Chapter 19.Repot of capture object
タイトル【鹵獲品報告書】
中将の命じた防火施工工事、そして屋内型600kL軽油タンクの建造の合間を縫ってある命令が下された。回収部隊を率いて敵兵装備を鹵獲し、解析を行うことである。
戦車長ダルシムの報告から機関銃を無効化する歩兵という、今まで存在しなかった概念と遭遇してしまった以上。
元帝国兵の中でも協力的であるガンテルの証言と実証実験を行うことが決定された。
ガンテルの尋問自体は事務室にて親交のあるマディソンが担当することとなる。
プレハブ小屋の薄い扉が開くとずんぐりむっくりとした男が大弓を背負って入ってきた。
それこそが上司を殺すためだけに寝返った男、シュムローニ・ガンテルである。
マディソンは座っている事務椅子を回して彼と対面すると、レバーを上げて座高を下ろしてから口を開いた。
「休みに呼びつけて悪いな、俺の勝手な権限でお前の元上官を殴れる回数を増やしてやる」
死んだ目を向けながら彼にそう告げる。
休みの日や休憩場所を奪われることは自分自身一番苦痛であることを理解しているし、第一自身の寮室は当分捕虜収容室と化している。
その上にしばらく年頃の殿下と部屋を共にしているため窮屈さも理解できる。
そのためマディソンはよくくだらない雑談相手になっていたのである。
「よしいいだろう。これまで俺があのアマを殴れる回数は4回になった、清々しいぜ。で、何の用だ。わざわざこんなとこで酒盛りするってわけじゃあねぇよな」
マディソンの言葉に機嫌を良くした彼はどこか照れ臭そうに頭を掻き、マディソンの近くにあった椅子に腰かけた。
「何、お前のいた軍についてちょっーっとな。ああ、少しでいい。その、装備品とかを少しばかり洗いざらい話してもらいたいって訳だ」
ガンテルが腰かけた椅子めがけてキャスターを滑らせて彼の表情がわかる距離までに来ると
「お前らが驚くモンと言えばアーマーナイトってことくらいわかってる。まぁいいさ、頼りになる連中ってことを話してやるさ。どうせぶち殺しただろうがどんな野郎くらい知りたいと思ってな。」
あろうことか彼は不敵な表情を取っていたのである。自分の部隊をめちゃくちゃにされたのにも関わらず清々しさすら感じる様であった。まるで破滅を望むかのように。
「なんだよ気味わりぃなぁ。まぁいいや話してくれ」
どこか狂気を感じる反応に少しばかりマディソンは気味悪く思い、椅子を少し引くとガンテルは語り始めた。
「アーマーナイトってのは魔導士や俺らアーチャーとかの盾になるために酷く重い鎧をつけてる。俺が付けてるような魔具をつけて力添えをしなきゃ動けやしねぇんだ。
当然それに見合う固さってのは持ち合わせているってもんよ。並みの弓とかおたくらが持ってる連発銃なんて到底効きやしねぇ。」
「だから弱点を突くために俺が持ってるこのバカでかい弓ガロ―バンが必要なわけだ。
そこらへんの鉄の弓と何もかもが違う、矢が弾かれちまうようなナイトやパラディンの鎧すらいくら離れていようがぶち抜くことくらい余裕よ」
「よくぶち抜けるってことはよく飛ぶから普通の弓じゃあ届かない距離にいるヤツを殺せる。
ただアーマーの場合は脇腹とかがどうしても薄くできてっから上手いように抜かねぇといけねぇ。
……そこがまぁ難しいんだ。そんで、なんか聞きたいことあるかい」
彼が口を開けば嫌に生々しいような話が飛び出してきたのである。
コイツの話が正しければ重装兵は、自分の知る限りの装甲よりも明らかに分厚いことを意味していた。
それを機械パワーアシスト技術がないであろうこの次元では魔法があることでまかり通っているのだ。
