Chapter174. Deus Ex Machina (2/4)
タイトル【機械仕掛けの神】
海戦が始まり次第、帝国の戦艦を撃沈したSoyuz。
竜母のうち大型のゲグルネインは撤退中に撃沈、小型艦はほとんどが沈没。
艦載騎を切らしたゲグルネイン級ギドゥールは足早に後退。
囮にもならない船が戦場にしゃしゃり出てどうしようというのだ。
だが40km離れた先にいるレーダーに、不鮮明に映る船が尾道や大田切の2km先という至近距離でついに姿を現す。
その姿、まるで幽霊船と戦艦長門を混ぜたような異形。それが突然瞬間移動したかのように現れた!
既に電探には反応が消え、目の前のコイツは幻ではなく確かに存在している!
「1、2番主砲撃ち方はじめ!」
チェレンコフ大佐と尾道館長の声がシンクロした。
————VooOOOOOONGGGGGG!!!!!———ZRaaAAAAASHHHH!!!!!———
一斉に放たれる砲火。
濃霧の中でもはっきりとわかる攻撃を受ければただでは済まない上、2kmと近づかれ過ぎている。
10km先でも攻撃を当ててきた帝国軍だ、この距離ならたとえバリアを張ってもそれを縫って撃ってくるに違いない。
有ろうことか巨大な榴弾は異形をすり抜け、大きな水柱を上げるばかりか時限信管が作用して炸裂するも姿は揺れるばかりで効果はまるで見られない。
装甲ではじき返されるというよりも「ありもしない幽霊」に向かっているように思えた。
「どうなっている!?」
尾道の艦長は窓に張り付いて、幻の類ではないかと疑いにかかる。
これなら怪しい壁でも作って弾かれた方がまだ現実味があるというもの。
それに対し、チェレンコフは怪奇現象を前に狂ってしまいそうな頭をなんとか動かしながら、どう対処すべきなのかを考えていた。
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□
状況を整理しよう。
レーダー上からは完全に消失し、突然目の前に現れた。
ポータルでも発生させて瞬間移動することだって十分にあり得るだろう。
だが、不自然なことがある。
あれだけ強力な主砲、この大田切でさえも危うい威力のものを何故近距離で撃ってこないのか。
自分があの立場にいるのなら確実に砲撃命令を出していたはずだ。
ならば……そう思った瞬間だった。
————VeeEEEEEEE!!!!!————
凄まじい熱と光エネルギーを放ちながらビームが尾道をかすめ、一瞬のスキをついた戦艦ギンジバリスの攻撃が大田切4番主砲に直撃する!
挟み撃ちだ!
「4番砲塔被弾!火災発生!」
【こちら尾道、目の前の敵艦は囮だ。レーダーに映っている方を叩け】
【了解】
「鎮火急げ!90度回頭!敵艦に並走し魚雷を放て!」
幸いにも敵の射撃制度は恐れるに足りない。
狙いが尾道であるなら、今は目の前で挟み撃ちを仕掛けてきたアイツから片付けるのが先決だろう。
船は大きく向きを変えながら敵艦に並走する。
諸刃の剣である船腹を見せる形になるが、こうでなくては魚雷を撃つことが出来ない。
操作要員がゆっくりと発射管が狙いを定めるべく旋回させ、圧縮空気と共に細長い物体が海中に放たれた。
BRASH!!!
こうなれば勝負はついたも同然。海をかき分け、人食いサメが迸るが如く、敵めがけて一直線に航走にしはじめた。
強大な砲撃力と魚雷投射能力を持つ艦艇が出来る専売特許である。
————BaaaaAAAAMMM!!!!!!——
巨大な爆薬が船近くで起爆し、比べ物にならない程大きい水柱を上げた。
持ち上げられた海水の圧力に打ち負け、船体はあっけなく八の字にバッキリと両断。
それぞれが別の浮遊物と化し、船首と船尾が流されていく。
次第にバランスを失った戦艦は少しずつ傾き横転。
帝国最新鋭 戦艦ギンジバリスは海の藻屑と化した。
残るのは影も形もない幽霊船だけ。
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□
———同刻
———マォピゾの樹海
ナンノリオンを出発したベストレオは進路をギンジバリス市に変更。
陸海の両方から港湾の奪還を狙っていた。
必要なのはあくまでも設備だけであり、裏切り者と化したギンジバリス大佐は抹殺されることになる。
たとえ味方でも、一度敵になれば排除されても文句は言えない。
これが戦場の必然だ。
———DoooOOOOOMMM……
地響きのような重低音が木々を揺らし、鳥が一斉に逃げていく。
破壊の音は聞こえてくるが姿は見えない。そう油断した瞬間、ヤツは迫ってきた。
影が空を覆い、曇りかと思った矢先にリベットがそこら中に打たれた鋼鉄の獣脚が振り下ろされる。
樹齢何百年の大木がビスケットのように砕け散り、姿勢制御用の爪が地面に少しでも触れたが最期、溶けたアイスの様に食い込んだ。
このような獰猛で敵なしの火竜ですら虫けらのように踏みつぶし、圧倒的な立場から力を行使する兵器。
