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Chapter 17.ANALYSIS THE TORIC

タイトル【トリックを分析せよ】

Soyuzは森林城塞戦の勝利やハリソンの街の接収に成功するなどの勝ち星を上げていたが、ここで思わぬ事態に陥った。


戦車などを動かす燃料が大きく不足し、砦での戦闘によって砲弾等の弾薬消費も相まって、装甲兵器の運用が困難になっていた。



発電機用の軽油を転用してまで行動を続けていれば、拠点の機能に関わるため一時的に戦闘は休止せざるを得ず、他の作業に取り掛かることになっていた。



強襲を受けた設備のさらなる補修にとどまらず燃料備蓄設備の増築などが進む一方、ひどく影の薄い集団がいた。



分析のためだけに連れて行かれたあらゆる部門の学者たちである。



彼らは急遽建造された大規模生物研究所、ショーユバイオテックにて可能な限りU.U(異世界)についての研究をしていたがサンプル数がロクに集まらない。


その上に広いスペースが必要となる研究に対して、Soyuzの兵員が行き交うばかりで場所が開かず


暇を持て余していた。ハリソン接収後、権能中将からある依頼が研究者たちに舞い込んだのである。




それは軍事転用されている未知の技術、魔法の分析であった。

拠点襲撃の記録映像や敵重要人物確保の際にガンカメラに写りこんでいた不可思議な現象。

ファンタジー小説に出てきても何ら不思議ではない存在を解析し、対策を練らねばならないからだ。



その依頼を目の当たりにした研究者たちは多いに目を疑い、それを確かめようとした。

ただ一人、邪悪を生み出すパンドラ・ボックスのような博士を除いて。



分析に際してクライアントの証言から魔法を得意とするエイジに協力を得てから実験が始められることとなった。



「魔法を弾き返す魔法と言われようが、たださえ魔法という測定器殺しを検出できないっていうのに。悪魔の証明か何か、摩擦を考えないものとする空間を探すようなものだ。」



「ハハァ…」



分析は困難を極めた。

魔法そのものはあらゆる計測器や検知器を素通りしてしまうのである。


それにも関わらず、たしかに存在していると来ている。

検出こそされないが今目前で起こっているのだ!



ウラン鉱を見つけるような鋭敏極まりないガイガーカウンターですらも通常値をはじき出す辺り学者は頭を抱えるしかなかった。



その様子にエイジは眉を寄せ、困惑しながら主任を務める物理学者ドクの顔色を伺う。



証言役として連れてこられた皇女殿下は外に用意されたオシロスコープや電圧計に興味を示し学者を学芸員のように説明を要求していた。


あまつさえ学者とその使用用途に関してディスカッションまで始める始末。



外で人々がうなり、嘆き、頭を抱える様を悪魔のように笑い飛ばしながら、わざわざ事務椅子にふんぞり返りやってきた人影があった。



「はっはっは、諸君。研究成果は得られたかね。だから私は言ったんだ、記録映像のようなヤツが再現できるヤツを連れてきて実験しろと。そうすれば確実だということをなぜ気が付かないのだ」


「疾患モデルマウスという言葉を知らないのかお前らは。妥協するんじゃあないよ。全く情けないにも程がある、それでも学会で活動している学者か。私のようなのが学会を爪弾きにされて貴様らのようなのが残るからそうなるのだヌタウナギ野郎」



「まぁいい、与えられたテーマはざっくりとしているのだから一つのことに固執するなど水素水を崇めるヤツと同格だ。普通もっとわかりやすいのからやるだろう。

火球なら熱を持つからサーモカメラを使うなり。大学行ってるからといって甘んじるんじゃあないよ」



その場をわきまえず好き勝手な持論を展開する姿に、学者たちは一斉に苦虫を噛み潰したような顔をける。主任のドクは悪魔の証明どころか悪魔そのものが来たような顔をしている。


するとドクはメンゲレに向けて剣幕を立てた。



「そんなんだったらとっくにやっとるわタコ!わざわざガイガーカウンターやらサーモカメラやスーパースローカメラとか持ってきてこの様だよ!分かったことと言えばこいつはくだらんマジックの類ではないことだナチめ!」



