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Chapter 14.TIME LIMIT OF HARRISON

タイトル【ハリソンのタイムリミット】

戦車中隊の熾烈な砲撃と機関銃は帝国陸軍小隊の砦をあっという間に蝕んでいった。


砦は2つも制圧され、自らの喉元にまで反乱軍が迫っていることを知ったマリオネスは、手駒の砦に残存する兵士を囮に部下を連れてハリソンの街の騎士団と合流。


反乱軍の戦力を疲弊させ町の外にいるジャルニエ将軍の膨大な兵力でその命を狩ろうとしていたのである。



当然そのような事態が発生すればハリソンの街に立てこもられてしまえば町ごと破壊しなければならない。戦闘を長引かせないためにもマリオネス一行を早急に捕縛しなければならない状況になっていた。



戦闘を指揮する冴島は疑念を抱いていた。反撃の様相がどこか妙である、陽動ではあるまいか、と。経験からくる直感は見事的中してしまうこととなる。


念の為攻撃ヘリからなるヘリボン部隊の出番がついに来てしまうこととなるとは、と少佐は目を細めた。


無敵に見えるSoyuzとて小隊が持てる弾薬も無限ではない。疲弊は隠せないものとなった今、マリオネスを確保しなければならない。隊の命運を握る重責の中、冴島は無線機を取った。



【LONGPATよりOSKER-02 OSKER-01と合流し目標の移動阻止攻撃、及びヘリボン部隊の誘導を行え】


【OSKER-02了解。OSKER-01と合流する】


少佐の指示は止むことはない。


【LONGPATよりMOSKVA-LEADER】


【MOSKVAチームは直ちに発進し、OSKER-01と合流、目標を確保せよ。】


【MOSKVA-LEADER了解。】


ハリソンの街が地獄になるか否かの命運はまさに彼らに託された。


相手の速度に負ければ奴らは便衣兵を使うことになり、街中の人間をひとり残らず消す羽目になってしまう。まさに時間との戦いが今まさに幕を切ったのである。





————





連絡を受けたSoyuz拠点では格納庫から4機のベージュで塗られたガンシップが姿を表した。

戦車すら血祭りに上げる対戦車ミサイルと、あらゆる動物を血煙に変える機関砲を搭載。


飛竜を超越する防御力を持った飛翔する戦車、Mi-24Vである。



制圧用に兵員を満載した3機と回収用に空荷の一機で構成された死神は、ずらりと隊列を組みながらテールローターとメインローターを回転させ恐怖の羽音を撒き散らして滑走路に向けて進むと、ふわりと浮きながら森へと急いだ。



 重武装と一口でくくってもガンシップの速力は歩く人間や馬、戦車やジープを凌ぐ。

あの広大な草原の端が見えるほど高度を上げると、砲撃の嵐にさらされている森など目と鼻の先に等しい。



「クソみたいな仕事がなきゃ俺もこんな田舎の空でもっと軽いヘリで飛びたいもんだ畜生」



MOSKVAチームの隊長機を操るパイロットは特有の丸いキャノピーから草原を見てそう言った。飛竜と似ても似つかぬ凶悪な顔をしたガンシップたちは拠点から見る見る小さくなっていく。


その背中にはハリソンの命運がかかっていることも知らずに。



 反乱軍と帝国陸軍との戦いは陸軍側の敗戦濃厚になっていった。破壊力と正確さが魔法のそれとまともに勝負にならず、砦こそ火災は殆ど発生することはなかったものの壁越しにいる兵士は傷つき、倒れていった。



