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Chapter191. Ocean

タイトル【海へ】

夏と言えば海と山で揉めるものだが、海原率いるメンバーはもれなく海。


ペノン県ヴェノマスの調査に赴くことになった。



勿論調査も重要だ。


海原自身、休暇の日もずっとハリソンやらの平原に居るのも気分が塞ぎこんでしまう事もあるだろう。


そう考え修学旅行のような日程を組んでヴェノマスに向かうこととなったのである。



決して羽目を外して遊びたいとか、ギンジバリス市が港湾でありウォータースポーツが出来ないからと言った理由ではない。



どんな職業においても福利厚生は重要だ。












—————————————












旅団保有のハイエース内では、冷房を利かせながら光り輝く海への願望と海水浴用の設備を一杯に詰め込んで平原を走る。



舗装されていないため乗り心地は最悪だが、レジャーが出来ると言って海原とチーフ以下のメンバーは全員酒が回っているかのように騒いでいた。



「全く困った連中だ。学生気分じゃあるまいし」


海原はため息をつきながらハンドルを握る。



騒ぐ事は嫌いではないが、節度というものがあるだろう。それをいい年を向けて小学生の様に声を上げていてはメンツに関る。



「これは仕事だ、あくまで仕事だ。うん。——あとで文字通り雷を落してやらないといけないようだ」



奇しくもガリーも同じ意見のようだが、どうも違うものが渦巻いているようだ。



彼女の体格についてあれこれ言うのは誹謗中傷につながるためとやかく言わないが、コンプレックスの一つを思い切りさらけ出すのだから乗り気ではない気持ちは分かる。



「せめて火にしてほしい、海に放り込めば燃え広がってもなんとかなるだろう。

ところで…海水浴の文化はあるのか聞きたいんだが…」



話をなんとか逸らすべく、海原は文化的な観点から探ろうとする。



「それ、山育ちの私に聞くのか?まぁ…あまりの暑さにうだるときは飛び込んだヤツはそれなりにいたけれ、海にわざわざ入りに行くというのはないな」



ガリー曰く海水浴は未だに存在しない文化らしい。



それ以前に日帰り観光というのは鉄道といった移動手段が発達してから生まれた文化。

実は川崎大師が初詣でにぎわったのも同じ理由だったりする。



帝国では大自然にわざわざ労力を割いて見に行くというのが理解できないのだろうか。



それだけ自然が残っていると考えるとなんだか空しく思えてしまう。



ソ・USEに記載された地図を基に向かっていると、海原はあることを思い出したらしく不意にこんなことを言い出した。



「チーフ。…気は進まないのは分かっているのは承知の上で言う。一応服の下でも水着を仕込んでおくといい」



「どうして?」



あまりの事に彼女は思わず聞き返してしまう。



「はじめからあんなノリだと加熱して、我々を担いで海に放り投げることが十分に考えられる。…私はそれを3回してその度後悔した。」



海原は知っている。


この愚か者たちの暴走した夏休み気分が何度も自分を水浸しにしてきた事を。



前方には不安が、後部座席にはいつ大爆発するか分からない不発弾が詰まっていた。













——————————————







——ヴェノマス沖合



補給を済ませた戦艦尾道は有事に備えてヴェノマスの港に寄港しようとしていた最中である。



「水上レーダーに艦あり。距離30000」



制圧されていたにもかかわらず不審船が浮かんでいるという報告がなされた。これだけ近い距離で映るという事は小型船である可能性が高い。



「小型船か。旗は確認できるか」



艦長 相模大佐は軍艦かどうか見極めるためマストに掲げられた旗を確認するよう指示を飛ばす。

船の上に掲げられる旗は海上での意思表示。



どこの所属かはもとより、戦うのか乗っている人間は誰なのか、何をしたいのかを全て表している。



「ロンドンのマークに髑髏のようなものが描かれています」



不吉なドクロ印。この船に降伏しなければ死が待っていると言っていることになる!