それもそのはずである。彼らはプロの学者である。

やれる手段をすべて講じて種無し手品をようやく暴いたというのだ。


その苦労を無碍にされれば誰にだって血が上ることは間違いなかった。

口論に発展しながらもモンスター教授のような博士は口を止めない。



「予備実験済んでるじゃんなんで報告しないの。オイコラそこのしなびたキノコみたいな…アレ!火の玉出せるんだろうな、なぁ!」



罵倒から一転、博士ははっとしたような表情になるとエイジに詰め寄った。邪神を目の前にしたような硬直を隠せないエイジはその問いにこう答えた



「出せますとも、一応」



「一応では困る、バリエーションが欲しい。多くの報告例が欲しい」



困り果てるエイジを差し置いて学者たちは新たな実験材料を探す羽目となった。



 その一方、あわただしく拠点の設備工事は進展を見せていた。


ガンテルの一件や森林城塞戦において捕虜の尋問用設備の必要性もあったため、最低限の設備しかなくスカスカだったSoyuz拠点の空白を埋めるように、プレハブ小屋が次々と建設されていった。



大まかなコンクリ―ト基礎が組まれた段階のものもあれば、断熱材を張る段階のもの。

そして完成したものも多く立ち並ぶ。



「確かに共通化されたもの同士、組み合わせるように作れば時間と手間を抑えられますもの。第一骨組みが錆びない鉄(ステンレス)を使えば腐っていないか考える必要もない、と。方法と材料の両面とは思いもよりませんでした」



プレハブ建造の現場を作業監督に無理やりつけられたヘルメットをかぶったクライアントがせわしなく動くクレーンでひしめき合う現場を見て考えを述べた。


マニュファクチュアやプランテーションの発想がない彼女にとってプレハブひとつが立てられていく光景はとても斬新だったのだ。



「そういうことよ。プレハブ小屋は数こそ揃えられるが防弾とかの特注品はいろいろ絡んできて統一品にはしにくい。なかなか都合よくはいかない」



現場監督は今まさに建造されていく小屋を見ながらそう言った。プロとして真剣な眼差しから出た質問に生半可な答えはプライドが許さなかった。



「いろいろ、というのはなぜでしょう。統一化できるなら同じやり方で立てるべきでは」



鋭くソフィアは質問を返した。まるで知識欲に飢えた学者のように真剣な眼を見ると監督は少しばかり困りながらもこう返した。



「そ、まさしくその通り。うちの世界ではそれが定石ってもんよ。ただこんなプレハブでやらないのは絶対壊れない木箱を作るんなら初めから鉄の箱に入れりゃいい。単純にムダ金が掛かるってことよ。それにもっとすごいモンはこれから見れるはずよ。俺らの仕事が増えるのはうれしいがねぇ」



