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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-8. 対 究極兵器 後編
202/327

Chapter177. The future is a closed book

タイトル【未来は閉ざされた本の如く】

究極の民族浄化・絶滅兵器【ベストレオ】とSoyuzが持つ最大級の戦艦「尾道」との一騎打ちが始まった。



中将の指示で火力・防御力も不十分なナジン及び、重巡洋艦 大田切はギンジバリス港へ撤退。

火力支援として対艦ミサイルや空爆は行われるものの、気休めにしかならないだろう。



ヤツに直接ダメージを与え、確実に倒せるのは世界最大の艦砲51cm連装砲だけである。

ただ闇雲に榴弾を撃ち込み続けても弾切れからの滅亡が待っている。



一つのミスが命取りになる極限状況。艦長はこう命じた。



「徹甲弾を使用し、敵主砲を破壊せよ」



見ている限り爆風にめっぽう強い怪物だが、スカッドや対地ミサイルを撃ち込まれて対空砲と思しき武装が破壊されていることが報告されている。



これが正しいなら、防御力はこの超大和型に劣るのは確実。


ならば装甲を貫ける徹甲弾で内部機構をズタズタにしようというのだ。



————VooOOOOOONGGGGGG!!!!!——



希望の砲撃がベストレオの首、丁度発射口に向けて放たれる。

51cm連装砲、はたまた数tの物体が次第に遠くに向けて飛翔し、見える大きさは小さくなっていく。



【弾着確認】



砲雷長が敵目標に弾が当たったことを艦長に知らせた。

これが吉とでるか凶と出るか。









—————————————









———ベストレオ内部




船が動く速度などたかが知れている。


ジェット戦闘機やレーシングカーのように動き回るものではなく、海上に浮かぶ290mと非常に大きい物体であることを忘れてはならない。



「砲撃用意。狙いは異端船!急ぐのだ」



ファゴットは尾道を撃沈するよう命令を下した。

Soyuzが持っている重巡やフリゲートといったザコは眼中にない。



このベストレオに対し戦える相手を確実に排除するために。そうなれば後は勝ちも同然。


好き勝手暴れて破壊の限りを尽くしても、誰も何も言わないのだから。



彼の指示は単純明快なものだったが、主砲を撃てるまでにする作業は非常に多い。



「主砲隔壁閉鎖急げ!」



砲術長の声が怪物(ベストレオ)の中で木霊する。



最大出力の熱線を撃ちだすためには、通風冷却のため解放した主砲区画を再び閉鎖する必要がある。


各それぞれで行うと非常に効率が悪いため、魔力充填と並行して行われていた。



そんな矢先の出来事。



———GRaaaaSHHHH!!!!———



主砲区画に凄まじい振動と轟音が響く!



何十キロ離れた海上にいる尾道から放たれた51cm徹甲榴弾である。


本来はヴァドムや爆発物の直撃に耐えるような構造だが、物理的に貫いてくることは想定していない。



「しまった!発射口が!損害状況知らせろ!」



砲術長が声を張り上げ怒鳴り散らした。


これがなければベストレオはただのデクノボウと化してしまう。この焦りはただ事ではない。



「供給系統は無事ですが、収束部をやられました!撃てるとは思いますが、照準がままなりません!」



発射機構そのものは弾が逸れたため難を逃れたが、銃身にあたる部分が損傷しているという。



水が出るホースに大きな切れ込みが入ってしまった状態に近い。



二度と光線を真っすぐ放てないのは確実。正確な砲撃戦はもう出来ないだろう。


それどころか自爆の危険すら孕んでいた。



「わかった、俺は司令官に伝える!可能な限り修復せよ!」



「了解!」



自爆を避けるため、兵士は応急修理に向かう。

















—————————————




















「なんじゃと?収束部が損傷した?区画閉鎖は完了しておろうな」






最悪な知らせを聞いた露骨にファゴットは嫌悪を顔に出し、伝令に問い返した。



ベストレオの命である主砲がやられたのだ。長年研究を重ねて作り上げた息子のような存在を。



いつの間にか顔に影を落とし無言で怒りを露わにする。

伝令は仕事を全うするため、こう続けた。



「はい。現在充填中ですが安全のため非常閉鎖弁を閉じ、応急修理を行わせております。修理完了次第、撃てます」


誘爆するよりはずっと良い。


充填は既に完了、弁を一つ開ければ砲が発射できるだろう。



「うむ。よろしい。副砲を活用し敵に自由を与えるな」



実際撃たねばどうなっているか分からない。

それまでの間、準備させては最悪こちらもやられてしまう。



ベストレオを作った本人だからこそわかるが、いくらなんでも51cm砲という無茶苦茶な砲に耐えられるようには作っていない。


そもそもあんな無茶苦茶なモノ(超大和型)を相手に作れるはずがないのだ!


