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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-7. 対 究極兵器 前編
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Chapter154. Research and Build

タイトル【研究と建築と】

———ウイゴン暦8月5日 既定現実8月12日 午前10時 



真の苦悩はここから始まった。

冴島大佐の上げたポポルタ線改造計画に、咥えて難民キャンプひいては街をつくることに。



港の拡張工事などを終えた建設機械師団が投下されるのは当然の事として、意外なことにある人物がこの地に足を踏み入れた。



「うーん、FUCK!」



バイオテックの巨匠にして巨悪。


S.メンゲレである。


どうにも他地域と比べて植生が異なることが気になってきてみたが、侵略的在来種(クソッタレ)によって全て置換されている。報告書の筆者なのだから。



早い話、動物園に行ってその辺の雑種犬一匹だけが展示されているようなものである。

放送禁止用語を口走るのも無理ない。




建設機械師団の方に目を向けてみると、ポポルタ線内部にあったトーチカの取り壊しが行われていた。


砲撃によって穴だらけになった地も、少しずつではあるが軍事街として姿を変えていく。



所詮は大掛かりな塗り替えだとしても、人が積み上げてきた叡智が節々に発揮されていることには変わりないだろう。



——DRRRRRRR……



そんな中、防塵マスクとゴーグルをした完全防備の作業員が重機を使い、解体に勤しむ。


ショベルカーに取り付けられた破砕機がガタガタと揺らしながら石材に突き刺すと、けたたましい音を立て、強固なドームに穴を開けていた。



周りでは粉塵を舞い上がらせないため他のスタッフが水を撒いているが、ただ蒸し暑くなるだけ。

完全防備もあってコレがなかなかに暑い。



「小生意気にコンクリなんて使いやがってこの…!」



これが土で作られていたならバケットで打ち壊せる。だが仮にも石造りの物では穴を開ける作業が入り、正直な話二度手間だ。


一刻も早く終わらせて冷房を浴びたい。



法外な数がある分、塵も積もればなんとやら。朝早くから作業しているが、周りを見ればサンダー・ドームはまだまだ健在。



考えるだけ気が遠くなってくる。鉄筋が入っていない分、マシだろうか。気休めにしかならないが。



「ヨシ。次に行くぞ…あぁ…」



「そういうなよ、次行こうぜ次」



ドーザーの作業員が猛暑にやられつつある彼をなんとか奮い立たせる。



貫いたら仕上げは掬い手がついたショベルでやり、後でブルドーザーが片付けるでワンセット。これで鉄筋を入れるだけの知恵が有ったらと思うと吐き気を催す。



首にかけられたタオルを時折押し付けながら次の現場に向かった。戦っているのは兵士だけではないことがお分かりになるだろう。



一方で元々あった民家の取り壊し予定はなく、可能な限り再利用する予定である。

また解体の時に生じたセメントは骨材としてリサイクルと無駄がない。



エコロジーと言うよりも資材を持ってくる手間を掛けたくないだけだ。



懸命に汗水たらして働く作業員を見てか、村民の方々も一部作業を手伝ってもらうことになった。



仕事をこなし、飯を食って時を共にする、こうなれば立派な仲間。



次元や経緯などは関係ない。こうした点がSoyuzの良い所だろう。












——————————







こうして更地になった場所にはプレハブが置かれ、仮設住宅が建てられる。


ただ明かりだけはU.U仕様に変更されており、ハリソンで生産された魔力灯と交互に敷設。



発電所が建てられないことに起因する、電力不足下であっても快適に暮らしてほしいという配慮だろう。


付属する敷物といった内装を整える程手が回らないので住民自らがやってもらうことになるが。




試しに資材通りに組み立てたモデルハウス第一号が置かれ、最初の村人が立ち入った感想がこれである。



