで人影がまるで見えない。


光学迷彩兵を導入していることから納得がいく。



——閉鎖都市【ニョルニム】

隔壁付近



閉鎖都市ニョルニムは究極兵器を建造するためだけに作られた場所である。

作業人が営み、その一生を終えることもあるという。



どんな名前を貰おうと、性能がいかほど物体であろうと帝国が手掛ける以上、必ず人間を使うために街やインフラが整備されている。



一つの地下水脈に対し上流と天井から染み出てくる雨水を上水に。

取水するのと同じ水脈のうち、海に向かって流れる下流は下水に。



このように完備されている辺り、人民から搾り取った重税がここに投じられているのは言うまでもない。


そのおかげで石の迷路を生み出していた。



【LONGPATから各車。6手に分かれ2号機捜索に当たれ】



大佐から指示が飛び、戦車たちは3両1チームになり市街地に侵入していった。









———————————














——閉鎖都市ニョムニル

????






敵の侵入を察知したことにより、街中に配置した兵が動き出す。

この地下市街に入るためには搬入口しかない。故に入ってくる事は予想がついていた。



故に入り口と中ほどにある自動防衛機構で敵の兵力を可能な限り割き、消耗しきった所を隠れた歩兵や騎兵で追い詰める。



視界の狭い戦車にとってこれほどまでに辛い戦いはないだろう。



「ドラゴンナイトはいかがなさいましょう」



「歩兵が出てきたらだ」



ラゾールによって既に兵は配置済み。残る判断と言えば竜騎兵の出撃タイミングだろうか。

だが彼は出撃を渋った。



今出せば叩き落される可能性が高いのである。

増援が呼べないこの環境で精鋭を失う訳にはいかない。


しかるべき場所に投下しなければならないのだ。



対車両にはめっぽう弱いが、歩兵に対しては無類の強さを誇る。

そんな特性を持つドラゴンナイトがどこに差し向けられるのは言うまでもないだろう。


ラゾールは続ける。



「それに此処にいる兵は皆、雑兵ではない。私から貴公、前線で戦う彼らまで一つだ。するべきこと、やるべきことは全てやってくれるだろう」



「することは一つ。主砲充填を可能な限り、進めることだけだ」



この閉鎖都市を守る兵士は一人一人が精鋭。言うまでもないが各々が何をするか理解した上で動くはずだと思っていた。


楽観的でもない、純粋な兵への信頼である。



実際その通り、戦車部隊を待ち受けていたのは、今まで虐殺されてきた装甲がない帝国歩兵の逆襲だった。













—————————————————












———VooooOOOOMM……——



ボゥール曹長の先軍915とT-55のチームはエンジンを轟かせながら市街地を練り歩く。

住民は全て退避したのか、周りを見れば誰もおらず、もぬけの殻。



石造りで出来た頑丈な建物は工業街ゲンツーを彷彿とさせるが、こんなゴーストタウンはゲリラにとって絶好の隠れ蓑である。



そんな最中、物陰にいるソーサラーの一人は同僚の勇者に作戦の内容を知らせていた。



「合図の後、俺が見えなくしてやるがグズグズしてると姿が出てくる。あと自分の姿を見失うなよ」



「んなヘマやらかす訳ねぇだろ」



戦車が近づいていることは例え壁越しであっても進軍の時立てる異臭と音ですぐにわかる。前にいるソルジャーがダールを撃ち込んだのが合図となって勇者の姿が消えた。



——BPHooOOOMMM!!!——ZDaaaaAAAASHHH!!!!



