Chapter188. Crooked Sanctuary
タイトル【歪な聖域】
——ヴェノマス沖
——DaaaAAANMMMM!!!!———DaaaAAANMMMM!!!!
尾道側面に装備された防盾つきのAK130速射砲がひっきりなしに砲弾を撃ち込んでいた。
役目を終えた巨大な薬莢はそのまま甲板に投げ出され、撃つたびに連装砲の下に設けられた給弾機構が動き出す。
光の届かない空間で束になった砲弾が機械的に送り込まれ、次弾に備えるのだ。
飛び交う砲弾は全てパレスに向かって何メートルも飛翔し着弾する。
これら無慈悲な榴弾の集まりは屋外に控えていたアーチャーといった非装甲の敵兵を全て薙ぎ払う。
目の前の戦友が、軍人としての誇りが一瞬にして無に帰す恐怖。
その光景を目の当たりにした重装兵は急いで屋内に逃げ込んだため、上陸歩兵の侵入を許してしまった。
———————パレス1F 入り口
機械化歩兵部隊は機銃要員・対戦車要員と言ったように、それぞれ役割を持った分隊に分割され押し寄せる。
しかし司令部入り口まで殴りこまれておいて、帝国軍側も黙っているはずもない。
そのため砲撃で貫通できなかった場所で一進一退の苛烈な戦いが繰り広げられていた。
———BLTATATA!!!
聖域に禍々しい銃声と炎が爆ぜる野蛮な音が響く。
全力疾走で距離を詰めてくるアーマーナイトの動きを止めるべく銃撃を加えるも、絶え間のない火柱が阻む。
それでも苦しいにも関わらず、遮蔽物越しであろうと異様に正確な照準が差し込み、陣取る事は難しいと来た。
大火力の隕石魔法 ギドゥールを避けるために外に出れば、超火力の火柱を展開するゲグルネインや重装兵の餌食に。
立てこもれば装甲車を粉砕する流星群が。
これが魔法を使った真の戦いなのだろう。
しかも機動力の高い重装兵が前進するのに合わせてにじり寄ってくるのだからスキがない。いずれにせよ突き進まねば死が待っている!
「クソッ、デカいの見舞ってやるぜ」
痺れを切らした兵は重装兵の間合いに入ってしまう前にLAWを抜き、後ろに味方が居ないことを確かめてから引き金を引く。
———BLASH!!!KA-BoooMM!!!——
HEAT弾がもたらすメタルジェットは装甲を貫通、破片はソーサラーを容易に引き裂いた。
これでようやく進めるだろう。
ちょうど上に向かう階段に差し掛かった時だった。
暴風雨のような激しい攻撃の中から炎を纏いながら赤い大鎧が二つ現れたのである。
甲羅のような前掛けもなく、槍を右に大盾を左に。
マントをたなびかせて歩み寄る様は敵戦車そのもの。
「ヤツがジェネラルか……」
分隊長が呟く。
鎧の装甲は装甲50mmにも匹敵する、歩く戦車。
動きを止めてロケット弾の一発を撃ち込めばカタがつく筈だ。
ジェネラルに攻撃が集中するも、ヤツは歩みを止めることなく歩いて迫ってくるではないか。
異常に装甲が分厚いことは知られていたが、銃撃を浴びせれば衝撃で足止め出来るはずという考えが打ち砕かれたのである。
後からは強力な攻撃が、目の前にはふざけた装甲が盾に。
この世界における重戦車はまさしくコイツに違いないだろう。
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□
———BLASH!!!KA-BoooMM!!!——
どこからともなくロケット弾が飛翔し鋼鉄の塊に直撃した。
現代の戦車に対しては力不足だが、ただの鉄板を纏ったジェネラル如きに遅れは取らない。
はずだった。
——DAM…!
爆音や銃弾が空気を切り裂く凄まじい音に混じって、3tもの超重装兵の足音が響く。
何よりも伝わる重低音の絶望。
「クソッ、盾に当たってやがったか!」
如何にジェネラルの6倍もの装甲を貫けるメタルジェットだとしても、シールドを前にその威力は確実に減退する。
盾に当たればなおさら。
鎧との空間で威力を落としながら貫通することはできたが、当たり所が悪かった事も相まって仕留めきれていなかったのである!
