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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-7. 対 究極兵器 前編
170/327

Chapter147. .We got new weapons!

タイトル【新兵器を手に入れた!】


———ウイゴン暦8月1日 既定現実8月8日 13時 


戦場に来る武装スタッフ以外の集団。

学術旅団選りすぐりの武器男 阿部が率いる集団はどこからか戦いの匂いを嗅ぎつけ、Soyuzが捕獲した兵器たちに唾を付けていた。



目星をつけたのは魔導書一冊と銀の銃とその弾薬。


だが彼はそんなことはどうでも良いらしく、目当てのものは分解が効く大型シューター「クレインクイン」だった。


安い家具よろしく解体できるので輸送ヘリのMi-8にまとめて突っ込んでもさほど問題なく、なかなか便利な代物である。



本部拠点の滑走路で実験を行いと駄々を捏ねたものの情け容赦なく却下され、代表に許可を取った上で、自治区郊外に区域を作り性能試験を行う事になっていた。



操作方法の指南については訓練も兼ねてラムジャーを許さない市民の会の皆さんが協力してくれるそうである。



「ありったけの炭火焼き肉を腹いっぱい食いたいもんだナァ…よし、組み付けるか…」



阿部は彼特有の言い回しを口にしながら彼らが出来る組付けを行っていた。

精々槍を投射する部分といった比較的軽いものだが。



「だってここ既定現実から生肉持ち込み禁止じゃないすか、先生」



すかさずバイト君がすかさずヤジを入れる。

彼は内容も知らないまま、この異次元に拉致された哀れな若者である。


そんなことを知ってか知らずか、市民の会所属の重装兵がこう言った。



「兎も角。昔は移動なんてできなかったモンですよ、今や便利になった…」



帝国軍御用達のカタパルト砲座は固定式のモデルもあるらしいが旧式品なのだという。


そう考えると各部ユニットごとに解体でき、アーマーナイトの馬力をもってすれば移動だって可能だろう。



既定現実世界のカタパルトとは大きく性質が違うことが分かる。

設計した人間は戦場のことを良く考えている、優秀なヤツに違いないだろう。








——————————








「ついにできたぞ…どちらかと言うとカタパルトと言うよりシューターと言われるのがよくわかる」



完成したクレインクインを前に阿部はシャツを湿らせ、額に滴る汗を拭いながら見上げる。



一般的に言われる投石器とは似ているようで大きく違う。


まず見た目からだ。


よく見るトレビュシェットのようにカウンターウェイトを使わない方式のみならず、大きなバリスタと異なり弓部を持たない。


そのためファンタジー版野砲のような印象を抱かせる。


とにかく。かなり特徴的な外見なのは確かだ。



次に射出構造自体は空母などについているカタパルト。

人力でクランプを巻き上げ、レバーを倒すことで発射されるとの事。方式としては変わらないが。



阿部らはこれを体験したが、その結果Tシャツに絞れる程の汗を含ませてしまった。明日、とんでもないことになっているのは想像がつく。



特筆すべきなのは弾道を安定させるためレールが設けられている所だろうか。

バリスタは反発力を蓄える弓のような腕木がないため、設けられたのだろう。



そうこうしているうちに市民の会メンバーが2m程の槍を持ってきた。これが弾なのだという。

弾道を安定させるための安定翼が付いており、とても歩兵が持つ物とは思えない。



「…専用の弾があるものなんですね」



阿部が思わず問いかけると、重装兵は答えて見せた。



「えぇ、クレインクインはそう言うモンです。正直なところ溝に嵌るんなら何でもいいですが、専用に(あつら)えたものが一番よく飛びます」



彼が専用の槍を設置するとついに発射する準備が整うが、学者の質問は止まらない。



「そういえば…どれくらいの頻度で撃てるんです」



「熟練した兵なら1分間に1発も夢ではないでしょう。我々アーマーナイトが思い切り巻き上げるのです。コイツは魔具を使っていますが、ないんならそりゃあもう…」



何処の世界も砲兵が一番苦労するらしい。










——————————









弾、推進力、準備は万端。あとは撃つだけとなる。



「レバーは重いですからね、思いっきり倒してください」


安全装置も兼ねているためレバーは鉛の様に重いのだろう。そんなことはどうでもいい。


阿部はクリスマスプレゼントをもらった子供の様に目を輝かせているではないか!


