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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-8. 対 究極兵器 後編
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Chapter167. Port of Venomaase

タイトル【ベノマスの港】

ギンジバリス港湾から東に行った先、密林を迂回して存在する水の都 ペノン県にあるベノマス。


軍事政権下において発展を遂げた土地の一つである。

特に奇術師なる人物が突然来訪してからは爆発的進化を遂げた。



奇術師と名乗る男は帝国人とは異なる凹凸のない顔をし、黒髪で肌は黄色い。


それに特注の黒塗りのソーサラー・ローブを身に纏う。

そんな見たこともない人間。まさに「異端」故にこう呼ばれている。



彼ははアツシと名乗り、莫大な魔力と素養。


現代的価値観をもってしてぺノン県の街ベノマスに君臨し、ゾルターン将軍指導の下、街の発展のため日夜仕事に勤しむ。



もちろん為政者として。



と言っても業務は公務員のようなデスクワークではなく、住民からはもっぱら「散歩」と呼ばれている。



女に絡むチンピラが居れば、雷撃魔導アドメントを浴びせて動きを止めた後、浮遊魔法で近海に放り投げると言った私刑が下されるのが当たり前。


よってこの地にはある言葉が生まれた。天秤は全て奇術師の気分次第だと。




こうして半端な恐怖政治により毎日が安全で平和、そして幸せな日々を人々は送らされていた。


それ即ち、彼の気に入らない人物はすぐさま捕縛され、幼稚で悪辣な虐待を与えられ知性を失ったNPCと化す。


よりにもよって知識を吹き込んだのがラムジャーなものの、彼にとっての日常であり理想郷は完成してしまったのである。



現代日本人が言うスローライフがこの街ベノマスだ。







—————————————










帝国上層部は利潤を上げていることや軍港を建造している事があり、特段口を出すことはない。


政治的にやむを得ない。

利益のためなら目をつぶってもさほど問題ない犠牲だと踏んだのである。



何よりもアツシは類稀なる素養のソーサラーとなってしまったことが大きい。



ブレーキの効かなくなった自転車は加速する一方で、気に入った若い町娘や薄幸な女性魔導士を何人も抱え込み実務を任せている始末。


このベノマスもまた歪んでいた。






————————————







———ベノマス・パレス



帝都とそれなりに近いことから、反対からやってくるSoyuzの知らせ自体は届いていた。


ペノンとゾルターンとは隣接いるが、実際にはそれなりに距離がある。

統治者であるアツシそこまで焦ってはいない。



ゾルターンは広大な平野。


そう簡単には攻め落とされないと、半端な知識でそう判断していたのである。


しかしある日届いた一通の手紙により半端な笑みを携えた顔から笑顔が消えた。



【異端軍対策を兼ねて近日中ぺノン県に視察に行く】



内容はそれだけだったが、この手紙が送られているという事は既に師匠ラムジャーはゾルターンから亡命するという暗示。


つまりそれだけSoyuzが近くまでやって来ている事に他ならない。




他県の嫌味な将軍に対し強気に出られるだけの軍事力、ここの所配備が始まった銀の銃。

強固極まりないポポルタ線を用意して、さらに切り札まであると豪語していた程なのに。



次に狙われるのは此処ペノン。

近郊に軍事基地を多数建てられ、軍港まであるこの都にやってくるのは明らかだ。



それに帝国では異端軍と呼ばれているが、たまに聞く情報筋によれば戦車やマシンガンといった現代兵器を投下してくる存在。




どこかの軍隊が自分の居場所を壊すためだけに攻め込んでいる。


命からがら逃げだしてきた現代。

そして異世界でも、自分の居場所をどいつもこいつも追い出そうとするのか。



アツシはひどい不安と恐怖。そして焦りと怒りが混ぜ合わせになった。

たった一通の手紙に書かれた文字列の為だけに。



「こんなハズじゃあ、こんなハズじゃなかったのに」



感情に任せて叫びながら手紙を破くと、手から火球を出してすべてが灰になるまで焼き尽くす。



どれだけ強いモンスターが現れようとも、転生して得た魔導で全て倒してきた。

この街を世界史で出てきたヴェネツィアのような手入れをして多大な発展をしてきたではないか。