信じられない顔をしながらマディソンは紙切れを取ると聞いたことをボールペンで記した。その顔を見たガンテルはというと嫌味を垂らしたような顔をしながらこう続ける。
「驚いたか。俺の弓だってまともなヤツには扱える代物じゃあねぇさ。こんな弦が二つもあって化け物みたいな弓を引くために俺のガントレットってのがある。力をいい感じに込めながら握ると魔法での力が上乗せされてこんな感じに光る」
「一度見てみたかったんだよな、余裕ブッこいてるやつが信じられねぇって顔。おたくらの連発銃ってのも良く分かんねぇがお前らもわかんねぇモノもあるらしいな。いい顔頂いたぜ」
彼は話片手でSoyuz装備の上に着けられた何の変哲もない赤い籠手を握りこむと、その周りが行灯をつけたように光りはじめた。
マディソンは口を開けたままそのことも記していた。
その様子を面白がってマディソンの仕事を増やすべく笑いながら口はとどまることを知らない。
「HAHAHA、いいぜ気分がいいから話してやろう。下っ端の兵士が魔具を壊しちまうと相当怒られる。アーマーナイトみてぇなのは仕方ねぇとしてこいつが与えられるのはソルジャーの中でも優秀なヤツを集めた勇者とか、俺らみたいな精鋭アーチャーが訓練を受けてこの弓と一緒に渡される」
「形は違えど言っちまえばこいつらは兵職の誇りってもんよ」
「当然選ばれたやつにしかもらえねぇんだから。あ、そうそう。ハリソンで一回バカみたいな値段で売られてたのを見たことがある。多分売ればそんなもんさ。
んまぁ、俺はガントレットだけどアーマーと勇者はブーツっていうのが支給されるんだ」
「どうも速さを増すらしいが俺の知ったことじゃあねぇ、あんたらの意味わかんねぇ銃とか馬なしの車とか訳の分からん声を届ける何かとか書いた内容をいくらでも増やせる意味わかんねぇ箱とか…数えりゃキリがねぇが全部一緒だ、使いこなせりゃいい」
「一から作るわけじゃねぇんだからよ。どうだ、これでマリオネスを殴れる回数を増やす気になったか?」
機関銃すら知らないヤツがガトリング砲のように情報を吐き出してきたのである。
マディソンはどこか嫌な顔をしながら情報をある程度書きながら嫌味を吐き出した。
「この野郎いらねぇことだけど書かねぇといけねぇばっか言いやがって、こんなんじゃ殴る権利を一回プラスしねぇといけねぇじゃねぇかよクソッ」
「いいだろう、へへ、5回でヤツを仕留めるにゃ苦労するぜ…ぶち殺してやるからなあの野郎…」
踏ん反りかえりながら気味悪い顔をし続けるガンテルに一泡吹かせるべくストレスの絶えない内勤マディソンは彼が言った情報を書き留めながら思い付きを口走る。
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「お前がそこまで嫌うマリオネスについて教えてほしいんだけど。」
「恨み言とありったけの悪口と嫌味しか出てこねぇがそれでもいいならいくらでも言ってやるよ」
神妙な空気が小さな会議室に流れていったのである。
くだらない会話の中でもすさまじい情報量がある以上、この内容が実験に生かされたのは言うまでもなかった。
そうした証言を基にして今まさに少佐主導の実験が行われていた。実験を取り仕切る管轄がSoyuzとあり暴走列車にいつでも変わる恐怖の学者集団は呼ばれる事もなく、重装兵の死体から得られた装甲部の測定が行われていたのである。
主に重点が置かれたのは機銃をはじき返す常軌を逸脱した重装兵が集中的に行われることになっていた。
鎧自体が狂ったように重く、搬入にはユニックがついた2tトラックで運ぶ始末となっていた。