監督は娘っ子がここまで論理的な考えに至ることに驚いていた。自分の愛娘はやれ男アイドルだと騒がしいのにとその姿が浮かんだ。



 プレハブ小屋は材料さえあれば建造が容易かつ短時間で組むことができる。しかし欠点もないわけではない。



これら簡易建築物には装甲おろか防弾ガラスのひとつも装備されておらず、施設防衛という観点からは非常に脆弱と言わざるを得ないものであくまで一時しのぎでしかないのだ。



燃料を貯蔵する地下設備に関しては十分な強度を持っていたものの、機銃座や地対空ミサイル自体に装甲は施されておらず簡易的な拠点であることには変わりない。



そう言った経緯を経てプレハブの建設工事と並行して対空兵器の装甲化の施工も並行して行われることとなったのである。






——————






 工事の音がけたたましく鳴り響くマディソンの寮室だった収容所で尋問が行われていた。


プレハブとはいえ、建造には当然時間はかかる上にほとんどが収容目的には作られていないためである。

ついにはマディソンと相部屋の人間のベッドまでもが鉄格子に改造され大尉と軍曹を収容していた。


負傷したジューレン曹長は医務室にて治療を受けていた。



「あのさぁ、俺壁に向かって話してんのかと思い始めたよ。頼むから何でも言ってくれ。」



粗雑な独房にマディソンがまるで不良のように座り込んで鉄格子先のマリオネスに向かって言い放った。

もはや尋問する側とされる側が反転しているようだったが、本来彼の仕事は事務方の内勤であり刑事ドラマの刑事ではない。



ましてや何を言っても沈黙を貫く相手に何かを引き出すのは高等なテクニックが必要になる。

その技術もないマディソンはすっかり心がへし折られたのである。



「ちょっと先生やっちゃってくださいよ」



諦めがついたのか街中のごろつきのようにそう言うと固く封をされた缶詰を開けるように扉が開いた。そこにはある男がいた。



「悪いが私は先生などと呼ばれた覚えはないんだが。まぁいい、お前が喚くおかげで状況はだいたいわかっている。」



黒スーツを着た役人の覇気を纏った毅然とした短髪の白人男性が扉から現れた。

彼こそはキャリー・N・マリス、Soyuzが基底現実世界から呼び寄せた交渉人である。

尋問室こそ彼が最も光り輝く晴れ舞台なのである。



 かくして尋問の幕が切って落とされた。尋問とは相手の持つ手札を選択し、それによって返される答えを分析する。


そこから考察を行い、ジョーカーを避けながら手札を選んでいくことを繰り返すババ抜きに近い。



マリスが目をつけたのは軍曹であった。性別と名前くらいしか知らないが、マディソンとの会話を扉に耳を当てて盗み聞きすると決まって彼女と思しき声のみが返ってきている。


マジック・カットの切れ目は見えていた。

キャリーは場を切り替えたように黙り込むと軍曹の鉄格子の前まで行き、腰を下ろして目線を合わせてから口を開く。



「私はキャリー・ナカヤマ。ここ、Soyuzに雇われた交渉人です。私は貴女と話をするために来ました。」



すると軍曹の目は彼を怪奇の眼差しを向けた。尋問や最悪拷問を考えていたが会話するためだけに来る人間は想定外だったからである。



「おっと失礼、ただ話に来ただけです。私はただ話すことしか許されていません」



彼はこちらを見る敵意の目を察知すると、すかさず言葉をはさんだ。まずは自分の目的を明らかにしなければならない。既に向けられた敵意を分析し、どのような反応を返すのかを考えているのだ。



「祖国に対する裏切りはしない。反乱軍如きに屈しない」



ガリーシアは冷たくあしらった。軍とは気高く、そして名誉ある集団である。それが反乱軍の手に落ちたのだ。祖国のために命を張る身が祖国に敵対することなど当然できるはずがなかった。


「そうなんですね、それは軍人として非常に立派なことだと思います。何かのために命を張り、守る。素晴らしいことです。我々に対して聞きたいことなどはございますか。」



マリスは反抗的な態度を咎めることも気に留めることもなく敵意にこう返す。


そして彼は一種の釣り針を水面に放り込んだ。どちらも未知の相手に喧嘩を売り捕虜となっている以上Soyuzは異形に映るだろう。それを利用して引き出すのだ。




「お前らは到底レジスタンスに見えない。そして一番気になるのは貴公がどういう意図で来ているのかだ。」


ガリーシアはそれに食いついた。マリスの思惑通りだ、ファンタジー小説に出てくるような人間が住んでいる世界にスーツを着た人間など怪しい黒服にしか思えないだろう。


安いタイムスリップものならば逮捕されてもおかしくないのだ。聞くのもやむを得ない。



「我々は独立軍事組織Soyuzと言いまして、ここの調査に来ています、という事以外何も知りません。ただ私はしゃべることが仕事ですから、それくらいしか知らされていないのです。しいて言うならばスカウトマン、でしょうか」



彼は質問に対して的確に答えていく。ここから交渉人の腕の見せ所である、魚が食いついたとしても針がすっぽ抜けては意味がない。


情報という魚をうまく陸上に引き上げるには安心するには早い。


しかし軍曹の瞳からは敵意から怪奇に変わっていることは間違いない。こちらのことを知りたがっている。マリスはそう感じていた



「スカウトマン…」



「ええ。その方しかできない仕事がおのずとあるものです。例えば私のような話が好きならば、のように。」



彼は慎重に信頼を積み上げていった。敵意は消えている、その代わりに向いた怖いもの見たさをいかに保てるか。言葉のチェス・ゲームは続く。


「…だが私は祖国を裏切ることはできない。ましてや兵など討てるものか。あぁ、私は力を得て守るために兵になったのだ、それなのにこんな様か、クソ。」



すると一転して敵意を再び向けたのだ。才能を戦いに使うこと、それが軍人なのだろうと理解した。それに否定もなにもなかった。Soyuzはそうやって利益を上げているのだから。



