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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-8. 対 究極兵器 後編
200/327

Chapter175. Deus Ex Machina (3/4)

タイトル【機械仕掛けの神】

——ウイゴン暦8月11日 既定現実8月18日 午前14時46分

本部拠点 司令室



突如出現した謎の超大型兵器。

これに関する情報はすぐさま権能中将の耳に入っていた。



何度も執拗な攻撃を受けてもなお映像を中継していた勇敢なフェンサーFのおかげである。

判明している情報はまだ少ないが、情報を整理すると以下の通り。



敵超大型二足歩行兵器の全体は推定1.3km、高さが50m。


時速30kmで港のあるギンジバリス市に向けて進軍中であること。


高高度まで達する強力な対空砲を搭載し、正面から発せられる主砲の射程は推定500km。


当然動力源は一切不明。


旅団の見解ではファルケンシュタイン帝国独自の技術力で建造するのは不可能と考えられ、ハイゼンベルグ博士の関与がなければ完成に至らなかったとされる。



すぐさま事情聴取が行われる事になり、ソフィア・ワ―レンサットとその従者エイジ。


中枢部にいた皇太子マーディッシュ・ワ―レンサットに、何らかの事情を知っていると考えられるイグエル・ワ―レンサットが呼び出されていた。




長い間幽閉されていたイグエルは兎も角として、政権の中枢にいた皇太子殿下にこの兵器の存在について質問するも、存在を全く知らなかったという。



中将は藁をも掴む思いで、クライアントにこの兵器について尋ねる。



「……本日確認されたこの超大型兵器だが……何か心当たりは?」



撮影された航空写真を彼女に手渡した途端、彼女は激しく取り乱しながら権能を見つめ返した。

そして一拍おいてから絞り出すかのような声で問う。



「何故、どうしてこれが……存在してしまっているんです……?これは……これは……」



そこにいるのは探求心にあふれたソフィアではなく、無限に湧き出る絶望に打ちひしがれ、圧倒的な力に恐れ慄くことしかできない少女だった。



「こ、これは……父上が……跡形もなく消したはずの……」



「——俺だ。大至急マリスを司令室まで頼む」



彼女の尋常ではない取り乱し方から中将はカウンセラーであるマリスを呼び出しつつ、推察を続ける。












———————————











禁忌、あるいはそれに匹敵する兵器であることを確実に知っていると見て言いだろう。

そんな中、元シルベー城の弾薬庫から緊急連絡が入った。



【こちらシルベー本部(C-HQ)!光線が突如飛来し、城の遺構が一部蒸発!余波で火災が発生しています!規模は小さいですが…——なに、また火災か!クソッ!はやく始末しろ!】



火気厳禁の塊である弾薬が満載されている場所での火災。

万が一引火すれば丸ごと吹き飛ぶことは想像に難くない。


中将の額に汗が伝う。


【本部了解。隔壁は降りているか】



やや焦りを含みながら中将は責任者に確認を取った。



【こちらC-HQ!防火隔壁閉鎖しています!——鎮火急げ!死者・行方不明者は出ていません!】



予断を許さない状況ではあるものの、向こう側もそのことは分かっている。

今すぐ最悪の事態に至らないだけ有情なのだろうが、予断を許さない状況だ。



恐るべき攻撃を受ければこの本部も蒸発することは確実だろう。

しのごの言っていられる時間はない。


いざとなればこちらも悪魔の兵器を使う決断をしなくてはならないだろう。


中将の額と掌に冷や汗が滲み、その一滴が地面に落ちた。












——————————









駆け付けたマリスのおかげで、ある程度正気を取り戻したソフィアは、声を震わせながら問われた答えを口にし始める。



「……あれは……オンヘトゥ13使徒の名前を…した……ガビジャバン絶滅兵器です…4度の戦争を経て……。父上が居る時代の軍が考えた……」



隣国ガビジャバンの度重なる戦争に見切りをつけた軍部が開発した【民族根絶兵器】

それが目の前に現れた超大型兵器の正体だった。



「オンヘトゥ13使徒…ベストレオ……。神の命を受け一度文明を滅ぼした…獣の使徒……!」



「父上が捨てる資料を漁ったときに……一度だけ…見たことが…ある…。一番実現に近くて……ひどい…発明品だった……だから父上は完全に葬り去った…はずなのに…なんで…」



