表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅳ-1.帝国戦役 ペノン侵攻
204/327

Chapter179. Unexplored world

タイトル【未踏の世界】

——ウイゴン暦8月13日 既定現実8月20日

アルス・ミド臨時空港 滑走路



【こちらCloud01離陸します】



【了解。1番滑走路を使用せよ】



管制塔の指示を受けてアルス・ミド空港から、一機の偵察機が飛び立とうとしていた。



だがいつものOV-10ではなく、高速偵察機と名高い彩雲が充当されている。

もっともブロンコは地竜との戦いで撃墜されてしまったからだ。



実際の所。中身は何時もの機長と副機長の二人に変わりはなく、もう一人別のスタッフが乗務。




管制塔から指示を受け、1番滑走路から離陸をするため機体を加速させた時、機長は口を歪めながらヤジを飛ばす。



「毎回思うが……なんだコイツ、本当に70年前の代物か?」



武装はミサイルが積めるOV-10と比べるまでもないが、ずば抜けて加速が良く不気味になってくるほど。


それほどのスペックが求められていないとはいえ、とても旧式機とは思えない。

コノヴァレンコが色々な乗り物を乗り回す気持ちが良くわかった気がした。



「ブロンコと違って速度が出ますからねぇ、もうクソッタレに会うこたぁないでしょう」



成熟訓練には副機長も付き合わされている。今までが乗用車なら、(さなが)らスポーツカーのような速度は身に染みていた。



「全くだ」



フェラーリに乗ったような気分で機長が答えると、彩雲は空へと旅立っていく。










——————————










本作戦は未知の大型兵器による痕跡調査と共にナンノリオンを通過。そこから南に向かい迂回ルートとして知られるぺノン県に抜け帰投するというルートを取る。



こういった順路をスタッフは「周遊」やら「ツアー」などと呼んでおり、現実世界では往々にして行われてきた。



だが今回は偵察対象が一つだけだったこともあってか、今回がU.Uでは初となる。

三人目の男もそれについて気になったのか、副機長に話題を振った。



「そういえばU.Uではツアー任務なかったですよね」



「基本的に攻める場所が一つだけなことが多くてねェ。ここに来てからイレギュラーな事ばっかり。先日は叩き落され……命がいくつあっても足りやしない……ですよね、機長」



対空兵器がない帝国軍、選りにもよってファンタジー世界に出てきそうなドラゴンとキャノン砲のサイボーグに叩き落された事さえある。



それはまだいいが、100発を超えるスカッドを撃ち込んでも全壊しない城など数えればきりがない。

情報がなければ幾度となくSoyuzは負けを見ていただろう。


古今東西、代わらない理の一つである。



ソ・USEから地形データが消失した。制圧されている県には必ず基地局を置いているため、此処から先は全く持って未知の領域。



彼らのような人間を正しく冒険者と言うのではないのだろうか。



魔導県ナンノリオン。



Soyuzだけではなく現実世界で何千年と培ってきた科学技術が通用しない土地。

ここは絶滅兵器の故郷。


様々な謎を孕んだ場所に彩雲は足を踏み入れた。








————————








———ナンノリオン県近郊

アン・ハーンギルド地帯



ファルケンシュタイン帝国の進める「人口集中地区一極化命令」には特例がある。



産業を維持するために必要なコロニーはこれに従わなくとも良い、というものだ。

故にゾルターンでは各それぞれ村が存在した訳である。



当然、産業を維持するために必要なコミュニティ・コロニー。


もちろんナンノリオンに存在する。

それは手工制ギルドの集まり、通称アン・ハーンと呼ばれる地域だ。



シルベーからペノンを経由して運ばれてきた魔石や魔力草を加工し、魔導士の弾薬とも言える魔力水を生産するだけに留まらず、魔具を生産する主要拠点である。



ファンタジー的な便利道具から、大量殺戮根絶兵器までここで作られたと見ていいだろう。



