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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-7. 対 究極兵器 前編
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Chapter158. Run! Run!

タイトル【走れ!走れ!】



冴島率いる臨時機甲強行偵察小隊はシャービル陸軍基地の威力偵察のために近郊地域まで来ていた。



帝国にとって最終防衛ラインを守るために司令官ヴィッツオは空挺降下部隊を発進。



さらに増援として騎兵や上級騎兵をさらに凌駕する存在、対装甲騎兵グレートナイト小隊を送り込むことで確実にSoyuzを仕留めに掛かるのだった。



———PEEP……ZLDaaAAASHHH!!!!——ZLDaaAAASHHH!!!!



ゾルターンの草原に対空機関砲の嵐と、125mm砲弾の稲妻が迸る。



目的を達成した以上、わざわざ罠が仕掛けられている場所に突貫する必要などない。

そのため全速力で撤退していたのだが、帝国軍の空挺部隊は見逃すはずがなかった。



次々とドラゴンナイトからソーサラーが投下、杖で狙いを定め魔法を放つ。



———BPhooooMMMMMM!!!!!!!———GRASH!!!GRASH!!!!!——



シルカを中心に爆発や隕石が降り注ぐ。竜騎兵を叩き落す悪魔さえ払えれば、あとは死角から一方的に攻撃できるからだ。



装甲が薄い自走対空砲にとって爆破魔導や隕石魔導を食らえば即死。


また速力も他戦車類と比べて一回り遅く、騎士らに追いつかれやすい。



それにも関わらず、敵は次々と落下し、その最中でも容赦なく波状攻撃を仕掛けてくる。

戦場のど真ん中に放り込まれる部隊だけあって機銃程度では草陰に隠れられ、排除しきれない。


数だけではなく、質も高いのだ。



首筋に牙が迫りくる中、冴島のT-72やボゥールの先軍915が主砲で敵を排除し続ける。


冴島大佐らは後退速度を下げシルカを後衛に向かわせ自身が盾になった。



だが視界に囚われない方法で狙いをつける魔法の前では効果が薄い。

すべてを蹴散らすか、あるいは逃げ切るか。選択肢は実質一つ。


———PEEP……ZLDaaAAASHHH!!!!—PEEP……ZLDaaAAASHHH!!!!