だがその姿はもはや人が作り上げたものとは思えない。
機械仕掛けの神そのものだった。
全てにおいて凌駕し、圧倒。その末の蹂躙。
そうすることで帝国に盾突く「異端」を絶滅させるために作られた、破壊と浄化をまつる機械の使徒。
それがベストレオの正体。
「小鳥を撃ち落とせ」
ファゴットの冷酷な指示が下る。魔甲式誘導対空砲の試射にマォピゾの樹海を選んだのか。
比較的航空機に近い野生のワイバーンが多く生息しており、的には困らないからである。
司令官の指示を受けたベストレオは側面、背面、尻尾に広がる関節から無数の光筋が飛び出した。その様は闇を明かす日の出のように美しく、なによりも惨たらしい。
放たれた細いビームは怯えて逃げ出す飛竜や猛禽、スズメと大差ない小鳥に向けてミサイルの様に曲がると、まとめて蒸発させてしまった。
対空兵器すら木っ端微塵にするまで至らないため、尋常ではない火力であることが伺える。
この威力、戦艦ギンジバリスの主砲にも匹敵するのは明らかだ。
戦闘機に直撃すれば最後、消し炭にされることは間違いない。
「実験は成功です」
伝令が結果をファゴットに告げる。
だが彼はどこか改善点があるようなようで、淡々と気になった所を並べていく。
「良く見よ。光線は小物まで反応しておる。ちと敏感にしすぎたようじゃ。飛龍に反応するよう感度を下げよ。敵は鳥よりも大きいのじゃ。多くの火力を差し向けねば叩き落せんぞ」
仮にガビジャバンを相手にするのであれば、この程度で良いのだろうが相手はSoyuz。
人類の英知と悪意を凝集させたような兵器を使ってくる。
だが何もかもが規格外なベストレオはその悪意すら凌駕するのだ。
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□
———樹海上空 高度6000m
一方その頃。
マォピゾとは帝国の古代語で禁忌の意味。
依然として謎の多い樹海を調査するため、1機のフェンサーFが高高度から偵察を行っていた。
いくら凶暴な野生種の飛竜やドラゴンナイトと言っても、生物であるが故に寒く低酸素な高高度の環境に耐えられず追ってはこれない。
ヘッドマウントディスプレイには無機質な情報の波が流れている。
機器越しに除く世界はとても狭く、繊細だ。
天使の領域から見るこの帝国は地球同様にとてもちっぽけで、下手をするとジオラマなのではないかとすら思えてしまう。
「どいつもこいつもジュラシックワールドなんて言いやがるが……。こいつはァ……マジだな。ほんとにスピルバーグが住んでるに違いない」
その最中、あの閃光が機体をかすめた。
ここは高度6000m、生物の入ってこれない天使の領域のはずである。
帝国の兵器でここまでの射程のある兵器は聞いたことがない。
「——ッ!クソッタレ!こんなとこで叩き落とされたんじゃたまんねぇ……!」
こちらに向かって飛来する光線に当たれば撃墜だって免れない。機体を目いっぱい動かして逃れようとする。
射出座席でも使うハメになったら生きて帰れないのは確実!
パイロットは息を荒げながら本部へと連絡を取った。
【こちらFly High!攻撃を受けた!】
【本部了解。状況報告せよ】
無線越しに聞こえる他人の声にパイロットは頭を冷やし、辺りを見回す。
すると先ほど見た光線は止んでおり、空には機体のエンジン音だけが木霊していた。
【誘導する光線の……ようなもので攻撃された……と思われる】
未だ混乱し続ける頭の中から記憶を引きずり出し、伝えられるように整理しながらオペレーターに報告する。
誘導ミサイルにロックオンされたわけでも、機関砲の直撃を受けたという事でもない。
ただ異質な攻撃としか言いようがないのである。
【本部了解。詳細な情報が欲しい。偵察を続行せよ】
なんにしても未知の敵を相手取るには情報が不可欠だ。
【……了解】
「軽く言ってくれるぜ全く……あんなの避けるんなら命がいくつあっても足りねぇぞ……」
彼は無線を切ると悪態をつきながら操縦桿を握る。
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追ってくるのがミサイルなら警報の一つや二つが出るだろうが、この怪光線に対しては全く持って反応しなかった。
となると自分の第六感と運を信じるしかなくなる。
果たして神は次元を飛び越えたこの世界でも助けてくれるだろうか。
パイロットは焼き焦がれるような焦りを胸に、光線を放ってきた元凶を向かっていった。
「大方分かってきたぞ……」
接近するにつれ一定間隔で光線が迎撃しにやってくるようになった。
敵からの攻撃ではなくあえて迎撃と表現するには訳がある。
この光線は一度空に打ちあがり、標的を察知すると一度だけ曲がってこちらに向かってくるのだ。
単体では誘導ミサイルよりは潔いが、ドッグファイトに持ち込まれた際に援護射撃として撃ち込まれた場合が厄介。
それに重爆撃機や戦略爆撃機と言った、比較的鈍い機体に向けられた場合には手に負えないだろう。
