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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅳ-1.帝国戦役 ペノン侵攻
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Chapter185. The End of Dreams

タイトル【夢の終わり】


——ウイゴン暦8月24日 既定現実8月31日

ペノン県ヴェノマス



現代の装甲兵器が攻めてくることを知ったアツシは急いで防壁を建設していた。

その焦りは尋常ではなく、為政者自らが作業に加わる程である。




環状大動脈から伸びる細かな運河のお陰で資材の搬入がスムーズに行うことができ、各地から様々な石材が集められていた。


防衛騎士団の納屋やパレスの補修用石材ばかりか民家の一部を打ち崩したものが使用されている。



軍事独裁国家ファルケンシュタイン帝国が単純に軍備だけではなく、一見意味のないような産業にも多く投資した理由が今になって理解できた。



城壁を張り巡らせたい気でいたが、いかんせん時間が足りない。


マシンガンなどで武装した丸裸の兵士は魔導士の軍団で爆殺・感電・焼死と様々な方法で殺せる。


問題は戦車で、止めるなら壁を作るしかない。遠距離から攻撃を加えれば勝てるのかもしれない。




ここまでは良い作戦だったが、アツシは良くも悪くも現代高校生の浅知恵であることが後に響いてくるなど、夢にも思わないだろう。



「アツシ様。防壁の構築が完了しました」



作業が完了した旨を騎士団長が伝えると、容赦のない命令が団長に突き刺さる。



「じゃあ、市街での戦いは任せた」



この命令はどう考えても足止め。

それに、騎兵や重装兵を抱える防衛騎士団と言え、重労働の後に迎撃に行かせようとしているのだ。



アツシは彼らの事をスタミナがあるなら無限に動かせる兵士ユニットかチェスの駒としか考えていない事が良く分かる。




ただ命令は絶対、逆らう訳にはいかない。

無茶ぶりを受けた彼はしぶしぶ持ち場へと戻っていくのだった。











——————————————





ヴェノマスの一件でペノン県をどう攻め落とすかが決まった。



戦車といった装甲兵器の機動力を活かし、地上の何もかもを踏みつぶしながら短期決着をつける電撃戦を行うことになる。



最初に車両と共に大多数の機械化歩兵部隊を投下、市街地とパレスを占領するというもの。



そこで一番のネックとなるのはヴェノマス中に張り巡らされた運河である。

当然ながら主力戦車などは水中を潜ることは出来ても、船の様に航行できるわけではない。



必要となってくる条件は三つ。


一定の火力で建物に隠れた兵士を排除できること、水上を航行できること・兵士を守りつつ運べる事。



白羽の矢が立ったのは空挺戦車BMD-4やBMP-3と言った比較的強力な主砲を持ちながら水上を移動できるロシア兵器たちだった。



もちろんBTR-80といった兵員輸送車も作戦に参加することになっていたが、火砲持ちや戦艦尾道の加護を受け、人員を下ろすことに専念する。



それに空からの攻撃をしないとは何一つ言っていないため、大量のシュトルモヴィークやシュトゥーカが差し向けられることになる。



ヴェノマスは陸海空、すべての方面から攻撃が飛びかう地獄と化すことが確定した。








———————————







———ポポルタ拠点




この動きは猶予一週間の間に整えられており、機械化歩兵部隊もゾルターンに集められることになった。



最新兵器のディスカウントストアこと、ロシアから買い付けた各装甲兵器がずらりと並ぶ。



「またか、またこのクソ狭い中に放り込まれるのか?えぇ!?クソッ!木箱の方がマシだ!」



作戦内容を知ったガンテルは車両を前に喚いていた。


かれこれ助手席・木箱・BMPとエコノミークラスが天国に思えるような空間に閉じ込められ続けた彼としてみれば、いい加減マトモな座席に座りたいというのも何らおかしくはない。