「箱。だけども他人の目を気にせず寝れるのは良い。この床だけで熟睡できる」



というもの。


ゾルターンの劣悪な環境を考えれば、敷物と個別の灯。そしてカーテンもある。なんという贅沢か。帝国軍に入隊してもこれだけの設備はなかなかない。



ただし洗濯などの場所は従来通り、元からある共用の場所を使ってもらうことになる。



それでもなお生活水準は大幅に向上したものと見て良いだろう。



仮設住宅が次々と建てられていく中、軍事施設の建造も行われていることを忘れてはならない。








———————








現場では地下階層のある構造物を立てるため、鋼矢板を埋める作業が行われていた。



これは鉄板を地中に埋め壁とすることで、掘削をした際崩れて来ないようにする重要な土台である。


昨今の重機は便利で、板を設置してボタンを押すだけで全てやってくれる。


そうして生まれた余裕を別の所で回し、可能な限り質の良い工事を行おうという事だ。



「余裕のない作業は全てを滅ぼすぞ!交代要員を寄越さんか!何、作業を終えた?よろしい、休憩に行ってヨシ!」



「なんでコイツ勝手に仕切ってんだ…」



建設機械旅団 第3連隊 第一大隊の長加藤は人より声を上げ、周りを牛耳るホーディンに困惑を隠せなかった。

確かに一つの地域をまとめ上げた司令官という事は聞いているが土建屋のプロではない。



施工手順は頭に叩き込んでいるものの、重機を使えない人間がどうしてここまで出来るのか不思議だ。


不安のひとかけら位あっても良いだろうに。


此処には多様な施設が入るという。でなければこれだけ大げさな工事はしないだろう。



施工名はただ「()()()()()()」とだけ。


詳しいことは軍事機密と言う分厚い壁で知ることは叶わない。


建設機械師団はただ作ったり壊したりする部隊なため、ジェームズ・ボンドが好きそうな情報には興味はないだろうが。



一方その頃、ゾルターンの謎に迫るため博士の配下は暇そうな地元民を引っ掛けて尋問していた。



「それで、ここで育てられているものはこれで全てか?」



「その通りです」



博士は専用に誂えた実験ノートに証言を書き記す。



【大麦 現地作出株 ジャガイモ(2倍体)】



俗称で呼ばれていたものの、主産物は麦とジャガイモ。芋は例の2倍体のものである。

どうやら人類が最初に野菜として食べだした株と同じらしい。



たったこれだけとはバリエーションがないと思っていたが、本当にこれだけのようだ。


他地域ではドイツ系クレソンといった豊富な野菜が栽培されているにも関わらず。



考察するのは別の機会として、メンゲレは話題を一体に生えている植物に話題を変えた。



「はークソ。なんだよこのゲロ緑、名前は——-……」



「【草】です」



「は?」



「だから【草】なんですよ。それだけです。編み物に出来ますが腹の足しにはできません」



いわばこれは()が選べるかと聞いてインド料理の「()()」と言って揉めているようなもの。

これ以上突き詰めてもどうしようもならないため、博士は科学的真相に迫ることにした。



「それで…食えないことはよくわかった。で、だ。この悪魔的侵略害草(クソッタレ)…まぁとにかく、特性というか、そういうものは無いか?」



一応繊維質が凄まじいということは分かっているものの、何せ調査時間が短い。

そう考えると向こうの人間の方が絶対的情報量が多いだろう。



「ははぁ。と言われましても。コイツを狩り取って作物を植えても一切育つことはありません。たとえ泥炭を入れても。大量に生えれば当然土地がやせます。奇跡的に生えていないところに植えてもゾルターンではすぐさま枯れてしまいます」



「うむ。それで。」



「一度畑にした所には二度と生えません。で、これは茎を割くと丈夫で細かい繊維が出るので…おかげで敷物や服に困りません」



実際この目で拝んだことはないが、どのみちハゲ将軍は服など支給する気など更々ないだろう。



人民服が配給されず、木綿どころか古くからあるシルクと言った動物性の繊維を一切得られない環境下において、目の前の男が身に纏う服を作り、なおかつ文化的に色付けすることができる。