彼は思い切り体重をかけて引き倒した。



————CRAShhhHHHH!!!!!———



槍は天高く飛んでいき、あっという間に視界の外に消えていった。

かつて中世ヨーロッパにあった投石機とは訳が違う。


射程も何倍もあり、直撃した兵士は間違いなく死ぬ。



学術旅団の面々に眠る5歳児が一斉に跳ね回りはじめた。


熱狂とは伝染する者で、市民の会の皆様も意味もなく歓声を上げはじめたではないか。



「HAHAHA!最高の気分だ!……問題は飛ばしたヤツを探さないといけないことだ」



一番早くトリップ・タイムを抜け出してしまった阿部は残酷な現実に向き逢わざるを得なくなった。飛ばした矢の責任は当然、自分で取らねばならないのだから。










—————————






———発射台753m地点



飛ばした方角を基に歩きまわってはや30分。シューターから放たれた槍は地面に深々と突き刺さっていた。

それも刃の部分は地面に埋まり、柄だけがにょっきり生えているかのように。



距離は丁度750mと言ったところ。大型トレビシュットの射程を凌駕しているではないか。

恐るべき威力をまざまざと見せつけられた阿部は真顔でバイト君にこう言い放った。



「これ持ち帰って文科省に撃ち込もう。この威力ならガラスとか薄っぺらいコンクリなら余裕だ。木材と言えばバレやしない」



「何いってんすか」



やはり阿部は通常運転だ。









————————————






装甲板を使って貫徹能力を検証しようとしたところ、たかだか100m先の目標に対し38回打っても当たらないため断念した。



「ダメだ心が折れてしまう、ちょっとぐらい当たってもいいじゃないですか先生」



「これはあくまで集団とか動かない相手に使うことがよくわかった、だからこんな板切れに当てるようにはできていないんだ」



「先生そう言いますけど止まってる的にしか当たらないじゃないですか」



阿部が引き連れているアベンジャーズ(スタッフ)との会話が物語るように、このクレインクインという兵器。


小さい目標に撃つと、()()()()()()()()()のだ。


だが100m以下に突き詰めると正しい貫徹能力が求められないことから、時間的問題で断念してしまった。


命中率が低いと知れただけでも十分な収穫だろう。こうでも考えないとやっていられない。


常に研究とは小さな事の積み重ねだ。










—————————————




続いて、彼の興味を抱いていなかった「銀の銃」の実験に移ることに。


一見して西洋で主流となった、おかしなフリントロック式マスケット銃にしか見えない。

強いて言えばエングレーブが施されており、見た目でただの銃と違うくらいか。


故に阿部は「面白みがない」と言っており、魔法の銃だからといって7色に光ることを期待した自分が馬鹿らしいとすら思っていた。


よく見ると火打ち石の部分に何やら別の鉱石を、火薬の代わりに魔力のこもった水をつかうとのこと。



そもそも一般的な銃の形になっているあたり、次元を隔てても既に完成されているのだろう。

様々なアングルで銃を見回す阿部だったが、市民の会メンバーにある質問を投げかけた。



「雨とかで薄まらないのですか?」




現実世界から来た人間は魔力を物質か何かだと考えていることが多い。


めんつゆと同じく薄まってしまうのではないか、という科学的思い込みがある。


久々に手にしたマスケット銃。Soyuzスタッフが持つような自動火器と比べしっくり来るものだ。

そう考えていると、会員は考察まじりの考えを述べ始めた。



「雨よけにこうしてカバーが付いているのでしょう。ただ自分もお目にかかるのは初めてでして。帝国の新兵器ですから」



言われてみればフリントロックの機構を覆うようにしてカバーが設けられており、銃本体にゴミが入らないように設けられたダストカバーなどに通じるものがある。


嫌うやつは嫌うだろう。そう思いながら彼は雨除けに指を置く。


そうするとパーツ間に可動部が見受けられ、いざと言うときには魔石の角度を変えることが出来るようになっていた。


凝った技巧を見るに対装甲槍やガロ―バンと比べ、配備に時間が掛かる兵器なのは確かだろう。



一度ソルジャーキラーも分解して複雑とは思ったが、ここまで部品点数は多くはない。

また、機構自体はニースなどに見られる爆発魔導を誘発するものとほぼ同じ。



「物は見かけによらないものだしな、撃ってみても?」



「かまいませんよ」



木の棒、パチンコ、銃にロケットランチャー。武器を手にした男の子というのは変わらない。

