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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅳ-1.帝国戦役 ペノン侵攻
205/327

Chapter180. Dreadnoughts Extinct Weapon

タイトル【恐怖の民族絶滅兵器】


——ウイゴン暦8月13日 既定現実8月20日 午前9時25分

ベストレオ破壊地点



全長1200mにも及ぶ兵器に調査しない訳もなく、フィリスをスーパーバイザーに添えた学術旅団や建設機械師団。それに加え屋内制圧の特殊部隊Gチームが参加している。



内部に入った際、抵抗される恐れがあるためだ。



だが現地に到着した瞬間、誰もがこのふざけた大きさの兵器を前に匙を投げだしてしまう。



「何、あれをバラして機構を調べろって?何をおっしゃいますか。死んだガリバーを解剖するのと同じです。一日二日じゃとても……。一週間どころか3か月は欲しい所です。」



中将の命令に加藤は思わずこう返す。



ビルなら爆破解体して終わりだが、これは兵器。


戦艦大和3か4個分の大きさがある。



そもそも、明らかに風景かと思うくらい縮尺が狂った大きさの物体を分解するまではいいが、なおかつ内部構造を調べろとは良く言ったものである。



整備班も同じ理由で来ていない。



榊原曰く、ベストレオがネジと部品で動いてるなら構造はまだ理解できる。だが、物理学で動いてなさそうな機械なら俺たちが行っても無駄骨になる。



との事でフィリスを押し付けて兵器の整備に戻ってしまった。



決してあの嫌味の塊とも言える魔女が面倒だとか、腹が立つというものではない。

餅屋には餅屋、という慣用句があるように専門家に任せるのが一番良いからである。



「あの男も野蛮な兵器を作ったモノです、私の時間を返していただきたい。さて、私の貴重な時間を吸って作った代物を見てあげるとしますか」



いつも目を開けているのだか開けていないのか、さっぱり分からない仏顔で毒を吐き倒していた。


彼女曰く、ベストレオは野蛮な兵器だという。


同行している阿部はマッドサイエンティスト的な一面は潜めていた。



「趣味道楽で人質兵器を作るような人間に言われたくないな…」



たった一言の悪態に、フィリスはフクロウの様に音もなく素早く振り向いた。


「今、なんて?」



「……うちの教授にそっくりだと思いましてね、才能も性格も」



「そう」



阿部は一刻も早く帰りたい様相で作業に移る。


他人にどうこう好き勝手にパワハラをするのは気にならないのに、自分の事を少し言われたらこの有様だ。


正直、死ぬほど大嫌いな海原ですら御仏に見えてきた。







—————————————








ベストレオの脚部が分離したというので、どうなっているのか覗き込んだフィリスだったが、何か様子がおかしい。


自分に対する悪態を検知したかのような速さで振り向き、愚痴を漏らした。



「貴方がたは気の毒でした、ただの時間の無駄ですね」



回りくどい言葉に嫌気が差した阿部は目を細めながら詰め寄る。



「プロバイダー会社がしそうな言い方しやがって……。申し訳ないが率直に言ってくれやしませんか」


すると既に答えがプリセットされているかのように答えて見せた。



「無理、不可解、不条理です」



「だからどうしてです」



「だからそのままです。要領が悪い人間、私非常に不愉快なので【あえて】わかりやすいように言いますが」


「いくら師であろうとも、こんな訳分からない機構今まで見たことがないんです。まして教えた覚えなんてのもない。お手上げなんですよ、こんなの」



ファゴットが作り上げていたベストレオは、師匠であるフィリスという専門家ですら理解できない代物と化していた。



もう誰にも止めることのできない、けた違いの才能と常識外れの努力家が生み出した狂気の沙汰である。



こんなもの、多少嫌味なパイオニアごときが見てわかる代物ではない。



「専門家がダメなら私たちもダメだ。……諸君。ギンジバリス市で食いたいものは何かあるか?」



「死ぬほど貝料理が食べたいです、先生」



「私はいいが、ノロウイルス拾ってきたらバイオテック直行だからな」



文字通り手も足も出ない現状に阿部も匙を投げてしまう。


その一方で後方に控えていた突入チームと医療班、そして建設機械師団は内部調査に向けて動いていた。



特にGチームは重量配分の関係でミジューラがおらず、彼らには酸素濃度測定器が支給されている。誘爆や火災が起きたことが観測されており、低酸素環境が存在すると考えたからに他ならない。



