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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-8. 対 究極兵器 後編
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Chapter178. Like Sandcastle of Dreams

タイトル【夢は砂城のよう】

司令官を失った大型兵器はカカシ同然だ。

戦車・軍艦などでは顕著である。


動きが鈍くなった瞬間、自慢の脚部が誘爆により倒壊。



ゾルターンとギンジバリス市に広がる低木帯に悪夢の民族絶滅兵器は倒れた。


いい的になった大鉄塊にスラーヴァ級とナジンから発射された対艦ミサイルが止めとなり兵装が全て破損。



戦う力を全て剥ぎ取られる形になり、夢は砂城の如く崩れ去った。




Soyuzを本気で滅ぼしかねない悪夢をついに撃退した尾道では誰しもが独立記念日のように喜び、本部拠点でも歓声の嵐が沸く。



その中でも司令系統と、殿下だけは様子が違っていた。



「———Haff……」



ソフィアは自室で深淵のように深いため息をついた。


憂鬱になることはあっても、現実から逃げようとしなかった彼女らしからぬ光景にエイジは伺いを立てる。



「殿下。いかがなさいましたか」



「……いえ」



この感情はエイジには到底わからないだろう。


ガビジャバンの「絶滅および根絶」を目的としてもたらされた、ただ破壊を生むだけの殺戮のために存在する悪の機械兵器。それに偉大なる神々の名前を付けているのだ。



おこがましさと狂気を濃縮して混ぜた兵器がようやく討ち取られた訳だが、正直言って安心したとは言い難い。



帝国の手の内を知っている彼女からすれば、必ず2()()()を作っているはず。



証拠や論を出せと言われたらお終いだが、祖国の軍人たちは決して無能ではないし戦略的価値のある兵器がたった一つで済ませる筈がないのだ。



なぜ負けたかを冷静に分析し、次の戦いでは必ず滅ぼしにかかってくるだろう。


Soyuzが持つ最大戦力、戦艦で倒せたという事は逆説的に「陸に現れたら手も足も出ない」ことになる。



もしそうなったら。正直考える事すら恐ろしい。




殿下の相容れない様子にエイジは干渉しない事を選んだ。


誰にだって一人になりたい時が存在する。幸いここは敵襲のないSoyuz本部拠点。


遠くから見守る程度でそっとしておこうと思った彼はこう言い残した。



「お水を持ってまいります」



あの兵器について従者の自分も知らなかったが、規模から鑑みてマトモな戦争をするような代物ではないことは分かっていた。



その設計図や作り手の意図をまじまじと感じてしまったのだろう。


エイジは出来る限りの解釈をしつつ、イグエルの下へと向かった。












———————————






「イグエル様。ご気分をお伺いにまいりました」





担当の者が違うとはいえ、若い頃は二人をよく間違えたものだ。

だが今や専属の従者が居ないため、彼女は独りぼっちなまま。もうこの世にいないのだ。




異端、もといSoyuzの文明や様式に馴染めないのもあるが、この頑固な性格が起因しているのかもしれない。



「……エイジか!私たちを痛めつけた忌まわしき帝国軍がついに……帝都に戻れるかもしれん。そうすれば……いや、だから私はダメなのかもしれんな。聞かなかったことにして欲しい」




