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Chapter 18. I"ve been Working on the Railroad

タイトル【線路は続くよどこまでも】

冴島率いる装甲兵団が躍進している間、その中でもひとり執務を続けていた人間がいた。


他でもない権能中将である。


司令官というものはその立場故に戦闘では顔こそ出さないものの、依頼遂行にあたり様々な計画を立てていた。



 その第一号は輸送鉄道計画。


以前では反政府組織やメキシカンマフィアなどのいくら装備が整っていようと、広大な領地を牛耳る正規軍を相手取る戦いとなるとそれ相応の資源と兵器の輸送能力が必要だと感じていた。



冴島に命じたハリソン接収がそれを後押しすることとなったのは言うまでもない。


膨大な兵器と燃料を保有する予定のハリソンと拠点からは30数キロ離れており、舗装されていない地を移動するには効率が悪く、航空輸送と鉄道輸送による大規模改修を中将は計画していた。





————







 これらの輸送体制をそろえるには多くの人員と予算を必要とする。



そのため横浜本部基地とつながった有線回線によって本社側の担当であるロッチナ専務に資料を送信し、返答を待っていたのだ。



専務もこれだけ大きな組織の手足となっている身であるため当然多忙を極めている。

送信してから一週間が経過し、ようやくテレビ電話にて計画書について返答が来たのであった。



【中将もSoyuzという組織が良く分かっているようで私としても助かる。我々もこの空間に対して軍事的ではない価値を見出していた所だ】



【———今のところ、中将の計画に対して異議はないと伝えておこう】



画面の向こう側でロッチナは道化のように振舞った。彼は世界中に支部を持つ各国Soyuz代表者や世界に散らばるCEOの意向を伝える伝書鳩である。


Soyuzを良く思わない国やその時の情勢によって、組織を敵視し軍事力で排除することもあるため、常に居所がつかめないロッチナというメッセンジャーが存在するのだ。




「賛同いただき感謝します。」



権能は画面へ向かって感謝の意を伝えた。中将という階級であってもその上位存在には頭が上がらない。それがSoyuzの特徴でもあるのだ、まるで地球とその上に乗る国家のように。



【飛行場に関してはそちらにいる第一建設機械師団が使える筈なのでそちらで対処してほしい。鉄道に関しては様々な知見が必要となるから、作業は全て本社側が行う事になる】


【本社の稟議(りんぎ)が通り次第、第二建設機械師団と第五鉄道旅団を送るよう現在調整中だ。以上】


ロッチナは声色を変えることなく最後のメッセージを伝えると通話を終えたのだった。





————





 その一方で少佐は言うと権能の指令によりハリソンの街に来ていた。



事は街の制圧後に時を遡ることになる。

拠点に一度帰投した少佐は中将自ら城塞の司令と最高責任者に任命され拠点管理を任されていた。




何より兵士をまとめ上げるという役職であると共に勤務評価が高いことも相まってのことで、ガンテルによって書き起こしされた現地語仕様の契約書片手にハリソン住人に一言挨拶することにまで発展したのだ。




 騎士団の検問を異様な図体どころか武装した兵士をデサントさせたチェンタウロを見せつける事でハリソンへと入り込むと、ディーゼルエンジンを響かせながら街の中央部にまで乗り付けた。



 チェンタウロ訪問の騒ぎはあっという間に町中に広がり、住民は怖いもの見たさでチェンタウロの射程にこそ入るが、触れる距離にまでは近寄ることは決してなかった。



すかさず完全武装したスタッフが立ち入り禁止のテープを張ると、少佐は砲塔上のハッチから酷く音割れするスピーカーと共に屈強な体を捻りだすとハリソンの地に降り立つ。


 住民からすると馬も居ないにも関わらず動く怪しい馬車と、その周りには見たこともない黒づくめの屈強な男たちが展開している。



どう言い訳しても怪しいの一言に尽きる集団であるため隠れて武器を持ち出すものも少なくなかった。あまりの異様さを見かねて騎士団長がチェンタウロの前に現れると、声を荒げた。



「人民に告ぐ、今からとても重要な話があるからよく聞くように」



すると、ここ最近の軍人を見ていた民衆がヤジを飛ばし始めた。



「おーおー朝っぱらから起こしやがって!腑抜けの軍人崩れが何の用だ!」



「この間来た大軍団みたいにやられちまえ!」



「うるせーぞこのデカ男!」



ある一人がヤジを飛ばすと、一人、また一人とヤジが増え騒ぎはあっという間に大きくなっていく。品のないヤジに連日の勤務で疲労をしていた少佐の額に青筋が浮かぶ。



屈強な男と言えど人間、会社の勤務にあれこれと文句をつけられる筋合いなどないのだ。

冴島の放つ無言の怒りがチェンタウロの内部に伝わる。



「想像以上に騒がしいですな。少佐、どうします?」



砲手のアドルフが少佐に声をかける。まるで幼少の頃機嫌の悪いスクールの先生が怒鳴り散らしたかのような緊迫の中で彼自身、額には脂汗がにじむ。



「アドルフ」


少佐は錨を下ろすかのように鈍く、そして着実に怒りがたまっている声で答えた。


「はい少佐」


「主砲榴弾装填、着発信管」



明らかに機嫌が悪い、アドルフは悟った。しかしいつもの冗談とは何かが違う。本物だ、本気で自分に榴弾砲を撃たせようとしている。彼は焦りながら冴島を止めようと口を開いた。