そのため輸送、道路網はゾルターンの比にはならない程発展しており、第二の帝都とも名高い。故に空から見たアン・ハーンは、最盛期デトロイトと言っても過言ではなかった。



「なんだこりゃ……」



端から端まで立ち並ぶ石造りの建物。合間があると思えば整備された道路。

通って来たシルベーやゾルターン。ジャルニエがいかに田舎だったかを思い知らされる。


よく見ると建物は二階から三階建ての建物が多く、4層あるものさえ垣間見えた。



まごうことなき、次元が違う場所である。



【敵機確認、距離20000———17000】



副機長がアルス・ミド空港管制からの報告を受ける。

レーダーを積まない彩雲にとっては空港に備えられたレーダーが全てを教えてくれる道しるべなのだ。


だが妙な事がある。


報告によればメーターの値が恐ろしい程目減りしていると見て良い。

今までよりも初動が格段に速い、最早速すぎるのだ。


当然帝国にとって最重要都市であるため、早速竜騎兵が上がってきたに違いないだろう。



彩雲は高度を6000mまで飛び上がり、敵を振り切ろうとする。







—————————————









雲海広がる高高度まで来ると、さすがに飛竜も太刀打ちできず航空機の独壇場となる。

しかしここはナンノリオン。


今までとは一味違った。



「明らかに動きも速いが……問題なのは練度と根性も並大抵のものではないな」



そう言いながら機長は一息つく。



「なんせ4500まで上がってくるんですもんね、今までじゃ絶対にあり得ない」



副機長が言う通り、迎撃に上がったドラゴンナイトは今まで経験したことのない高さまで追いかけてきたのである。



今までは高くて1000か2000だったものの、此処まで高く上がってきた例はほかにない。



飛竜を使役しているのは人間ではなく、死神に違いない。

彩雲に乗った誰もがそう確信していた。



追手を振り切った後、高度を維持したまま暫く飛行していると、鬱蒼とした山のような丘陵地帯が見え始めた。



恐らくナンノリオンはここを開拓したのだろう。

そんな矢先。



「アレなんでしょう。こんなとこで噴火するはずないのに何で穴が。それに周りがぽっかりないんです」



「よし。カメラをズームさせてみよう」



第三の男がキャノピーに張り付き、地上を指す。

天からは小さなものだったが、偵察用のカメラがズームアップした途端。


噴火後よりもタチが悪いものが映り込んだ。



「こいつは……!冗談じゃねぇ!」



穴から先の木々がすっぱりと消え、周りは火災でも起きたのか有機物が全て炭化していた。

まるでジオラマで大火災を起こしたかのような惨劇。


正に世紀末と言っても良い光景だが、残念なことに此処は縮小モデルの世界ではなく現実世界の話である。



ベストレオが建造されていた工場に間違いない。機内の誰もが確信する。



だからこそ竜騎兵は血眼になって追ってきたのか。

あの禁断の森を突っ切ってやってきたのか。


すべてに合点がいく瞬間だった。










———————————————












恐るべき真実を目にした彼らは即座に画像データを本部へと転送。

こうすれば理不尽な兵器を使われて叩き落とされたとしても、今更遅い。



ある程度偵察を終えた彩雲は南下し、帝国の支配下であるペノンへと向かった。

ここはあくまでナンノリオン、ひいては首都への道となる場所。


想像しやすいものと言えば、首都直結ハイウェイか。



此処を制圧するか制圧しないかで難易度は大幅に変わってくるだろう。

超兵器は眠っていないだろうが重要な任務に変わりはない。




——ペノン県 ナンノリオン境




一通り全体を見回した後いよいよ軍港県ペノンへと侵入する。


早速レーダーに反応はあったが、反応は遙か下。


それなりに重要なのだろうがナンノリオンの猛者と比べて根性は見られない。


一言で表すならば鎌倉のような場所。

高低差があるため陸側から攻めにくく、海は交易を行えるようになっているのか。



軍港を兼ねた市街が3つ。軍事拠点と思しき施設がざっと12近くある。ゾルターンを制圧された以上、ここが補給線となっているのだろう。



ここまでは街並みからしてただのイギリス港町。だが相容れない場所が一つあった。



