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Chapter 2. DIVE to NOWHERE

タイトル【未知の場所へ】

分析結果は出されたものの、Soyuzの疑念は一向に払拭できそうになかった。


いくら星図が違う、それだけでは断定するには不十分だからである。


分析サンプルを採取したスタッフの提言に明らかに異質ではあるが、個人の色眼鏡では草原一つでも様々に見える。

故に地球上の別地点と接続している可能性が高いという論を出なかった。



 そこで急遽、機動力のある装甲車などで編成された第一機械化中隊が組成され未知の空間に足跡を残そうとしていた。



時代はアームストロングが月面に足跡を残すのではなく、装甲車のタイヤ痕が残ることになる時代になったのである。



——————



本当の異次元であった場合どうするのか。

やり場のない不安が支配する中当日を迎えた。その問題の格納庫に装甲車が集められてゆく。


司令は戦車の砲が生えた軽装甲車ことチェンタウロ。


偵察用には軽く、強いことに定評があるストライカーRVとAMX10RC。


これに加え、調査歩兵を乗せるため装甲と武器のついたショッピングカート BTR80。


オーサミサイルを搭載し、自走対空ミサイル車両までという大盤振る舞いときている。


俺は軍靴の底をがっちりと噛ませ、問題の格納庫で出撃前の様子を見ていた。


しばらくするとプラスティック・ホワイトの防護服に身を包んだスタッフが何かを散布しようとやってきた。


何もここまで大げさな防疫体制に俺は眉をひそめる。

本当に地球上にある別の場所に通じていると信じ切っているならばここまで大掛かりな消毒作業はしないためだ。



俺は適当に通りがかったスタッフを捕まえて聞いた。


「仕事前に悪いが一つだけ聞かせてくれ。俺らはなにもペストを手土産にあの穴に飛び込むわけじゃあない。誰がここの防疫をやれといったんだ。」


そうすると捕まえたスタッフは一度ため息を吐いたように肩を落としてこう答えた。



「冴島少佐だからいいますがね、ここだけの話にしてくださいよ。どうもお上はまさか変な世界に通じてると本気で思ってんです。どうりでGPS端末なんて渡されて。映画のアバターみたいな辺鄙な場所に。」



「なにも星座がめちゃくちゃだっていうのが根拠だそうで。あくまで地球のどこかに通じてると考えてるのはあくまでも上っ面だけで。防疫は全部ナチの潜水艦野郎が言い出したんです。だからあたしゃこうやって消毒液をぶちまけてんです。」



スタッフは心底嫌そうな顔をしながらそう言った。

あのナチ野郎と言ったら支離滅裂な言動とヒステリーで有名なS.メンゲレ博士が言い出したのだろう。俺は心の中で同情をしながら特にこれ以上は聞かないままチェンタウロに搭乗した。


【LONGPATから各車、作戦開始。前進】



俺が無線機を取り、各個にそう告げると地獄の門がゆっくりと開けられていく。扉の先には到底横浜本部基地とは思えぬ不気味な光がこちらを照らしていた。


報告にあったいかなる光源とも合致しない異様な光。そのストロボにオリーブドラブに塗られた装甲板にくっきりと陰影をつけ始めると同時にエンジン音が鳴り響く。




————Vuuoommm————



 馬がけたたましく唸るように、装甲車たちはエンジンの息吹をあげて地獄の窯の中へとサスペンションをきしませて入っていった。俺に覆いかぶさっていた不安を蹴散らして光に呑まれていく。


 そこからの光景は我々の理解を拒むような空間が広がっていた。


8ビットの緑を乱雑にばらまいたかのような草原が広がり、上を見渡せば空は少年時代見た田舎のように青々としているのだ。


「少佐、GPSが全く機能していません」

 

「俺たちゃGoogleに転職したのか。誰かカメラ持ってきてストリートビューでも撮影しろよクソが。」


隊員が口々に端末のGPSや携帯の通信網があの奇妙な入り口に入ってからというものまるで使い物にならなくなり、口々に文句や私語をばらまきあっている。


地球上の常識からたたき出された俺たちは、この未知の塊に放り出されたことを意味していた。常識が通用しないこの世界は人間の根底的な恐怖である未知の存在に対する恐怖をくすぐる。