サングラスを常にかけているせいか、目の表情が伺えないものの「悪意の兵器」に気が付いていないお陰で喜んでいるように見える。



「……いえ。イグエル様。何も間違ってはいません。絶望の軍事政権が倒れようとしているのです、元の帝国が戻ってくる日も近いかと」



そうだ、元の祖国が戻ってくる事は望ましいことなのだ。殿下はその約束を取り付けているし、傀儡国家にされることもない。



なんだ。この言いようのない重さは。

喜ばしいはずなのに。エイジは筆舌しがたい空気に負けそうになった。



表現してみようと思ったが、強いて言うなら違和感か。


皇帝陛下は新しい時代を望んでいるはず。




古いままで良いのか、それで本当に解決するのかと。



事実、軍事政権になって逃亡という名で街を巡って来たがそれなりに新しく発展し始めた街、そして旧来からより繁栄を遂げた都市も存在する。




それを戻したところで、旧来通りになればすべてが振り出しに戻る。



収益が減った勢力がまた、と考えると第二第三の軍事政権が誕生して同じことを何度も繰り返すだろう。



戦火はなかなか消えそうにないのが現実だ。平穏な帝国を取り戻せるかと言われれば怪しい。



だからこそ、古いやり方と曲がりなりにも発見されたやり方を折衷しなければならないのだ。

これが違和感の正体か。



「なら良かった、私は——」



それらしい相槌を打っているが、イグエルの言葉はエイジに届かなかった。










—————————————










——本部拠点 司令室



居ても立っても居られないソフィアは、クライアントの権限を使って中将のいる司令室に押しかけていた。


悪魔に次ぐものを知らせるために。



「はい。私が見てきた今の祖国は、将来のためならば惜しみもなく資源をつぎ込んでいます。既に実証性を確かめている以上、2号、3号と作られていると見ていいかと…思いまして。」