あの光線で地表を焼き払うことから獣神の名前を冠した兵器となったのだろうか。


ソフィアは錯乱しつつも、自分の知る悪魔について続ける。



「あれは巨大な足と重さで何もかもを踏みつぶし…城や要塞を強力な砲で薙ぎ払う…おぞましい…代物です…」



「仮に作れたとしてこんな大きくは……。だって……制御系はまだしも、動力炉と足を動かす…方法が…ないのに……」



現にシルベー弾薬庫の上部構造物が蒸発、余波で火災が起きている。

その威力は察するにあまりあるだろう。



問題なのはこのベストレオの性質に尽きる。


民間人や街などを纏めて踏みつぶし、主要都市を徹底的に焼くことを主眼に置いて設計されている。


人類が1945年という長い歳月をかけて出した答えに、既にたどり着いてしまったのである。



そんな理屈はこの際どうでもよく、満場一致で出された答えはただ一つ。

コイツを一刻も早く破壊しなければならないという事だ。









————————————————













ギンジバリス市に向けて進路を取っている不明大型兵器に対し、中将指揮下で打倒作戦が練られることになった。


対空砲は地対空ミサイルと比べ振り切るのが容易なことが判明。


現代の航空機ではさほど脅威にはならない。



となると問題はあの主砲だ。



航空機や陸上兵器とは違い、基地や施設などは動くことができず避けることが出来ない。



ゾルターンからダース山まで容易に届く驚異的な射程と、砲弾如きではビクともしない城構造物を()()せしめる威力。



おまけに掠めても周囲に火災をふりまき混乱をばらまくのだ。超大和型戦艦 尾道ですら直撃すれば一発で撃沈されてしまう。


蒸発した上部には奇跡的にも人が立ち入っておらず、地下で作業していた人間が占められていたため死傷者は出ていない。




そうなれば原子力潜水艦から核ミサイルを撃ち込んでも止めなくてはらならない。




かつて「核」を受けた国の人間が、原子力の脅威を知らない土地や人々に向けて撃ち込むことになるだろう。




何度も冷酷な命令を下してきた中将でもこれだけは避けねばならない。

今後の帝国、ひいてはU.U(異世界)の栄光から破滅まで。



すべてはこの男の命令一つに託されているのだ。



あのような残虐極まりない兵器を撃ち込みたくはない、だが兵器は持っているだけでお守りになってくれるのか。




権能の中で行き場のない葛藤がふつふつと湧き出るが、事態は一刻を争う。



迷う暇があるのであれば、最善を尽くせ。それが彼の信条である。


無線機を取り、この場にあるすべての基地と連絡を取った。



【本部からナルベルン本部(N-HQ)。現在残っているスカッドを全て送信する指定座標へ向け発射せよ】



ゾルターン戦の長期化を防ぐため大量の弾道ミサイルが残っているはず。



たとえこれでも動きを止められなくとしても、兵装を破壊できるかもしれない。


自治区本部にすべてのミサイルを使い切るよう命令を下す。



【本部からC-HQ。火災状況を報告せよ】



次は弾薬庫。暴走寸前の原子力発電所同様、最も危険な場所だ。



【こちらC-HQ、火災の8割を鎮火しています!】



【本部了解。万全の消火体制を維持しつつ有事の際には退避できるよう準備急げ】



【C-HQ了解】



「俺だ。これより送信する座標に対し緊急発進(スクランブル)。対地攻撃を行え」



さらに次。内線を取って出動を要請する。


これもどこまで通用するか分からないが、あらかじめスカッドが効果を見せていればダメージを与えられるはずだ。




【BIG BROTHERからLONGPATへ。知っているだろうが現在ポポルタ拠点に敵が迫っている。住民とスタッフの避難急げ】




最後に連絡を取ったのは冴島のいるポポルタ線だった。



【LONGPAT了解。——お前たちも避難しろ……何?】



無線の向こうにいる大佐の様子がおかしい。



【どうした】



【いえ。砲兵部隊の連中が死んでもここを守ると言っておりまして。送信されてきた進軍ルートから推察するに、ギンジバリスの次はここを狙ってくるでしょう】



【そうなれば避難が間に合わない可能性があります】



目の前にはキロ単位の敵が迫っている。


それにも関わらず冴島は取り乱すことも恐れることもなく人命第一に動いていた。



