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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-7. 対 究極兵器 前編
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Chapter159. Optimized Weapons

タイトル【最適化された兵器たち】

所変わって、ここは整備班。


兵器の整備を一手に引き受けざる得ない状況なため、彼らは常に忙しい。


そしてU.Uそのものが地球規模での機密なため、外出しようにも元の世界に戻れないこともあって娯楽が非常に乏しいときている。


インターネットや様々な電子機器を封殺された現代人は企業側からもらう休暇に虚無さすら感じるだろう。



機密保持のため一切合切出れないことは彼らも承知の上だった。

では何か暇つぶしになること。やるべきことは何かといえば、機械いじりである。



と言っても、好き勝手にマシンを作ったり破壊したり、合体させるような真似をすれば大目玉を食らう。



しかし。

一つだけ例外があった。帝国軍の城から引き揚げてきたイデシューである。


データを取ってほったらかしにするわけにもいかず、ひょんなジャルニエ基地に来た整備班の落書き帳と化していた。



頭には増設された無機質なセンサーと、ちょうど耳の位置に取り付けられた航空機用の23mm機関砲が1つ。


通称ガスト砲と呼ばれる2つで1セットのマシンカノンだ。



あたかも自然に取り付けられているが、一度引き金を引けば毎分3400発という凄まじいサイクルで撃ちまくる文字通りのじゃじゃ馬。


なんとバルカンと言ったガトリング砲にも匹敵するとんでもない怪物である。



腰には自動擲弾銃に、肩にはグラードから持ってきたであろう多連装ロケット砲。

再装填のことは一切考えていないので自然に一切優しくない使い切りだ。



機構が分かるなら弾道ミサイルのロケットエンジンをつけてやりたいと豪語する者もいたが、さすがに却下されたらしい。


一体何と戦うというのだ。



こうして戦闘能力を獲得してしまった武装ターミナルは作業用とはいかず、実地試験も兼ねポポルタ線に配属されることに。



現実世界において人型兵器は、背が高い事に由来する被弾率の高さと装甲の薄さを理由に無意味だと切り捨てられている。


所詮ロボットアニメは世の中の幻想に過ぎない。



だが、本当に実戦投下して確かめたヤツはいるのか。


自国の戦車に挑戦者(チャレンジャー)と名付けるイギリス人ならこう言っただろう。




ともあれ論じるだけではどうしようもならない上、それなりには使えるだろう。

そう考えた中将はポポルタ線、もといSoyuzポポルタ拠点に配属したのである。












——————————————










———ウイゴン暦8月7日 既定現実8月14日 午後4時

——Soyuzポポルタ拠点




「クソッタレ。アイツを見てると吐き気がする」



「俺もだ。何でアイツを持ってきたんだ、当てつけか?」




2号機解体に携わった機械師団の面々は15mの邪神像を見て嫌悪感を露わにする。



マリスのカウンセリングを受けてようやく現場復帰できたというのに、あの時を思い出すような物体を良く置けたものだ。



これは殿下しか動かせないし、1号機とあるから搭乗型のマジンガーになっていると説明を受けてたが、見た目は大して変わっていない。


さながら玩具会社が出す使い回し(リデコ)商品のよう。



「さぁ知らん。ロンドンとかいう英国かぶれの盗賊が出た時、アイツを動かせば追っ払えるとでも考えたんじゃねぇか、蚊取り線香って訳」



「虫よけスプレーにしろ、賊除け大仏にしたって趣味が悪すぎる」



こんなものが出てきたらロンドンのみならずスタッフや住民も裸足で逃げ出すに決まっている。


現代人だってそうだ。










—————————————











——Soyuzポポルタ拠点




ポポルタ線を改造するのはまだまだ始まったばかり。

軍事的建造物こそ急ピッチで建築は進むが、仮設住宅を含め内装は後手となってしまっていた。



当然ながら帝国の人間に異次元文明の産物を組付けろというのも、出来る人間はいるだろうがまだまだ、と言った塩梅。



そこで兵器修理を終えた整備班の中から、適当な人間が宛がわれる事になるのも当たり前の光景になっている。



「嬢ちゃん、ちょっとそこ頼むわ」



「はい」



もちろん、殿下が引っ張り出されるのも当然の成り行きか。