「私語を慎め」


俺は口々にろくでもないことを喋る兵士をそういって黙らせるとペリスコープを覗いて辺りの様子を伺った。


あらゆる映画でも網羅できそうにない状況が発生してもおかしくない。神経をとがらせながら周辺に目を尖らせた。


 ここまで来てしまえば引き返せない。地球の当たり前がどこまで通じるかの勝負、圧倒的にこちら側の不利に陥っているのも同然。


 しばしの間装輪車部隊を走らせていたことであった。


ZENIT(天頂)よりLONGPAT】


突如として対空ミサイル車両から無線が入った。

ミサイルの目標を見つけるレーダーはいかなる目視よりもはるか遠くの目標を察知することができる。最も優れた聞き耳と目を持つ存在からの無線に俺は臨戦態勢に入る。


【こちらLONGPAT。ZENITどうぞ】


チェンタウロに乗る俺がミサイル車両の車長であるボリス中尉に声を冷たく返した。

レーダーという人間とは比べ物にならないほどの目を持つ存在からの無線であるが故に殺気がロシア語ながらほとばしる。


【対空目標捕捉。距離20km、高度400m、方位2-8-4、目標進路0-9-7。速力不明なるも非常に低速。どうぞ】


【LONGPAT了解。】


まさかヘリコプターが偵察を行っているのか、あるいはグライダーであるか。どちらにせよファンタジー世界には釣り合わない。


俺は真っ先にそう思った。高度がこれだけ低く、非常に低速で航行しているのであれば真っ先に対空車両や対空機関砲の餌食になりえる。


しかしいかにペリスコープを駆使してもその存在をとらえるには徒労に終わることが分かっていた。すると続くように無線が届いた。


【ZENIT、目標追尾開始。】


【LONGPAT了解。目標を目視で確認する。指示あるまで射撃するな。どうぞ】


【ZENIT了解。】


俺はすかさずミサイル車両の車長であるボリス中尉に無線でそう命じた。


万が一これが偵察機ではなくただのグライダーであった場合にはいかに世界的企業でもあるSoyuzの根幹を揺るがす問題となるだろう。


俺はペリスコープを覗きながら、レーダーに映ったであろう存在を目にすべく、虚構のように青い空を覗いた。


しばらくエンジンを吹かせての絵画めいたような草群を踏み鳴らしながら前進しているが相変わらず目標は映ることはない。


空高く飛ぶガンシップ相手に空を見上げるようなもので、自分の顔に手を思い切り叩きつけ頭を冷やした。あらゆる戦地に該当しないこの場に少しばかり正気を失っていたのだ。


【目標距離知らせ。どうぞ】


俺はボリス中尉に催促するように無線を飛ばした。


【目標現在距離18km。進路速力変わらず。どうぞ】


【高度変化はあるか】


【高度変化なし。どうぞ】



ボリスの冷徹な声が無線機から漏れ出した。

並大抵のグライダーであれば高度は落ちてゆくはずである。そう言った類ではないことに間違いはない、俺はそう確信した。


ではこの存在は何か。


民間が飛ばしている観光ヘリコプター、それとも所属がわからない偵察、または哨戒か。18キロという短いようで目視でははるか遠くの存在を断定するには至らなかった。


より一層眉間にしわが寄って考え込んでしまう。


【LONGPAT了解。】


ただそう返すと俺はチェンタウロを先が見えぬ平原を走らせて行く。悪路で車体が嵐の帆船のように揺れようとも電子機器に映る点が何者か見定めるまでは引くわけにいかなかった。


