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Chapter189. Soyuz interview

タイトル【尋問】

ヴェノマスを制圧したSoyuzだったが、既にギンジバリス港を占拠していることから街自体には価値が薄い。


それならばゾルターン基地戦のように空爆する手が使えたはずだが、ここにはそれを取らなかった理由がある。



民族浄化兵器 ベストレオ二号機の在り処を知っていそうな人間を生け捕りするためだ。




秘書として動いていたサームは事情を知らないとして、このあまりに特異極まりない人間「アツシ」ならば知っているのではないか。


中将は小さな望みに賭けてみることにした。



どのみち極秘戦略兵器とあって情報がすんなりとは出て来ないと思ったが、どのみち使える手札は彼しかない。



貫通銃創4、一発が太ももに残っているという大怪我。


当然医務室に担ぎ込まれた後に尋問することになったのだが、どうもうまくいきそうになかった。



「クルーニーさん、聞きました?例の尋問の件」



医療スタッフの一人がリーダーである休憩中のクルーニーに話を振る。



「いやぁ?俺はあくまでも医者、作戦がどう進もうが怪我人が出ることに変わりねぇからな。まして他人の噂話は興味がない」



治してはまた送り出し、そして舞い戻ってくる。

軍医というものはある意味整備士と似ているのかもしれない。



故に巷での噂や、作戦がどう進んでいるのかと言ったことにはあまり興がないのだ。



「それならよかった。どうも野郎と口を利かないそうで」



スタッフ曰く、男性職員とは全くコミュニケーションを取らないらしい。


問診をしなくてはならない立場であるクルーニーは聞き捨てならない言葉に目を細める。



「なら天使様のいう事なら聞くと?」



「そのようです」



天使様というのはヘトゥの事である。

実態は看板娘かと思いきや、弱音を吐かせず必ず生かす、看護の神様の方に近いが。



今回もその例が出てしまった。

矢創などの治療経験もあるため、銃弾の摘出と縫合をするとかって出ていたが全力で止めた。


野戦病院なら大助かりなのだがここは設備が整った本部拠点。しかるべき治療を行うべきである。



「ヤツは本当の天使様を知らねぇのさ。何分外見がいいしな。本性知ったら同じように口を閉ざすに決まってる。さて仕事行くとするか……」



のんびりとしているように見える彼だが、戦闘に巻き込まれて本部拠点に輸送されてきたヴェノマス住人の治療が待っている。



真実を知ったヘトゥはどう思うだろうか。













——————————————————















——本部拠点 医務室



権能はわざわざ時間を割いて医務室で治療を受けていたアツシの顔を覗きに来た。

当然見舞いの為ではない、尋問するため。


彼が扉をくぐるとヴェノマスの住民に混じって、節々に包帯を巻いた青年が横になっており痛々しい。



中将が訪れた瞬間、目を反らし何も言う事はないと意思表示するも、このような返しをされることには慣れている。



粗末な椅子を軋ませながら戦艦めいた図体がアツシの目の前に現れた。



その眼差しはひたすらに無機質極まりなく、学校にいる先生や親が叱るような怒りがこもったものや同年代の人間が向けるような蔑んだものでもない。



