Chapter171. Hive of Evil(1/2)
タイトル:【悪の巣窟】
———ウイゴン暦8月11日 既定現実8月18日
午前2時
——BATATATA……
ヘリの5機編隊がゾルターンを騎行する。
2基のハインドはBチームを。輸送ヘリには超重装装甲歩兵ミジューラ氏と5式軽戦車をぶら下げ、残り一機に戦車要員を詰め込んでいた。
その下には迎撃騎を警戒、市民の会の天馬騎士が付いており、目標地点に到着後に騎兵となって城を固める予定である。
あらかじめ重装歩兵を満載にした偽装トラックが近辺で息をひそめており、特殊部隊のヘリボンが始まりを告げるだろう。
「Gチームの爺さんと共に作戦を進めるのは初めてになる、が。俺たちがするのは罠外しだ。取り立てて何かをするわけじゃない。いつも通りにすればいい」
ヘリの離陸直後、ジェイガンは部下に改めて釘を刺し直す。
わかっているとは思うがとはあえて言わない。
確実な任務遂行には二重チェックが必須なのである。
今回Bチームがするのは大量に仕掛けられているブービートラップの排除。
工兵的な役割だが、室内に精通しているのは彼らくらいのものだ。
安全を確保できた場所から背後で、ミジューラと戦車が市民の会を引き連れていくことになっている。
もしもの時にガンシップの援護を呼びつけられるのもBチームであることから縁の下の力持ちというにふさわしい。
制圧戦の詳細はこうだ。
ヘリが兵員を降下する間、天馬騎士が護衛につく。
地に足をつけたら戦車を投下するため区画を制圧。軽戦車と爺さんを投下後、Bチームが屋内へ先行する。
市民の会と協力しながら、確実な勝ち筋のある配置に違いない。冴島大佐も良く考えたものだ。
この作戦のブリーフィングから今日に至るまで、ミジューラは常に険しい表情のまま最低限の事以外喋ろうとしなかった。
大して交流のないBチームでも腸が煮えくり返っていることは容易に想像がつく。
神から送られたこの帝国に住まう罪なき民間人に殺戮と暴虐で脅しつけ、自分は豪遊と女遊びを続ける。
あろうことか犯罪組織ロンドンと手を組みやりたい放題とは一体何事か。
そんな腐り切った存在が今回の相手だ。
為政者としての顔を持つミジューラとして生かすどころか因子すら伝えてはならない。
親の仇以上に排除しなければならないと考えている。
【作戦ポイントへ到達】
【B-TEAM READER了解。降下開始】
そうこうしている間に投下地点に到着。
周りにペガサスを引き連れ、神聖なる神ではなく強化プラスチックで覆われた黒い悪魔がゾルターン城へ迫る。
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□
——ゾルターン城 上空
降下ポイントに到着するや否や、護衛のナイトから無線が入る。
彼らもソ・USEを携行しており、作戦行動がとれるようになっていた。
護衛に目を向けると、ヘリが立てる轟音が凄まじいのか天馬は暴れ馬と化している。
離れればそうでもないらしいが、これが良くなかった。
【こちら天馬騎士団、下降気流と音が凄くてペガサスがいう事を効かない!1つそっちにいった!】
隊長格が迎撃騎を察知したことを伝える。
奴らも敵がヘリボンでやってくることを学習し、ホバリング中で無防備なハインドを襲う事を覚えたらしい。
小賢しいことに、敵は鈍重な事を見抜いてハインドの背後に付いているばかりか、ダールを担いでいるではないか。
こんなものが直撃すれば最悪墜落も免れない。
だが、悪徳悪辣将軍ラムジャーの手下にとって最強の抗体を持っているではないか。
【ラムジャーに死を!】
一筋の白馬を狩り、ドラゴンナイトに側面から襲い掛かる!
速度と運動性はペガサスの方が上。
耐久はなくとも、殺意と憎悪に満ちた兵士の士気が下がった敵に負けるはずがない。
剣を出す間もなく騎手が刺殺されると、本能的に飛竜は炎を吹きだす。
羽といい、可燃物の塊である天馬に火のブレスは大敵。
しかし運動性もこちらが上であることを忘れてはならない。
空中で宙返りをしてワイバーンの注意を引き付けると、あの隊長が問答無用でファントンを浴びせた!
ワイヤーで切られたアイスクリームの様に両断された敵はそのまま落下していく。
【敵機撃墜確認。降下を開始する!】
ジェイガンはヘリのドアを開け、ロープを下ろすと流れるように地面に降り立っていった。
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□
降り立った城の状態は悲惨極まりなかった。
数多のスカッドを受けたのか敵の侵入を防ぐ壁はボロボロで、建物自体も廃墟と化している有様。
ゾルターンの中核を担う強固な軍事要塞にもかかわらず、地面が多く露出している時点で凄まじい攻撃を受けたことが理解できる。
それに敵が侵入してきたというのに、兵士が全くと言っていい程出て来ない。
竜騎兵は出てきたにも関わらず。
毎日、それも1日5発のスカッドによる攻撃は、城そのものをボロクズにしただけに飽き足らず、いかに敵の士気をガタ落ちさせていた。
何時1tもの爆弾が落ちてくる恐怖に耐えられるだろうか?