 そんな中、雷鳴がとどろく様に無線が届いた。


【FORERUNNERよりLONGPAT 対空目標を光学で捕捉。データリンクで画像送ります】


ストライカーRVの車長であるベイルート少尉から一報が届いた。チェンタウロよりもはるかに優れた偵察用機材の塊を搭載している。

あらゆる暗視と測距だけではなくその目視能力を持つ。我々の部隊の第二の目からの知らせだった。


【LONGPAT了解】


送られてきた画像を確認するために食い入るようにして待っていると、目を疑う画像が現れた。


レーダーのドットで表示されていた正体は飛竜であるという。


赤黒い図体に巨大な翼をもつそれは飛翔体と何ら変わりがない。

手のひらで眼を擦ってもその真実は揺らぐことはない。光学レンズでとらえた存在は確かに存在している。


そのことだけがまじまじと見せつけられた。


【LONGPATよりFORERUNNER 偵察画像は確かか?】


俺はベイルート少尉に無線を取る。

この目で見た光景をそのまま信じたくはない。

作戦行動中にするべき行動ではないが、これが故障でないと言い切ることはできないのが恐ろしい所だ。


【確かです。こちらでも信じられないですが…】


ベイルート少尉は困惑するようにそう答えた。心

霊写真を撮ったカメラマンのようなものである故、どうしようもなかった。

この画像が虚偽のベールなどは着ておらず、これが真実というのである。


【確かなんだな。LONGPATよりZENIT、射撃用意。合図でいつでも撃てるようにしておけ】


俺は少尉からボリスへと無線を切り替えると冷たく告げた。未知の原生生物ほど恐ろしいものはない。本能がまぎれもなくそう言っている程に。

ガンシップと大差ない存在感を誇る図体と肉を引きちぎらんとする凶悪な牙はTレックスを彷彿とさせる。根拠も証拠もない確固たる恐ろしさが目の前にあった。


【了解】

 

 ボリスはそう言い放つと、こう俺は念を押した。


【レーダー上に妙な動きがあったら直ぐに知らせるように】


しばらく隊を進めていると、鷹の目であるストライカーから無線が入り込んだ。


【FORERUNNERよりLONGPAT 目標付近の地上に人影です。数は3】


人影があるという連絡があった。俺は想像力を働かせた。人智が及ばぬ地に人間がいるはずがない。猛禽類の眼を凌駕するカメラを持つストライカーである。信じざるを得ないだろう。


【了解。武器等は確認できるか】


俺は無線を飛ばした。武器を持っているか否か。これがうちの職場(戦場)において必ず確認しなければならない点である。ゲリラ、便衣兵などの非正規兵士による一つの見落としは命すら落とすことがあるからだ。


ネガティブ(NO)。武器の類いは確認できません】


【了解。念のため監視しておけ】


ストライカーからそう返答が返されたものの、疑いの曇天は晴れることはなかった。


テロリストかもしれない、反米ゲリラかもしれない。ましてや自爆要因かもしれない。俺の経験があらゆる警鐘を鳴らしたが、ここにはアメリカは居ない、イスラム教もない。無理にでも自己暗示をかけた。

 装輪が伝える揺れは一層ひどくなっていく。平原に見えてかなり起伏があるのだろう。

その最中だった。


【ZENITよりLONGPAT】


ボリスから無線が入った。電子の目であるレーダーを持つ彼から。


【ZENITどうぞ】


俺はそう言って、返答をただ待ち続けるしかなかった。


【目標が降下、増速しています】


 俺の第六感が見事的中した瞬間だった。


それを皮切りにひっきりなしに無線が飛び交い始めた


【こちらFORERUNNER、例の3人組の逃走を確認。対空目標から逃げているようです。

対空目標の頭部に高熱源反応】


【ZENITからLONGPAT。いつでも撃てます】


人間と思しき存在が逃げ始めたと思えば、あの信じがたい飛竜からの熱源反応。

俺の頭はようやく理屈を飛ばして理解することができた火を吐こうとしているのである。


【LONGPATよりZENIT。射撃を許可する。1発ぶちこんで様子を見る】


【ZENIT了解。】


ボリスの指揮するミサイル車はブレーキを目いっぱい踏み込んだのか、車体揺らしながら急停止。

すぐに誘導弾コンテナの蓋が吹き飛んだと思えば


———DOM————SHHHHHM!