レーダーに映る敵が不鮮明な以上、有視界をもってして銃撃していた。

旋回速度が高いとは言え、絶対的な照準を失ったのは事実。



「逃げられるか…いや、トンずらさせてもらう…!」



HANB02の車長はすさまじい攻撃の嵐に晒されてもなお、正気を保ち続ける。


01は途切れながら捉えられる竜騎兵を叩き落し、02は制圧射撃に勤しむ。


バスタブの栓を抜いたように弾薬が目に見えて減っていく。



悪しき竜を討伐する弓も、矢がなければ丸腰と同じ。

無駄弾を使わないようにしていかに砲弾をばらまくか。頭に弾数カウンターを浮かべながら襲い来る帝国竜騎兵を迎撃しにかかった。



そんな矢先。天国かと思える程の高高度に張り付いていたフェンサーから無線が入り込む。



【こちらFly hight 距離3000。騎兵隊を発見。増援と見られます。】






悪夢はまだ終わらない。








—————————————









まだまだ食い足りないなら、もっとくれてやろう。そう言わんばかりに向こうは増援を送ってきた。たった3km、自動車並みの速度が出せる馬ならあっという間だろう。



シルカ2号車の車長に戦慄が走る。撤退を援護する存在を今から呼んでも間に合わないことは明白。だが冴島大佐からの指示はない。


こちらにどうにか出来る戦力はあるという事だろう、問題は奴らに自分たちの力がどこまで通用するか。




【HANB02からBeongae01、援護頼む!】



ここで車長は殺戮兵器満載の先軍915に支援を要請した。手数はこちらより断然多いはずだ。



【Beongae01了解】



ここで対戦車、対空ミサイルを使っても振り切ることはできないだろう。ボゥールはAK102を片手に残された奥の手を使うことにした。



「飽和砲撃を繰り返しつつ、合間を同軸機銃で掃射し続けろ。」



そう言い残し、彼は車長用ハッチへと躍り出る。

各種誘導兵器が備え付けられ、普通の戦車と比べてやたらとものが多い。


その中でも逃げ切れる可能性を少しでも増やせる策を見出していたのである。



先軍915は爆発反応装甲やミサイルと言った他に、他には類を見ない武装が搭載されている事を忘れてはならない。


機銃の代わりに鎮座する、盾が付いた物騒極まりない連装自動擲弾銃だ。



Gチームが持つグレネードランチャーをランボーのように乱射可能と言う時点で火力は十分だが、朝鮮人民軍はただでさえ強力なそれを2つくっつけてしまった。



やたら重いコッキングレバー2つを力任せに引けば準備は完了。



「失せろクソッタレ!俺は帰るんだ!」



————DTATATATA!!!———



機銃とは比べ物にならない反動が襲うも、そのリターンは大きい。至る所で竜騎兵や搭乗する空挺降下兵を爆砕し始めたのである!



それだけではない。

戦車砲や同軸機銃、23mm機関砲も相まって辺りは敵兵の生存を許さない絶対空間と化した。



こうして、ありったけの弾丸を薬莢に変えながらポポルタ線まで帰投することが出来たのである。










————————————————










グレートナイトであるフィーベル少尉が馬に乗って駆け付けた時、現場は既にもぬけの殻と化していた。



現場はひどい有様であり、7割の竜騎兵が撃墜されほとんどが戦死。

丸裸になった空挺降下部隊も損耗率5割と半壊状態となっていた。


その上降下兵の指揮官が死亡しているという有様。まともに戦えるような様子ではないのは明らかである。



「何。取り逃しただと?」



生き残った兵から証言を聞いたフィーベルは思わず声を上げた。今にでも激怒しそうになるが、辺りの様子を見て被害は甚大。


ここで追撃を掛けても全滅が殲滅に代わるだけだろう。



「部隊は一度撤収する。騎兵部隊は可能な限り兵を積載せよ」



「了解」



これだけ兵力を減らせば異端軍も攻めやすくなってしまう。

罠があるとしても絶対ではない以上、防衛戦力は少しでもかき集めるべきだ。

そう考えた少尉は撤退命令を下す。



今後はどう動くべきか。

その道筋は騎士将軍ヴィッツオが知っているだろう。



「フィーベル少尉の報告によれば空挺降下部隊は生存率5割、竜騎兵は全滅です。将軍、いかがなさいますか」



「そうか…」



この大打撃を受けたシャービル陸軍基地司令官ヴィッツオは良い顔をするはずもなく、何か悟ったような眼差しを伝令に注ぐ。



だがここで一つ、引っ掛かる点がある。


敵はいざとなればポポルタ線のように攻撃出来るにも拘わらず、何故それをしないのか。

こうして弾切れなど蹴飛ばしてゾルターンまで踏み込んできた辺り、補給線はしっかりしていると見て言い。



ギンジバリス港湾が制圧された時点でそのことは容易に想像がつく。


深淵の槍を通じて本国に問い合わせたが、近ごろ奪還作戦が行われるの一点張り。


補給物資こそ送られてくるが、本気度というものがまるで見えない。




向こうもラムジャー共々自分がもう用済みという事か。


あの男のことだ、悪行自体は隠し通せたとしても、農産物の生産効率低下に歯止めが掛けられないのをやり玉に粛清されてしまうのか。



そうして新しい適任者を差し向け、再び改革に走るのだろう。

軍人のみならず能力第一主義の帝国にとって無能は必要ないのだから。



最も。自分さえ良ければ構わない、傲慢を具現化させた人間の屑はそこまで頭が回らないのだろう。



どんなに神に嘆こうが、上層部を悪者にしようが敵はやってくることに変わりはない。


城が最早機能しているのか疑問だが、ここで止めねば広大なゾルターンを制圧されこの戦争の勝ち筋を失ってしまう。



そんな腐敗が牛耳る土地で、彼は人一倍輝いていた。



「片割れを出撃準備させるんだ。急げ。奴ら、ただ尻尾を撒いて逃げた訳ではない」



「しかし…」



あの兵器は消耗した異端軍に向けて放つ「止め」である。こんな場所で使っていいものだろうか。

そのことは伝令も理解しており、戸惑いを隠せない。



「死んだ竜騎士を生き返らせてでも城に伝えろ、今から!でないと間に合わん!」



ヴィッツオは片割れを担当していた張本人。

城まで距離があることは何より、始動や到着まで時間が掛かることを熟知している。



飢餓直前にも関わらず、食材に囲まれて餓死する羽目になるのは何としてでも避けたい。



組み込まれているゲイルの事はどうでも良い。


それよりも、自治区に言いがかりを吹っ掛けて手に入れた魔導シューターと、素体である地竜を改造するのにどれだけの手間をかかったのかを考えると決して無駄にできる筈がない。



