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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅳ-1.帝国戦役 ペノン侵攻
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Chapter186. Find the source of the demon

タイトル【悪魔の根源を探せ】


———シルベー県ゲンツー


一旦話を此処、シルベー県ゲンツーの街に移そう。唐突かもしれないが、この街にあのベストレオ二号機に繋がる「()()」があるという。



それは絶滅兵器、ひいては兵器を作る上で最も重要なファクター「鉱物資源」である。



当然のことながら、いくら国家機密と言え、量と質に極めて優れるダース山。


それに腕利きの精錬ギルドやカナリスによって整備された便利な交通網の要所 ゲンツーを無視することはできず、此処から鉄材などを仕入れていた。



Soyuzは産業維持などの観点から、()()()ゲンツーの街から産出される兵器類に関しても禁輸策を一切施工しておらず、宛先から二号機が建造されている極秘格納庫を辿ることにしたのである。



一件帝国を舐めているように思えるが、まさかこういった場で裏目に出るとは冴島大佐としても思わなかった。



だが大佐本人が調べる訳にはいかない。


その上軍事的な調査なため学術旅団、それもゲンツーに派遣されていたあるスタッフに託された。

ポラロイド男ことエリゼウである。



だが何の変哲もないスタッフが何故選ばれたのか。



その理由は彼の素行にあった。



「あの野郎、フィルムが高いこと知ってて使いやがる……持ってきてるストックが足りるか……?」



冗談半分でポラロイドカメラを冒険者たちに貸し出しており、良心的な価格とは言え副業で収入を得ていた。


そのことはいつの間にか同僚やマディソンを超えはじめ大佐、中将の耳までに入っていた。


今回はギルドに探りを入れる以上、それなりの好感度を持っている人間でないと遂行は不可能。



こうしてエリゼウに白羽の矢が立った訳である。












—————————————






今日も普段通り出勤した彼だったが、そこにいたのは交代ではなく上司のボリス中尉。

冴島を除いて、上司が直々に哨戒任務中のスタッフに接触することは珍しい。



「げげっ!ち、中尉!」



嫌な予感を察知したエリゼウは思わず一歩後に下がる。


ついに内職が知れ渡ってしまったと思っているのだろうが、既にその事実は中将の耳まで届いていることは知らない。



「エリゼウ上等兵。ハンガーゲームに出てきそうな恰好をして楽しいか?まぁこの際どうだって良い」



「今回、お前に与えられた任務は哨戒任務ではなくあることを調査してもらいたい」



ロシア人の鋭い視線が冒険者と化した彼に突き刺さる。


副業を行う上でどうしてもギルドに入り浸ることが多く、会員証やそれの代わりになる剣などを背負っているのも事実だ。



時々貸出金が払えない依頼者からの支払い装備品を付けていることも相まって、時代を完全に間違えたような恰好。



呆れているスタッフは兎も角として、中尉も思わず苦言の一つを言いたくなるのも無理はない。



エリゼウは観念したのか、言い訳することなく機嫌を伺う。



「——と、いいますと?」



「お前はここのギルトによく出入りしていると聞く。珍しくな。そこで、お前には輸送業者の持っている記録を調べて欲しい。」



一気にスパイらしいことを頼まれ、彼は思わず困惑する。


あくまで写真が趣味のスタッフの一人に過ぎず、自分がまさかこんなスパイじみた真似をする事になるとは夢にも思わなかった。



「……多分全部ですよね」



「そうなるな。学術旅団は調査結果を我々にフィードバックしてくれるが、今回の軍事的調査は出来ない。まぁ別に街にある家屋全てを吹き飛ばして調べても痛くも痒くもない。」