いたとするならば死人だけだ。
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ポポルタ線やシャービル陸軍基地で疲弊させられていた所を城で止めを刺されていたか、相当に悪あがきをされて増援を呼ばれ敗退していたか。
しかし、起きてしまったことに「もしも」はない。
Bチームは真っ先に破壊されている中でも出入口として使える裏口を発見。
度重なる1t爆弾の乱舞によって破壊されており、発破をかける必要はないらしい。
ジェイガンは眉を顰め、待機のハンドサインを出してそっと様子を伺う。
内部は最早廃墟と言って差し支えなく、日用品と思しき物品どころか槍や剣と言ったものさえ転がっていた。
無造作に打ち捨てられた物体は、心霊スポットと化した廃病院のように重い空気を作り出す。
明らかに誰もいないだろう、というのは見てわかる。
だが小賢しい人間はむしろそういう場所に罠を仕掛けるもの。
よく目を凝らす目の前や遠方にヒモが張ってあるのが何よりの証拠だ。
「120m先にトラップ確認。金探用意、吹き飛ばしながら前進せよ」
一対一で戦って勝てるような相手ではないのは嫌でも分かっている。
故にこれまでの戦いを順調に学習しているのであれば、確実に仕掛けてくることは分かっていた。
あまりにも正直な反応故に「手の内を読みやすい」のである。
早速、隊員は金属探知機の電源を入れると即座に反応があった。
辺りを見回すと出入口付近にロープが張られているのが分かる。
上には剣や壊れた槍の先端を無数に括り付けた錘がぶら下がっているではないか。
——BANG!
罠を発見した彼はすかさず発砲して固定具を破壊。支えるものを失ったギロチンの刃は勢いよく突き刺さった。
———ZooMM……!!!!———
直撃すれば最悪全滅もあり得るかもしれないブービートラップ。ゾルターンの城にはそれがあふれかえっている。
こんなもので驚いていたら始まらない。地獄はまだまだ始まったばかりなのだから。
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□
城内に入るや否や、おびただしい数のトラップがBチームを出迎える。
先ほどの落下式のものはまだ良いとして、火薬を使用しないと思われるIEDや地雷。
ワイヤーを踏むとソルジャーキラーが作動するものさえゴロゴロしていた。
どちらにせよ視界の狭いアーマーナイトやジェネラル、戦車にとっては大敵である。
罠を探知する手段が乏しいのか、金属探知機一つでざっと80近く回収することに成功した。
武器を使った類のものに限っても、市民の会に武器を渡せる程。
歩兵殺しの大槍や様々な刀剣などが罠として使われていたことに疑念を抱いたジェイガンは、ある仮説を立てた。
「武器を使える人間がいない」のではないかと。
槍や剣。
どれも技能がなければ使えないような代物ばかりで、生き残った兵士すべてが使えるようには思えない。
それに防衛線を張るのであればここに兵士を配置しているだろう。
【こちらB-TEAM READER。撤去完了。敵兵発見できず】
【LONGPAT了解。制圧部隊は突入を開始せよ】
【うむ】
これより制圧という名前の蹂躙が始まる。
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罠が全て解体された事を知るや否や、市民の会とそれを率いるミジューラが突入を開始した。
ロジャーが来るときに備えて城の構内図を持っていたため、司令部がある場所は突き止めてある。
残るは巨悪を討ち取るだけ。
一足先に入り込んだ重装歩兵小隊は城の有様に驚愕した。
敷物は破れ、窓があったであろう空間はぽっかりと穴が開き、破片が床中に散らばっている。
剣や槍、それどころか兜さえお放置されうっすらと錆びすら見える有様だ。
生々しく打ち捨てられた様子は古戦場を思わせ、豪華だった痕跡が残っている辺り滅びた国の居城を思わせる。
余りの変貌ぶりにミジューラは困惑を隠せない。
「ここが本当にラムジャーの居城か?」
ラムジャーは昔から人民の搾取で得た金を使って飾り付ける小心者の悪党であることは知っていたが、この荒みようは異様過ぎる。
この悪代官を殺したくてたまらない市民の会ですら言葉が出なかった。
【こちらFeather C。目標に逃げられるぞ】
そんな光景をよそに5式軽戦車は進む。
アーマーナイトに串刺しにされかけ、怪しい魔導士に炎で蒸し焼きにされかけ。
挙句の果てに冗談のような怪物と対峙させられる。
通常ではありえない死線をくぐってきた猛者の集まりだ。
たかが廃屋の一つや二つ、敵がRPGを担いで隠れているよりは怖くない。
そんな時だった。
一人のソーサラーが戦車の射線上に出てくると、勢いよく火柱が向かってきていたのである。
【ゲェグルネィン!】
このソーサラーは狂っていた。
戦友が爆死し、その墓を立てても空からやってくる爆発で全て無に帰していく。
これまで積み上げてきた苦悩、能力を全てあざ笑うように降ってくる悪魔の柱の連続。
多くの兵士は発狂して逃げようとしたが、跡形もなく吹き飛ぶ毎日だ。
正気でいられる方が無理である。
「そのまま前進、盾になれ」
人一人を生きたまま火葬するような熱量を持つ火柱は重装歩兵にとって天敵だ。
回避は難しいと判断した車長は戦車を盾にするよう指示を下す。
「了解……——クソッ!アイツ、何のつもりだ!」
アクセルを踏んだ瞬間、軽戦車の前にロジャーが仁王立ちをしているではないか!