作戦前はゴードンが休暇中に見ていたハリーポッターのせいで、フィリスがどう考えてもアンブリッジにしか見えないなどと言って、トムスやニキータに指摘されていた。



しかしいざ作戦になると皆の目つきががらりと変わる。



51cm徹甲弾が撃ち込まれた箇所を建設機械師団の重機でこじ開けて侵入口を作ると、一斉になだれ込んでいった。



彼らは一言も口にすることなく奥へと進む。



率直に言って、破壊された巨大兵器の中は廃屋のそれだった。



横転した影響か辺りは真っ暗で様々なモノが取っ散らかっている。


早速暗視ゴーグルを起動して辺りを伺うと、侵入者対策に備えていたと思しき刀剣や短弓。

それに兵士の私物が転がっていた。


この様子だとこの中に留まっている生存者はいないのかもしれない。


フォーメーションを組んで気を配っていると、時折大きな風穴が開いており戦艦からの徹甲弾がいかに巨大なのか理解できる。



「生存者発見」



そんな時、珍しく軽装なトムスが貴重な生き残りを発見。ニキータに報告を上げた。

銃を突き付けても特に反応する様子もなく、交戦意思を削がれているようである。



「ボディチェックを済ませ医療班に回送しろ」



彼は少しでも可能性があるならば即座に疑うような男である。

我々人間はつくづく小賢しいため、気力がないフリをしている可能性も無碍にできない。


死んだふりは実際有効なのだから。



「了解」



銃片手にボディチェックを行っていると背中には手槍、懐からは短刀が出てきた。



「俺をどうしようってんだ」



今更ながらGチームらFSB特殊部隊装備は現地人にしてみれば影が勝手に動いているようなもので、もはや怪奇の類に思えるのも無理ない。



そんな問いかけにトムスは淡々と事実だけを返しつつ、ゴードンへと目線を向ける。



「俺は医者じゃない。何されるかは医療班の連中に聞け」



彼からの回送任務を引き受けたゴードンは、無言で肩を貸して医療班の控える背後へと足を運んだ。



フィリスの事をアンブリッジだと言って馬鹿笑いしてたのがそこまで気に入らなかったのか。

そもそもトムスも含み笑いをしていた癖に、今更聖人ぶって自分の事を注意してきても遅い。



差別や人権問題に鋭い隊長が殴りかかって来て、ようやく事の重大さに気が付いたのが幸いか。



ゴードンの秘めた人間性はそう言っているが、今は任務中。ただひたすら命令を受けたマシンのように怪我人を後ろに回すのだった。









———————————————









「少し酸素薄いな。散々誘爆した後だろコレ」



後方に控えているクルーニーらは酸素濃度を計測しながら準備している。

どうにも空気が薄いが、ただ不快なだけで最深部は殺人的ラッシュと同程度だろうか。



だが、今揃えている設備は軽症者の応急手当や搬送する際の時間稼ぎ程度には十分。

治療は正に時間との戦い。


少しでもタイムリミットを引き延ばすことは極めて重要だと言えよう。



その事を耳にした医療スタッフが話題を拾う。



「ですね、仕留めた後しばらく爆発や火災が絶えなかったそうですし。実習……ちがう、彼女に聞いてみましょうか……というか物理学者先生たちがどうのこうの言ってたような。——たしか」