薄々狂気のような重さは察しが付いていたが、いざ本格的な計測を行うと次々に明るみになっていく。
あまりに重いためトラックごと車両用の重量計を使用して測ると、胸部の装甲だけで300kg近くもあるのである。
いかに重い鎧武者でも60キロだったことを考量するとその重さは異常そのものであった。
そして装甲板の厚みを測定すると、あるスタッフが断面をノギスで測っていると思わず声を上げた。
「少佐、前面部の装甲は25mmもあります。どうりで小銃をはじき返すわけですよ、並大抵の装甲車が歩いているのと大差ない。おおむね捕虜の証言と合致するでしょう、こんな分厚い鋼鉄を着て歩けるなんてどんなに鍛えている人間でも無理です」
「これが歩いていたなんて何かの冗談か、メガゾードと見間違えたんでしょう。そうとしか思えません」
そのスタッフの言葉を耳にした冴島は鎧の置かれた荷台まで登ると、狂気の沙汰とも思える装甲を垣間見て目を細めた。
「俺はこの目で歩いてくる姿を見た。メガゾードが何かは知らんが、まさかBMPまがいの装甲を着て歩いていたとはな。恐ろしい連中だ」
この事実に一番驚いていたのは少佐自身であった。確かに倒せる相手ではあるが一人の歩兵に対するコストがあまりに高い割に敵側の損失が一人の敵兵であるからだ。
アンブッシュしたアーチャーなどは制圧射撃で薙ぎ払うことが可能だが、自動小銃を携行する兵士では槍が届く範囲まで接近され間違いなく殺傷されるだろう。
それに重装兵が盾となれば魔導士や歩兵が近づいてくるに違いないことや、あくまでこれらが人間サイズであることから屋内の伏兵として現れた場合が一番厄介だと少佐は感じていた。
スタッフはその様子をつゆ知らずに言葉を続ける。
「ええ、一番損壊が激しいのは頭だったんですがね、胸元にも穴が開いているでしょう。多分ZPUとかでぶち抜いたんでしょうな。死体に原型があったと聞いて私どもも戦慄しましたからね」
少佐が思い悩む姿を見せてもスタッフは淡々と事実を突き付けるだけであった。
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続いて耐久実験が実施される運びになった。
銃弾を弾いたのはあくまでも偶然が重なった結果という域を出ないからである。
念のため人間が着用するものの、為ユニックで釣り上げた上で横浜本部基地にあったマネキンをわざわざ探し出し、装着させるも当然足が無残に崩れ落ちてしまった。
崩壊を免れた上半身だけをコンクリート塀を積み重ねた台座に設置してから耐久試験が行われることとなった。
標的にするにあたっては、最初は自動小銃の1マガジン分の銃弾を浴びせる段階から始められ、がっちりと固定された鎧に向けて武装したスタッフが的から100mの距離を取る。
少佐が見守る中、M4ライフルを持ったスタッフが一斉に鎧に照準を向け指示を待つ。
「ファイア」
——ZLATATA!!——
鶴の一声と共に一斉に乾いた銃声が拠点に反響した。肝心の標的は砂煙こそ舞い上がったが煙幕が晴れるとそこには恐ろしい光景が広がっていた。
標的用に塗った白と黒のチェッカー塗装こそはがれていたが、装甲板には穴や傷一つ付いていない。
装甲の厚さからして結果はわかりきっていたものの、こんなものをライフル一つで相手にするとなるとスタッフには不安が立ち込めていた。
次の実験においては同距離においてストライカー装甲車の積載するM2重機関銃100発撃ち込むこととなった。
ガンナーは都合よくアイスを食べていたアドルフを拉致して行う羽目に。
偶然にも冴島の目にさぞうまそうに食べているのがいけなかった。
――BLATATATA!――QWAM!! QWAM!!