「心苦しい事ですが、祖国の軍は無能ではありません。必ずしや今回の戦いで得た経験を次に反映してくるでしょう」



「……それに海からの攻撃でようやく破壊できたのなら私はこう考えます。【内陸で始動させれば問題ないのでは】と。」



「ほう。それは興味深い」




中将は面白い推察に興味を持つが、あくまでそれは論上でしかない。確固たる証拠がなければ動くわけにはいかないのだ。



一種の挑戦である。


権能は親指を口元に当て、この推察の肉付けをできるかと言いたげだ。



学者肌の殿下がその程度でフリーズする筈がない。



「破棄、抹消される前に図面や仕様を読んだことがあります。恐らく目を通したのは私か父上だけです」



「それを前提に話を進めますが()()()()()()と書かれてあるのを記憶しております。

もともとが無理難題な計画、これが何者かの手によって現実になってしまった以上……」



「複数建造されている、ないし予定されていると考えても自然ではないでしょうか」



寝た時に見る悪夢よりも何十倍質の悪いものが具現化している。明らかに帝国の技術水準を超え卓越した何者かによって。



今の帝国軍は厄災・悪夢・天変地異を人為的に起こせるだけの技術力がある。

そう考えた結果だった。



「考慮に入れておこう」




機密情報を知りえたのは行方が知れない皇帝陛下と彼女だけ。今まで見てきた状況からするに、嘘はついていないだろう。




それに地上であんなものが出されたら、今度こそ核以外で止める手立てがない。

動き出すか、完成する前に潰さなければSoyuzの持つ残機既に0、そしてゲームオーバー。



こうならないため、我々は帝国軍のフィールドに存在する伏せカードを見つけ出さなくてはならないのだ。








———————————













既定現実世界 虎ノ門ヒルズ某階

Soyuz本社 専務室










所変わってここはポータルの先、我々が住む日本の東京虎ノ門。


ロッチナは半ば缶詰になりながらデスクワークをこなしていた。



彼は国際軍事組織Soyuzの「腕」であり「目」である。


眠らない巨大組織に所属している以上休みは早々やってこない。その代わり多額の給与をもらっているのだが。



傍受されない専用インターネット回線に接続したノートPCに一件のメールが届く。

虎ノ門の採用担当者よりも多くやりとりする彼は、その知らせに目を通した。



「……ふむ。いよいよ匂いが漏れ出してきたようだ……。ゴミは速めに袋に入れて外に出さねばなるまいな」




送信元は横浜市瀬谷区にあるSoyuz横浜本部基地からで、ポータルへの3重セキュリティを5重にした旨だった。



理由は挙動不審な組織を怪しんだアメリカ諜報機関 CIAの痕跡が見つかったから、との事。




何故、大量の兵器や資材を平和な日本に運び込んでいるのか。



散々軍事機密だと言ってきたが、手癖の悪いアメリカは待ちきれない様子。

サイバー・セキュリティを強化した矢先の出来事であり無視は出来ない。



何者かが物理的にポータルへ侵入しようと画策していても不自然ではないだろう。



検疫的にも、それよりも機密保持のため物理的侵入だけは阻止する必要が出てくる。



だが目障りにも程があるCIAはあの手この手でSoyuzの内情を探ってくるに違いない。

何か根本的な対策はないモノか。



ロッチナはキリマンジャロ・コーヒーを口にしながら思考を働かせる。



「敵の敵に話をしてみるとするか……」



ため息交じりに案がこぼれた。








——————————————









昨今では垣根がなくなったものの、おおよそ半世紀前。世界はアメリカとソ連、西と東に二分されていた。





その遺恨は根深く、現在でも両者の関係は一定の距離を保っている。


彼氏と別れた女と同じように。



ステーキ肉汁のようにまとわりつくアメリカの手を逃れる方法は一つ。



思い切ってロシアに話を付けることだった。

よく考えれば、洋上ポータルはロシア領海内にある。



どちらにせよ話を付けなければならないのは変わらないが、時期が早まっただけに過ぎない。




——国後島





以外にも彼は日本国内からそこまで離れていない北方領土の一つにやって来ていた。


アメリカからも、どこの国に干渉を受けにくい島である。



海岸沿いに並ぶ異国情緒あふれる赤い屋根の建物と、遠くに荒々しい島影はここでしか見られない風景だ。



「バカンスをするには少し肌寒いな。時間が許すなら温泉でも楽しむとしよう……」



日本では北方領土と呼ばれているが、市街に掲示される看板に掛かれている言葉は全てロシア語。


護衛を連れて街に足を踏み入れ、例の場所へと向かった。

そこはSoyuzが建てた窓のない個室が広がっている。


窓どころかコンセントの1つすらなく、何が何でも傍受されたくないのは言うまでもない。




アメリカやイスラエルに知られたくない話題をするには大抵ここを使っている。



先客が既にいるようで、扉を開けると背広のロシア人が待っていた。



「バカンスのために呼びつけたのなら私は帰らさせてもらう。」



「そんなまさか。慰安旅行も一人で行く主義でしてね」



「冗談さ。要件を聞こう」



この男は親切なロシア人、としか言いようがない。ある種国家版のロッチナと言っても過言ではない。


この男、やたらプーチンにそっくりだが、気のせいだろう。



つまりそういう人間。深堀りすれば生きて帰ってこれるだろうか。



「単刀直入に言わせてもらうが……」



Soyuzの目と耳は事のあらましを口にし始めた。



「ほう…。到底信じがたい話だが…。これで腑に落ちた。あの海上プラットホームに海賊狩りの巡洋艦を送り込んでいたのも、あんな亡霊まで。」



ロシア人からしてみれば、どうして隠ぺいするのか、そして何故ロシアに頼ったのか全てに合点がいく。



こんな事実、CIAが喜んで本国に持ち帰りそうなもの。


資本主義者の性格からとして中国に渡したくはない筈だ。

だからこそお得意様に打ち明けることができたのだろう。



「それで?当然こちらに要求したいことがあるのでしょう」



その言葉を受けてロッチナはすらすらと要求を述べた。



「…お話が早くて助かります。申し訳ない。例の地域では我々は依頼を受け、現在戦闘中です。上層部の決定で、事態解決から一定期間を置いて世界に情報開示するつもりではあります」


「それまでの間、我々は使用料をお支払いします。……決して詮索はなさらぬように。たとえそれがお抱えの新聞屋(FSB)でも。」



「それで…メリットはあるんでしょうな」



外交は慈善でやってる訳ではない。当然何かの利益のために同盟などを組んでいる訳である。当然と言うべきか、こう聞かれる事は織り込み済み。



「えぇ。一般開示後、開発の一部優先権をロシア国内の企業に与えることになっております。それに上の者は例の世界にどこの国も入れるようにする、とは一言もおっしゃってなかったので。優位に立てると思いますが」


Soyuzは各方面の国や企業がしでかしている事を全て知っている。

そのためこうした入場制限を設けることになっている。


か弱い世界が帝国主義の悪意に貪られないように。



「……ここまで知ってしまった以上、考慮しない訳にはいきませんな」



この利権を断るわけにはいかない。ロシア人はこの条件を呑む。



「お後がよろしいようで、感謝します」



世界の見えないところで暗躍する。


Soyuzはそういった裏の顔を持ち合わせているのだ。



次回Chapter179は2月25日10時からの公開となります。

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