Chapter172. Hive of Evil(2/2)
タイトル:【悪の巣窟】
——ウイゴン暦8月11日 既定現実8月18日 午前3時38分
司令部通用口
Bチームが張り巡らされた罠を撤去しながら重装歩兵の群れは城を進む。
1日に何発も襲い来るスカッドDによりゾルターン城としての機能をほとんど喪失。
戦闘行為はたった一人の敵ソーサラーを排除しただけになる。
司令部に通じる通用扉を爆破。
音の反響から居間のような広いスペースがあると断定した制圧チームは、5式軽戦車を先行させるのだった。
軽戦車とは言っても軽自動車よりも一回りほど大きく、それなりのスペースを取る。それにも関わらず支障なく通れる程に広い。
脇にはミジューラ、後ろにはガビジャバン・アーマーたち。
異様な光景なのは言うまでもないだろう。
正常に機能しているのなら重装歩兵やソーサラー、狭い場所を活かせる勇者など送り込めるだけ送り込んでジェネラルで蓋をされていたかもしれない。
———QRAQRAQRA……
いざ坑内に足を踏み入れると魔力灯が点灯しておらず、軽戦車がライトをつけた。
暗視設備を持ち合わせていない歩兵のためである。
明かりを灯すと床に血が乾いたような跡が見える、それも床だけに留まらず、壁や天井まで。
「車長、妙です」
ただならぬ空気を察知していたのは砲手だった。
待ち伏せをしているはずならこんな有様にはならないはず。
まるで同士討ちがあったような形相は余りにも異様にも程があるだろう。
最早ここまで行くと士気云々の話ではない。
【こちらFeather Cから爺さんへ。この状況、どう思う】
信じ込むわけにもいなないため、車長は現地のドクトリンに詳しいミジューラに無線を飛ばす。
【防衛のため兵を集めていたところまで儂が知る兵法だが…。明らかに兵が狂って同士討ちをした跡がある。タカが外れた人間は恐怖を感じぬ。十分に留意されよ】
【あのラムジャーという男、頭は多少回るようだが戦いの本質をわかっておらん】
彼が言うには士気低下極まり、ついにヒステリーが発生。
手を打たれることもなく、デスゲームが始まったとの事だった。
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司令官や指揮官は何も策を練るだけではなく、いかに兵の正気を保ち団結させるかというのも仕事の一つ。
これでは数で粋がる小物に過ぎないどころか、管理を放棄して自分勝手に暴れる図体だけ大きい子供に過ぎない。
———大広間
「——殺してくれェ……」
暫く突き進んでいくと、大広間の奥から呪詛がこもったような恐ろしい叫びが響き渡る。
どうやらこの先はうねっているようで声の主は姿を見せない。
砲手は曲がり角から襲い来る敵に狙いを定め、引き金に手を掛ける。
そこに待ち受けていたのは返り血で赤く染まり、ゾンビのようにうなだれた重装兵だった。
槍や盾を持っていないどころか普段着用しているヘルムすら失われているではないか。
そんな敵兵が戦車を見かけるや否や、スプリンターの様に走り出し狂ったように懇願する。
「もういい、もういいだろ!もうたくさんだ!地獄に送ってくれ!」
切羽詰まった様相に確信を覚えたミジューラがすかさず割って入り、ジェネラルとは思えない素早い膝蹴りで敵を引きはがした。
戦う気力が尽きたアーマーナイトは無抵抗のまま地面に転がる。
「野郎!」
すかさず背後の重装兵がニグレードの鎖を出し大斧を振りかざすが、巨大な盾が邪魔をした。
「無抵抗の兵を嬲るか。兵としての義理を守らぬとは言語道断。……斧が痛むぞ」
明らかに戦闘能力がない、無抵抗の人間をわざわざ殺しに行くほどミジューラは外道ではない。
頭に血が上るのは分かるとしても、ここにいる兵士は仮にもラムジャーに従っただけに過ぎず、ロンドンの様に悪徳をふりまくわけではない。
外道を打倒す者が外道になってどうするのか。ロジャーも会員の斧を取り押さえ、こう諭す
「止めろ。正規の兵と言ってもラムジャーに巻き込まれた被害者、つまり俺達と何ら変わりないんだ。……被害者に手を挙げてどうする……!」
隊長格と代表に正論を突きつけられ、刃を下ろさざるを得ない。
ラムジャーを許さない市民の会といった閉鎖コミュニティは先鋭化しやすいものだ。
綻びが出来ればあっという間に悪化していく。その芽を摘むのも代表としての役割である。
【儂だ。負傷者あり。後ろに回してくれ】
【B-TEAM READER了解。回収に向かう】
残すは扉一枚、ラムジャーの居間だけとなった。
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———司令部前
Bチームが戦意を失った敵兵をポポルタ拠点に移送するよう動いている。
ついに装甲歩兵チームは、ラムジャーの息の根を止めるところまで来ていた。
「隊長、ダメです!鍵は壊せましたが、こんの腐れ外道、内側を固めております!」
ニグレードを何回も振りかざしてようやく鍵を壊すことに成功したが、バリケードのようなものを配置しておりビクともしない。
300kgを誇る装甲の塊がタックルしても軋みすらしない。
あまりの状況に会員は焦りを隠せない状況でいる。
けれどミジューラは密かなる怒りを燃やしながら指示を下す。
「小賢しい事ばかり考えおって……ソルジャーキラーを貸して欲しい。……これが通用するとは思えんが」
装甲殺しの大槍を重装兵から受け取ると早速矛先を扉に突き付け、炸裂させた。
———BPHooMM!!!——
この手ごたえからして扉を貫いてはいない。おおよそ突破されることも織り込み済みか。
【儂らの武器では歯が立たん、突破してくれ】
【了解!】
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ミジューラはためらいもなく背後の戦車に連絡すると、返事と共に砲弾が帰ってきた!
