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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-6. ポポルタ線の戦い
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Chapter145. Wounded Weapons

タイトル:【傷ついた兵器たち】

———ウイゴン暦7月31日 既定現実8月7日



ポポルタ線に勝利し占領することに成功したSoyuzは帝国軍側の武装解除並びに、それに応じない残党狩りを行っていた。



武装解除した司令部からはおびただしい数の兵器類が出てくるのはいつもの事。


矢や弓、魔導書のみならず大槍を飛ばす固定バリスタ「クレインクライン」2基と、予備部品並びに30発分の弾頭。


更にはソルジャーキラー50本、銀の銃4丁。


3連装 対装甲槍射出器ニースや単装版のダール、その他雑多な武器や鎧などは数え切れない。



どうやら正面城門ではこれ以上の武器が眠っているそうだが、圧倒的な火力を前に殆どが破壊されたか、逃亡兵が持ち逃げしてしまったとのこと。


その中でもダルシムは一冊の魔導書を手に取った。



「こいつはなんだ、今まで見たことがないぞ」



軍用魔導書らしく強固な造りとなっているが、表紙が辞書のように茶色ではなく赤色となっている。ざっと中身を見てみると、理解できない帝国文字とは異なる文字が羅列されていた。



言語解析ソフト「ダザイ」に通してもエラーを吐くばかりで謎が深まるばかり。



近くにいた魔導衛生兵を捕まえ、大尉はこの本について問う。



「こいつは一体なんだ」



「これはソーサラー向けの魔導書になります。貴重な書物ですのでどうかご勘弁の程を」



一部報告によればソーサラーとは上級魔導士を指すらしい。


ダルシムはファンタジー小説に疎いのか最初は頭に疑問符が浮かんでいたが、昔受けた昇格学科試験のテキストだと思えば腑に落ちた。



「了解しました一旦、Soyuzが押収しますが、要請があればいつでも返還できるよう手数を進めておきます」



参考研究用に魔導書数十点、銀の銃とその弾薬2丁が押収される傍らで、消耗した車両類は前線基地に帰投し補給を受けていた。



戦車砲を乱射したSU-152やT-72らは特にそうで、ミサイルサラダである先軍915もその仲間に混じっている。


乗員らが戦車砲弾をハッチから入れる傍ら、車長ボゥールはソ・USEで何者かと連絡を取っていた。



【送ってきた画像だが…ERA使ってやがる。HEATは飛んできてないんだろう?】



その相手は整備班の重鎮、榊原だった。


久々の大規模戦闘、それも魔導を大量に食らった後とあって連絡を寄越したのである。



【ええ、サカキさん。大体火柱が飛んできたんで熱でぶっ飛んだと思います。一部車両では機銃がやられたので応急修理中です】



高熱に晒されたため、一部の車両は対空機銃が破壊されている旨を伝えた。



【そうか。大方支障はないか。ただ熱は良くねぇな、お前らシウマイにならねぇように気を付けろ。】


天板上についた機銃はあくまでもおまけ程度の代物。

破壊されたからと言ってどうという事はない。砲塔に固定された同軸機銃があるからだ。



そうなると熱がネックになる。

戦車乗員の死因は砲弾が炸裂が多いが、次に控えているのが火災による焼死。


こう言った事情のため、エイブラムスなどの新しい戦車などには自動消火装置が備え付けられていることが多い。



【了解】



ボゥールはそのことを頭に入れながら無線を切る。

分かり切っていたことだが改めて気を引き締めることも大事だ。









———————————







後方にいる司令官 冴島大佐側も動き出していた。

ここまでくればゾルターン陥落は近い。そのこともあるが、彼はある思惑を描いたのも事実。


それ即ち、第二本部の建設予定地である。



【こちらLONGPAT、作戦成功しました】



一旦許可を取るため大佐は中将に連絡を取った。



【BIG BROTHER 承知している。今更どうした】



【はっ、第二本部拠点の用地取得についてですが。ポポルタ城塞跡の調査を行い、一部を使用する、というのはいかがなものでしょうか】