ライフルとは異なる重苦しい機関銃の音と共に激しい金属音が響き、あらぬ方向に弾丸が飛び交い着弾していく。
一発でも被弾すれば人間は無残な形を取って死ぬような恐怖の弾幕を浴びせに浴びせた結果、正面装甲すら貫通することは叶わなかった。
スタッフと少佐の間に不安と焦りが立ち込め始めた。
ブローニングM2さえあればテロリストの乗る爆弾自動車を用意に蹴散らせる。
それに関わらず、この鎧は貫通しなかった。
絶望に似た空気が支配しはじめた。
続いてM2を超える装甲貫通能力を持つKPV重機関銃を備えるBTR80で実験が行われることに。
ガンナーは少佐が務めることとなり、再び照準がアーマーへと向けられる。
―――ZLALALA!!!!―――
小型の砲門を連射するような規格外に重厚な爆音と共に標的はあっという間に砂煙に巻かれた。時折鋭い金属音が反響しており、明らかに違う様相を見せていた。
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BTR80の砲門から真っ白な硝煙を吐きだし始めると、確認作業が行われた。当然の成り行きである。
度重なる機関銃の攻撃を受けコンクリートブロックは砕け散っていたが、鎧は無数の貫通跡を残して付近に転げていた。
驚くことに装甲は貫かれていたものの原形をとどめているではないか。
仮にも対戦車ライフルと同等の弾丸でこの様である。
「…oh shit!」
銃火薬の焼けたような匂いと車載のKPVの周りには陽炎が渦巻く中、スタッフの悪態が静寂に木霊していった。その後スタッフが確認を行ったところ、着弾したものが貫通して居たことが確認された。
そんな中でも実験は続く。
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これを相手にするのはもちろん歩兵。
そこで人間が携行することのできる装備にて耐久試験が執り行われる事になった。
自動小銃のハンドガード下に装着することができる単発グレネードランチャー M203を装着し、50mの距離で撃つ。
機関砲でズタズタになった鎧はついに交換され再び標的用に塗装がなされたものが用いられることに。
スタッフが一斉に銃身を前にスライドさせてから多目的榴弾を装填し、一斉に標的へ向けられた。
グレネード弾と名前は記されているが、実態は成型火薬を用いたHEAT弾である。
その貫通力は50mmとあり、軽い装甲車両程度であれば貫通することは可能。
現時点で自動小銃を持つSoyuzスタッフが重装兵に対抗できる装備かどうかが決まる瞬間が訪れようとしていた。
「ファイア」
――PNAG!――
少佐が声を張り上げると同時にグレネードランチャーの太い銃身から閃光が飛び出した。
飛翔した榴弾は着弾するなり爆発音が響き渡った。
砂煙が晴れると、スタッフが貫通の確認に向かう。Soyuzスタッフが果たして重装甲で身を包む兵士に対抗できるかどうか、緊張の一瞬だ。
「装甲貫通!」
スタッフはキリで開けたような穴を確認すると声を上げる。
グレネード弾から生じたメタルジェットは装甲板を見事に貫通していた。
Soyuzの持つ小銃でも対抗しうるということの証明だった。
この実験結果はすぐさま紙面にまとめられ、最高責任者権能中将に提出された。
装甲車や第二次大戦の戦車に匹敵する装甲を身に舞う兵士、そんな常軌を逸した存在の対抗策の必要性は報告書にあるデータが物語っていた。
実験結果の報告書にあらかた目を通した権能は指令室に冴島を呼びつける。
「少佐、ジャルニエの城に侵攻するためには準備が必要だ。俺の権限で物資は補給できるとは言え時間はかかるだろう。少佐はハリソンの防衛に専念するように。帝国にとって我々の地盤を構築されては不利になることは目に見えている」
「最善を尽くすがどこで知られているか知れたものではない。お前も良く知っていることだろうが念を入れるに越したことはないからな」
戦艦めいた図体から冴島に向かってそう言いつけた。
序盤の根元となるハリソン城塞は国家を相手取る以上、敵味方互いに重要となる。
土台となるものが崩されては最悪Soyuzの撤退につながりかねない。連勝からくる油断を戒めるべく呼びつけたのだろう。
「了解。こちらとしてもハリソンの近代化を急がせ、敵襲に関しては最大の注意を払います」
中将からハリソンの指揮官だけではなく、Soyuzの損得すら少佐に託された。
その意をくみ取った冴島は背筋を張り、刀のように鋭い敬礼を行うのだった……
次回Chapter20は7月3日10時からの公開になります