「ソ連の奴らが作った乗り物にこれ以上求めても無駄だ」



達観の領域に入ったパルメドはそう言う。


彼もシリア育ちで様々な東側装甲兵器に乗ったことがあるが、どれもこれも詰め放題の袋並みにギチギチかあらゆるものを詰め込んだ冷凍庫のような居心地。



タイムスリップして設計者を殴らねばこの狭さはどうしようもないだろう。



「そう固い事いうなよ、席があるだけ天国だぜ?」



グルードはもはや方向性がおかしい。



「ふざけやがって、お前ら何なんだ!それに何だあの出入口!狙い撃ちにしてくださいってか、えぇ!?」



ここにきてマトモな指摘が来るとは思わず、二人は固まってしまった。


ソ連、あるいはその血統を引く兵員輸送能力がある兵器はどういう事か出入口が車両の頂上にある。

選りにもよってそこでしか出入り出来ないという特性も兼ね備えて。



チェンチェン紛争ではこの問題点が露呈している辺り、ガンテルの指摘は正しい。

そのためSoyuzはコンプライアンスの関係でより安価なBTR-60ないし70は使用していない。



80からは側面にしっかりとした出入口があるのだが、上陸では日の目を見ることはないだろう。



「…そこは…。ガンナーがなんとかしてくれるんじゃないか…しなかったらガンナーじゃねぇ、椅子尻磨きマンだ。あんなちゃちい椅子よか映画館の椅子を磨いてた方がよっぽどいいし、マシだ」