「ちょっと少佐、正気ですか?我々の任は戦闘ではないと中将から言われたはず」



確かに少佐は主砲に弾を込めろと命令した。アドルフは罵声覚悟で命令を聞き返した



「正面、城壁の上を狙え。デモンストレーションだ」



「そういう事なら早く言ってくださいよ全く。今装填します。」



「合図したらすぐぶち込めるようにしておけ」


「了解。装填ヨシ」


デモンストレーションと聞いたアドルフは安心し、命令に従った。

砲弾が装填されたのを確認した少佐はハッチから身を乗り出すと車外スピーカのマイクを取り



「えー、ハリソン人民の皆さん。我々は敵ではありません。どうか落ち着いて、我々の話を聞いてください。大事な話なのです」


スピーカから少佐の声が放送されるが、騒ぎは収まらない。それどころかもっと激しさを増しているようにすら聞こえた。冴島の額の青筋が増えると共に、握りこまれた拳がぎちぎちと音を立てる。



「皆さん、落ち着いて、静かにして下さい。そんなに騒がないで」



もう一度放送したがヤジはとどまることを知らない。むしろ余計に人が寄ってきて悪化しているではないか。


おまけに剣やら妙に実用的なメイスやらを市民は持ち込んでいるとあらば少佐は今にでも砲塔上にある機関銃の引き金を握りたい衝動に駆られるのを抑えながら叫んだ。



「落ち着いてください皆さん。強硬手段を使いますよ!いいんですか!」



3回目の放送にも関わらず騒ぎは大きくなる一方ときている。


どれだけ軍人に対して憎しみを抱えてるかは非常によくわかったのは兎も角、この罵声が真面目に勤務している自分らに向けられていることに腸が煮えくり返っていた。



疲労に疲労を重ね、その上に我慢と我慢を重箱のように重ねた冴島はついに堪忍袋の緒が引きちぎれたのか、少佐ハッチを閉めると


「ぶち込め」


「了解。照準ヨシ」



これ以上冴島に逆らうと何をしだすか分かったものではないためアドルフはおとなしく照準を城壁に向けた。彼の額はところどころ脂汗のオアシスができていた。


「照準ヨシ」


「撃て」



———ZDaaaAAASHHHH!!!!!



チェンタウロの120mm砲が火を噴いた。重く、そして乾いた爆破するような音が周囲に響き渡る。



騎士団がSoyuzに屈した恐怖の音の正体が目の前にいるチェンタウロであったのだ。同時に軍が多額を投じて建設した弓矢から守る城壁がいともたやすく破壊されたのである。


一連の轟音が収まったとき辺りは完全に静まり返った。ふたたびこの街は砲の威力を噛みしめることとなっただろう。





————






「えー、ようやく静かになりました。ご協力感謝します。それではこれから少々大事な事項をお話させて頂きたいと思いますので、そのままどうぞご静粛にお願いします。」



チェンタウロから降りると、マイクを握り静かなる怒りを込めながらそう言った。

しばらく街の沈黙が続くのを確認すると再び少佐の口が開かれた



「先ほどの無礼に関して深くお詫びを申し上げます。我々は独立軍事組織Soyuzという名の集団であり、軍からこの国を開放するために活動しています」


「防衛騎士団の団長との会談の結果、ハリソンに滞在することになりました。我々は異端軍と呼ばれようともそれは結構です。しかし、我々は以下のことをもたらします。



「 まず初めに街の流通を飛躍的に改善します。我々が数百年を経て編み出した技術の塊をふんだんに使い、より速くより多くの物が入ってくるでしょう」



「 次に、あなた方は国からの高い税をかけられていると聞いています。それを撤廃し、自由な経済を作り上げます。権力を不当に使った不条理な条件を押し付けられることも、軍人らによる理不尽な値切りからも解放します。無論、我々もこれらに従います 」




「 続いて、この街を我々が持つ絶対的な力を用いて防衛し、自由を脅かす存在から防衛します。我々の存在が気に入らない帝国軍はこれらの自由を奪いにやってくることでしょう。しかし皆さんは我々の力の一端を目にしているはず。この力が信用できぬとあらば結構です 」



「 そして我々は自由をもたらします。今まで通りの暮らしを営むのも自由、変革するのも自由です。もはや軍人が商店を荒らし、権力を盾に治安を脅かす事は無くなります。繰り返しますが、これ我々がもたらすことです 」



