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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-7. 対 究極兵器 前編
182/327

Chapter157. Trap within a trap

タイトル:【罠の中の罠】



———ウイゴン暦8月7日 既定現実8月14日 午前9時

——シャービル陸軍基地近郊



「敵目標発見!」



均等感覚で建てられている近郊監視塔でSoyuz側の偵察機を察知。

すかさず監視塔から魔導士が信号用に火球を撃ちあげる。


敵襲だ!



帝国軍は応戦しながら最終調整を急ぐ。

敵の進軍速度は速い上、連中がどこか攻める時は必ず航空目標が飛んできていることが判明している。



敵が下見しているという事はここに残されている時間は少ない。



「竜騎士を出せ!早くしろ!」



塔上の兵がそう叫んでいると、基地から2騎編隊のドラゴンナイトが勢いよく飛び出した。


これで安心はできない。騎士将軍ヴィッツオが開発した新兵器の設置はようやく終えることが出来たが、基地の要塞化はまだまだと言ったところ。


戦うには余りに脆弱すぎる。



空を見上げればやたら低空を飛ぶOV-10に竜騎士食らいついていた。



「ちょっと低すぎやしねぇか」



報告で聞いていたよりもずっと低い高さ。


抜け目のないSoyuzがそんなことをするだろうか。


ブロンコ(OV-10)は迎撃騎が出てきては叶わないと言わんばかりに逃走しはじめる。

今までの様に高度をぐんと上げて引きちぎってくる様子もない。



【こちらFly hight、第一フェイズ完了。帰投します】



【LONGPAT了解】



軍事無線の向こう側では何やら不穏な動きを見せていた。











—————————————











今回の作戦はかなり不可解なところが多い。



冴島大佐が呼びつけた装甲兵器たちは先軍915を2つずつ。


自走対空砲ZSU-23-4を2つに、冴島大佐の指揮するT-72とかなり控えめだ。



たったこれだけの陸上戦力で攻め落とすことは不可能に見えたが、作戦はそのまま承認された。



部隊名は「臨時機甲強行偵察小隊」物騒で長い名前の傍ら、目的はと言うと力づくでも偵察する部隊だ。


事の発端は敗残兵掃討作戦についていた時に遡る。


ほぼ偶然に近い形で敵拠点を発見したわけだが、そこで撮影された写真は今までにないモノを映していた。



何やら作業員を派遣しているようだが、様子がおかしい。


設置しているはずのシューターと言った大型兵器類がまるでないのである。



本部から帰投した冴島はこれを見て「()()()()()()()()」と判断。


迂闊に大部隊を差し向け、起爆して辺り一面吹き飛ぶなどの大損害を見越して強行偵察部隊を編成したのである。




故に先ほど偵察に出させていたOV-10はただの餌に過ぎず、航空偵察の本命はフェンサーFによる高高度偵察だ。。


このことは絶対に悟られてはならない。



敵が策を練っているなら、こちらを油断しているという事を示さねばならないだろう。



罠にかかったと見せかけて、さらに高度な罠で釣り上げるのだ。



それだけで大佐が済ますだろうか。

彼の書いた作戦という名の絵はまだ姿を見せない。
















———————————————












——シャービル基地 ポポルタ線側12km



【本作戦は強行偵察をかけ、敵に戦力の逐次投入を促すことが目的である】



先軍915車長、ボゥールは冴島大佐の言葉を浮かべていた。


ゾルターンの要であるポポルタ線、それ以外でもU.U(異世界)での戦いでは必ず装甲兵器が投下され勝利を収めている。


敵も正面から撃破することの出来ない鋼鉄の悪魔に対し、対策を取ってくると考えたのだろう。




スカッドを居城に撃ち込んでいるおかげもあって、この敵基地を攻め落とせば後は消化試合になる。



相手側にとってはこの拠点を取られる訳にはいかない。

それ相応の戦力を差し向けて居る筈だ。



だからこそ戦力の逐次投入を促し、徹底的に破壊するつもりでいる。



大佐はそれでも足りないような口ぶりだった。


更に空爆して焼き払う気でいるのだ、此処を攻め落とせば戦いの終幕が見えている以上、当然だろう。



【LONGPATから各車、前進せよ】



「周囲を警戒しながら前進開始。索敵を怠るな」



曹長は大佐からの命令で戦車を前に進める。


煩わしい程生えている長身草原を踏みつけて進めば神経の様に張り巡らされた監視塔と、拠点らしき建築物が見えてきた。



「11時方向、目標発見。距離1500」



「撃て」



ボゥールの一言で砲塔が左に向き、内部では装填手が大きな125mm砲弾を軽々と持ち上げると、砲底にするりと弾を込めた。



圧力が逃げないようしっかりと閉鎖し、間髪入れずに砲撃する。

此処まで5秒以内、これこそ自動化された人力がなせる(ワザ)