コンプライアンスがあるため、本気でゲンツーの街を更地にする気は早々ない。


だが不可能ではない、という絶妙なラインを突いてくる。


この言い回し。ボリスが相手の逃げ道を潰すのに使う常套手段。



「……了解」



何とも言い難い口ぶりでエリゼウは任務に取り掛かることにした。












———————————————











——輸送ギルド本部



ゲンツーでは輸送業者もギルドを形成しており、日本でいう農業協同組合に近い。

だがSoyuzが入って来てからは本部に入るのにも会員証の提示が必要になっていた。



「邪魔するぜ、大丈夫か今?」



そんな中、エリゼウは行きつけのパブと同じような感覚で扉をくぐる。

この輸送業者ギルドには何回も世話になっている顔なじみだ。



ポラロイドカメラ貸し出しの噂がいつの間にか水上市場まで広まっており、この業者を通じて運ぶという事もなんら珍しくない。



「エリゼウさんかい。今はひと段落したとこだ。昨日は吐く程忙しかったけどな!おかげでぐっすりだ。全く最高だぜ」



窓口の男とこの間柄。

どうやら昨日は凄まじい量の配達があったらしい。


うっかり顔を出したが最期、愚痴やら嫌味やらを全て吐き出されていたに違いない。



そこでエリゼウは本題に入ることにした。



「そんな最高の時にしか頼めねぇ事があんだけどよぉ……いいか?」



「んだよ水くせぇな」



「……すげぇ言いにくいんだが、伝票とかつけてんだろ?行先とかの。アレが気になってな。ブツがどこに送ったかとか記録つけるの忘れちまって。」



何とかそれらしい理由を付けながら受付に頼み込む。

これが吉と出るか凶と出るかが分からない、このひと時が全く心臓に悪い。



「ま……いいだろう。それにおたくら文字が読めねぇんじゃねぇのか?それなら怪文書と記録の区別がつかねぇぞ」



お得意様になっておいて正解だった。





何とかとして輸送履歴を見ることが出来るようになったエリゼウは画像翻訳ソフト「ダザイ」をインストールされたソ・USEを片手に履歴を漁ることにした。



「ハァ~。魔具にしちゃ……こう、なんというか……」



受付も見たこともない半導体の魔具が気になるようで、隣で彼の様子を伺う。



「そういうもんよ、あんまり気にすると寝れなくなるぜ。」



軽口を飛ばしながら作業に取り掛かる。だがデスクワークが根底的に苦手なエリゼウにとって地獄の始まりだった……












—————————————










「Ah……目が腐りそうだ」



ゲンツーの街は鉄鋼もそうだが、また輸送の街でもある。


いつ、どこに、何が送られたか。その伝票履歴を漁るという事は、過去に戻りその歴史を紐解くようなモノだ。



最初の木板数枚は良かったが、何千枚と遡っていくと流石に目が痛くなってくるどころか記憶を全て消して寝てしまいたくなる。



もはや読み過ぎて武器類と数字すら覚える有様だった。



「コイツらバケモン狩るのに対装甲槍なんて物騒なモン使うのかよ、てか好きすぎるだろ!……俺も思い当たる節があるぞ」



頭を抱えながら彼はひたすら嘆く。



ギルドの連中は対装甲槍一本で火竜やらと言ったモンスターに挑んでいるらしく、他県に送る武器類は対装甲兵器ソルジャーキラーばかり。





そこで悪態を付こう思ったが、特にあのハンバーガーとパワーばかり追求するあの国では12.7mm弾を撃てる拳銃やらに需要があるという。



そのことを考えると、30mmの鉄板をぶち抜けるふざけた槍を欲しがる連中が居ても何ら不思議ではないのだから怖い。



ベーナブ湿原で取れた魚介類も運ばれており、やたら魚が食べられているのも腑に落ちる。


その一方で、武器類や鋼鉄は大方ゲンツーの向こう側にある港に届けられる事がほとんど。


積み替えた後、陸路でゾルターンやらに届けられるのだろうか。



薄々ではあるが、学術旅団にやらせた方が良いのではと思い始めた。だが今行っているのは軍事的調査。


偵察任務と何ら変わりない。



導火線に火が付いた爆弾を一刻も早く誰かにパスしたいのだが、その相手が居ない状態に等しい。


着実に溜まっていく疲労との勝負だ。













—————————————————









記録を読み進めていると、ついに朝から昼を通り過ぎソ・USE内蔵時計は17時を示していた。

目は激しく痛み、疲れからか思考がはっきりとしない。


学術旅団を何度も呼びたい衝動に襲われたが、頭の中にいるボリス中尉を浮かべて正気を保とうとする。



そんな矢先のこと。



「なんだコレ」



妙な記録だった。


宛先は不明、依頼主も今まで聞いたことのないヤツが依頼していた。

新規の客とは明らかに違う「ファルケンシュタイン帝国 道路公団」の文字。

明らかに国家が絡んでいることは間違いない。



積み荷は精錬済みの鋼鉄、ざっと1500t。道路の整備には使うか非常に怪しい。当然船での輸送となるが、荷物の届先にあった文字を見て目を疑った。



「ペノン県……で積み替えなし!?」



あくまでペノン県は中継地点。街の向こう側にある港同様、積み替えるための場所だ。

にもかかわらず、この膨大な鉄がペノン県に運ばれている。



例えるなら各駅停車しか止まらない地味な駅が、突然特急の終着駅として設定されるようなもの。



ここまででイレギュラーは一切ないことも付け加えると、怪しさは頂点に達する。



石畳の道などを造成する帝国の道路公団が、通常そこまで使わない膨大な鉄を、何故ペノン県を終着にしたのか。



当然のことながら理由などは一切かかれていない。



「ようやっと見つけたぜ……」



エリゼウは今にでも倒れそうになりながら、メモを取る。








————————————————







あまりにも大きすぎる発見はボリスを通じて中将に伝えられた。




「……やはりか。二号機はペノン県のどこかにあるのは間違いない。中尉、詳細な宛先は分かっているのか。」




予想が的中してしまった。やはり帝国軍も大量破壊兵器を数多く持っておきたいのだろう。

戦術を狂わせるジョーカーは一枚より二枚の方が役を揃えやすいというもの。



「中将閣下。詳細な宛先に関しては特殊な書き方をされている点を除き【ペノン県】とだけ、だそうです」



「うむ……」



似たような事は現実世界でもあった。



それは閉鎖都市。



有名なのはソ連でやっていたことで、弾道ミサイルや核兵器といった機密情報の塊を製造する際、閉鎖都市という場所を作っていた。



当然のことながら情報の開示ばかりか住人の出入りが厳重に制限され、手紙も街の名前さえ書けば届くような場所である。



多く知り過ぎれば映画のように抹消される事だろう。


幸い、帝国には深淵の槍というKGBにそっくりな組織が存在していることから現実味が薄くなるという文句も出て来ない。



「極めて異例だが……ゲンツーの街で生産される魔力やそれに該当する物品を禁輸せざるを得ないな」



中将は苦虫を嚙み潰したような顔をしながら決断を下した。


学術旅団による調査ではベストレオの駆動系には魔力ないし、炎や爆発といったエネルギーに変換される前段階にある未知の存在が使用されている。



分かりやすい話が石油とそれを蒸留したガソリンのようなモノだろうか。



いくら崇高な兵器を作ったとしても燃料や弾がなければ意味がないのだ。

魔力を動力源やエネルギー主砲にしているため禁輸は効くだろう。


万が一完成されていたとしても、これだけの物体を動かすならば相応の燃料が居る。



遅すぎたという事はない。



「大至急、これら物品の輸出を止めろ」



遅すぎた判断になるかどうか。それは攻めてみなければ分からない。


次回Chapter187は4月22日10時からの公開となります

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