青空に白煙の帯を残しながらけたたましい爆音とともに目標へと向かって飛翔した。流星のように空を切り裂いて飛ぶミ一発のミサイルは飛竜まで音のように近づくと虚空に土色の爆発雲が広がった。


【目標に命中。目標、急速に降下しています。頭部の高熱は消失】


 我々は文明を用いてまさしく飛竜をたたき落としたのである。墜落場所はストライカーの機材のおかげで見当はついていた。


そこでBTRに乗せていた人員を下ろして現場を確保した。


兵士は口々に奇怪な飛竜をまさしく珍獣のように見ていたり、時にライフルの銃口を当てたりしていたが、その最中であっても俺は装甲のゆりかごから出ることはない。



「少佐も出ないんで?サーカスに出したらそりゃあもうお客が呼べそうな様子というのに」



砲手のアドルフが俺にそう囁いた。その浮世めいた面を尻目に俺は銃弾が切り裂いたような眼差しを向け



「油断しきった状態で外に出た挙句銃撃されて死んだヤツを俺は知っている。まさしくこんな状態だった。そいつは俺が息の根を止めた。ヤツの二の舞を演ずるつもりはない。」


俺はただそう言い放った。

ここには反米も原理主義のムスリムもいないかもしれないが、賊やら追剥がいるかもしれない。


張り詰めたピアノ線のように警戒を続けるしか生き残るすべはない。どこにいってもそうなのだ。そんな様子に辟易したのかアドルフはこう続ける。


「まぁいいかもしれないですがね少佐。連絡とらないと戦艦男(中将)がうるさいでしょうに。無線の中継器を置いてあるんで使えるとか言ってましたがね」


「まだまだぬるいな、俺は。だろう、アドルフ。」


その指摘を小耳にはさみながら兵士の集団をペリスコープで覗いたまま無線を取ると、のチャンネルを切り替える。


【HQ、こちらLONGPAT 得体の知れぬ生命体を叩き落した。回収部隊の派遣を要請する】


【HQ了解。有識回収部隊をそちらに派遣する。LONGPATのビーコン信号LP334を頼りに回収部隊を派遣する。Over.】

 

 ふと外の様子を見ると兵士の様子がおかしいことに気が付いた。


「おい、こいつ生きてるぞ」


「ズーラシアに放り込んでやろうぜ」


撃墜したはずの飛竜がまだ生きていたのである。


オーサ・ミサイルの直撃で原型を保っていたことから殺し切れていないとは思ってはいたがここまで動けるとは思ってもみなかった。


それを矢先に大事な兵士に向けて口を開いて得体の知れない行動をしようとしているときているときているのである。



—————PTTTT‼



 ただならぬ様子を察知したのかスタッフの一部はM4やカラシニコフで銃弾のスコールを浴びせて血しぶきすら舞っているものの飛竜はひるむことなく口を開けつつある。



そのはるか奥からはガス灯のように炎がちらついているのである。俺は咄嗟に車外スピーカー用のマイクを取ると


「総員、退避せよ」


とだけ告げると砲手に向けて


「主砲で黙らせろ」


「了解」


 俺はスタッフが逃げ出したことを確認すると、すかさずチェンタウロの砲塔が動き出し、固定したように照準が飛竜に向けられた直後、火を噴いた。


ZOOOOMM!!!


車体が大きく揺れると、砲弾は飛竜の胴体を吹き飛ばし沈黙させた。


「例の殺した奴っていうのはこんな感じでくたばったんですかい」


アドルフは硝煙漂うなかでもおどけて見せる。


「そうだ」


俺は短くそう返した。

・登場兵器




チェンタウロ


イタリア製の戦闘偵察車。


機動力と戦車砲顔負けの砲を乗せているため火力に優れるが、装甲は戦車と比べて極めて脆弱。




ストライカーRV


軽装甲車ストライカーの偵察仕様。より良いカメラを積み、それなりの武装を搭載している。戦場の目としては適任。




AMX-10RC


105mm砲という二つ世代前の戦車と同等の攻撃力を持つ偵察車両。


見つかってしまったら相手を殺せば良かろうを全力で行く、男気のある装甲車。




BTR-80


ソ連製の兵員輸送車。60、70ともども棺桶セレクションを受賞し続けていたが改良により克服。


マトモに使えるようになり、数も大量にあることから戦場を基本的に選ばない。



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