少しくすんだ白の帯電対策が施された作業着と帽子を着こなしてしまえば、もう誰かも分からない。

故に村人誰一人として怪しまれず、作業員として潜り込めた訳である。



最も潜入する気など更々なくできる事をするまで。という意思が強いが。



すると休んでいたスタッフが戻ってきた。



「ああすまん、戻った。照明系頼めるか?電気を使わない灯は俺たちでもどうしようもない」



電力が満足に供給できない中、どうやって光を手に入れるか。

そのアイデアを考えたのは紛れもなく殿下である。



「魔力灯は確かにそうですね、では後を頼みます」



「任せとけって」



整備班の活動は続く。














———————————————












———ウイゴン暦8月7日 既定現実8月14日 午後9時

——ジャルニエ大型機発着場








夏とは言え、夜7時を過ぎれば夕やみが訪れる。すっかり昼の陽気は消え失せ、そこには侘しさすら漂う。


ダース山を背にした此処、ジャルニエ大型機発着場だけは違っていた。



自然の理に反し、夜にも関わらず電灯で煌々と照らされる滑走路。その中に浮かぶ赤い航空機用ランプ。



そこにはおびただしい数の鋼鉄の大鳥、Tu-95が待機していた。



大方50機と言うところか。帝国との戦いを確固たるものにするため、これだけの戦略爆撃機が集められたのである。



ロシアからやってきた大きなクマは、腹に60発の250kg爆弾を抱え飛び立とうとしている。

その最中、冴島大佐から無線が入った。



【LONGPATから各機。本作戦は敵基地を消去することにある】



大佐がこう言う辺り、Soyuzの本気度がわかるだろう。無論、基地そのものだけではなく、敵潜伏の事も考え周囲の空爆も行う予定だ。



————QeeeeEEEEEEE!!!!!!———



プロペラ機からは到底聞けないであろうジェットエンジンのような轟音が一斉に響く。

ジェットの力で羽を回すターボプロップ機ならではの光景である。



次第にその回転数を上げ、むしろゆっくり回っているように見え始めればいつでも離陸できるという事。



【管制塔からBIGBIRD01. 5番滑走路から離陸せよ】



【BIGBird01、了解】



白色の大怪鳥はその巨体をゆっくりと旋回させ、滑走路へと向かう。




管制塔の指示通り、5番滑走路についたTu-95 1番機。


この先、誰も大空へ旅立つ邪魔するものはいない。


凄まじい馬力を生むエンジンを回し、勢い良く速度を上げていく。強烈な速さを受け、爆弾を大量積載した機体が次第に地上から離れていった。





一度飛び立って発着場から距離を置くと、翼端に着けられた赤いビーコンを消し作戦行動へと入る。



目標はゾルターン県にある敵軍事基地。プロペラ機最速を誇るこの軍団にとって最寄り駅に立ち寄るような事に過ぎない。




———vvvVVVVVVVMMMM……———




月明かりを受けた悪の鳥は地上にまで響く重低音を響かせながら高高度を飛ぶ。

迎撃の竜騎兵がやってこれない絶対的な距離。




目標をシャービル陸軍基地に据え無数の怪鳥は飛ぶ。

敵に逃れようのない死と破壊をもたらすために。
















——————————————————












———シャービル陸軍基地






ゾルターンにある基地ではヴィッツオの命令でグレートナイト部隊を基地内部ではなく、監視塔がある付近に分散させていた。


昼間の戦闘で激しく損耗し、今使える戦力はこれとわずかな空挺分隊だけ。




敵の仕掛ける長距離攻撃は必ず基地を狙ってくるだろう。

いかに釘付けに間、敵のシューター(榴弾砲)を倒せるかがカギになってくる。



フィーベル少尉が率いる増援部隊は元を正せば精鋭騎兵部隊。

機動性を活かして攻撃を掻い潜り、動きが鈍い砲台を叩くことが出来る筈。



そう思わなければ指揮などできない状態だった。




だが、長年の戦いによって蓄積された悪意の煮凝りそのもののSoyuzを相手にする際、このような考えはむしろ命取りとなる。





長距離攻撃手段は何も「()()()()」とは限らないからだ。











——————————————












———vvvVVVVVVVMMMM……———




「なんだアレは…」



フィーベル少尉が空から轟音を聞きつけ、天を仰ぐ。


そこに月光はなかった。だが今日が曇りという事もない。ついさっきまで月が出ていたのだから。




確実に言えるのは光を遮断する何かが空を飛んでいる事。

形はわからない、こうして地上に落としている鳥のような影だけはよくわかる。



その正体は高高度に居座る凄まじい数のTu-95だった。