やはりと言うべきか、撃たない限りには始まらないものである。











———————————



標的は建設機械師団の使う重機足場用の20mm鋼板を2枚重ねたものを用意した。

これだけあれば、アサルトライフル程度の攻撃は余裕で弾いてくれるはず。



このジェネラルの装甲を想定した目標から25m程度離れ、銀の銃を持った阿部は待機する。

決して先ほど検証を諦めたクレインクインの的を流用したと言ってはいけない。




周りにはハイスピードカメラがずらりと控え、初速を測定するための機材も立ち並ぶ様は、かのドキュメンタリー番組を思わせる。



解説役の重装兵から弾を渡されたが、不可思議なことに弾薬は特殊なものを使わず、ただの鉛球だ。

特殊なものにすると卒倒するような調達費になるからだろうか。



当然のことながら前装式なため銃口に弾を入れ押し込む作業が待っている。だがマスケット銃慣れしているのか、彼の手際は異様に良い。



「先生、慣れてるんすか」



浮かない学部の教授として見られていたので、雑用に定評があるバイト君も思わず言葉を漏らす。



「あぁ——言ってなかったか?ラスベガスに出張よく行くだろ。カジノしに行っている訳じゃないんだぞ、日本じゃ撃てないからな。実物に触れるというのも大事だからな。…カジノは一回行ってエライ目に逢ったから二度と行かない」



「さてと…」



すらりとした銃身の向こうには、神妙な顔をした阿部が待ち受けていた。

心と武器の準備は出来ている。風もいい、すぐさま引き金を引くと火打石が落ちる。


驚くべきことに火縄銃のような発煙は一切せず、一筋の光筋が薬室に入った途端。



————BPooooOOMMM!!!!!——



魔法的炸裂音と共に強烈な反動が阿部の肩を襲った。

火打石(フリントロック)を落としてから発射するまでのタイムラグ。

現代の物では決して味わえない。



煙の代わりに炎の渦が一瞬だけ弾丸にまとわりつき、40mmの鋼板の中ほどが大炎上している。


正に一瞬の出来事。不条理極まりないこの兵器の実態をVFXの観点から見てみよう。



計測されたデータを基に、阿部らは記録と映像を照らし合わせる。



「初速自体はそこまででもないな。1秒あたり120m…まぁその辺のマスケット銃と同じ…よし、着弾視点はどうなってる?」



カラシニコフ(AK)を例に取ると差6倍。いかに昨今のアサルトライフルが進歩したものかお分かりいただけるだろうか。


報告によればこいつで燃料タンクを撃ち抜かれ、車両が大火災の挙句ダメになっているらしい。


そんなことは分かり切っていたので研究員は視点を変える。

これで弾が物体にあたった時、一体どうなっているのか。現実は姿を現す。



「…ん?そこの場面、もう一回コマ送りにできるか?」


阿部は目を細めながら怪しい映像を確認するよう指示を下す。何かが不自然だ。



「えぇ、まぁ」


もう一度巻き戻し、秒間何千コマという世界で怪しい部分を見極める。



丁度鋼板にあたった所に差し掛かると、あろうことか鉛玉は弾かれることなく鉄板を溶かしながら内部に侵入した。



いわば特殊部隊が持つ40mm成型炸薬弾やRPG7をぶつけた時のような現象が起きている。


ただのボール弾を撃ち出すマスケット銃では絶対にあり得ない光景なのは間違いない!


そして映像を再開してみると、貫通した先で激しく炎が燃え上がり始めた。



「きっしょ、なんだコレ」



帝国の新兵器、銀の銃。

ジェネラルの装甲に食い込むだけでなく、大炎上することで鎧を着用した人間を蒸し焼きにして殺す。



新たなアプローチを受けた兵器を前に阿部はぽっかりと口を開ける事しかできなかった。



次回Chapter148は7月30日10時からの公開となります。


登場兵器


・トレビュシェット

古代の投石器。フラッシュゲームで見た方もいるのではないだろうか。要はアレである。

錘の位置エネルギーで石や火、病死した家畜などを放り投げる。大きくつくればそれだけ強いので移動が出来ない。


・クレインクイン

移動式のカタパルト。組み立て式で、2mの槍を放つことができる。射程は推定1km程度。

戦艦の主砲にも採用されるほど強力で装甲貫徹能力を有する。


・銀の銃

帝国の導入した新兵器。見た目はファンタジックなマスケット銃にしか見えない。

装甲貫徹能力は今までの武器よりも優れているが、製造・維持・発射薬にいたるまでのコストが異常に高く、カネにモノを言わせてもそうそう数は揃えられない。

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