Chapter160. Phoenix rises from the flame
タイトル【不死鳥は炎を浴びて蘇る】
———ウイゴン暦8月8日 既定現実8月15日 午前4時
——ポポルタ線近郊
振り止まない爆撃の暗雲がようやく晴れたがシャービル陸軍基地は夜が明けても明るいままだった。
止め手のない大火災はあたり一帯、死体を焼いても収まらずわずかな痕跡も灰と石墨に変えていく。
そこで再び、作戦後の掃討も兼ねて強行偵察を行う予定が組まれることに。
T-72、先軍915と2両のシルカ。
たとえ死にかけのジェネラルが出てきたとしても鉄くずに出来る強力な火砲を備えていた。
【OSKER01からLONGPAT。敵基地全域に火災発生。】
そして新たな敵影を察知するためにブロンコもおまけでついてくる。お徳用パックだ。
【LONGPAT了解】
遠目に上る黒煙と水蒸気からなんとなくその様子は分かる。
1800発もの250kg爆弾を投下し、それで起きた火災。
どれだけ頑丈な兵士だろうとも爆風と火の手には勝てる筈がない。
確実に殺し切れた、冴島大佐はそう思いつつボゥール曹長に無線を飛ばす。
【LONGPATからBeongae01 敵兵が潜んでいる可能性がある。留意せよ】
【Beongae01了解】
大量の武装を搭載しながら強固な装甲を持つ先軍915はゲリラ掃討に向いている。
自動擲弾銃・対地、対戦車ミサイル・同軸機銃に主砲。
特盛の武装は隠れている敵を根絶やしにするのに最適だ。
シルカも物陰に隠れている奴らを排除することに適しているが、爆破魔導を受ければ一撃で鉄くずになってしまう。
常に強力な盾も重要だ。
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□
——シャービル陸軍基地
辺りは草原の都ゾルターンとは思えぬ光景が広がっていた。
平野は全て耕され、周囲は炎が有機物を燃やす焦げ臭さで満ちている。
生き物が焼けたのか、それとも建物か。あるいは植物か。こうも広範囲に燃えると区別がつかない。
暗がりでもひときわ目立つ光。火災が起きているからだ!
【LONGPATから各車。停止、索敵せよ】
【HANB01了解】
他車両に敵を探すように指示を出すとソ・USEに保存された画像データを起こし、モニタに表示させる。
【LONGPATからOSKER01。撮影画像を送信せよ】
【了解】
現地に到着したはいいが、問題はどれだけ消し切れたか。これに尽きる。
すぐさまOV-10が旋回し、航空写真を撮影する。
送信された画像は炎がかぶっていたものの、爆撃前に観測された建物は全て跡形もなくなっていた。ペリスコープから様子を伺うと建築物のかけらも見当たらない。
必ず存在するであろう、物資を搬入するための道すら。
あるのは爆弾が地中を貫通して炸裂したであろうクレーターばかり、かのアームストロングが着陸した月面の様に。
文字通り、一つの軍事基地が文明ごと消滅したのである。
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□
———BRoowWWW……
不吉な風が吹き抜ける。
敵地を消し飛ばしたというのに冴島は口を曲げながら、言い知れない不快感を露わにしていた。
地中から何かが迫る。
誰も、何も分からないまま。
【HANB02からLONGPATへ。敵発見できず】
【了解】
大佐は真偽を確かめるためAK-102を片手にハッチから身を乗り出した。
やけに小回りが利く相手には戦車は無力だし、機械にはない第六感で隠れた敵を見出すためである。危険なのは承知の上、ただ横殴りに流れ続ける風に聞き耳を立て気配を探った。
————……Doooooom………———
地響き。
幻覚ではないあまりにも確かな感覚。たかが震度2程度とは言ってもこの感触はまがい物ではない。
そんな時、大佐の目が真開いた。
揺れが強くなっている、否。それどころか近づいている!
【Hi-HAHAHAHA!!!皆殺しダァ———ッ!!!】
大口径弾が着弾したかと見紛うような大きな土柱が立つと、大佐の頭に直接狂気が響いてきた。
声の主は間違いなく人間。
土煙が少しずつ晴れていくと、正体を現した。
ワイバーン、火竜とは似ても似つかない怪獣のような巨大な竜。高さはビル5階にも匹敵し、ビルそのものが歩いている。
大型動物にありがちな目は退化しているのか見当たらず、一見して弱点は見受けられない。
どうすれば良い。整理する時間も与えられず、怪物の背中が光り出した。
よく見ると尾底付近に高射砲のようなものが取りつけられているではないか。
それも一度ナルベルン自治区で見かけた「シューター」に酷似している。
地球がひっくり返っても兵器が外付けされたように進化した動物など存在しない。
速い話が改造生物、つまり帝国軍が送り込んできた生物兵器だ!