当たり前のことだがゼロから何かを作り始めるよりも、利用できるものを使って建造した方が得になるのは言うまでもない。



異常な耐久性を持つ城門をそのまま使えるだけでなく、そもそも城塞が建てられるということは土地が頑丈だという証明になる。


軟弱な地盤という特大級の貧乏くじを引き当てることも無くなり、工事も円滑化できるだろう。



【了解、建設機械師団を手配しておこう】



中将はそう言いつつ、考えに入った。


冴島大佐の言い分はよくわかる。

だが本部拠点を建造するにあたり、ポポルタ線は都合が悪い点があることを無視してはいけない。



城塞内部は窪地になっており、内部に滑走路を造成できないのだ。

ゾルターンは呆れかえるほど広い草原なため併設するという事もできなくもないが。



そうした時、建物の構造や滑走路の方向と言うように、様々な要件が出てくるだろう。

この点アイオテの草原はあまりにも都合が良すぎる土地だったことを実感する。



「建設機械師団と相談せねばなるまい…」



権能は無線を切ると、師団長に連絡を取った。












———————————







———同刻



ここで帝国側から今までの戦いを振り返ろう。

ゾルターンもといこれまでの県では主戦場が陸となる。そこに必ず現れるのは戦車と言う存在だった。



サルバトーレ少佐が遺した記録によれば、長射程及び絶対的な防御力を有しているという。



始めは魔獣の類だと疑われていたが、多方面の記録を整理すると「()()()()()()()」であることが判明した。



戦車を含めた装甲車両。帝国側の評価とすればこうなる。



馬が牽引するシューターのような射程に、ジェネラルのような防御力を備えるだけでなく

足並みは決して鈍重とは限らない。


魔術を扱う側にしても幻を見せられているかのように存在する矛盾しながら無敵でいる謎の存在。



だがこれはあくまで短期間で得られた知見に過ぎない。

今回のポポルタ攻城戦では長期間戦闘とあって、今までとは異なる発見がされていたのである。


ヴィッツオはこれら兵士の申告を一つ一つ精査、レポートにまとめた上で深淵の槍に手渡していた。



昔、彼は騎士将軍という立場で存在を知り、ロンドンと噂のラムジャーが始末されることを遠回しに狙っていたのである。


ゲイルが怪しいと睨んでいたが今は戦時下。


内輪もめをしている場合ではないと考え、ゾルターン防衛に集中せざるを得ない状況になってしまったが。



この陰湿な悪巧みがここに来て役に立つとは思ってもみななかった。


ハリソンがSoyuzに占拠されたことを聞きつける程の情報ネットワークを使い、この報告書を届けようと画策したのである。



わざわざ組織を経由する理由は単純で、強固なネットワークにただ乗りする以外に何があるのか。


部下が命を張って調べてきた見分が中抜きされ、本国全土に通達されないことを恐れたからである。




「これがその記録を私が精査したものになります」



ヴィッツオは窓口となる深淵の槍隊員 タターリアスに簡易的ながらも分厚い書物を手渡した。



タイトルもまた簡素なもので【異端軍兵器 仮称名称:装甲雨車について】とだけ。


題名と裏腹にズシリとした確かな感触がする辺り、最早論文と言って差し支えない。



窓口自身は軍事基地、それも騎士将軍の部屋にいるべきではない農民にしか見えないが立派な偽装工作の賜物だ。


昨今のCIAやかつてのKGB職員も馬鹿正直に機関の人間だという恰好をすることはない。

それは次元を超えても変わらないようである。



「確認しました。」



受領したタターリアスが帝都に伝えるべく将軍室を去ろうとすると、二人の間に突如背広の男が瞬間移動してきた。



「ほほほ。お待ちなされ。例の異端軍(Soyuz)兵器見聞録を拝見したくお邪魔させていただいた。」



その様、まるでネイチャーの信ぴょう性が疑われる論文にケチをつける大学教授の如く。

まぎれもなくソイツはファゴットだった。しかしこの胡散臭い男、偉く地獄耳であろうか。



深淵の槍でもこの賢人会議に食い込んでいる中でも、群を抜いて有名だ。


素性が一切知れず過去らしいモノと言えば、フェロモラス島に出現し落ちぶれた兵器開発者フィリスに弟子入りした程度。



国家反逆罪に値するスパイとしてはうってつけ。