彼曰く、あらゆる機器を通して検知することができない魔法とはいえ、変換された後に生じた炎や爆発は本物だという。


突然いわば焼却炉の火だけがポンと現れた状態となり、そうなれば酸素を喰らいつくすのは言うまでもない。



「俺、理屈まで聞いてないぞ。……何?早速負傷者?了解」



そんな事を喋っていると、早速急患がやってきた。




「えぇと、右下腕部表層Ⅱ度。上腕表層Ⅰ度」



クルーニーによって徹底的に教え込まれたヘトゥは医療知識をスポンジのように吸収。もはや看護師と差し支えないまでになっていた。


火災に見舞われたのか、怪我の具合は中程度火傷というところ。

だがされども火傷、命にかかわる。


「よし。フィブライト後に軟膏で保湿する。用意急げ」



フィブラストスプレー。火傷などに使う再生促進剤を指すが、ここでは似たようなことが出来る魔導処置を意味している。


その処置もすぐに終わり、外に控えている輸送用Mi-8に積み込まれていく。



その一方最前線では、低酸素状況が悪化するばかりで引き返さなければ命が危ない状況に陥ったため、ふりだしに戻るようにして入り口まで戻っていた。



「酸素警報器が鳴っても平然としてたって?なんなんだよアンタら、バケモンか。ともかく、それだけヤバイならもう生存者はいないだろう」



「こちらで回収しきれたのは内部から一人、あとは助けを求めてきたヤツらがざっと12人。まぁ案の定、本部送りだあね」



医療チームの隊長とも言えるクルーニーはGチームの報告に呆れながら、本部拠点に送った救護者について説明を始める。



「了解。学術旅団の方はどうなんだ」



有能な医療班のお陰で今日の自分達があるというもの。ニキータはそう思いながら姿どころか音沙汰がない旅団の進捗を確認したいらしい。



「あー…。それ聞く?先に帰っちまったよ。ただでさえ魔法が訳わからんっていうのにその理論を下敷きに意味不明なことをしてるんだとさ」



「多分、物理学者に3回見せたら死ぬんじゃねぇかな。呪いの絵と同じ類で」



残念ながらニキータは呪いというものを信じる口ではない。シャーマンは大概撃てば殺せると信じているからである。



「……そうか」



調査は何をしてもダメだった。



ベストレオは不条理・理解不能・謎機構の雨あられ。

魔導と機械技術、それを基軸に発展した話をされれば吐きそうにもなる。


学術旅団、ファゴットを育てたフィリスですら匙を投げ、どんな建物も解体するプロですら頭を抱える代物だ。



そもそも、異次元を観測しそこへ飛んでしまった掟外れの理論物理学者が作り上げた理不尽極まりない物体。


ボールペンのように分解して解析しようとはいかなかった。



魔導学と物理学とかなりの機械工学が組み合わされたキマイラなのだから。












—————————————













——ウイゴン暦8月13日 既定現実8月20日 午後18時49分

本部拠点




救護人の中に精神衰弱者がいるという事で、早速ある人物が宛がわれた。マリスである。

クルーニーらの応急処置が行われていたため火傷の様子は良いらしい。



「どうも。僕はマリスと言います。ただ話に来ただけです。どうぞご贔屓に」



思いもしない特別ゲストの登場に、ベストレオ兵は困惑している。尋問でもされるのかとでも言いたげだ。




「俺はあんなモンに乗ってた。機密情報というのを聞きたいんだろうが、下っ端を叩いても出てくるのは埃ばかりだぞ」



だがマリスにとってそんな機密情報を持っていた所でどうでも良い。国家機密よりも趣味でやっているクオカードを貰った方が嬉しい程だ。



「いえ……別に。聞きたいのはそんなことではありません。そうですね、何でも構いません。例えば地元の話とか」



どんな機密に触れていようと人間であることに変わりはない。特にただの兵ならばストレスもたまる上にぶっちゃけたいことの百、二百あるだろう。



最も、そんな誘導尋問をするつもりはないのだが。



「……俺の地元は……ペノンのヴェノマスだった。帝都に近い、なだらかな海で……。それもずいぶん昔の話だ」



「なるほど、私の地元は——」



何気ない会話だが、これが大きなことに繋がるとは夢にも思わなかった。


次回Chapter181は3月11日10時からの公開となります。

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