「率直に聞こう。ペノン県で何か大きな建造物が作られている可能性がある。それについて何か知らないか」



「そんなもの知るか」



「ダース山から産出された鉄がシルベーにある港を経由せず、直接ペノン県宛てに1500tという膨大な量だ。工場と言った施設がないにも関わらず」



「それは武器を——」



あからさまな言い訳を権能は潰しにかかる。



「武器を作るにしては多すぎる。それに武器を作るのであれば我々の偵察網に捕らえられているはずだ。その件に関して詳しい商売人に聞いた所、多くて100tと言っていた」



「その15倍の鉄はどこに消えた」



言い逃れが出来ない事実を突きつけられた以上、アツシは子供のように黙り込んでしまった。


こうなれば殻にこもった亀の様に出て来ないだろう。頓智でも打たない限り。



「そうか、いいだろう。……俺から一つ忠告しておく」



「我々Soyuzが何故、資源の流れを追っている理由は一つ。コレが作られている可能性があるからだ」



そこで中将はある写真を取り出した。



一枚目は航空機から撮影されたもの、二枚目と三枚目は在りし日のシルベー城と主砲によって蒸発してしまった後のモノである。



「全長推定1200m、高さが50mある超大型陸上兵器。我々の現代科学・工学をもってしても建造することが出来ない代物」




「海に進路を向けたお陰でミサイルや戦艦尾道の主砲を何十発と打ち込んでようやく撃破することができた。

仮に……二号機が存在しているとしよう。海ではなく陸に進路を取れば手の施しようがないだろう。そのまま県を跨ぎ本部基地まで迫られたら」



「ファルケンシュタイン帝国は容赦はしてこないことは知っているだろう、そのときは我々は君含め、本部拠点と運命を共にする」



「……どう立ち振る舞いをすべきなのか、じっくり考えてみるのも良い。だが……あまり時間は残されていないことは確かだ」



何もこの戦艦めいた図体だからといって中将という椅子に座っているわけではない。

立派な交渉だが、ある意味これは恫喝とも言える。上手い境界線を付いてくるのが彼のやり口だ。



そう言い残すと権能はその場を後にした。果報は寝て待てと言うが、彼にはやらなくてはならないことが山の様に残っている。



既定現実世界と異世界(U.U)、どちらも休ませてはくれないのだ。












——————————————————









——ヴェノマス市街



足掛かりとしたハリソンの街や膨大な資源を持つゲンツー。そして艦艇の整備や海上輸送の要であるギンジバリス港と比べて戦略的価値はあまりない。


勿論そこには住人が住んでいるし、学術旅団の拠点として使う事があるためインフラ整備は欠かせない。



そのため建設機械師団が来ていた。



「破損軽微、この程度余裕よ」



「だからあんたはなんでそんな偉そうなんだ」



現地の建物に比較的詳しいホーディンだったが、加藤が居ることにより漫才と化すのは最早お約束。

一応現場監督なのだが、加藤はそれよりも地位が高いにも関わらずこの有様である。



最初こそやたら偉そうだと建設スタッフにもいじられていたが、県の将軍を務めジャルニエ城の司令官をやっていただけの事があり、次第に信用されていったのも不自然ではないのかもしれない。