マリオネスが逃亡したことを知らずに戦う兵士を尻目に自身は予め用意しておいた馬に乗り、ハリソンへと急いでいた。


城塞化された広大な街でさらに戦力を削げば兵の大群により反乱軍を殲滅できる。


彼女自身も兎も角街へとついてしまえば勝負はつくと確信していた今、熾烈な時間との戦いが繰り広げられていた。



しかし耳障りな轟音が鳴り響くのが気がかりだったが、反乱軍の鎮圧にここまで手間取るとなったのは想定していなかった。


爆音と炎が段々と遠ざかっていく。あの中で兵士は戦っているのだろうがどのみち囮に過ぎない。



「兵を残して構わないのでしょうか」



分隊長のレヴェーン曹長はマリオネスにそう言った。

いくら作戦とは言え部下を残して自分だけ命拾いすることに心掛りにしていたのである。


軍隊は酷な判断をしなければならないが、これは軍隊としての品が問われるのではないかと彼は考えていた。


「曹長、巨大な戦力に勝利するための犠牲だ。連中は帝国兵としての職務を全うしている。

たとえ勝利したとして、掴み取る人間がいなくてどうする。我々は生き延び、ハリソンに向かわねばならない。それが散っていった兵士の弔いなのだ。」



大尉の言葉にレヴェーンは口を閉ざし、奥歯を強く噛み締めた。前線に出て戦死でもしれいればこのような苦しみを味わうことなどなかったのだろう。


しかし軍隊というものは上官の意思が絶対である以上どうすることもできなかった。マリオネスは苦心に満ちた顔を目の当たりにしながら高らかに声を上げる。



「ハリソンの街に到着次第、騎士団と合流し分隊を指揮していた者は騎士団を指揮し反乱軍を討伐せよ」



レヴェーンは顔を覆ったままだった。理解しがたい力で襲いくる反乱軍、そして散っていった部下、それを何とも思わず犠牲を増やす選択をした大尉の意向。


極限状態において彼の頭は様々な考えがぶちまけられており収拾がつかなかったのである。






—————





その一方、上空からこの惨状を監視し続ける存在が居た。OV-10Aである。


作戦以前から得られた情報付近を飛行し続けていたが、少佐の指示によって反攻作戦時にも出撃するよう指示されていた。


いかなる規模であろうとも未知の敵であることは変わりなく、規定現実の常識では考えられない挙動をすると少佐は考えて滑走路から飛び立っていく。


 人馬よりも早く、そして空からという地形の影響をまるで受けない地点から対象を見つけ出すことには大きな苦労はなかった。


発見してからこそが真の戦いが始まる。



【こちらLONGPATからOSKER-01,02、目標をなんとしてでも食い止めろ】



一本の無線が飛び込んできた。

ハリソンなる街に到達されてしまえば作戦が少佐の手のひらからこぼれ落ちて制御が難しくなる。

そうなれば失態どころの話ではなく戦況に響きかねない。


いくらスクランブルが掛かったとは言え、後発にやってくるガンシップたちは自分よりも遅く来ることとなる。



「アレが街なら目と鼻の先だ。逃げ足だけは早い連中め」



OSCAR-01機長が奥歯を噛み締めながら苦言を漏らす。

中世のような市街地と距離と近づいており、すでに少佐の手から零れ落ちそうな距離にあった。



機首を下げ、正面キャノピーいっぱいに地面を写しながら高度を急激に下げてゆく。


高度計がぐんぐん数を減らしていく。

戦闘機の機関砲と違ってこの機体に積まれている機関銃の射程は多く劣る。


その上牽制目的なため無益な殺傷は許されない。機長は一度息を吸った後、呼吸を止めて慎重に狙いを定めるとトリガーを引いた。



――BLATATATA!!――



馬で進む目標(ターゲット)の近くに土煙が上がる。なんとか直撃は避けられたと機長は一度安堵したがその煙幕の中を敵は進んでいたのである。




「こいつ正気か」



高度計が400フィート(120メートル)を切る。地上接近警告音が響く中、操縦桿を引いて、ぐんぐんと高さを上げてゆく。


キャノピーから地面の比率が少なくなっていく中、キャノピーに何かを掠めたことを察知した。地面を見ると目標の一部と思われる兵士がこちらに向けて巨大な弓をむけているのである。



 機長は大いに焦る。

生身の歩兵が機関銃の掃射を間近で受けながらそのまま進もうというのだ。あまつさえこちらに抵抗する意思を持つと言うのだ。


すでに敵も絶対絶命の境地にいる、狂気に飲まれてでもあの市街地に辿り着こうとしているのである。


【こちらOSCAR01からOSCAR02、機銃じゃ奴ら止まらない、ロケットを使う】



機長は慌てて要請を飛ばす。チンケな機銃ごときでは到底足止めできそうにない。

2機のOV-10による波状攻撃にすべてを掛けていた。



【OSCAR02了解。MOSKVAチームは近くに来ている、ゲームセットは近いぞ】


無線越しにOSCAR02の機長はそう返す。



無線をよこした機長は明らかに焦りを隠せていない。あの機長同様、ロケット砲の雨を浴びせて駄目なら目標をミンチにしてやろうという覚悟で居た。



2機のOV-10は再び高度を大きく下げ、ロケット・ポッドから無数の火が拭き上げた。あらゆる硬い城壁は崩せずとも、あたりに爆発と死をもたらすロケット砲が正に降り注ごうとしていたのである。