最前線故に骨が残るような死に方をしない事を十分承知の上。



自分が迷っていたのが馬鹿らしく思えてくる。



【了解。わかっていると思うが…お前が戦死した場合、骨は拾ってやれんぞ】



【私はこのくらいで死ぬようなタマじゃないですから】



これまで類を見ない戦いが始まる。













——————————


















——ベストレオ 司令塔





こデウス・エクス・マキナの体内には歯車が夥しく配置されており、常に動きながら姿勢を維持している。



故にベストレオの内部は機関部と離れていても駆動音がし続けていた。





ハイゼンベルグにしてみれば伝達ミスが起きかねない環境であると思っているが主砲発射試験は見事に成功している。


兵器として運用しても問題は出て来ないだろう。



この際、多少の不具合は目をつぶることにした。




夢に見た超大型兵器の実戦投下。




ここまで何年の歳月を書けただろうか。



政治利用されることも、国のメンツを保持し続けるお飾りになることもなく、純粋に破壊と殺戮を生み出す獣の王。




普段纏っている闇のような気迫はすっかり剥がれ落ち、クリスマスプレゼントで遊ぶ子供の様に瞳は輝く。



これが核兵器にも匹敵する禁忌の兵器でなければ、いかに素晴らしい光景と言えよう。



「装填は1分で済みますが……射撃後、砲身の冷却には30分を要します。旋回自体は当機ごと動かすことで解決できるでしょう」



主砲から駆け巡ってきた砲術長がファゴットに報告を上げた。



「……結構。装填時間が早いのは良いが…やはりこれ以上ペースを詰めれば劣化が進んでしまうか。良いだろう。そのままのペースで冷却を続けよ」





つまり後先考えなければ、もっとペースを上げることが可能であるらしい。



だが砲身の劣化が進んでしまうことになる。

これだけ大きい魔導砲となれば交換用のバレルを作るのにも何か月と掛かってしまうだろう。




寿命を一気に使い切るか、あるいはじわじわと使うか。


既に答えは決まっていた。


下らない破壊欲求を満たすために伝説の俳優を使い潰す訳にはいかない。


もっと舞台に立ってもらわねば。この機械仕掛けの神に。



「進路をギンジバリス市に取り、主砲装填急げ」



ファゴット。もといハイゼンベルグに戻った彼は内に秘めた狂った思想を胸に、絶対的な幕引きを呼び寄せる「おこがましい神」を差し向ける。




対地ミサイルを搭載した戦闘機や戦略爆撃機、たとえ核ミサイルが降りそそぐかもしれない。


ハイゼンベルグのいた世界でこのような凶暴な獣神が現れればアメリカなどがそうしているだろう。



だが、それに怯えることはない。その程度で止められる程陳腐に作ってはいないのだから。




歴史の闇に葬られた兵器は再び極彩色の光を周囲に放ちながら、肩甲骨のある部分に携えられた動力炉からエネルギーを分配。チャージを始めた。




これが放たれたら最後、ギンジバリス市は跡形もなく蒸発してしまう!



そうなれば多くの死者が出ることは間違いない、それも墓に写真すら入れることすら許さない惨たらしい終焉だ。



ハイゼンベルグは来る大量虐殺に対し、高らかに笑う。



「ついに引き金一つで街を消せる…か。ここまで来るのには長かった。()()()長かった。これを見て数多の科学者が人生で一つ、間違いを犯したというだろう」



彼から真に邪悪な気配が漏れ始める。



「だが私は違う。私は非人道的大量破壊兵器の引き金を良心の呵責なく、引くことができる、たった一人の人間なのだから!」



そこにいたのは暗黒司祭でも、学会を追放された天才物理学者でもなかった。


ただ一人の、兵器による恒久的破壊を願う純粋な信徒である。


次回Chapter176は2月4日10時からの公開となります


・ベストレオ

全長約1.3km、高さが50m

長さはおおよそ私鉄の駅間、あるいは歩くと微妙に疲れる長さ。高さは某怪獣王と同等。

主砲は城を掠めただけで一部が蒸発、余波で火災が起きる程の熱量を発する。


莫大なエネルギーを誇る魔力中間体から純粋な熱線だけを取り出しているため「クリーンな大量破壊兵器」と人は言う。

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