急いでブレーキを踏んだ。
まさかロジャーはここで命を散らせようというのか。
———KRAM!!!!
火柱が容赦なく鎧を包もうとするが、この時ばかりは違った。
まるで装甲に光の壁のようなものが作られて拮抗している!
それも束の間。巨大な火柱はホームランボールのように勢いよく跳ね返され、使徒主である狂ったソーサラーに向かっていく。
ゲグルネインの直撃を受けた魔導使いは勢いよく燃え始め、叫びをあげるまでもなく火葬されてしまった。
「光の壁が……魔法を反射した……?」
「何が起こった!」
操縦手、車長ともに目を疑う。
今まで一方通行だった魔法を傘に降り注ぐ雨のようにはじき返してしまったのだ。
威力をそのままに。
帝国製のアーマーナイトには魔法を減退させるコーティングが施されているが、隣国ガビジャバンでは考え方がまるで違う。
現実世界でいえば東西冷戦。双方の武器がまるで異なるように。
高い引火性と引き換えに、完全に無効化してしまうと言う手段を取った。
するとロジャーからの無線が入る。
【これがガビジャバンの鎧だ。魔法が飛んで来たら任せて欲しい】
世界は違えど、装甲がある存在は頼もしい。
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市民の会が提供した情報によれば司令部は城の最深部にあるという。
シルベー城と建築年が似通っているから、とのこと。
しかし情報がスカッドを撃ち込まれる前の物であるためか、酒肉や女を貪る遊塔に入り浸っていることがあることが記載されていた。
本来この情報は、暗殺も考慮に入れたモノだろう。
市民の会が保有する城内図を基に、司令部に通じる扉を特定した特殊部隊。
C4を蝶番に設置し電気信管を挿入し、その場を離れる。
———KA-BooOMMM!!
施錠された分厚い扉をBチームが爆破解錠。
ラムジャーの居所まであと一歩まで迫るが、壁沿いにいた隊員があることに気が付いた。
発破音がいつまでも反響しあっているのである。
シルベー城と先細りの構造ならばすぐ鳴りやむはず。
となるとこの先にはホール状の空間がある可能性が高い。
敵を迎え撃つための兵を配置しない手はないだろう。
「隊長。この先、敵が待ち伏せしている可能性があります」
最初は突拍子もない言葉に疑念を抱いたが、何時までも響く音を不審に思った。
そこで城の構造を知っているロジャーに質問を投げかける。
「ロジャー氏。この先が大広間に通じているのは本当か」
「現在手元にあるのは改装前の物ですが、本来ここはコブ広間を作ることが出来る設計なので、ラムジャーが作らせたに違いないかと」
予想は的中していた。曰く、いざと言うときには広間に改造できるような設計になっている。
いかに時間を稼ぐか、それに特化しているのがあの将軍らしい。
ここで時間を喰う訳にはいかない、早速ジェイガンは無線機を手に取った。
【B-TEAM READERからFeather C。敵が待ち伏せている可能性あり。先行し排除せよ】
【了解】
悪の根源には何があるのだろうか……
次回Chapter172は12月31日10時からの公開となります。
登場兵器
・ガビジャバン式アーマーナイト
装甲30mmを誇り、全体的に丸っこい重装歩兵。
機動力は帝国のものには劣るが、魔法を反射する特殊コーティングを有する。
ただし魔力を伴わない炎にはたちまち引火してしまい、もしも火炎瓶でも投げつけようものなら大変なことになる。
・天馬騎士
いわゆるペガサスナイト。飛行機的な動きのドラゴンナイトと比べ、圧倒的に速度と小回りが利くが積載量と防御力、さらに対燃焼にかなり難あり。
天馬乗りになるには、いかに被弾しないかがキモである。
・5式軽戦車とミジューラ
軽戦車はたった20mm、ジェネラルである爺さんは50mmの分厚い装甲で身を包んだ盾役。
射程が短く脚の比較的遅いミジューラを戦車が援護。強力な攻撃ないし、接近を許してしまった場合は彼が援護するのだ。