「その気持ちは十二分にわかります。貴女のお仕事は一応耳にしていましてね。魔法をお使いになるようで。詳しくは存じませんが私たちの世界では存在しないものとばかり。

私もその魔法というのが気になります。話せる範囲であればお話しいただけませんか」



「それはどういう意味だ」


軍曹は思わず聞いてしまった。戦いに使うものを一体どうやって使うというのだ。


魔法関連の物品は見当たらない敵地において殺し以外のことと言えば思い浮かばなかったからである。


「たしかに、そう思われますよね。私たちはこの世界を少しでも知る一歩として、まず魔法とは何なのか、ということを知りたいのです。私たちにとって魔法は存在しないとされてきました。なのに存在するんです。なんで存在するのか、私も興味はあります」


彼は軍曹の話を聞きながらメモを取り出して何やら書き込むと返してくれた。


軍事兵器に相当するのが魔法なのだろう、と初めて知った。スピリチュアルな存在があまりに現実的な使われ方をしていることに内心驚きながら反応を伺った。



「…そうか。そこまで単純に魔法そのものに興味があるとは…」



少しばかりマリスに対して軍曹の口ぶりは軽くなっていった。自身も気になっていたからだ。

魔法とは聖なるもの、とされていたが本当にそうなのか。


素質があるから、選ばれたからと言って出せるのか。そんな単純なものなのかと。





—————





 一方、寮へと通じる通路では白衣の集団が猛突していた。




「何が魔法じゃ、物理法則を都合よく捻じ曲げやがって」



「既知にしてやるぞこの野郎」



散々邪悪な悪意そのものに罵倒された学者たちはついに留め金が外れ、暴走しはじめたのである。


自分たちがあれだけ苦労して計測したデータが全部意味のない数値をたたき出した上、無意味だと知ったタイミングで一番触れられたくない腫物にあの悪意は銃弾を叩き込んだのだ。



もはや猛牛と化した軍団は拠点を見回っていた少佐にすら食い掛る始末であった。



ただならぬ様子でやってくる学者連中を必死で止めようと訳を聞こうとしたが



「絶対教科書にこのふざけた真実を暴いたことを記述させる」

との一点張りだった。






————




 学者特有の論文発見能力を駆使して聞きつけた魔導士の噂を基に、尋問室として使用されている兵寮まで押し寄せていた。



学問とは狂気の端くれ。それを追求するものも並大抵の人間では務まらないことを意味していた。


マリスに尋問を任せ外で紫煙をぷかぷかと吹かしていたマディソンは、その様を見て目くじら立て学者連中に食って掛かる。



「おいお前ら何してる、説教の時静かにしろというのがわかんねぇのかクソ野郎!」



尋問もとい交渉の際には相手との信頼関係が要になる。


部外者の介入による信頼の低下は交渉が長引くことや破談することも考えられるためマリスから口を酸っぱくなるほど言われていたのだ。


あまりの対応から研究主任ドクは怒りを爆発させる。



「既知にしてやる、物理法則から反する種無し手品をな!お前にわかるか重力加速度9.6!さもないとてめぇの首でアメリカンクラッカーを作ってやる!」



主任は怒りで我を忘れていた。

ナトリウム塊を湖に放り込んだように爆裂的な研究欲が彼をここまで狂わせていたのである。


するとある研究員がマディソンを突如取り押さえ始めた。恐ろしいことに暴走を極め暴動と化しているではないか!



「馬鹿やめろ!fuck!お前らみんな自販機に押し込んでやるからな!」



怒り狂った学者たちの前にはマディソンなど圧倒的合力で押さえつけられてしまうのだ。

それをいいことに尋問室と化した寮室へとなだれ込むと、扉を激しく暴力開錠を試みようと金属扉に向かい突進や殴る蹴るの暴行を働き始めた。

 


 その異変に交渉人らは気付かないはずがない。


尋常ではない怒号と金属扉が今まさにこじ開けられようとしていることに彼は驚きを隠せなかった。



「なんだお前らは!警備員を呼ぶぞ!」




次の瞬間バールと建築資材で武装した研究主任ドクと白衣を乱した研究員が立っている。

通常ここに居るはずのない鬼のような血相をした人間がいるのだ。


あまりの出来事に交渉人は驚き戸惑いを隠せるはずもなく声を上げた。



研究者たちは不要になった武器をそこらに放り投げると、交渉人を引き倒し軍曹に迫った。



「火球とか雷とか氷とか得体の知れない何か出せるんだろう、我慢に我慢を重ねたがもう今度という今度はまともなサンプルを手に入れてやるからな。お前を実験場に連れ出して分析してやる!兵器だろうがなんだろうが知るか!お前が出すクソみたいな手品のタネを絶対に暴いてやる、今に見てろ!クレームなんてつけてみろ!みんな食ってやる!」