そんな時、損壊状況の報告をしにスタッフがやって来た。



「監督、修繕の方針ですが……」



「屋根や上層階が多いな……雨が降らぬうちに早急に作業を終えたい」



「穴埋めはどうでも良い、雨漏りだけはさせるな。しかし厄介なことをしてくれる。…ここの司令は屋根に兵を配置したな?」



スタッフの言葉にあらかじめ答えを用意していたかのように即答する。



「まぁ…いいか。あんたのお陰でインフラ工事に専念できるからな……」



普段からこの調子で、こうなったら治る見込みなどないのだろう。


無駄に威厳があるせいで現場の士気も高く、文句をつけるよりも利用した方が良さそうだ。

加藤は呆れながら現場に向かう。













————————————————










工事と言ってもその内容は様々。


破壊した時に出てきた大量の瓦礫の撤去、車両から放たれた機関砲や100mm砲で傷ついた建造物の修復……。



非常にやることが多い。



幸いにもここペノン県にはそれなりの大きさの港があったため、小さなダンプやドーザー、ミニショベルを持ち込んで作業に当たっていた。


周囲には土埃が立たないようスタッフが散水し、その後ろから重機が通る。



「ぶっ壊すのもSoyuz、治すのもSoyuzかァ。なんとも言えねぇな……」



ドーザーを駆り、颯爽と瓦礫を処理するオペレーターは愚痴に寄った独り言をつぶやく。



一旦、一か所に瓦礫を纏めるとガラ袋と呼ばれる瓦礫を入れる袋を持ったスタッフが集結する。

せっせとアリのように袋詰めすると、運河に停泊している船に乗せて港へと運んでいくのだ。



しかし瓦礫と言っても使い道がないわけではない。

再生路盤材料や砕石、アスファルトやコンクリートなどを作る貴重な材料となる。



各国から怪しまれないよう、一度に持ち込める資材が限られているSoyuzにとって何よりも貴重な資源だ。



こうして持ち寄られた残骸は慎重に船へと積み込まれ、戻ってきた空の船が次の積み荷を待つことを繰り返す。



そんな光景をヴェノマスの冒険者集団は何とも言えない表情で見ていた。


昨日まで敵だった人間が略奪にも手を染めず、せっせかと街を片付けて修復しているのだ。


不可解極まりない。


変わりゆく街をネタに、二人の男は物陰で話していた。



「ここが異端の提携市街?ってのになるらしいぜ」



「なんだよソレ。俺面倒ごとは勘弁だ。3文字で頼む」



ヴェノマスにはこういった職人気質の冒険者集団が多い。


そうではない人間はアツシによって水没させられるか物理的に雷を喰らい、漂白されたのだが。




「今まで通りだとさ。ただ出入りする人間が増えるだけで」



あの奇術師が来た時もそうだが、時代が変わると言ってもその実感は薄い。文字上では様々なことがなくなったり、起きたりするらしいが人民には縁遠い話である。




「それを早く言えよ」



「だから言っただろうがバカ。それに案件も増えるらしいぜ」



「なんだよ、いいことずくめじゃねぇか。奇術師がなんで蹴ったんだろうな」



彼らの反応は思うよりも反抗的ではなかった。



というのも、ギルドが存在するという事が分かった以上契約書を改定したからに他ならない。

ゲンツーではその旨がうまく伝わらず、暴動一歩手前に陥ったこともある。



これらからの反省で、むしろ案件が増えると言った反感を持たれないような事を前面に出していた。




「さぁ。訳わからん事言うヤツだったからな。どうもこうもねぇだろ」



アツシの真意は彼らに知られることはない。

時に民は為政者よりも論理的であることがあるのだから。












—————————————————













【冴島か。俺だ。奴がついに自供した。ペノン県に不審な資源が大量に持ち込まれている事は分かったが、詳細な位置までは掴めなかった。帝国側も此処まで突き止める事は予想していたのだろう】



アツシが自白したようで、いよいよベストレオ疑惑二号機の調査に乗り出すことに。


だが帝国は辿られる事を想定していたらしく、ヴェノマスから先の行先がまるで分からない状況だった。





【了解。こうなれば虱潰しに——】




ローラー作戦に出ようとする大佐を中将は止めた。



【待て冴島。1号機出現すら航空偵察で察知できなかったとすると……】



【地下。おおよそ閉鎖都市を作り、そこで建造している、と。】




空から見れば怪しい施設の1つや2つ、容易に見つけることが出来る。それにも関わらず発見できなかった。



ならば情報統制を敷いた上で地下にドッグを作っているに違いない。


規模がキロメートルに至り、戦艦とは一線を画す存在であるだけに都市を形成している可能性がある。



大佐も中将と同じ答えに行きついていたが、入り口が見当たらない以上手あたり次第探す気でいた。

ゲリラ狩りにして、敵拠点を探るお手本とも言えよう。



だが権能は一枚上手である。



【……そこでだ、俺は測定器を使おうと思う。感度で言えば……ウラン鉱を探り当てられる程感度が高い代物をだ】




魔力はあらゆる物理学観点から検出することが出来ない、正にU.U(異世界)でのルールと言っても過言ではない。



郷に入っては郷に従えと言うように、向こうでのしきたりに従おうというのだ。



それも現代の知見を用いて。



これから始められるのは絶滅兵器建造が進む閉鎖都市のダウジング。

掘り当てれば勝利。掘り当てられなければ滅亡が待っているだろう。



運命を宝探しが始められようとしていた……

次回Chapter190は5月4日10時からの公開となります

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