つまりこの草がなければ軽工業おろか暮らしすら営むことが出来なくなってしまう。



「博士、パックテストですが土のデータサンプル、ついに結果が出ました」



そんな時、現地で定量していた優秀な研究員が彼を呼ぶ。

パックテストとは袋麺を調理する感覚で分析することが出来るキットの事だ。



「どぉら見せてみろ」



その結果は衝撃的なものだった。









———————








「ははっ、馬鹿じゃねぇの。こんなとこで農業できる訳ねぇじゃん。」



博士は乾いた笑いで結果を一蹴してしまう。



計測したのは土地が酸性・アルカリか示すものと、植物の栄養となるアンモニアの濃度を色でわかるようにしたもの。



普通であれば7で中性を示し、大多数の植物はこの環境で育つことが出来る。



泥炭を導入していないところで取ってきたサンプルはあろうことか1()2()を示していたのだ。

そもそもアルカリの最大値は「14」であることを忘れてはならない。



これは薄めた苛性ソーダ水溶液、石灰水に匹敵し、分かりやすく言うならば此処にアルミニウム板を突き刺せば間違いなく「溶ける」



その上、土中の栄養素を示すアンモニア濃度は驚くべき値「0」をたたき出していた。



いい感じに薄めた栄養分のない強アルカリ水溶液で水耕栽培するようなもの。

天地がひっくり返っても育つわけがないのである。



博士が早く帰りたそうにしているのも納得だ。こんな所、土があるだけの砂漠と全く同じなのだから。


砂の方が水を撒けばまだ芽生える分、有情かもしれない。










———————————










「それにしてもクソ腹が立つ色をしているんだ全く……」



そうなれば通常生育できない環境でこの雑草は育っているのか。研究者として気になるのは当然だった。



一般的に植物が光合成を行えるのはタンパク質があるからである。


人間が肉を食べないと死ぬように、植物もこのタンパクの原料がなければ枯れてしまう。



だがこの土壌は材料が全くないと示しており、本来であれば文字通り「ぺんぺん草も生えない」環境なのは言うまでもないだろう。


なにも不毛かつ毒のような土地に生える草はいない。



さらに付け加えるなら、植物の進化傾向は競合する他者が絶対に生えないような場所を乗っ取って生育する。



似たような環境。


同じようにタンパクの原料が少ない熱帯雨林に生える食虫植物は、虫と言った動物を材料としているのだ。


だがこの草、まったくそのような機構を持っていない。ただの草。


まぁこんなのは一例で、我々に身近なのはダイズと根粒菌だろう。


大方そう思った博士は容赦なく草を引っこ抜き、根を観察した。



「は?なんで?いや、は?死んでくれねぇかなマジで」



そこには根粒、つまりコブが見られなかった。どうやら空気から栄養分を貯蓄しているわけでもないらしい。



これが正しければ「自前で必要な栄養を作り出すことが出来る」不可解極まりない、植物の歴史を根底から変える謎の物体という事になってしまう。



メンゲレは論文にすれば間違いなく学会の連中を八つ裂きにできる、そう思いそうになるが、そうは考えていなかった。



最早理解が及ばないどころか、今までの植物学やその理屈が通用しない全く持って未知の存在を前に思考が文字通り止まってしまったのである。



彼をつかさどるパソコンは強烈なエラーによってブルースクリーンを吐いているのと同じ。



この世界、魔力と言い政治体制といい。


安いファンタジー小説の世界ではなく、人類未踏の異次元であることを思い出させてくれたのだった…


次回Chapter155は9月17日10時からの公開となります


登場兵器


・大豆と根粒菌


大豆は栄養分が乏しい場所でも、根粒菌という菌と共生することで空気中から栄養分を得ることができる。高校生物で覚えた人もいるのではないだろうか。

実は大豆だけではなく、マメ科植物ならあらかた良いらしく「マメ」らしくない大雑把さを持つ。

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