「アレなんです?洋上プラントですかね」



第三の男は少しでも違和感を覚えた所を的確に指摘する。

その先にあるのは、海底油田を採掘プラントのような人工建造物。



ギンジバリス市では見られなかった、まったく持って未知の施設である。



機長がズームを利かせてみるも、洋上ドッグの類とは思えない。門構えの端に似たような何か。いずれにしてもここで正体を議論するべきではないだろう。


彩雲はアルス・ミドに急ぐ。








——————————————









——本部拠点 司令部







偵察機から得られた情報を基に、本部では帝都まで一気に駆け上がるべく作戦を立案していた。

中将が今まであった出来事を振り返るように呟く。




「うむ……。此処から出撃し、試験射撃を行った……。そして樹海を横断。ギンジバリス市を破壊ないし制圧後に本部へ向かう…という筋書きになるな」



その一方、モニターに表示された地図に侵攻ルートが伸び海岸で途切れた。



過ぎ去った話はどうでも良い。いかにして先に起こることを予測するかが問われてくる。


クライアントの話によれば動ける2号・3号機を建造しているという。


嘘はついていないのだろうが、敵もそう易々と戦略兵器の尻尾は見せる訳がない。


そこで一つ、頓智を使うことにした。



「俺なら……どこに隠す?」



相手にしている帝国は国家だ、その辺の武装集団とは頭脳が根底的に違う。

下から上までがプロが揃っているのだから。


だからこそ自分が敵の司令官ならどうするか。発想を逆転して考えた。



推定キロ単位の兵器を建造する時は必ず物流の風通しが良くなければ実現は不可能。

ナンノリオンでは道路が発達をしているためデカブツが作れた訳である。



自分なら沿岸に建造ドッグを作る。陸上ないし航空偵察で発見されない地下に。


それなら強固な要塞で囲おうとも思うだろう。だがあれだけ巨大な兵器を作るなら地下の方が良い。



同じ場所を使い回せばSoyuzも攻撃してくるだろう。


機密情報は分散させた方が得策だ。



利便性・隠密性を備え、出来る限り帝都に近い場所。



答えはたった一つ、ペノン県だった。












———————————













だが改めて考えて欲しい。

機密情報は分散させるべきだが、ここでのトップシークレットは「機体の詳細情報」である。



つまる所、設計図の原本やスペックあたる。複数作るなら猶更で、厳重に保管しているはず。


たかだか下請けのペノンに情報を置くだろうか。

強固なセキュリティで守られているナンノリオンに置くのが自然だろう。



製造はペノン、仕様書はナンノリオンにあるとしたら。

それに他の禁則兵器がまだまだ眠っているとしたら。


やることは多い。



最初にゲンツーの街を徹底的に調査、届け先を燻り出す。何せ建造物は極秘兵器。

全て徹底的に調べ上げる必要が出てくる。


そこからナンノリオンにある情報を奪取、起動される前にペノンのドッグを抑えなければなるまい。



一号機が落成した以上、恐らく二号機は既に完成しているか進捗9割と言ったところ。



それにあの帝国は「負け」から確実に学習し、次に生かしてくる集団。


ギンジバリス市に目もくれず内陸の本部を襲ってくるに違いない。



最初に出てきたヤツはわざわざSoyuzに倒され、戦力を図るために投下されたのか。


射程の届かないところはどこなのか探るために。



少なくとも戦車砲や主体砲、スカッドすら傷一つ着けられるかどうかの相手だ。


起動して超大和の射程外になる内陸に移動されたら最後、次こそ核しかなくなる。



向こうが本気ならこちらも全力にならねば全部叩き潰されかねない。


善は急げ。



次回Chapter180は3月4日10時からの公開となります。


登場兵器

・彩雲

日本旧海軍の艦上偵察機。

水上偵察に使われる他、艦上から飛び立つため滑走距離が少なくて済み、滑走路が長くない突貫空港と相性が良い。

戦闘機でもないのにずば抜けて速く、OV-10と比べかなり無茶は出来るが何事もほどほどに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