市民はその言葉を疑った。長い時間支配と抑圧に満ちていた彼らにとって、高い重税がかけられ、軍人が横暴を働くことは日常の一コマになっていた。


それが今解放されるという事そのものが理解できなかったのである。



ただ目前にはあれだけ威張り倒していた騎士団がSoyuzという奇怪な組織の前でひれ伏しているという事実。


なし崩しに裏切り者にされ、帝国軍から討伐されてもなおそれから生き延びることができるということも実感することは叶わなかった。


誰しもが困惑し、人っ子ひとり自由と抑圧からの解放に声を上げるものはいない。





—————






 Soyuz拠点では様々な報告と資料を司令官である権能中将は目を通していた。



魔法と呼ばれる軍事転用されている現象に関してあまりに無知すぎることから解析に乗り出していたが出来は兎も角たった数日で様々な実験が行われ、それに基づく考察が記述されていた。



魔法自体のエネルギーこそ検出はあらゆる計測器を用いても幽霊や人魂のように不可能なこと。


飛来する火球は銃砲よりも遙かに速力が劣るものの、火球自体の温度はサーモバリックと比較すると低温でありながら、軽油などに点火するのには十分すぎる事。



それに伴い火災を引き起こす要因となること、また落雷や炎幕なども引き起こすことも可能であることが記されていた。




加えて装甲兵器等には効果が薄いが対人や燃料や砲弾を抱える拠点においては大火災が発生しかねないという考察が付けられていた。



 一度目の帝国軍襲撃の際にも火球は数多く飛来しており、火災が発生しなかったのは現場努力と偶然の重なり合いであることを意味していた。


最悪の場合貯蓄されていた軽油などの燃料に引火し大惨事になっていたかもしれないのだ。



その点、接収したハリソンの城塞内は不燃性のタールで内装が塗られていたという報告が冴島から上がっていたことも鑑みると戦法が明らかに違うという証明になっていた。



いずれにしても帝国軍は我々が牛耳る拠点を火攻めにしてくることは目に見えている上現時点でSoyuz自体の舵を取る本部においても莫大なリスクを抱えている現在、うかつに侵攻を進めることは不適当と判断した。






————





肝心なハリソンの街というと、Soyuzコンプライアンスの訳を騎士団長に着実に渡した後、いくらかの護衛を引き連れて少佐が挨拶回りを兼ねた城塞改修案を練っていた。



この要塞街が陥落したと知られた場合攻撃を受けることは火を見るより明らかであり内部に市街を抱える以上今の設備では脆弱極まりない。



冴島たち一行は城塞外周を乗り付けたチェンタウロのハッチから身を乗り出して見て回ると、今度は内側に戻りメモしていた内容を砲手のアドルフらと共に考案していた。



「監視塔を登りそこから兵員を外壁頂上に送り込むことを考えているのか地対空ミサイルを置けるような場所がないと判明した以上、機関砲か最悪重機を据え付ける必要がある。いかんせん拠点とここは離れているからそう何度も往復することになるだろう。」



少佐はメモをぱたりと閉じてから城壁を見つめてこう呟く。

ミサイルよりは格段に精度は劣ってしまうものの、これでもしないよりはマシ程度だった。


しかし視線の先では大きな問題が今まさに起ころうとしていた。



「それに監視塔を一棟派手にやっちまったな…そこの補強は俺らじゃ到底無理だ。」


二度も120mm砲の榴弾で2度も吹き飛ばしたことを悔いるように少佐は指を握りこんだ。


恫喝する形で接収した以上スマートなやり方とは言えず、住民への説明も十分ではなかった。


そのためハリソンの街を歩けば後ろ指をさされる事も珍しいことではなかった。



「デモンストレーションだからっていって機銃くらいで良いなとは思ってたんですよ。やっちまったことは仕方ねぇですがねぇ。それよりも…」



アドルフは周囲を見渡しながら少佐に話しかける。まるで自分たちが不審者に見られていることは確かであり彼自身も気持ちのいいものでもなかったのである。



「言うな。わかっている。この視線は浴びていて気持ちのいいものじゃあない。工事は兵員を使えばできることだがコレだけはどうしようもならない。俺の責任だ。だがな道は閉ざされている訳じゃあない。それよりも今やることは、ここを奪還してくるような連中を蹴散らさなければならない」



少佐は決意を新たにしながらこう言った。一時的なものとは言えこの拠点の責任が重くのしかかっている今、足踏み等していられない。



クライアントの言っていた反乱軍討伐組織深淵の槍の存在が迫っている中、急速な現代武装化が必要とされている。どのような存在かは戦わねば分からないが、やれることは全てやっておかねばならないからだ。



「結局言ってるじゃあねぇですか。まぁ少佐は責任者ってことでいいとして、住民のどうのこうのを考えるのは兵士のお仕事なんでね。そっちの仕事は任せたんで俺らの仕事はきっちりとこなして見せますよ」



思いつめた顔をした冴島を尻目にしながらアドルフはサムズアップしてそう答えた。


Soyuzとは団結を意味する言葉。

それに属する者は各自できる事で他人のできないことを補いあいながら組織の発展を根差す組織である。



 地球という次元を超越したこの未知の次元であってもそれは変わらない、揺るがないものなのである。

次回Chapter19は6月27日10時から公開となります

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