それ以外の事前情報は深淵の槍が血眼になって探しても出て来なかった、本当に不条理な存在である。


彼らの母体に資金を出すように仕向けたスポンサーでありながら、仮にも最高機密の中枢にいる人間であるため、うかつにスパイの疑惑をつけて始末すると祖国が黙っていない。



そんな極めて厄介極まりない立ち位置に立つ異端のスーパースター、それが今のハイゼンベルグだ。



彼はいつの間にかタターリアスの手にあった文書を自身の頭脳にダウンロードするかのように読み込ませていく。



パラパラ漫画を読むかのようにページを流すが、これでも立派に読んでいた。異常以外の何物でもない桁が外れた速読家である。


ファゴットは単純に膨大な魔力と才能。

そして世渡りの上手さだけなくスーパーコンピューターにも匹敵する頭脳をもって、出征回廊を一気に駆け上がってきた。



———PUFF……



本を閉じ、そっと目をつぶると情報を整理し始める。

しかし時間は最低限。宛らゲーム機の読み込み時間のようである。




「読ませていただいたぞ、騎士将軍ヴィッツオ殿。正気を失っていた兵のうわ言からここまで推測するとは上出来よのう。

構造物の知見があるようで、ジェネラルのように全て分厚い鉄板を付けると動けなくなる事から速力を得るために装甲を薄くしているのではないか、という考察は流石と言わざるを得ない。」



質疑応答の時間はすぐさま訪れた。



ファゴットが指摘するこの項目は中頃に書いた記憶がある、まるで見ていないようで一言一句目を通しているのは確か。



その事は著者であるヴィッツオが一番分かっていた。




「極端に減らすのではなく、各部を少しずつ減らし軽量化できるところは一気に。攻撃を受けにくい上面あるいは背面。底部というのも的を得ている。故に長射程の矛先を変えるか動きを止めた上で、ニースなどで弱点を撃ち抜けば勝算がある、というのもまた、間違ってはいない」



「銀の銃で撃ち抜いて大火災を起こした、というように。確かに帝国にとって価値あるものになるじゃろう。」




今まで届いた文章「サルバトーレ・レポート」とは比較にならない程の分析内容。

帝国にとって非常に有意義な対策マニュアルとなるだろう。




「だがこれはあくまでも論評。あえて言わせてもらう。なにも戦って勝つことではなく、戦う必要などないと。騎士将軍という椅子に座る人間ならこの意味が分かるはずであろう?」




けれど、手放しでほめ殺すつもりなど無かった。学者魂がそうさせるのだろう。

それに加えファゴットもといハイゼンベルグは故郷の兵器に対し、あまり言及しなかった。



戦車の弱点は上面であり、対戦車ミサイルを放てば旧式の物なら即座に鉄くずに出来る。


そんなことを言ってもスパイとして疑われるかもしれないし、第一彼の理念に合致しないのが大きい。



既に進化が停滞した面白みのない鉄くずよりも、自分が手掛けている芸術の方がよっぽど大事。


それにSoyuzが持つ既存兵器と我が生涯をなげうった理論。どちらが上か見てみたい、というのがあった。


弱点を突いてビックリ箱のように蹴散らしては面白くないではないか。


最も分厚い装甲板を貫く、否。跡形もなく消し飛ばせる核に次ぐ究極兵器の開発に忙しい。

いたずらに野暮用を増やしても意味がない。



ファゴットになった途端、邪悪なオーラが背後に立ち込める。




「騎士将軍ヴィッツオよ、いずれにせよこれは有意義な知見になるだろう。貴公の頭脳を持って解釈した【戦わずして雨車を排除する方法】を楽しみにしているぞ。知っておろうが奴らの進軍速度は今までのソレを凌駕している。それほど時間は残されてはいまい。——さらばだ」




最後の忠告を終えると、暗黒司祭の姿は消えていた。


完璧に瞬間移動を使いこなしている辺り、魔導の素質の高さと技量はヴィッツオですら小学生と大学教授の差があるのは明白。


止められぬSoyuzの進軍と、戦わずして装甲車両を足止めする方法。


無茶ぶりも過ぎるが、騎士将軍の中で答えは固まっているらしい。



「私にいい考えがある」



どうにも不穏な一言の裏には確実なプランが浮かんでいた……


次回Chapter146は7月16日10時からの公開となります

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