粗雑に作られた鉄格子の代わりをする鉄パイプをありったけの学者握力で握ると、軍曹に食って掛かるように言葉を浴びせた。



ひどく感情的でヒステリーを起こしているのではないかと思われたが、言葉の片鱗には確かな知性が残っていた。


この空間にこの感情を理解できる人間は誰もいないだろう。


警備員を難なく通過できてしまった今、この暴走は魔法という得体の知れない物体を分析するという意地でしか止める事ができなかったのである。



「ちょっと何なんだ!私で一体何するつもりなのだ!頭がおかしくなる!」



ロープで結ばれた簡易的な鉄格子の内側にいたとしても状況に対して一番理解できない人間はガリーシアその人であった。


その質問に対して脇に居た研究員の絶対的回答本能によって答えが返された



「手から火の弾だのなんだのを当たり前に出せる人間なんているはずがない、まやかしだと思っていたら実在した、目の前のアンタだよ!」


「まやかしじゃねぇっていうんならデータを集めて考える必要があるか、それがわかるか!魔法を跳ね返す魔法なんて都合いいモノを見てもこれっぽっちもわりゃしねぇ、モデルになりやすいのから実験してそいつが何なのかを頭をこねくり回して考えるのが俺らに与えられたテーマってやつだ!」




人類は未知を見るとそれを知りたくなる知的好奇心を生物として初めて持つ生物である。

未知を理屈で考え、利用し発展する。


あの不気味な(メンゲレ)博士に背中を蹴飛ばされて再び気が付いたのだ。この理屈を解析しなければならないと、単位や功績のためではなく純粋な探求心のためにである。



「えぇ…」


確かに熱意こそ伝わったものの、氷を火の海に放り込むような温度差に軍曹は相変わらず困惑していた。

魔法とはそういう人間が使うものであり本質というものを突き止めようとした人間が存在したか、と。


 そして悪魔の実験教室が開かれる事となったのである。






————






 前回の反省を生かし、あらゆる測定機器がバイオテック郊外のスペースでセットされることとなった。


既定の場所に向かい火球を発射し、着弾した位置の温度を赤外線式の温度計にて測定するというものである。


協力者であるガリーシア軍曹自身、ひどく困惑していたが協議によってブザー合図と共に火球を発射することはなんとか理解できたようであった。



射手の手元にはハイスピードカメラを、飛翔する間にはスピードガンを持った研究員が待機しており燃焼速度、飛翔速度等を測定する。



算出されたデータよりエネルギー量などは研究室にて算出されることとなっていた。映像記録に関してはカメラ機器類が全てコンピュータに有線で接続されており編集不可能な状態でノートパソコンに保存される。



 暴動に発展しかけていた研究員たちはまるで鎮静剤を打ち込まれたかのうに理性的になり測定機材の設置にあたっていた。セッティングが終わると発射合図であるブザーを鳴らす。



【フレイア】



その瞬間、ほのかな風と共に火球がすさまじい速さで射出されたのである。緩衝材にしていたブロックに野球ボールのように着弾した。


 すぐさま温度を測定する係と火球の飛翔速度を計測する研究員が主任の元へと来ると三人ともその眼を一斉に細めた。



「なに、このクソッタレは160km/hで飛翔して着弾地点で414度を記録か。なかなかにふざけているな。魔法自体のエネルギーは検出されていないとなると…まぁいい、映像解析に移ろう」



主任はそう口走った。確かに手のひらを突き出し、運動エネルギーがかけられない状態で火球をプロ野球選手並みの速力で放ったこととなる。


それであってもドクは次のデータを参照すべく送信されてきた映像をこの目で見るべくパソコンを操作する。



ここでも怪奇な結果が映し出されていた。射手の手のひら自体には熱を持っておらず、突然火球が生じたとしか言いようがないものなのだ。



「追加の実験が必要だ」



主任ドクの瞳は地位も名誉もかなぐり捨てた意地と知識欲にまみれた炎が渦巻いていた。

次回Chapter18は6月19日10時から公開予定です

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