試しにフレアを放出してかく乱を試みたが、どうやら高速飛翔体に反応しているらしくジャミングは通用しない事が分かっている。
敵のクールタイムに潜り込むようにして飛行を続けていると、ついに光線の主が見えてきた。
悪辣なビームを放つ存在。
ただの地対空ミサイル基地や飛行場や、ミサイルを積んだ自走対空砲の方がずっと良かったに違いない。
パイロットは衝撃的な光景を前に叫び散らす。
「冗談だって言ってくれよ、オイ!チクショウ、誰か説明してくれよ!」
戦闘車両の何百倍もの長さ。最早メートルという枠を飛び出し、キロメートルまで達する獣王が確かに存在していた。
はじめは陸上戦艦かと思ったが、そのような類ではないとすぐにわかる。
ヤツは確かに二本の脚で、その地を進んでいるのだから。
ここで再び、光線が止む。
今度こそ姿を激写しようとした瞬間、怪物の首にあたる部分が極彩色に光り出し何よりも太い光帯が撃ちだされた。
後ろに振り向いても道筋は続いている、ならば機体ごと傾けてその行く末を見届けるしかない。
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核爆弾から熱線だけを抽出したような禍々しい一本線は森を過ぎ、ゾルターンすら突っ切ってシルベー城をかすめつつ湿原を横断しダース山に着弾した。
この間、およそ数百キロ。
天使の領域に砲撃や悲鳴、燃え行く木々や城の音は届かない。ついに帝国も汚染なき核兵器を手にしたのだ。
こうやって人類は殺しの為ならどこまでも残酷になれる。
突拍子もない変化にパイロットは開いた口がふさがらなかった。
無線をつけっぱなしだったのか、本部から呼びかけが絶望の底から引き揚げる。
【どうした!何があった!】
【悪魔だ……いや神がそこに……いやがる……!】
パイロットからの返答は海のどん底まで叩き込まれたような深い絶望だけが満ちていた。
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———幻影戦艦コンクールス
幻術と副産物として発生したレーダーから消失によって、Soyuzを出し抜いた幻影戦艦からベストレオの砲撃が観測されていた。
「ケモノからの砲撃を確認しました!」
「Humm……ずいぶんと遅かったじゃないか。だが弱ったな、向こうが陸上戦力は引き受けるが、こちらの敵は自分で対処しろ、ときたか」
伝令からの報告を受けた艦長アンデピトーは待っていたかのように返す。
竜母が積んでいる騎士はほとんど叩き落とされたことがあまりにも痛すぎる。
正直言って敵艦を大きく迂回させてギンジバリス市に送り込めば制圧は容易に行えたはず。
弾切れを起こした以上、撤退をすべきなのだろうが敵はそこまでは甘くない。
執念を燃やし敵艦に挑んだ戦艦ギンジバリスの主であるトーピスはやれることを全てやった。
命のバトンはこの幻影戦艦に託されている!
ここで帝国のために出来ることはたった一つだけだ。
ベストレオが来るまでの時間稼ぎ。
犬死する可能性だって十分ある、けれどアンデピトー少将の顔は不敵な表情を崩さない。
異端に帝政復古されるのであれば、やれる限りのことを尽くして死んだほうがずっとマシだ。
下手に生き残れば失態を追求され処刑されるに違いない。
ならば軍人の花園である戦場で命散らす覚悟を既に決めている。
それよりも、撃沈されてなるものか、こんなところで終わってなるものか。
軍人としての、帝国人としての意地が突き動かしていた。
「デカブツを盾にしながら直進、出会い頭が勝負になる」
「一斉砲火で厄介船を沈め、そのままフェロモラス島海域で敵旗艦と相打ちすれば帝国に勝利がやってくるはず」
「諸君、準備は出来ているな!」
周りにいる副官が一斉にアンデピトーに鋭い敬礼で返した。
彼らの目には炎が宿っていることがはっきりとわかる。
「我が祖国の炎をこんなところで異端共には消させてなるものか、——帝国の栄光は永遠に!」
誰も彼も居場所を守るために必死なのだ。
依頼を達成するSoyuzも、栄光を確固たるものとしたいファルケンシュタイン帝国も。
死神は着々と迫る。
次回Chapter175は1月21日10時からの公開となります。
登場兵器
・ゲグルネイン級大型竜母
新型のドラゴンナイト運用プラットフォーム。両舷に2つ、後部に2つずつ合計4つの飛行甲板を持つ。
帆船なのだがやはり見た目がどう見ても宇宙戦艦か何かに見える。
・幻影戦艦コンクールス
同型が存在しない戦艦。軍事機密の中でもトップクラスに秘匿されており、砲の配置は「長門」そのもの。
幻術を使い、敵にだけ探知されず一方的に攻撃することが出来るという中々インチキじみた戦艦。
主砲も35.6cm砲並みの射程を持ち、威力は戦艦ギンジバリスを凌駕する。
・ベストレオ
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