Gチームの携行するRPG16といった二段式タンデム弾頭ならば確実に倒せた事だろう。
ダメージを負っていることは確かだが敵の超重歩兵は確かに生きている。
だが実際それだけで十分。十分すぎたと言っていい。
動きが止まった所が最期。
二発目のロケットが超重装兵の胸部に着弾、装甲を貫き絶命させた。
「押し返せ!」
分隊長が勢いに任せ面々に指示を飛ばす。
残りは一体。階段を死守する鉄壁の番人。勢いが付いた今、打ち破ることができるか。
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□
——パレス3F 司令部
「階段を突破されました!いかがなさいましょう!?」
伝令は焦りながらアツシに伝えるが、肝心の当人はスマートフォンを片手にぶつぶつと呟いていると思いきや伝令を前線に差し向ける始末。。
「なんで消せないんだ、こんな雑魚、モブごときに……お前は前線に行け」
「了解!」
現代における戦争の主役は無名の兵士。
わかり切ったギドゥールの雨などSoyuz機械化歩兵にとって生温いにも程がある。
普通、爆弾が落ちてくる時には丁寧にレーザー光が飛んでくる事など無いからだ。
絶大な魔力故に練度を著しく欠損したアツシにとっては攻撃が当たらない事が理解できず、どうしようもない焦りと苛立ちだけが募る。
それが癇癪に繋がり、また魔力の元になるという悪循環。
しかし、パレスもろとも吹き飛ばして解決を図ろうとはしなかった。
彼にはまだ干渉してくれるだけの他人が居たからである。
「状況を整理しろ。まだ打開できる」
サームだった。曲がりなりにも一軍人、そして士官である彼女はこの状況を変えられるとアツシに告げた。
内心、ここまで来られたらどうしようもないこと位分かっている。
だが何もしないで異端の人間に降伏するのか。
つまり、この地を作り上げてきたことを全て否定することになる。
生き地獄そのものの現実世界から飛び出して異世界まで来たのに、結局は自分の無力を思い知らされ煉獄へと堕ちる。
それだけは何としてでも避けなくてはならない。
「わかってる。……あの手を使うんだね」
「そうだ」
最期の手。それは敵が突入する寸前、ありったけの魔力を集めてヴァドムを発動。
一方通行の爆風で何もかもを吹き飛ばすというものだ。
Soyuz、もとい現代装備の兵士はアーマーナイトと比べて耐久力が低い。
そのため榴弾砲と同程度の爆風を食らわせれば一掃することが出来る。
二人はお互いの片手を交互に重ね、照準を扉に向けた。
迫撃砲から榴弾砲に威力を上げるためには相応のモノを使う。
体力を一度に全て使い切るような感覚で魔力を込める。
余波で周囲には風が吹き始めた。たかだか二人とは言え、ソーサラーはその身に絶大な魔力を宿している。
此処でやらねばすべてが終わる。二人の気持ちは奇しくもシンクロしていた。
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□
———パレス2F
でかでかと司令室と書かれた案内通り階段を上り、二階にたどり着いた機械化歩兵たちだった。
死にかけの敵兵を尋問した際、司令部は3Fにあるという情報が得られた。
そんな彼らを待ち受けていたのは的確なアンブッシュ。
正に防衛戦における手本通りの戦術であり、敵がこうすることは既に分かり切っていたこと。
歩兵たちが一旦階段を下った直後、分隊長から無線が飛ぶ。
【至急、火力支援を要請する!】
【LONGPAT了解。一時退避せよ】
———ZBooOOOOMMNNNGGG!!!!!!
冴島大佐を通じ洋上の尾道にその旨が伝えられた直後、戦車砲を凌駕する130mm榴弾の雨が降り注いだのである。
悪夢の豪雨は攻撃に晒され続け脆くなったパレスの壁を突き破り、敵兵を文字通り消し飛ばした。
「死んだかと思ったぜ」
あまりの事にガンテルは死を悟っていた。戦車砲に晒された経験はあるが、それ以上はない。
するとグルードが彼の頬を叩きながら軽口を投げかける。
「馬鹿タレ、お前生きてんだろ」
「そうだった」
動けるようになった兵士たちは司令部に繋がる階段を突き進む。
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———パレス3F 司令部前
司令部に繋がる階段で銃弾と魔法が飛び交う。
ジャルニエやシルベーで経験した小さな火球が飛び交う粗末な花火大会と比較にならない。
おびただしい数の火柱が壁を背にした機械化歩兵に襲い掛かるは流星群、火に電気に魔法の刃と、どれも即死級の攻撃が出迎えだ。
「AHHHH!!畜生!!」
銃撃戦など腐る程経験しているパルメドとグルードだが、曲がる銃弾など相手にしたことがない。
当たれば一瞬で丸焦げフライドチキンにされることを考えれば背筋が凍る。
ジェネラルは片付けられたが、亡骸を盾にされているせいで厄介さに磨きが掛かっている有様で、一体ずつ倒さねば勝機はない。
火柱が砕け散り、稲妻が迸る。
辺りに炎が四散し燃え移っているのか、お陰で周囲は火災が起きているかと見まがう。
そんな中、ガンテルは脇腹につけた矢筒から一本の徹甲矢を取り出した。
「俺がやる。俺は右、手前ェは左をやれ」
グルードはパルメドに視線を向ける。土壇場での精度は彼の方が優れているからだ。
「俺が行こう」
空になったマガジンを抜き乱雑に差し直す。肺の中にあった古い空気を吐き捨て、ガンテルと息を合わせた。
「よぉし出てこいシャーマン野郎……!」
出鼻はグルードが取ることになった。
AK102を乱射して錯乱したように見せかけるのである。
奴らは戦闘訓練を積んだプロ、ならば絶好のカモを逃す筈がない。
彼を丸焼きにすべく二人のソーサラーが遮蔽物から出てきた!