直撃した場合、はたして装甲で威力を完全に殺し切れるかどうか。



こんなところで手を焼いてはいられない。ついに収束部がまともに機能するようになったようだ。

そんな時、伝令が復旧完了した旨を伝えにやってくる。



「応急修理完了しました!これより、破損した副砲の修理に———」



「副砲はもう良い、即時発射体制を取れ」



ファゴット、ひいてハイゼンベルグは焦っていた。ここでやられるのではないかと。



軍人なら無敵の装甲を信じて砲撃を続けていたのだろうが、彼は科学者のはしくれだ。


物体は遅かれ早かれ限界がやってくる、もしもボーダーラインを飛び越えられたら。



……QRRRRRRRRRRRR



ベストレオが再び極彩色に輝き始めた。



度重なる尾道の砲撃により、ついに首にも徹甲弾が命中。


照準を合わせている間に配管が破損、出力が8割程度に減少しはじめていた。



「魔力漏洩確認、出力低下中!」



「かまわん、そのまま撃て!」



砲術長が言うまま、ベストレオから大河のような光線が放たれる。



だが形状は一本の真っすぐな道ではなく、大きく二股に分かれているではないか!

狙いは見事尾道を逸れ、海に着弾。



ビームが持つ凄まじい熱量故に、水蒸気爆発を起こす!



———BoooOOOOOMMMM!!!!!———



城さえも蒸発させるエネルギーが全て変換され、核兵器かと見まがうような巨大な水柱が上がった。


砲術長の着弾確認と共に、どっと歓声が沸く。



「やったぞ!ついに仕留めたんだ!」



「散々舐め腐りやがって、こっから帝国の力を見せてやる!」



その騒ぎは司令室まで響く程だったが、ファゴットは沈黙を貫く。

状況を聞けば凄まじい湯気で直撃したか確認は取れないという。



この世界の人間は魔法という都合のいい存在に現を抜かし、物理学や化学にあまりに疎すぎる。


本当に命中しているのであれば、このような水蒸気爆発を起こさない筈。

弾薬に誘爆すれば通常の誘爆、鉛色の爆炎が見えるのだから。



「次弾発射急ぐのじゃ」



彼は伝令の胸倉をつかみ、ドスの入った声で次に備えるように命令する。



「どうしてです?」



その指示に思わず疑問を呈す。


この暗黒司祭以外の全員が、尾道を消し飛ばしたと思い込んでいるからに他ならない。



「確実に仕留めておらんからだ!冷却を行わないまま、直ちに魔力充填急げ!」



余りにも甘い認識胃にファゴットは声を荒げ、砲身の事はどうでも良い。

冷却作業すら飛ばし、何としてでも敵艦を攻撃しようとする。



あの大和もどきさえ抹消できればギンジバリス市、ひいてはあのSoyuz拠点を踏破できる。

主砲が使えなくとも、想像を絶する圧倒的質量で踏みつぶせばよい事。



軍人らしからぬ理屈で考えるファゴットは、読み合いを捨てていた。



「そ、そんなことしたら主砲が……!」



「いいからやれ!」



反対を押し切って魔力充填を続けていくと、次第に巻き上げられた海水で外気が冷やされ、湯気が晴れ始める。


そこに浮かぶ、複合建築めいたブリッジと51cm連装砲が生み出す鋼鉄の黒いシルエット。



「敵、今だ健在!いや無傷だ!」



尾道だった。


この事はすぐさま砲術長からファゴットへと伝えられようとした瞬間。


ベストレオへ次々と衝撃が走る。



———BPHooOOMM…!



「主砲区画に被弾!充填中の魔力が誘爆を起こしています!」




ファゴットが開発した魔甲砲は通常の兵器とは異なる。


例えば火球を出そうと思った時、魔力から炎に変換される際生じる中間体を抽出、発射しているようなもの。



この中間体は非常に不安定で、凄まじい衝撃などはもっての外。


徹甲弾が撃ち込まれたことにより火炎魔法や爆発魔法に変換され、誘爆を起こしていた。



「非常弁を作動、魔力を主砲から副砲へと切り替えよ!内陸部へ一時撤退する!」



ここでベストレオを失う訳にはいかない。

戦艦の射程外さえ逃げ込んでダース山を迂回すれば拠点を踏みつぶせる筈。



たかだかSoyuzを滅ぼすためには主砲が必要ではない。この際ポリシーや流儀に従う義理などない。



量産先行型の2号機は9割が完成しているが、如何せん巨大な機械のため始動には時間がかかる。


最近、完成率がうなぎ上りの3号機ですら完成率4割程度で出撃できるとは思えない。



此処でやらなければ、すべてを塗り替えられる!