「総員戦闘配置。主砲、威嚇射撃一発。2、300離れた所にぶち込んでやれ」



海賊船にくれてやる慈悲などはないが、いきなり撃沈すればコンプライアンスに関る。

遠方にいる賊船めがけて連装砲はゆっくりと動いて狙いを定めた。














————————————————












——ヴェノマス パレス



一方、破壊の限りを尽くしたヴェノマス・パレスでは、あろうことか捕虜となったアツシがそのまま配置されていた。



Soyuzが管理下になった所まで良かったが、丁寧に人員配置をする時間は残されていないため彼が置かれたのである。


帝国そのものが惑星規模の機密なため、専用の人間を持ってくるのもなかなか骨が折れるのだ。




ただ以前とは違う事も多い。街に関る事はすべて禁止、当然私刑が下ることも勝手な造成などもってのほか。



防衛騎士団への指揮権も失われ、実態は名ばかりで司令部に幽閉されているという形に近い。



また、監視にはラムジャーを許さない市民の会所属の重装兵がパレスの警備と兼任していた。



彼らが選ばれたのは、鎧がアツシの魔導を反射し無効化することで抵抗をさせない事。



更にラムジャーの息が掛かっている事やこの街での恐怖政治についてブリーフィングを済ませており、ロジャーの命令一つで抑えている状況。



当然、市民の会の皆様に侮蔑の一言でも溢そうものなら、魔法を反射されて無効化。

その後、死ぬよりもひどい目に逢うことは確実。



反抗作戦を企てたら一体どういう目に逢うのか常に突きつけることによって、反抗心を削ぐという算段である。



そのためSoyuzスタッフや学術旅団、建設機械師団の安全を確保しつつ拠点にすることを可能とした。



そんな時、ガビジャバンアーマーの一人が慣れない手つきでソ・USEを手に取って連絡を取り出す。



「…えぇ、洋上でアツシの敵対関係者を拿捕した?了解」



心当たりがあるのか、アツシはその重装兵に食って掛かる。



「おい、どういうことだよ、もしかしてヒュドラなのか!?」



その瞬間、対装甲斧ニグレードの刃とスリット越しの殺意が彼に向けられた。敬語を使わないだけでこの有様。



今にでも殺してやるという確固たる意思表示である。











———————————————









暫くすると、武装したSoyuzスタッフがある一人の少女を連れて来た。



名前をヒュドラといい、ヴェノマス海賊団の棟梁で先代の娘が世襲したとの事。

この船団はロンドンと無関係で、むしろ奴らの船のみを襲う義賊だと知られていた。



あろうことか超大和型戦艦尾道をロンドンの怪しい兵器だと決めつけ接近したところ威嚇射撃を受け投降したという。



「やっちゃったぜ。え、何この…何?なんかアヤシイ船が居るかと思ってケンカ吹っ掛けたらやべーのだったからさ」



「期待の新人ヴェノマス号でも無理もう無理。…まぁ命は取らないっていうし、そういうこと」




御膳に引き出された彼女は焦ることも怯えることもなくこう言ってのけた。これが船乗りの余裕というべきか、酷く楽観的ともとれるが目の前の男よりは修羅場をくぐっているらしい。



「それがどういう事——!?」



アツシが言葉を溢そうとした瞬間、すかさずニグレードの刃が発言を許さないと言わんばかりに立ちふさがる。



「まぁ…命あっての物種じゃない?仕事道具沈められたら飢え死によ飢え死に。お硬すぎるのが悪いトコだって言ったような気がするんだけど。サーム譲りならまぁ仕方ねぇか…」



この余裕が少しでもあればこのヴェノマスの運命は変わったかもしれない。














————————————————









——ヴェノマス近郊 海岸



「俺魚雷喰らえ——ッ!」



ムーランが夏の日差しで狂い、遠方でバカ騒ぎをしていた。



海賊船拿捕の一報は海岸を調査していた海原達にも伝わっていたが、一行は砂浜から出るつもりは毛頭ないらしい。



代表者二人は水着のままパラソル下で優雅な休暇を決め込んでいる。



「どうしたよ、調査に向かわないのか?」



呆れた顔の海原にガリーは問う。



「と思っていたんだがね…。どうも沖合にいるバカでかいのが船を連れてると思ったら、拿捕してきたらしい。それもサルバトーレ級戦艦と同型艦っぽくて。こんなの周知したらますますヤツが来るじゃないか」