莫大なコストを消費する半面、その威力は絶大。
ヤツはリロードをしていると思ったその時。艦砲めいた砲口をこちらに向けてきたのである!
———ZDaaAAAAASHHHHH!!!!!
その刹那、ボゥール率いる先軍915の125mm砲が火を噴いた。
無慈悲な一撃は発射寸前の敵主砲を上にずらす。
vvvVVEEEEEEPPPPPPP!!!!!!
耳に電撃を流し込まれたかのような高音と共に帯のような光線が放たれる。
照準は上に逸れたものの、車長用ハッチにいる冴島ですら空気が熱せられる様子が分かる程に。
一度空中に撃ちあげられた光筋は一定の高度に達した瞬間、クラスター爆弾が炸裂したかの如く辺りへと四散。瞬く間にシャービル陸軍基地のような焦土へ変えていく。
散らばったからこそこの程度で済んでいるが、直撃を貰えば主力戦車とはいえ耐えられるはずがない。溶鉱炉に突き落とされたかのように溶かされてしまう。
今まで大火力で蹂躙してきたのが、ここに来てそっくりそのままやり返された。
一発は間一髪で助かったが、二発目は直撃するかもしれない。
この際戦車砲が例の化け物に効果があるか、ないかはどうでも良い。
Soyuzがどうにかしなければならないのだから。
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一気に現実味を増した死の気配に冴島は引きずられることなく、ソ・USEを握り続ける。
【LONGPATより各車。全力で撤退せよ】
【LONGPATよりBIGBROTHER、敵基地より未知の巨大目標出現。現戦力では対処不能。大至急増援を要請する】
突如猛スピードで動き出す戦車の中、やや上ずったような声で戦闘指示を下した。
どうあがいてもあの怪獣王もどきに戦車砲で歯が立つわけがない。
何発ものスカッドを撃ち込んでようやく止められるか、という所。
どちらにせよ本気で逃げなければならない。立ち止まれば即座に死が迫ってくるのだから。
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【散々コケにしやがって…———お前だ!お前だ!!俺の体をズタズタにしたのはテメェだ!おふくろでも見分けつかねぇようにバラバラにしてやる!この害虫共!】
逃げる戦車、特にT-72を改造地竜はティラノサウルスの如く追ってくる。
その最中。
まるでスパムメールの様に、冴島大佐の脳内で憎悪と狂気が織り交ぜられた甲高い叫びが木霊した。
「撃て」
自分もまきこまれて発狂してしまいかねない声に惑わされることなく、エンジンを吹かしながら怪獣に向け砲撃を続ける。
———ZDaaAAAAASHHHHH!!!!!———
車内に硝煙が満ちると、自動装填装置の機構が下がって次弾を円陣のようなマガジンから引き上げる。
がっちりと砲底に密着すると、勢いよく押し棒が125mmHEATを弾込めし、砲撃の繰り返しだ。
何せT-72はソビエトが生み出したハイテク戦車。
正確な照準と発射レートを揃えた現代でも十分通用する程のスペックを持っている。
だがそれはあくまで対戦車の話。怪物にしてみれば痛くもない、へなへなパンチにしか過ぎない。
「やはり効果は薄いか」
子供の頃見た怪獣映画の光景がそのまま流れる。
何発撃ち込もうが全くもって進撃を止めることができず、すべてが焼かれていく。
自分のような防衛軍側からすれば冗談もここでやめにして欲しい。
【こちらN-HQからLONGPATへ、敵座標を送信してくれ、いつでもスカッドをお届けできる!】
【了解…!】
誘導するスカッドDでも目標向けて直撃するわけでもなく半径50m以内に着弾する。
弾頭は1t爆弾だが、直接当てないと倒せないような気がしてならない。
果たして効果はあるか。
冴島はそう考えながら歯を食いしばり、ペリスコープから視線を動かさない。
———DAMM!!!!———
不整地故に段差に乗り上げ戦車は揺れるが、制御された砲身と共に全く冴島大佐は動じない。
目を鋭く保ち、どこが弱点なのか考えつつ増援がたどり着くまで時間を稼がねばなるまい。
【まずは目障りなキノコ野郎からだ!】
足の遅いシルカに岩石を容易く切り裂く鋭利な爪が振り下ろされようとした瞬間!
BLATATATA!!!!!