———ZDaaaAAAASH!!!!———ZDaaaAAAASH!!!!
二発の徹甲弾は容赦なく扉に風穴を開ける。
この千枚通しで開けた針孔を突破口にして戦車は砲塔を後ろに向けて突撃。
馬力にモノを言わせブルドーザーのようにバリケードを押し返していった。
敵も戦車の事を目の敵にしているだろう。ミジューラはその脇に控え待ち伏せを警戒する。
戦車のマシン・パワーがあればこの程度の障壁を突破することは容易い。
「車長!前方に敵数4!」
砲手が見たのは武装した重装兵の待ち伏せである。
主砲の再装填は絶対に間に合わない、機銃なら動きだけは止められるだろう。
これだけあれば味方がやってくれる。
「再装填急げ!」
———BLATATA!!!!———
機関銃が吠え、辺り一面に弾丸が広がるように乱射しはじめた。
この奥にいるラムジャーさえ確保できればいい。
銃身が焼き切れる覚悟で引き金を引き続ける!
運動エネルギーの暴力は幸いにもアーマーナイトに直撃。
貫くことはできなくとも動きを止めることはできた。
繰り返すが砲塔旋回、次弾装填をどれだけ急いでも間に合わない。
だが、その背後には何よりも瞬発力のある重騎士たちが待機していることを忘れてはならない!
「これで最後ダァーッ!」
大斧を手にした重装兵が一斉になだれ込む。ある者は斧を撃ちだし装甲を貫き、ある者は兜を引きはがし斧を振り回す。
殺意の波動に飲み込まれた市民の会と、武器を持たされたやる気のない兵隊では次元が違う。
まるで猛獣と草食獣の如く蹂躙されていった。
部下を見殺しにして逃げようとするラムジャーだが、此処で逃げられては何もかもが水の泡。
———ZDaaaAAAASH!!!!
戦場で背を向けていいのは味方側だけだ。
47mm徹甲弾が非常用通路の上に着弾、崩れた瓦礫がラムジャーを足止めする。
ジェネラルの超重装甲を身に纏っている故にまともに動けず、もはや八方塞がり。
もう逃げられない。
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「まっ……待ってくれ、すまぬ……許してくれ。ワシは帝国の言うままにしてきただけだ、ワシとてこんな真似は嫌だったが、祖国の繁栄のため仕方がなかったのだ。なっ……だからた、助けてくれ……!なんでもいう事を聞く、こ、この通りだ…!」
もはやここまで。
ラムジャーは手槍を捨て、か細い声で命乞いをし始めたではないか。
今までの悪行がこの程度の謝罪で許されるかどうか分からないが、謝らないよりはマシだと思ったのだろう。
白々しく思えるそれにミジューラはこう返す。
「貴様の今までの悪行の数々、その程度で許されると本気で思っているのか」
「祖国のためと言いながら、国の宝というべき人民を搾取した挙句虫けらのように殺し、それでも飽き足らず、かの巨悪ロンドンを帝国にはばからせるとはどういうことだ。説明して見せよ」
「……儂も帝国の転覆に加担している身、深くは言えぬ。だが貴様の罪は間違いなく万死に価するぞ」
そう言いながら明らかに反省する気の毛頭ないラムジャーを注視した。
確かにヤツは武器を捨てたが、その背後で何かを取り出している。
槍などには見えないが、文書ではないのは見てわかる。
それは丸く雨粒のような曲線を描いた…「銀の銃」の銃床だった!
直撃すればジェネラルの分厚い装甲を貫通して燃やして殺す、恐るべきマスケット銃である!
「……と、ゆだんさせといて……ばかめ!死ね!」
構えて狙いをつける1秒にも満たないこの瞬間。
ミジューラは驚くべき瞬発力を持ってラムジャーとの距離を詰め、銃を弾き飛ばすと壁に叩きつけた!