現代知識を活用して感染症で倒れる住人の数も減らしてきたのは他ならない自分。



誰も何も言わない、皆が自分に悪意を向けない楽園まで追いかけてきて、何もない現実世界に戻そうとするのか。



自分のしてきた努力を水の泡にしようとしてくる連中に激しい怒りが渦巻く。



「みんな、みんな……焼き尽くされてしまえばいいんだ……」



彼は壁を勢いよく蹴りつけた後、憎悪がこもった声でこうつぶやいた。










——————————————







——翌朝





夜が明けたため、今日も相方を連れて日課の散歩に繰り出していた。


名前をサーム。魔力が尽きていた所を助けて、この世界のイロハをお教えてくれた女性である。



だが彼女は軍人。そのため散歩の際に襲い掛かる三下程度なら軽く返り討ちにできるだろう。



向かうはベノマス軍港。最新鋭戦艦ギンジバリスと二番艦フィリスらの連合艦隊が寄港しており、そこでの挨拶をしなければならないからだ。



「どうした。気分が乗らないのか」



よっぽど顔色が悪いのか、サームは浮かない僕に言葉を投げかける。



「あ、いや。特に……そんな」



「そうか」



内心焦りやどうしようもない感情で混沌となっているのは事実だ。

いつ自分の居場所がなくなるかと考えれば仏頂面ではいられない。



大丈夫だ、現実世界に来た奴らなんて最上位電撃魔導「バルベルデ」で確実に倒せるんだ。

絶対にこの場所から離れてなるものか。


半ばそうやって自己暗示をかけながらいつもの顔を作り、軍港へと向かった。







—————————————









——ベノマス軍港





自由を奪われていると言っても街の住民も人間。戦艦に大型竜母、お付きの軍艦も無数に来ていれば大騒ぎになるのも時間の問題だった。



「すげぇ!本物だ!」



「偽モンだったらどうすんだお前!」



「ってもよぉ、でっけぇよなぁ…!あれ見ろよ、バルベルデ!横に甲板が2枚もあるぜ。作ったヤツすっげぇよな。俺じゃ思いつかねぇもん」



最新鋭戦艦ギンジバリスとフィリス、大型帆船竜母のバルベルデと二番艦ギドゥール。



特に目玉の戦艦は主砲をシューターではなく魔導砲を採用しており、厳つい印象を受ける。

どうやら天才設計士ファゴット司祭が手掛けたモノらしい。



砲の換装によって射程も何十倍にも伸び、威力も大幅に向上している。



それも今までの船のように船主と船尾に2基4門ではなく6基12門と増設。

一斉射撃を受ければもれなく轟沈してしまうだろう。



隣にいる竜母は宇宙時代のような未来的なシルエット。

加えて今までの艦と比べてかなり大きく、相当な数のドラゴンナイトを搭載しているだろう。


外付けされた飛行甲板が側面に2枚、船尾から展開させれば合計4枚を有しすべてがカタパルト付きな優れもの。



空と海の絶対戦力。

これがカリブの海賊なら太刀打ちできず根絶されてしまうに違いない。



そんな仰々しい殺意の塊のような軍艦を見てもアツシの顔は浮かないままだった。



「……」



「本当に具合が悪いんじゃないか?」



遠足に行ったときに見学した記念艦 三笠に改造を施し、砲を増設したような戦艦で勝てるのか怪しい。


これよりも前につくられた戦艦サルバトーレが木っ端みじんにされた挙句、旧式艦ミジューラ・フォン・アルジュボンは鹵獲されてしまったではないか。



本当にこの程度で勝てるのか、魚雷や対艦ミサイルを撃たれたら一発で何もかもおしまいだ。



でも言えない。言えるわけがない。そんな弱音を吐けば為政者としてどうなのか。


サームに詰め寄られるに決まっているし、最悪の場合敵のスパイと疑われて楽園追放だ。




時間も差し迫っている事なのでアツシは壇上へと向かい相手を待つ。

暫くすると戦艦ギンジバリスから艦長が降りてきて、自信たっぷりな顔をして話しかけてきた。



「この度は補給させていただき感謝申し上げます。戦艦ギンジバリス艦長のマルタゴ・トーピス少将です」



「え、ぇえ。こちらこそ。お役に立てて幸いです。こんな形ですが」



頭を角刈りに揃え、青眼はめらめらと燃え上がるような輝きを放つ。

恰幅も良く、赤の外陰がとてもよく似合う少将に比べて、アツシは黒いソーサラー・ローブを纏う背高のっぽ。



身長こそ勝っているが、歴戦の漢を前にするとそれすら霞む。



堂々とした口ぶりも自分にないものだ。そして信頼もありそうで、と考えると自分の中にある劣等感がぐらぐらと沸き立ち始める。



自分の上位互換そのものに遭遇すれば、どんな人間も負の感覚を絶対に覚える筈だ。