矢や投石をはるかに凌ぐとんでもない数の砲弾ははあたりの草原に一筋のきらめきを残すと、一面の土煙に包まれていく。


帝国小隊は恐ろしい火力に晒された。しかし進み続けるしかできない。


あの絶望的までに戦力が違う存在を打ち倒すために必要な戦力は底をついている。



すべてはハリソン郊外にいる将軍配下の大隊に委ねられているだろう。

あの忌々しき鉄の嵐に怯んでいる暇もない。全員が落馬している中であってもそれは変わらなかった。






————





そんなある時、次の絶望がやってきた。




―――VALALALA――




正に何とも形容できぬ空気をみじん切りにしたような音が一気に接近して来たのである。思わず誰もかもが空を見上げる。



そこには竜騎士の影はない。



その代わり太った翼と顔の無い龍が爆音と猛烈な風をもたらしながら迫っているではないか。


付近にいた飛竜の咆哮にも逃げ出さないよう訓練された軍馬さえも錯乱し、たちまち遠くに逃げてしまった。



正体など検討もつかないが、砦を揺らす一撃他ならないことは確かだった。


それが引き金となって軍馬は背中に乗せている主を振り落とし逃げ出してしまう始末。




冷徹に振る舞うマリオネスとその取り巻きは戦慄した。


今まで遭遇したことのない存在が空を飛んでやってくる、囮を使って時間を稼いだとしてもその遅れを巻き返すほど早くやってくるというのだ。



それだけではない、異形の集団は攻撃をあえて外したのだ。いつでも抹殺できることを意味するように。


いつでも自分たちを皆殺しに出来る状態にいる以上、この場は耐え難い絶望に支配されていたのだ。

身体も頭もまるで動かない。



だが反乱軍のものと思われる怪物はもう目前まで迫っている。

マリオネスはガンシップを見て更に思い知らされた。


兵士の数を積んだとしても抵抗することもままならない存在であることを。絶対的な死を与える存在を相手に戦っていたということを。


「各個攻撃せよ」


大尉は迫りくる死神の羽音にかき消されぬよう声を張り上げた。


勝ち目の無い戦いとは嫌でも実感していたが、それを突き動かすのはちっぽけな軍人であるという意地だけ。

振り落とされたレヴェ―ンや魔道士たちは鶴の一声で闘志を奮い立たせ、迫りくる悪魔へその矛先を向けていたときであった。


「畜生――」


怪物は目前という高さと距離で浮いてみせたのである。まるでこちらをあざ笑うかのように。






————





龍の羽ばたきを何十倍にも強くしたかのような下からの風が一斉に襲いかかる。

曹長はガントレットを光らせてガローバンを怪物に構え、視線を向けた。




すると窓と思わしき部分から人が見えたのである。この魔物のような存在を人が乗り、操っているのである。あまりのことにレヴェ―ンは身体が石のように固まり言うことをまるで聞かなくなった。



その一方、マリオネスや魔道士は手を振り上げ雷魔法(アドメント)が撃ち上がると空中に浮いている怪物めがけて雷が落ちた。


飛竜ならばこの一撃をもらえば確実に落せると思っていたその時。ヤツは浮きながら顔のない不気味な頭をぐるりと向けたのである。


隊の一同は凍りついた。殺されると悟ったのである。まるでアーマーナイトを相手にしたような絶望が津波のように戦意を破壊しながら押し流していく。



「反乱軍ごときに敗けぬ」



そんな中真っ先に動いたのは他ならぬ大尉だった。右手を強く握り込みガントレットを光らせると巨弓の弦に手をかけて鏃を怪物に差し向けたその時。


あたりは炸裂と共に煙に包まれた。ヘリから発煙弾が地上に撃ち込まれたのである。


周囲は煙によって視界を奪われた。

このまま兵員を出せば狙い撃ちにされるため発煙弾が効いている間が勝負となる。


ヘリのダウンウォッシュ(下降気流)により煙が拡散する時間はより短いため僅かな遅れも許されない。


自分も相手も原理は違うとは言え飛び道具を持っている以上油断できぬ相手であることは間違いなかった。


煙が充満していく間ハインドの側面ドアが開けられると、隊員たちは水が流れるように素早く降下しはじめた。

降り立った黒ずくめの兵士は折りたたまれたAK74のストックを展開し対象の制圧が始まった。

 