「来たぞ、行けっ」



「了解……!」



恐らく反撃を喰らって伝令役の兵は木っ端みじんになっただろう。戦場においては榮譽のある死など無縁、兵士になったからには文句は言えない。



勇者は不可視のまま高く跳躍し、窓枠に乗るとパルクールめいて戦車に距離を詰める。

透明になっても異端は察知してくるだろうが、戦車の視界は狭いことに変わりはない。



窓から飛び降りて地面に着地、車両の背後を取った。やはり視界は良くない上に前方にしか気が付けないのは本当の事らしい。随伴歩兵がいない戦車が脆弱なのは正にこのこと。



すかさず先ほど戦友を砲撃したT-55の車体を登る。濛々と出てくる白煙に少し怯んだが問題はない。



そして迷いなく砲塔上面、車長用ハッチに手をかけた。硬い殻を紐解けば柔らかい中身が入っている。


たかだかド素人と変わらない連中を切り刻むのは容易と思われた。



ハッチを下から持ち上げようとするが魔具をもってしてもビクともしないのである。

少しは持ち上がるがそれっきりで、身をまるで見せようとしない。



「クソッ…しまった時間切れか、ここまでだな」



この出入口一つに手間取っている間、次第に自分の体が白昼の下に晒されようとしているではないか。



死を悟った瞬間、不可思議なことが起こった。

今まで彼が掴んでいた所とは異なる場所、砲手用ハッチが開き始めたのである。


不審に思った無防備な兵が出てきたのか。


幸運も束の間。そこにいたのはAK-102を構えた車長だった。



——BLATATATA!!!———



鉛弾の餌食になった勇者は蜂の巣にされ戦車の外へと転げる。



【こちらHeavy02。排除完了】



砲塔上から不審な足音を耳にしたT-55車長が敵を退けたことを報告した。



【了解】


仮にもリーダーとなった曹長は気を引き締めながら戦車を進める……

















———————————————











地中という特殊な環境のためSoyuzは閉鎖都市の偵察を満足に行うことが出来ない。

そのため情報は先行させている戦車部隊が挙げる報告が全て。



また背後には自動車部隊が控えているものの、ニースやダールで貫通されてしまうような軽装甲車両は投下することはできない。




戦いの要である情報と地の利が完全に封じられた今、Soyuzが迎えるのはどうあがいても苦戦することは見えていた。



その前線にいるボゥールは赤外線暗視装置越しで目を見張り、時折機銃掃射で排除し続ける。

時に敵を吹き飛ばしながら進むが、その行先は誰も知らない。



【こちらheavy07。積乱雲と書かれた看板を発見。図は…剣が北方向を示しています】



【LONGPAT了解】



無線で看板などの情報が入ってくるものの、全てが関係ない単語ばかりで二号機がどこにあるかの情報は掴めないでいた。



この報告はあくまで一例に過ぎず、落雷やアドメントと言った自然現象や魔導に関する単語ばかりである。



それに方位を示す図は剣や馬と言ったようにバラバラで一貫性が無い。



ただ悪戯にこの工場を彷徨うだけなのだろうか。

冴島は糸口を探すべく、与えられた情報を今一度考え治す。



雷雲や積乱雲。落雷に雷を呼び出す魔法アドメント。脈略のない言葉の羅列に見えるが

()()()()()()()()()()()()」を指している。


つまり二号機が電気に関する事象をコードネームにしている可能性が高いのではないか。




それともう一つ、送信された画像を見比べてみてみるとそれぞれが違うように見えてある共通点があった。

全て北東を指しているのだ。


つまりあの図はあくまでも工場のある方角を指しているに違いないだろう。



糸口は確実につかんだがどうも動かぬ証拠がつかめない。

北東方面に兵が多く配置されてあれば大当たり、そこに禁則兵器の工場があるのは明らか。



【LONGPATから各車。北東に向け進軍せよ】



謎があれば紐解くだけだ。

戦車隊は進み続ける……




次回Chapter195は6月3日10時からの公開となります


・登場施設


・閉鎖都市

現実世界では核兵器といった国家機密級の兵器を開発するため、外界から隔離され情報どころか存在そのものが秘匿されている区域。有名なのが「星の街」だろう。

発見されないよう、地下を掘削し地底世界のように建造されていたようだ。



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