「ラムジャーよ、ここまで見下げ果てた人間とはな。雑兵がやる手に儂がかかると思ったのか。今貴様を殴り殺しても良いが、生け捕りにしろと釘を刺されておる」
「……口止めさえなければ今すぐ地獄に叩き込んでくれよう。よく覚えておくが良い。貴様は生かされているという事を」
スリット越しからでも伝わる確固たる殺意。ラムジャーは心の芯から怯え、言葉が出なかった。
こうして、ゾルターンは制圧された。
元正規兵の野盗やロンドン残党という問題は多いが、広大な地を確保できたのは大きい。
ラムジャーはというと身ぐるみ剥がされ、自治区に連行される予定だという。
Soyuzによる尋問後、ナルベルンの民により死ぬよりひどい目に逢うことが決定している。
目標を達成した市民の会はゾルターンを拠点に、被害者救済や引き続きロンドン残党を追跡するという声明がロジャーから発表された。
切迫する仕事を終えたジェイガンはバイザーを上げてタバコを吸おうとするも、黒い覆面が邪魔をする。
基地に帰って一服しろ、という事だろうか。
「神様から仕事中に吸うなってお達しか……」
そう呟きながら空を見上げる。
地獄の様相を呈していたゾルターン城に神は情けをかけなかった。
因果応報と言えばそれまでだが。
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こんなことをして帝国が黙っているはずがあるだろうか。
ゾルターンが陥落し、ギンジバリス港湾を制圧された今。兵站はズタボロになるのは見えている。
暫くは各方面が持ち合わせている備蓄で持たせられるだろうが、それが尽きたら一貫の終わり。
誰にだってわかるハズだ。
始めの頃Soyuzが地盤固めをしたように、帝国側も同じようにしてくるだろう。
だが、どれだけ騎兵やアーマーナイトを送り込んだところで全て撃退されるのが関の山。
こうなったら最後。
凄まじい力、戦略をも覆す強大な兵器を投下して逆転するしか手立てがない。
悪意の塊である現代兵器を超えられるだけの物体。それは果たして存在しうるのだろうか。
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——ウイゴン暦8月11日 既定現実8月18日 午前7時38分
———ナンノリオン県 帝国軍大型兵器格納庫B7階
全長1200m 全高50m。無数の副砲を側面や背面に配置した
二足歩行型戦略国土蹂躙兵器 第一号機
またの名をオンヘトゥの13使徒【ベストレオ】がついに動き出そうとしていた。
危機的状況を前に、ついにコンクールスより出撃命令が下ったのである。
あらかじめ出しておいた海上戦力と、最狂の戦略兵器を持って奪還しようという考えだ。
「動力炉、出力安定。各部関節、魔力充填完了しました」
整備士が出撃前の最終調整が完了し、いつでも日の目が見られることをファゴットに告げる。
「いよいよ実戦投下……。此処までたどり着くのに何年かかったかことやら……ついに私の夢が叶うというものだ……!」
報告を受けた暗黒司祭は、歪んだ理想実現を前に心が滾っているようだ。
祖国、自らが居た次元では徹底的に否定された物体が今。
地に足をつけ、こうして大手をふって歩く時がきたのである。
だが整備士は現実主義な人間らしく、容赦なく現実を突きつけた。
「一つ、お聞きしたいことがあるんですが。この格納庫、昇降設備とかないんですけど。どうやって出撃させれば良いんですかね」
「ほほほ、私がその程度の事でつまずくと思っておるのか?このドッグを誰が作ったと思っておるのだ?山の斜面をくりぬいて作ってあるのは何のためか……」
「これだけの図体。出撃にさせるのに兵器自らが【昇降】すればよいのだ。主砲発射準備急がせよ!」
この極秘ドッグは斜面をくりぬいて建造して資材を搬入。
機密保持のためにくりぬいた際に生じた大量の土砂を使って封じ込め、建造が始められていた。
速い話。ボトルシップの船が取り出せないのなら、内側からビンを破壊すれば良いのである!
「は?」
とても正気とは思えない言葉に整備士は言葉を失う。
「斬新な発想についてこれないようじゃな。国家機密級の戦略兵器なら迂闊に射撃試験はできまい。だから私はこう思った。出撃と同時に試射をしてしまえば良いのではないかと」
「私の設計は完璧だ、だがそれを使うのは私ではなく、お主のような兵士」
「いざ戦場のど真ん中で撃って慌てふためくことはしたくはないじゃろう?主砲を撃てばここは火の海になるのは確実。逃げるか、私についてくるか。考えておくことだ……」
勝敗を無に帰す、恐ろしい兵器が今出撃しようとしていた…!
次回Chapter173は1月7日10時からの公開となります。
本Chapterは2022年最後の投稿となります。みなさま良いお年を。