三機のヘリから二十数人という兵員の降下が始まると下士官はたちまち制圧されていった。


見たこともない怪物から出てきた全身を黒で統一された人とも思えぬ集団を目前にして、抵抗する気力さえも尽きていたからである。


「重参がいないぞ!」


ある隊員が声を上げた。偵察機からの情報は正しいはずであるし、逃げたとしてもそう遠くは行けないはずである。


マリオネスの姿だけがどこか見当たらなかった。ガンテルによってもたらされた鮮明な写真を焼き付けていた兵士たちが別人を勘違いするはずもなかった。


「ぬわーっ!」


その時、ヘリボン部隊の隊長めがけて稲妻が走ったではないか。


随伴する魔道士と思われる人間は無力化していた。ショックを受けた兵士はばたりと倒れるが、隊員たちはライフルを煙先に構えた。


文字通りの雷撃の正体は大尉で。マリオネスは魔道士上がりのスナイパーであるためである。


「やられたのか」


「クソ、全身焼かれた気分だ。やっちまえ!」


隊長の一声と共に部隊は全力で重要参考人を無力化すべくフォーメーションを素早く組んだ。


 陸軍小隊の人間が刻一刻と減っていく。魔道士のメゾンティアも奴らの手に掛かった以上、自分だけが取り残されていた。



なんとかアドメントをお見舞いしたのは良かったが魔力が明らかに減っており、通常通りとはいかないだろう。


逃亡する際や空飛ぶ魔獣に打ち込んだのもあるが、精神的動揺が何よりの原因である。マリオネスはそう考えていた。



運良く見つからなかったのは良かったが、こうなれば捕まるのも時間の問題だと感じていたが、意地がそれをかき消す。


この距離では大弓の威力を発揮する前に懐に入られてしまうだろう。


そう判断した大尉はガローバンを投げ捨て、己の手のひらを外へと向けた。頼れるのは自分の魔法だけである。


 凄まじい風が常に吹き付けているからか視界を奪っていた煙はすっかり晴れ立っていた。



「目標を発見!」


黒尽くめの兵士がマリオネスを見つけたのか大声で叫んだ。ここからが勝負である。

マリオネスはその男が近づいてくるのを待ち、手のひらを向ける腕を片腕で抑えありったけの声で叫んだ。


ゴルドレン(炎幕魔法)


その一言が出た瞬間、放出された魔力が一気に炎の帯へと変化した!


全力で声を張り上げて動揺をかき消した所で足止めになるかどうか懐疑的だろう。


しかし足止めさえできれば良かった。怯んだことを確認したマリオネスは草原を全力で走る。


軍に恨みがある反乱軍に捕まれば何をされるか分かったものではない。生き延びなければならなかった。



「逃げたぞ!」


ゴルドレンは大した足止めにもならないようで敵はこちらを決死の覚悟で追ってきている。

一度振り切ってしまえばハリソンの街にたどり着いて体制を持ち直すことができるかもしれない。


その一心で走った。この集団から逃げ延びればいい、それだけしか頭になかった。



追っ手を怯ませ距離を開けようとしていた時である。

足元に何かが転がったかと思った次の瞬間、炸裂音と共に音と目が使い物にならなくなったのだ。


耳元が割れるように痛い上にひどい頭痛のせいでまともに動けそうになかった。



 感じるものと言えば無数の兵士と思われる気配だけであった。


一度マリオネスに手を焼いたSoyuzであったが、それも終焉に近づいていた。


火中でも飛び込むように訓練された精鋭の集まるヘリボン部隊に、この程度の小細工では当然逃れることはできない。


念の為に持ち合わせていたフラッシュバンによって動きの鈍った人間に接近することは容易かった。



それでもなおマリオネスは最後の抵抗としてあらぬ方向に雷を落としたが、大人三人がかりで暴れる軍人を抑え込むと、士官らは無力化された。


あっけない形でSoyuz側の勝利となったのである。

次回は5月30日10時から公開予定です。


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