Chapter151-1. Mystery Dictator
タイトル【謎の独裁者】
異次元に栄える軍事政権国家 ファルケンシュタイン帝国。
帝国という名前を冠しているが皇帝や議会が綱を握っているわけでもなく、どういうことか軍部と一部の国家安全保障機関。
俗に言う諜報機関が舵を取っているという不可思議な国家である。
その実態を洗いざらい全て調査すべく、政権の中枢にいたマーディッシュ・ワ―レンサットに尋問官に冴島大佐を据えてインタビューが行われることになった。
以下はそのログである。
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——よろしくお願いします。早速ですが、政権内で貴方のしていた役割ないし、立場などを教えてください
冴島大佐が挨拶と共に、最初の設問に取り掛かる。
「……俗に言う傀儡だ。表向きでは外交や勅命の発布等を行っていた。名目上では皇帝からの案を議会で議論し発布されることになっているが、軍部に全て掌握され機能していない」
「ここでいう皇帝の案すら、厳密には自分の口から出た言葉ではない」
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——……厳密には?
冴島が問う。
「そう。厳密にはそうなる。現政権…賢人会議の前身はモガディシュなのは知っての通り、自分もそこの会員だったのは間違いない。その上指示自体、思想的にも合致するが発案者は私でもなければ賢人会議ではない。コンクールスと呼ばれる男だ」
——ではコンクールスと呼ばれる人物についてお教えいただけますか?
「平たく言うと賢人会議の議長だ。顔はいつも鎧で隠していて、分からない。恐らく暗殺か何かを避けるためか、あるいは自身に対する崇拝などを嫌ったのだろう。為政者としてはかなり異質な方に入る」
「普段は何処に所属しているか、知る権限を与えられていない。よほど自分について知られるのが嫌らしい。ここまでくると極端だ」
——なぜそこまでして自身の関与をそこまで隠したいのでしょうか?
「……あくまで推測にしかならないが、現政権の成り立ちが関わっていると思う。人民に知らされている情報として、自分が皇帝の座を継いで軍人優遇政策を取っているとある。
実態は全て少数の賢人会議という結社の匙加減で決められている訳だが」
「それはひとまず置いておくとして、このような情報が流布されているのは政権の安定化のため、とコンクールスは言っていた。皇帝が何者かの言いなりとなっていれば不信を買うのは目に見えている」
「下手に反発されないよう人民を懐柔し、有用で使える部分はそのまま流用し、問題となっていた場所を全て是正する。それが彼のやり方だ」
——彼?傀儡となっているのに不満はなかったのですか?
「……わからないか?異端が来るまでの間、これまでしっかりと国の舵を取って来たのが物語っている。革命を起こしたところで不満を持つ人間が次の革命を起こすに決まっていることくらい分かっている」
「…だが、コンクールスはそうはさせなかった。
人民の血税を跳ね上げ、軍事費に全て宛てた。職にあぶれ、不満だらけの兵士に仕事を与え技術も飛躍的に進歩した」
「革命を起こすような反乱分子を兵士や深淵の槍を使って全て排除し、あっという間に軍人の楽園としてみせた。それも日の沈まない、黄金のような国家へと成長させるなんて他の連中には無理な話。決定的な差を見せつけられた」
「神でも何でもない人間が、神を超えて見せたんだ」
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——話を変えましょう。普段、コンクールスはどこに居るか心当たりは?
「わからない。言った通り、コンクールスは徹底的に尻尾を見せない。帝都へ頻繁にいけるということもあって、そう遠くにいるとは思えないが…」
——わかりました。コンクールスについて皇太子殿下が知る限りのことを教えていただけますか?
「……ああ。初めて会ったときの肩書はナンノリオンの将軍だった。とにかく人間とは思えなかったのが印象深い。俗世に生きているとは思えない程にあらゆる欲がないと言っても過言ではない」
「自身の功績や何やらに執着は見せないし、将軍なら必ず一人は愛人なりそういったものを持っているはずだが、そんなものを見た覚えがない」
「徹底的に国に尽くすために生まれてきたような存在だ。オンヘトゥ神の末裔であるこのワ―レンサット一族よりも、さらに神に近いような男だ。この私よりも」
「尊敬は勿論だが、時折恐怖すら覚えた。本気で得体の知れない存在を見た時、人間は恐怖を抱く、とはよく言ったものだ。国を発展させるため、最適な手段なりを選ぶ計算高さを持ちながら、仕方のない損害や利益にならないものは容赦なく切り捨てる……」
「機械のような正確さと、人間のような柔軟性を持つ……この私ですら理解できやしない、いや賢人会議にいる面々にすら……」
——わかりました、インタビューを終了します
決して表に出て来ない、影の独裁者コンクールス。
謎は深まるばかり。