ファルケンシュタイン帝国に空から敵が降下してくる「空襲」という概念はあっても「絨毯爆撃」というものは存在しない。



「やられたか」



基地内にいるヴィッツオは悔しさと底知れぬ絶望を襲う。


要塞戦では進軍に合わせ、あえて火砲類を使っていただけで、Soyuzは多岐に渡る選択肢の一つを選んだに過ぎないのだ。



他の航空戦力の追従を許さない天上に居座っている忌々しい悪魔の腹が空き、鉄色の卵が一斉に降り注ぐ。



放り出された鉄塊は雨となってシャービル陸軍基地一帯を襲った。

雨雲ひとつない晴天の夜空、月光をプロペラがついた異形の鳥影が遮り、ひたすら降りしきる。



————KA-BooooMMMM!!!!——BBBBooOOOOMMMM!!!!!



猛烈な高さな攻撃は止まらない、成す術もない。


ビー玉の一杯入ったバケツをひっくり返したかのような豪雨。

その一発一発は250kgもの炸薬が詰まった破壊の権化。



闇に満ちたにも関わらず、地上はスコールのように降り注ぐ爆弾によって昼の様になっていた。あるはずの自然の理に逆らって。



落下速度9.6m/s、乗算的加速した重量物から逃れる術はない。

ましてや内包される火薬は250kg爆弾。直撃ではなく、爆風で周りを全て破壊せしめる。



まさに世界の終わり。予言よりも確かなそれが現実で巻き起こっていた。



「逃げろ、逃げ———!」



無残。

グレートナイトの分厚い装甲もガラス細工の如く砕け散り、馬ごと精肉されていく。



直撃でもなく、付近にいただけでこの有様だ。

そこに兵の亡骸は存在しない。恐ろしいエネルギーを前に人の体は形を持つ事すら許されない。



降りしきる雨に傘もなしに抗う事もできるだろうか。そこにあったのは一方的な蹂躙であった。














————————————————


















降りしきる火と破片を齎す大きな雨雲は基地にも容赦なく牙を剥く。



地上に作られた強固な拠点は砂城の様にボロボロと崩れ去り、跡だけが残る。

そこに刻まれた歴史も、思い出も全て鉛色をした爆風が薙ぎ払うのだ。



生き残った兵が傷ついた体を引きずって逃げようとするも、爆発と同時に発せられた火が業火となって彼らの命を狩り取る。


待っているのは尊厳も何もない犬死。神はあまりにも残酷だ。



帝国の取る手法として、司令部を強固な地下に作ることが多い。


ガロ―バンやニース、クレインクイン。それに強力な魔導を持っても分厚い土壌の前では全て遮断されるからだ。



爆風を凌ぎ切った騎士将軍とわずかな兵はそこで抵抗を試みようとするも、研ぎ澄まされた悪意の塊は決して甘くない。



徹甲弾の如く地面を貫き、刀剣はもちろん投石器ですら貫けない地中奥深くにまで食い込み炸裂させるのだ。



「ここまでか」



地下までに届いた死の便りを呼んだヴィッツオはこう呟き、その後何もかもが消え去った。














———————————————














地は焼け、建物は何もかも無くなり、死体すら全て吹き飛んだ。



月を引き立てる夜にも関わらず、無慈悲に火をつけたように業火で包まれる。


伝承にあった地の底にある暗い地獄ではなく、文明と人の命を吸って燃える、ひどく明るい煉獄と化していた。



そこに血肉を受胎した命が存在することすら許されない。



この世の終わりとは正にこのことだった。



しかし悪魔の鳥からしてみれば、ほんの小さな点が光っているに過ぎない。



本来Tu-95はその腹に核兵器を宿し、世界を滅ぼす一撃を首都に撃ち込むために作られた。


たかだか数百、千の命を喰らおうともまだ足りない。

数万、数千、億の命を吸ってようやく腹が膨れるのだから。



【こちらBIGBIRD01からLONGPATへ。帰投します】



【LONGPAT了解】



虐殺を行ったというのに無線手は罪悪感もなく、淡々と冴島に報告を上げる。



基地が崩壊すればゾルターン城へ一直線。ぐっと勝利は近くなるだろう。

依頼を確実に遂行するためにSoyuzは冷酷だが、残酷ではない。




任務を終えた戦略爆撃機の船団は機体を大回りで方向を変えると、ジャルニエ大型機発着場へと向かっていった……


次回Chapter160は10月22日10時からの公開となります。


登場兵器


・Tu-95

950km/sで飛べる戦略爆撃機。ジェットではないのにこの速さは正直抜きんでているが、積載量も多い。それもそのはず。この爆撃機が積むのは本来「核兵器」なのだから……

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