答えを出したのはグルード。


砲塔の機銃手が援護しなくて何がガンナーだ。

援護しないのであれば、BTRやBMDに乗ってるのはバケツプリンか何かになってしまう。




「あのバケツひっくり返したみてぇなの回してやるんだよな、サボったらガロ―バン叩き込んでやるからな」



ガンテルの不信感は募るばかり。











————————————————








三人から何かと言われている戦車部隊に目を向けると、ボゥール曹長らが先軍915の補給を行っていた。



「えぇ…と?戦車砲弾、累計30発に擲弾が両方合わせて180…。それに使っちまったミサイル…骨がバラバラに砕けちまう」



曹長がチェックリストを確認しながら思わず顔を背ける。

武器のデパート、先軍915は補給も一苦労だ。



何せ彼が乗った車両は改造地竜との戦いで弾薬をほぼすべて使い切った状態。空のバスタブにバケツリレーで水を入れるのと大差ない。



リストを懐に入れてから、戦車砲弾を持ち上げるがそれなりに重い。


主砲の補給以外は部下や他スタッフ任せているが、自分もいち早く補給を終わらせるため働かねばなるまい。



そう思ったところまでは良かった。

この125mm砲弾、一発当たり24kg近くある。


いかに鍛えられた体を持つスタッフでもなかなか辛いものがあるのは言うまでもないだろう。



「体に来るな……!」



重量挙げは掲げて下ろせば終わりだが、補給は戦車を昇り車長用ハッチに入れて装填手に渡さねばならない。


何時の時代も変わることのない、文字通りの重労働だ。




「Ah……畜生!30セットか……腰やらないといいんだが……」



悪態をつきながらボゥールは戦車を登る。

戦車は戦場では正に無敵だが、補給しなければただのカカシ。


そのことを一番よく分かっている彼はこの作業を止めようとはしなかった。



装甲兵器部隊も苦労とは無縁、とは言い難いのである。










—————————————









補給を終えた頃、ペノン県攻略作戦の一部、ヴェノマス制圧戦のブリーフィングが行われることになった。



「本作戦はペノン県侵攻作戦の一部、機械化歩兵部隊はヴェノマスに。戦車部隊は城に迫り、この領域を制圧する」


「俺が指揮する戦車部隊は上陸部隊の主軸となる機械化歩兵大隊と、それを運ぶ歩兵戦闘車を含む自動車部隊を支援」


「ヴェノマスに突入後、市街戦が予想されるが無視してパレスへ進め。」



あくまでナンノリオンの前座でしかないペノン。


アルマゲドンを起こせる兵器を起動させないためにも時間を取っていられない。



 ハリソンやゲンツーにもあった防衛騎士団が敵として立ちはだかるだろうが、騎兵やアーマーナイトといった兵士はわざわざ相手にする必要はないのだ。




「繰り返すが、今回は市街での戦闘だ。戦車部隊と航空支援があるとはいえ、現地偵察によって敵を隠せる建造物が多く存在する。死角からの攻撃には十分留意するように」



今度の戦いはこれまでの戦いとは異なり、敵がどこに隠れているか分からない市街に上陸してパレスを陥落させるというもの。


当然ながらかなりのハードスケジュールとなっている。




その上、どこに敵が居るかさっぱり分からない戦地を潜り抜け、その先は屋内での戦闘が首を長くして待っていると考えれば過酷さが分かるだろう。



ブリーフィングを終えた後、狙撃のプロフェッショナルであるガンテルは苦い顔を浮かべていた。



「向こうに地の利があるのが気に食わねぇな。ヴァドム喰らえばあんなの使い物にならなくなること知ってんだろ」



ソーサラーの恐ろしさは魔導士とは異なり武器を持つ必要がないことから、あらゆる場所に潜ませることが出来る点である。



それでいて軽装甲車両を中破しうるだけの火力を持っているのだ、実質RPGを持ったゲリラが潜むアレッポに放り込まれるような状態に近い。



「なら戦車がいいか。運河を進めば沈むぞ」




「ま、俺らでがんばれってことだぁな。あの人だって無茶苦茶言わねぇ、陸からは砲でドカドカ撃ってくれるし、あのバカでかい宇宙戦艦も出してくるだろうな」


「それに空にも心強いヤツらを寄越してくれてる。そこまでじゃねぇよ。」



パルメドは容赦のない釘を刺し、グルードは冷静に分析した上でガンテルに言葉を投げかける。



彼は舌打ちしながら抗いようのない正論に悪態を吐く。



「ケッ、冗談に決まってらァ」



その背後では機械化歩兵スタッフや戦車乗り達がいつでも出撃できるよう、準備を行っていた。



戦車部隊にとって今回の作戦は長丁場になる。


帝国軍に戦車を壊されて立往生するよりも、実際の所故障からの行動不能のダブルパンチが一番怖い。



機械的な場面は駆け付けた整備班が入念にチェックする一方で、ボゥールら乗組員は各々の装備確認を行っていた。


餅は餅屋にやらせるのが一番である。



「支給されたレーションは足りているだろうな、これがなくなる前にペノンを攻め落とす。盗み食いなんぞしてたら吐かせても取り戻すからな!」



いつになく曹長はやる気だ。

帝国に来てから初となる長期戦とあって、焦りをこうして士気に変えているのだろう。



「それに自衛用のライフルもクリーニングを済ませておくこと。AKだから早くできるだろう。出撃前にすることは以上!」



敵は歩兵を中心とした編成を取ってくる上、近づかれたらたとえ21世紀の装備で粋がっていたとしても容易に死んでしまう事は想像に難くない。



装甲兵器がない丸裸の歩兵とはそれだけ危ういのである。



Soyuzがペノンを見た時、ゾルターンやシルベーの様に大きな価値を内包しているわけではない。

だが落さねばこれまでの努力を水泡と帰す悪魔が呼び出され、何をしても死ぬ。


長く過酷な戦いが今始まろうとしていた。




Chapter186は4月15日10時からの公開となります。


・登場兵器

BMD-4

ロシア製の空挺装甲車。100mm砲と同軸の30mm機関砲だけでなく対戦車ミサイルが使用可能で非常に強力。

さらに空中投下できるほか、軽量で機敏。自転車並みの速度ではあるが水上航行ができる万能選手。

便利な反面、色々としわ寄せを喰っており、特に防御面に関しては期待しない方が良いだろう。


BMP-3

ロシア製の最新歩兵戦闘車。

100mm砲と同軸の30mm機関砲を備える強力な車両。そこそこ新しいだけに火器管制装置や自動装填装置、暗視設備等をまるっと揃えている。

だが装甲に関しては戦車と比べてはいけない。


・先軍915

北朝鮮製のT-62の面影を残す主力戦車。対戦車・対空ミサイルに125mm砲、同軸機銃に飽き足らず連装グレネードマシンガンまでそろえている、まさに武器のデパート。

そのため補給が大変。


・BTR-80

装輪兵員輸送車こと戦場の武装タクシー。

武装は14.5mm機関銃とアーマーナイトの装甲を貫くことが出来る。


BMPよりは装甲が薄いが、歩兵を守れればそれで良い。水上航行が出来る他、タイヤで走るため整地された場所で最も輝く。

あえて「80」を使っているのは側面に乗降ハッチがあるため。それまでは無かったのだ。

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