この少将が目の前にいるだけで、自分の生きてきたモノが全て否定されるような気がする。



「アツシ殿。お体の方、大丈夫で———」



「だ、大丈夫です。お気遣いはいいですので……」



思わず食い気味になって答えてしまった。こんな風に口にするつもりない、無意識下で思っていることが出てしまったのだろう。



「ハハァ……」



少将はやや困惑しながらも、式は進んでいった。













———————————————








——パレス




サームと別れ、パレスへと変えると従者が一斉に頭を下げていた。これもベノマスの交易を活かして発展させた結果。自分の劣等感もこう見ると多少はマシになる。



「お帰りなさいませ。お食事が出来ています」


メイド長のフォルバンはアツシに夕食が出来ている旨を伝えた。



「今日はいい。……そういう気分じゃあないから。下げて」



正直言って喉が通るような気分ではない。


敵が攻めてくるどうしようもない焦りと、不快感があまりにも強すぎるのだ。口にモノを入れることすら拒否してしまうだろう。



「わかりました」



嫌な顔一つせず彼女は主の指示を受けるなり、そそくさとダイニングへと戻っていった。


正直言って何も考えたくはない、だが現実はそこまで甘くはない。激しい拒絶反応で押し潰れてしまいそうだ。



帝国軍をただ態度がデカくて横暴な集団とばかり考えていたが、自分は彼らにすら後れを取るような人間であることを嫌でも実感する。



自室に戻り、ローブを脱がないままベッドへと飛び込む。嫌なことを忘れる時には寝るのが一番だ。

内ポケットに入っていたスマートフォンを取り出し、いじろうと思った矢先。



ふとFMラジオが搭載されていることを思い出した。



「……もしかして……」



充電は自分の魔力を使えるものの、どうやら現実世界では解約されているのかモバイルデータ通信ができない。


そのためただの便利板と化している。



いるのが異世界なためFMラジオも使えなかったが、仮にこっちに向かっている存在が自衛隊や米軍なら何等かの放送を流していてもおかしくはない。



何気なく、聞きかじった情報を試してみたくなった。



周波数をオートで合わせていくと、なぜか一つだけ局を拾う。

こんなことは今までにはない。目を疑っているうちに勝手にラジオが再生されていく。



【FMヨコハマー……84.7……】




ぞっとした。どうして横浜のローカルラジオ局が鮮明に受信できるのか。



インターネットにつながらないと知りつつもブラウザを起動し、調べるも出てくるのは恐竜のマークだけ。



ここで無駄に察しの良い頭が回る。確かFMヨコハマの中継局を作ったのは確か、思い出せそうで思い出せない。



だが、残酷なことに迫りくる侵略者の正体を知ってしまった。



「Soyuzがそこまで……来ている!」



世界すら欺き、数多の兵器を持つ独立軍事組織。時折ニュースに出てくることがある。


どういう訳かこの帝国に来ているというのだ。

確かに軍部からは聞いていたが、いよいよ自分の番になると話は変わってくる。



米軍と並び考えられる限り最悪の存在を敵に回していることに他ならない。



運動もしていないのにも関わらず息が荒くなる。



ミサイルを撃ち込まれるのではないか、空襲で焼かれるのではないか。戦車で踏みつぶされズタズタにされるのではないか。


そして現実世界に連れ戻されたならどうなるのか。



思わず頭を掻きむしった。だけどこの現実は変わらない。

夢を見て居たいのに、自分の理想郷に居たいのに。



誰も彼も自分を苦しむ顔を見たいのか、こんなロクデナシの。


アツシは世を呪った。


だがすべては自分のせいである。


努力して勝ち取ったものがあってもいいじゃないかと。



だがその力を振るって作った恐怖政治はコンクールスがしたような努力とは言えるようなものではない。

がんばったつもりでいるだけに過ぎないのである。



そんな中Soyuzはゾルターンすら陥落させる勢いで進軍を続けていた……


次回Chapter168は12月10日10時からの公開となります。


・登場兵器

竜母

異世界版の空母。

普通の航空母艦では一番上に飛行甲板が設けられているが、帝国の船は帆船なため飛行甲板が側面に設けられている。

そのため宇宙戦艦のような姿の帆船という、なんとも違和感しかない物体となってしまった。


ちなみに固定武装は何もなく、対空戦闘は艦載されているドラゴンナイト任せ。

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