———ZDaaaaAAAAASHHH!!!——



瞬時に硝煙が砲塔内部に充満する。視界を遮る白煙を前に誰も戸惑うこともない。こ

の程度で怯んでいるのであれば戦車乗りは務まらないからだ。



———Boooom………———



「命中」



砲手が塔に爆炎が昇る様を見て淡々と報告した。


濛々と上る土煙。着弾位置からして監視員がいるであろう見張り台に撃ち込まれたのだ、もう生きてはいまい。



これだけの大爆発を嗅ぎつけようと、こちらの規模までは分からない。


警備兵を残らず殺せば侵入者に気が付かないのと同じである。



「了解」



【こちらBeongae01。敵監視塔無力化】



【LONGPAT了解】



電子機器を挟み、機械化された集団は進む。

高度に自動化された戦闘は魔法とは一線を画していた……












——————————————












———シャービル陸軍基地




「監視塔、破壊されました!」



「やはりな。基地にいるすべての兵員は敵に備え、空挺部隊は直ちに発進せよ!」



突如として爆発した第4監視塔。

隣接する塔があまりに突拍子のない爆散を察知した事により、ヴィッツオは緊急戦闘態勢を発令。


最初に敵を挟み撃ちにするための竜騎降下部隊のスクランブルをかけたのである。


これでは背中を突くだけになってしまうが、さすがに騎士将軍。策があった。




「空挺部隊発進後、重装騎兵(グレートナイト)小隊は援護に向かえ!」




彼が言う騎士団はいかほどのものか。

基地併設の厩舎に漆黒の鎧を身に纏った兵が既に殺到していた。




「急げ!至急出撃せよ!」




隊長が高らかに声を上げる。騎兵というのに槍を一切持たず、銀の銃やまるでバズーカ砲のようなダールが見える。



彼らはただの騎兵でも上級騎兵でもない。アーマーナイトのようなスキのない装甲。

ラムジャーで試験を受け、正式採用されたグレートナイトだった。






彼らにとっての格納庫は厩舎。

そこでは準備こそ整っていたが、今までに経験したことのない装備とあって支度が済んでいなかった。



「どれくらいで出撃できるか」



指揮官フィーベル少尉は兵に問う。



「少尉殿。あと1時間必要です——ああっ!急げ!」



前々から準備こそ進めていたが、それですら骨が折れる代物。皆が必死だ。



「よろしい、2時間で済ませよ!」



それに対しフィーベルは二倍の時間を提示したのである。

自分の命を預ける装甲を手抜きされていざと言うときに死んだら困りものだからだ。



しかし一時間で支度を終え、もう一時間で点検を行えという事でもある。



「装備を終えたヤツから外へ!俺もすぐ向かう!」



混沌とした中でもヴィッツオ配下の兵には確かな炎が灯っていた……














—————————————————











——シャービル基地ポポルタ線側10km



敵を自分達の存在に気が付いた。

このことは真っ先にレーダーを積んだシルカが知りえた情報である。



【こちらHAMB02 敵機確認。目標数5。距離5000】



空挺部隊がレーダーに引っ掛かった。だが数が妙に少なすぎる。


本気を出すならば班単位ではなく30などの小隊で来るはずだ。



【LONGPATから各車。目標は達成された。これより撤退する。HANB01、02は接近目標のみ撃墜せよ】




冴島大佐から耳を疑うような指示が飛ばされた。



だがここで振り返ってみよう。あくまで作戦の目標は「()()」である。わざわざ罠が仕掛けられている場所に出向いて自滅する程お人よしではない。




仮に罠がこの近辺に仕掛けられているとしても、歴戦の冴島にはどこに置くか大方分かっている。



プロならここに罠を張る、ということは。プロである自分にはその場所が分かってしまう。



むしろそういった場所が竹取物語よろしく「見える」のだ