仮に敵からの攻撃でここが陥落したとしても、疲弊した異端をアレは焼いてくれる。

ヴィッツオにはその確信があった。



「私の部下がゾルターンの城にいる筈だ、大至急起動するよう知らせろ!」



騎士将軍は普段の冷徹な態度から一点、爆裂でもしたように伝令を怒鳴りつける。



「了解しました!」



それだけ追い詰められているということでもあった……














————————————————






———ウイゴン暦8月7日 既定現実8月14日 午後4時

——ゾルターン城地下




ゾルターン城に駐留しているヴィッツオの部下は知らせを受けると大慌てで準備に掛かった。



「あの様子じゃ乱心って様じゃなさそうだ」



「ああ」



二人の男たちはそう言いながらおぞましく改造された生物兵器の電源を入れる。

と言ってもゲイルの魂が入った小瓶だ。



彼らは人魂が入っているソレを前に嫌悪の色一つ見せず、ただの道具として複製品のハルベルラにセットする。



「よし、じゃあコイツの凝縮にかかるぞ」



「わかった」



この道具に因子を込めた状態で人間が使うと、魔具自体が肉体ごと魂を吸収。

人の意思を持つ怪物に変身することが出来る。



だがそれもたまたま取り入れやすいものが近くにあっただけに過ぎず、より適するものがあるのならそちらを優先する。



雷が落ちるのが人ではなく、より電気の通りが良い避雷針に落ちるように。



プロセス後の肉体を作るためソーサラーが改造された地竜に封を開けた小瓶を突き刺す。

するとスポイトのように巨大な肉体が吸われていく。



これが凝集過程であり、生物に埋め込まれた無機物もこのビンに閉じ込めることが分かっている。





床に溢した水を付近が吸うようにして取り込むと、容器は赤褐色に光っていた。

わずかに脈動していることもあって生物が囚われていることがよくわかる。




材料は調整し終わった。



ここからが本題で、グリップに小瓶を装填。溝にハルベルラを沿わせる形で1つずつ因子を吸い取っていく。

内部では哀れな魂と肉体が合成されており、後はボタン一つでプリンターの如く出力できてしまう。





繰り返すが、こんなものをまともな人間でやれば正気を失い発狂するだろう。




いきなり体を失って起きてみれば得体の知れない生き物になっていた。この道具を使うという事はそう言う事を意味する。ロボコップのようなシチュエーション、誰もが慣れているはずがない。




だが制御装置を特別なモノにしている今は事情が変わってくる。



大方融合が完了したあたりで、ソーサラーは押金を引いて悪魔を印刷した。




————GRooooOOOOOO!!!!!———




あらゆる人類を恐怖の子羊に変える、おぞましい咆哮が響き渡る。




先ほどまで仮死状態に陥り、永遠の眠りについていたとは思えぬ大絶叫。その背中には無差別に破壊をもたらす魔導シューター。



これ程上手くできた生体兵器は他にいまい。



【死んだと思ったらこんな体になって生き返るとはな!神様は俺に味方してるってことだ…!】




脳に直接、野蛮な声が響く。魂の動作も上手く言っているようだ。



実験は成功した。

ヤツの性質上ここで暴れられても仕方がないため、ヴィッツオの部下はゲイルに耳打ちする。



「異端軍は基地を破り、城に迫っております。神によって再び蘇り、与えられた機会です。ぜひともご活用ください」



何がどうなっているか、そのからくりを暴露する程馬鹿ではない。

恨みと怒りに燃えるこの男だった物体をやる気にさせるにはコレがちょうどいい。





【Hi-HAHAHA!!俺が二度殺してやる、扉向こうのクソ野郎共。皆殺しだ!UH-HAHAHAHA!!!!】



悪魔はそのままモグラめいて石材の地下室を掘り進めていった。



自分を一度殺したヤツを、逆に殺すために。


次回Chapter159は10月15日10時からの公開となります。


登場兵器


・地竜

地下に生息するために特化した竜の一種。目は退化している代わりに、地下を掘り進める強靭な爪と体格はあまりにも強力。


・魔導シューター

ナルベルン自治区から回収された魔導式のシューター。極めて強力だがその反面維持費が極端に高い。威力と射程は槍や石を飛ばすシューターとは桁が違い、次元が違う。

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