そう、拿捕されたヴェノマス号。



実はアツシの申請で帝国より許可得て、部品を購入。独自で組み立て建造されたサルバトーレ級戦艦であることが判明したのだ。


武器と言えば、帆船と言えばヤツがやってくる。



「誰が?」



「阿部だよ、うるさい上に頭が回る嫌な奴で……。調査は彼に押し付けてしまおう。」



「あぁ…」


チーフ本人もそういった苦手なヤツは居た。


天地がひっくり返っても休みに絶対会いたくないような人間が。




そんなこともあって彼の言葉に対し特段言うことはなかった。

そんな人間もおらず、部下たちは呑気なものである。



「水中に酸素をお届けする時間ダァ——ッ!」



そんな時、海辺から恐るべき声が上がり、男たちが上陸してきた。



あの時間がやって来てしまったのである。



「よせ、やめろ、私はダメだ!水がその、ダメだ!今からでも決して遅くはないから、直ちに——」



情け無用、男数人にガリーは担がれてしまうが特殊部隊顔負けの連携で研究員は彼女を海へと拉致していった。



「問答無用、ぶち込め!」



あまりに残虐な一言と共に海に放り投げられ、水柱が上がる!



「しまった、遅かったか…!だがチーフ一人ではないぞ、愚かなる諸君よ、私を担ぎ上げ生贄に捧げるが良い!」



海原が事態に気が付いた時には何もかもが遅かった。本来身投げされるのは自分の役割である。仮にも女性でもある彼女がその洗礼にあってしまった。



これで責任者の顔が務まるはずがない。彼は狂乱する野蛮な海人たちに向け腕を開き、禊を受け入れる!




この祭りを妨げるものはもう誰もいなくなった。

帰って来た狂乱人集団は軽々と海原を胴上げすると、容赦なく海に叩き込んだ!



「私は水死する!」



その言葉と共に、もう一つ水柱が上がる。












—————————————————











「羽目を外したと思っております。この度は大変申し訳なく——」



元凶であるムーランはチーフの前で正座させられ、反省していた。水浸しの筈が何故か乾いている。

加担した研究員をフレイアで一人ずつ、丁寧にあぶったからに他ならない。


普通に焼かれたのだが。



「死ぬかと思ったのはもう人生で4度目だ。貴様ら上官を一体何だと思っている!骨の髄まで細切れにされなかっただけ有情だと思え!」



「ハイ。スイマセンデシタ」



「誠意が足りない!貴様舐めているのか!殺すぞ!」



「すいませんでした!」



妙に気合の入った水着のせいで怒っても怖くないかと思われていたが、忘れてはならないことが一つある。



彼女は軍曹、あのフルメタルジャケットで出てくるハートマン軍曹と階級が同じことを。



怒鳴り声を聞くだけでもそのまま昇天しそうな怒号が容赦なく浴びせられる。

海原はその様を気まずそうに横目を使いつつ、鶴瓶印の麦茶を口にするしかない。



事が一通り済むと、彼女はパラソル下に戻って来た。



「時々私がどういう人間か忘れてないか?」



普段からの奇行やら愚痴やらを聞いていたせいで、どうも軍曹であることを忘れていたとは口が裂けても言えない。



何かの拍子で零れ落ちてしまったら文字通り、切断魔法ファントンで体を八つ裂きにされるだろう。



「……本当に申し訳ない」



彼はただただ謝ることしかできなかったが、チーフの反応は少しばかり違うようだ。



「Haf…たまにはこういうのも良いとは思ってるんだけどなァ……」



カンカン照りの昼下がり、海原チームの祭りは終わらない。



次回Chapter192は5月13日10時からの公開となります。


・登場兵器


サルバトーレ級戦艦 ヴェノマス号


サルバトーレ級戦艦の同型艦。部品を本国に許可を得て購入、組み立てて作られた。

やはりカリブの海賊船のような図体をしているが、戦艦三笠のような前後ろに連装シューターを2基4門配置。

より射程距離の長い戦艦フィリス等と比べるとやはり旧式艦艇なのは否めない。

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