だがしかし。



存亡がかかった今、こんなとてつもない脅威をSoyuzが見逃すだろうか。







—————————————————












———戦艦尾道 ブリッジ





火力の全てが出せる海とは違い、陸では本格的に核兵器を使うような相手。艦長は声を荒げながら指示に徹する。




スカッドですら51cm砲のように効果的ではないし、装填にも時間がかかる。


次に頼れるのは対艦ミサイルだろうか。



「砲撃長!奴を逃がすな!各砲急速射撃!クラスノイ・ヤマール(スラーヴァ級)に連絡!ありったけのミサイルをぶちこませろ!」



まずは攻撃面。尾道の火力を全て誓う事では無く、海のミサイルランチャーことスラーヴァ級巡洋艦からの総攻撃で出来る限りダメージを稼ぐ。



「両舷前進一杯!取り舵20!可能な限り距離を詰めろ!」




次は超大和型ならではの機動力を活かして、敵が射程外に逃げられないよう船を動かす。

舵が4倍、海をドリフトするかのように旋回できるのだ!



その間にも大きな主砲塔からは無数の砲弾が飛び出し、

距離が近づくにつれて近接用の高角砲も次々と放たれていく。



———QRaAAAAMMM!!!!



鋼鉄恐竜の首に徹甲弾の嵐が食い込んだ瞬間だった。

白に混ざった様々な色の光が漏れ出し、爆音をとどろかせる。



———BPHooOOOOOOMMMMM!!!




誘爆だ。



純粋に固い金属が貫通し、内部構造をズタズタに破壊した証明である。



暴走した魔力が一斉に反応したことにより、主砲は斬首し損ねた首のようにぶら下がっていた。



こんな状態では使い物にならない。




藁にも縋ってつかみ取った希望に艦長は深呼吸し、気を緩めないよう声を張り上げた。



「次は脚部。一本でも折れば良い、徹甲弾で仕留めろ」




船はスクリューで動くため止めるのは難しい。


だが巨大な怪物はどうだろう。二本の脚で立ち上がり、こうして迫っている。



発想を変えてみれば「動力系がある種、()()()()」なのである。



いよいよ徹甲弾の数も底が見え始めてきた。


ここで大きくバランスを崩せばヤツは自重を支えきれず崩れ落ちる!

あの怪物が陸上兵器だから故の欠陥に違いない。



————VooOOOOOONGGGGGG!!!!!——




3基6門の51cm砲から放り出された運動エネルギーの塊はベストレオ脚部に着弾。

30秒経ち、再装填を終えると即砲撃の繰り返し。




なんとか副砲で叩き落そうとするも、悪あがきに過ぎない。


音速超えの砲弾を撃ち落とされるはずもなく、肉眼ではっきりと見える程の大穴を開けられ始めている。



その様は惨い事この上なく、エアガンの試し撃ちに使われるボロボロになった段ボールのようだ。



夢の牙城は現実の前に八つ裂きにされようとしている…。










———————————










ベストレオ司令部

主砲の誘爆、倒壊と共に砲術長は戦死。




Soyuzを圧倒する要素は質量となった今。

帝国兵は勝利の美酒に口を付けた後、そのまま地獄に堕ちたかのような絶望が支配していた。



「総員、退避!貴重な兵員を爆死させるわけにはいかん!」



本気で追い詰められたファゴットはクルーに向けて叫び散らす。



「正気ですか!?ベストレオはまだ戦えます!なんてこった……!」



この究極兵器はまだ戦える。


副砲とて戦車一両を丸焼きにすることだって可能だ。

それに主砲がなくともこの脚で拠点は蹂躙できるはず。



多くの兵はそう思っており、ファゴットの指示に伝令は彼から目を離してしまう。




だがハイゼンベルグは司令官ではなく「兵器の設計者」故に、一号機が鉄くずになる可能性が現実味を帯びてきたことを察知していた。


ここで死ぬわけにはいかない。


ベストレオの動力部はモーターやギアの類は一切ない。代わりに何があるかというと厳重に隔離された()()()()()



例えるなら、いつ大爆発を起こす血液が身体をめぐっているのと同じ。


被弾するたび巨大な爆発が待っている、死のロシアン・ルーレットを続けていたのである。




これだけの欠陥を抱えながら何故対策が為されなかったのにも訳がある。

圧倒的な質量と装甲だ。




あらゆる対装甲兵器や強力な戦車砲なら蚊に刺された程度に済ませられる。


万が一装甲を軽く抜かれても空間を設けているため、厳重に隔離されている配管までの深傷に至らない。




だが51cm徹甲弾はどうだろうか。



榴弾は対策が施されているため大したことはないものの、貫通した後に起爆する徹甲榴弾はなどは最悪だ。

1発の着弾は脇腹をナイフで思い切り刺されたのと大差ない。



めった刺しにされて動いている方がむしろおかしいと言えよう。



「司令!」



伝令が再び暗黒司祭がいた方向を振り向くと既にその姿はなかった。



あくまで彼は軍人ではなく()()()()()()である。

自らが開発した転移魔法で姿を消していた。


この帝国で成すべきことはあまりに多すぎる、故にこんなところで戦死する訳にはいかないのだ。


カウントダウン、始まる。

次回Chapter178は2月18日10時からの公開となります。



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