【Beongae01からLONGPAT、本当に引き返すのですか】



ハチの巣をつつくまでもなく、近づいただけである。ボゥール曹長は思わず疑問を呈するのも無理ない。




【こちらLONGPAT。重要な要塞を落された以上、奴らはここを最終防衛ラインかそれに等しい扱いをするだろう。最も正攻法で戦車に勝てないのであれば、必ず罠を張る。俺ならそうする】




【差し向けてくる航空戦力の数も妙だ。敵将は何等かの策を考えていると見ていい。それが分かっただけで、収穫だ】




【了解】





いかにして曹長と大佐という階級の大きな隔てりがあるか。

ボゥールはそれをまざまざと見せつけられていた。













———————————————











冴島率いる機甲部隊は敵戦力を確認できた以上、此処にいる理由はない。


そのために帰投し始めていたのだが、双眼鏡から注がれる鋭い視線が、迫りくる竜騎兵の姿をばっちりと捉えていた。



高度10mも行っていない、生物に騎乗しているからこそできる地表すれすれの飛行。


レーダーに映らないことをどこからか学習しているのだろうか。




そこまでは良い。次の瞬間、大佐は敵の驚くべき行動を目の当たりにした。



「レーダー映ったのは囮か。…あれは空挺降下か?」



竜騎兵の背後から人が飛び降りているではないか。パラシュートのようなものは見当たらないが、ワイバーンの翼を模したグライダーを背負っている。



仮に空中投下するなら敵の背後で、本隊と挟み撃ちにするのが鉄板。



だが目の前のドラゴンキラー(自走対空砲)を前に可能な限り戦力を残そうと、早めに投下しているのだ。




装備品から鑑みて降下しているのはソーサラー。だが敵とこちらの距離は2kmある。

絶対的な射程差がある事がわかっていたため此処まで攻撃は届かない。そう思っていた。



だが様子がおかしい。彼は双眼鏡をそのままに無線機を取り、指示を出すため口を開く。



【こちらLONGPAT、距離2000。6時方向に敵——】




そんな刹那。スコープの中にいる上級魔導士が、杖をこちらに構えた!



これに気が付いているのは自分だけ。

すぐさま意識が砲撃命令を撃てと言うが、いくら鍛えられても人間。


高速で流れる意思に身体が付いてこない。



———BPhooooMMMMMM!!!!!!!———




魔導的な爆風が戦車を直撃、凄まじい衝撃が襲った。まるで鞄に入れられた飲みかけの飲み物の如く、戦車兵らは揺さぶられる。



奴らは一番後ろにいる自分を狙ってきた。

あの世界の空挺降下部隊に所属するだけあって、敵は紛れもなくエリートに違いない。



———ZDaaAAAAASHHHHH!!!!!———



こちらもこちらとて、黙っているわけにはいかなかった。



大佐の意思を受け継いだかのように砲手が断片的な指示を基に主砲が火を噴かせる!




【繰り返す、LONGPATから各車。距離2000。6時方向に敵複数。生き残り、帰投せよ】




敵もこちらを確実に仕留めに来ている。

そんな策略を振りほどき、必ずや逃げ帰って見せる。今後の反抗作戦のために。



帝国軍にしてみれば逃がせばさらなる攻撃がやってくる、Soyuzにしてみれば追いつかれれば何をされるか分からない。



互いに死力を尽くした撤退戦が始まる……

次回Chapter158は10月8日10時からの公開となります。


登場兵士


・空挺部隊

航空機などに兵士を満載し、そこからパラシュートで降下。地上で作戦行動を行う部隊。


兵士を送り込む手間が無い分、使い方は奇襲や挟み撃ちなどに使われることが多い他、前線に投下されるため味方の支援が受けられない時間が長い。


そのため練度は極めて高く、エリートが揃う。

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