残りはヤツらだけ。倒せば一気にゲームセット。
——BANG!!BANG!!!——BLASH!!!!——
現代小火器と対装甲弓から敵の脳天に向けて一撃が飛ぶ。
その鋭い鉛玉と鉄芯は綺麗にドタマを貫通して安らかな死をもたらした。
扉を守る者は誰もいなくなった、後はお宝に向けて階段を上るだけ。
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□
司令部に通じる扉は固く閉じられていたことは遠目でも分かった。屋内戦において敵はこういった場所に必ず罠を張る。
接近を悟られないよう、歩兵チームは配置についた。
だがガンテルの様子がおかしい。
【どうしたんだ、漏れそうか】
グルードが小声で無線機を通して伝える。
【馬鹿野郎……お前は感じねぇのか……】
【何がァ?】
【ソーサラーの気配だバカ…俺は魔法なんぞ使えねぇがあれだけ魔力を溜めてりゃ俺だってわかる…。奴ら大口開けて待ってるに違いねぇ…】
帝国人である彼にだけわかる、この感覚。
たとえ真っ暗闇であろうとも莫大な魔力を基にどこにいるか大方の見当がついてしまう。
今まで生き抜いてきたこの感覚が扉の先にいる得体の知れない存在を察知したのである。
【じゃあどうすんだ……】
【そんなの分隊長に聞きやがれ……俺なら扉の隙間から撃ち抜いてやる。特に人を虫けらみたいに扱うクソは尚更だ】
この二人では到底解決法は編み出せない。だがここでの話は電波に乗った無線で話されていた事が功を奏した。
何故か。
一言一句、分隊長に聞かれていたからである!
【こちら突入班。指定座標に火力支援を要請する】
一体何をしようというのか。
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□
分隊長の指示を受け、BMD-4といった車両だけではなく尾道の副砲といった照準が全て指定座標に向けられ、即座に砲撃の雨が降ってくる。
その目標は司令部のある区画の裏側だ!
———BoooOOOMM!!!!KA-BoooMM!!!
100mm砲130mm榴弾、機関砲と種類は多岐に渡る。いくら頑丈に作られているパレスでもこれだけの集中砲火を受ければただでは済まない。
「何ッ!?」
アツシが振り向いた瞬間。
巨大な爆発と共に背面の壁には大穴が空き、いや壁すら消し飛ばされていた。
一体何事か彼には理解できず、二人の集中が途切れた。
スタングレネードと共に扉から圧倒的な数の機械化歩兵がなだれ込む!
「しまった!」
サームは咄嗟にアツシの前に立ちはだかった為、閃光と轟音をモロに受けて気絶してしまった。
だが彼女のお陰で彼の感覚はまだ生きている。
「こんな数、僕が全てぶっ飛ばしてやるんだ!」
託された一度きりのチャンス。
スマートフォンでマルチロックをかけ、残った魔力を使ってヴァドムを掛けようとする。
———GRASH!!!
真っ黒の液晶画面に一つの穴が開き、芸術的なひび割れが走った!
その矢は漆黒のローブに受け止められ地面に転がる。明らかに加減できる技量を持つSoyuz弓引きは只一人。
ガンテルである!
「外にいれば瞬きする間にドタマぶち抜いてやるってのに」
「なめるな!」
アツシは激昂。広範囲に向けて即死級の電撃魔法バルベルデを放とうとするが、グルードがすかさず抜いたMP443で手足を撃ち抜いた。
——BANG!!BANG!!BANG!!!!
「ガキが出る幕じゃねぇ」
経験したこともない焼けつくような激痛に身動きを取れないところを捕縛。
かくしてペノン県ヴェノマスは陥落した……
次回Chapter189は5月1日10時からの公開となります
登場兵器
・AK130
ソ連製の連装130mm速射砲。主に船に搭載される。
完全に自動化されている他、他国の速射砲と比べて長砲身なため射程距離も長い。
どっと設置されたこの砲が全力で稼働したのならば壊滅的な被害をもたらす。
・MP443
Soyuzスタッフの使うロシア製の9mm自動拳銃。
見た目はやや近未来的だが、フルスチール製とロシアらしさが見え隠れする。
ポリマーなんて嫌という貴方に丁度いい一丁。
・RPG16
有名なのは「7」の方。
2分割にして折り畳めるほか、突入班は2段式の弾頭を用いるタンデム弾頭を装備している。
空挺兵の装備に加えられる程には取り回しが良いものの、室内戦では反動を大きく軽減しているバックブラストに気を付ける必要があるのはいつも通り。