場違いな豆鉄砲の乱射が地竜に直撃する。丁度砂かけでもされたかのように顔を覆った。
同軸機銃では角度が足りず当てることが出来ない。
では誰が。
「このクソッタレ!こいつが 怖 い の か ? えぇ!? 怪獣ならもっとダイナミックにやりやがれ!」
車長用ハッチから身を乗り出したボゥール曹長だ!頭に響いてくる声が人間、いや意思を持ったものならば。
暴言という手段が通じる。
咄嗟に思いついたアイデアを元手に、手持ちのAK102を乱射して全力で気を引こうとしている。
「そのでっけぇ頭と牙は飾りか!頭んなかスカスカかオイ!じゃなきゃ失せろ!死ね!」
【自らの体が焼けていく音を聞きながら死んでいけェ!E-HAHAHA!!!!いい眺めだぜ!】
竜の口が開くと、そこから暗黒を濃縮したようなブレスが飛び出した。
はじめは勢いある煙のように思えたが、本能的に危険を察知したボゥールは戦車内に飛び込む。
この吐息は魔力の塊、制御されていないエネルギーが暴走。魔法の稲妻となって先軍915にまとわりつく。
戦車に対して効果はなくとも、ゲイルが人間をなぶり殺しにする際になんと都合の良い攻撃であろうか。
【小うるさいハエめ、コイツも地獄行きだ!】
偵察機にしびれを切らしたのか、地竜は突然クマのように立ち上がると、空のOV-10向けて砲撃した!
vvvvVVVEEEEEPPPPP!!!!!!!
その一撃は一定高度に達すると、一斉に展開。
1つから数千ものエネルギー・ビームへと変わり、OV-10に襲い掛かった。
「クソッ!空にも撃てるなんて聞いてねぇ!」
機長は必死に回避運動を取るも、キャノピーいっぱいに見える魔導光の数が多すぎる。
それはまるで空飛ぶ鳥に散弾を撃ち込んだようなものに等しい。
ミサイルや機関砲を遙かに凌駕する光速の一撃が霞網のようになって翼をアイスクリームの如く切り裂く。
「耐えてくれよオイ、コイツが落ちたら何もかも終いだ!」
操縦桿を握り、脳内麻薬で死への恐怖を誤魔化しながら攻撃から逃れようとする。
機動力はあるだろうが網から逃れられるだろうか。
一か八か、破れかぶれで機体を傾け続けるのだ。
「機長!これ以上は無理です!」
「わかってる!あれでみじん切りにされたら俺達は真っ逆さまだ!」
桿を目いっぱい引いても機体はちっとも動いてはくれない。機動力の限界がきてしまったのである。
「俺はここに来て神頼みなんてしないからな…!」
機長はひたすら手綱を握って自分を奮い立たせる。
そうすれば次第に光が見えなくなった。
なんとか逃げ切ったようだが、空飛ぶ揺籠は大きくバランスを崩し、思い通りに動かせなくなくなりはじめる。
ふと視線を横に向けると、片方の翼が半分近く無くなっていた。
こうなったら不時着するしかない。
「やったぞクソッタレ!俺たちはみじん切りにならず…コイツを鉄くずにしちまうが助かるぞ!」
最悪の事態は避けられた。身体の自由はあまり効かないが、全く効かないよりは有情というもの。
だが偵察機が撃墜されたことは思わぬ結果を呼んでしまう。
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——Soyuz本部拠点
冴島大佐の一大事はすぐさま伝えられ、本部拠点もあわただしく増援を出撃させるため準備を整え
ていた。
追加の戦車を送ろうとも、そもそも大佐が乗っているのも同程度の主力戦車。
鉄道を使っても到着には時間がかかる。
あれだけ巨大な怪物に気が付けなかったのは地中を移動していたからだろう。
大田切の艦砲は射程外。
スラーヴァ級ミサイル巡洋艦クラスノイ・ヤマールからの重対艦ミサイルは、動き回るこんな小さな的に当てるようにできていない。
また誘導にも専用の誘導機Tu-95Rtsが必要で、出撃にも時間がかかってしまう。
どうあがいても間に合わない。
冴島から送られた画像データによれば体長15mクラス、いままでで遭遇したことのない非常に大型の生物だという。
またナルベルン自治区に配備されていた魔導シューターを縫い付けている事から改造兵器と考えられる。
加えて背負っているシューターの威力も尋常ではなく、射程は不明なものの光線が高い威力を持ったままクラスター爆弾のように拡散することが報告されていた。
何としてでも倒さねば、ゾルターンでの戦いは泥沼と化す。シャービル陸軍基地はあくまでその時間稼ぎ。
早めに消滅させて正解だった。
権能はポポルタ拠点に駐在していたSU-152、主体砲に支援体制を取らせる。
地上側から出来ることはそれくらいで、空からは対地ミサイルを搭載するMiG29を緊急発進させた。
これでも足止めできるか怪しいが、なんにせよ手は打たねばならない。
敵は難民のいるポポルタ拠点に向かって進軍を続けている。
Soyuzの勝利を確固とするため、また保護している民間人を傷つけない為の戦いが幕を開けた……
次回Chapter161は10月29日10時からの公開となります




