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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-6. ポポルタ線の戦い
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Chapter144.Phase Five: Demise

タイトル【フェーズ5:終焉】

ゾルターンの要と言われたポポルタ線での戦い。帝国側は敗戦濃厚の試合運びとなり

悪あがきと言わんばかりにゲイルが出てきたのである。


後にも先にも引けない最後の戦いが今、始まった。


だがロンドンの使い走り将軍に対し暗雲が立ち込めているのも事実。



【J-BOX13、敵を察知】



1両のT-72から無線が入る。

先ほどの騎兵を全て狩り尽くしたというのに敵を察知したというのだ。道理がおかしい。



【YOGA-01 増援か】



【単独です】



敵の増援かと思いきや、こちらに向かってくるのはたった1単位の兵士だというのだ。

直ちに対処すべく同軸機銃が弾ける。



———BLTATATA!!!!———



ただの大槍を持ったザコだろう、戦車の車長はそう思っていた。


だが何発当てても騎兵はまるでダメージを受けていない。馬やその上の騎手に何発も当てているはず。

通常落馬するような一撃を食らっても大方砂粒でも被ったかのように払いのけている。


何かがおかしい。


違和感を抱いていた13号車らは即座に応戦に入る。



「2時方向、主砲撃て!」



このままでは主砲の間合いに入られる。そう判断した車長は砲撃するよう指示した。

幸いにも自動装填の戦車砲だったこともあって、砲撃を行うまでに時間はかからない。



——ZDAAASHHH!!!!!———



だがこの敵は一味も二味も違う。馬を立たせて速度を殺しつつ、持っていた速度で一気に方向を切り替える。


ドリフトだ。


正常な人馬の反射神経では無し得ない(ワザ)、何か脳に直接作用して覚醒を促す薬を投与しているに違いない。


それほどに動きが機敏なのだ。

戦車の砲旋回では追いつくことができるが、これではすぐ肉薄攻撃を受けてしまうだろう。



目の前のトーチカに着弾すると、敵は爆炎の中から不死鳥の様に現れた。

正面から貫通できないことは既に知られているだろう。


だが他場所、特に上部に装甲を貫く大槍が飛んで来たら。


随伴歩兵が居ない戦車にとって無視できない脅威になるだろう。



そして今、ゲイルの矛先はJ-BOX13に向いている!



【J-BOX13、援護を!】



今すぐ救援を求めていることなど言わなくても分かる。


ではヤツの小回りに対抗できる兵器とは何なのか。



【Beongae02、援護する】



既に100mを切ろうかという距離、先軍915から対戦車ミサイルが射出された!


数々の炎を食らっておきながら車体で受けていたため、イグラーなどの誘導兵器は生きていたのである。



———DAN、BLASHHH!!!!!———



ロケットモーターにより加速した馬や航空機を追い抜き、射手側には派手な火球を見せる。

不安定な挙動を取っていた弾頭は反射的に察知し、回避しようとするゲイルに直撃し砂混じりの爆炎を上げた。



煙が晴れると破片だらけになった馬が命からがら、尻尾を撒いて逃げていく。

しかしゲイルの姿が見当たらない!



【こちらJ-BOX13、直撃したはずではないのか】




迎撃準備を整えていたT-72から困惑の言葉が漏れ出す。


確かに対戦車ミサイルが当たったにも関わらず、馬だけが生き残りその上の騎士が見当たらない。


そんな事がまかり通ってたまるものか。



先軍915が赤外線暗視装置で辺りを探すも先ほどの馬が見えるだけで、それらしいものはまるで無い。

信頼できるセンサーがこの有様、正に忽然と()()()としか言いようがなかった。



【YOGA-01から各車、敵司令部を破壊せよ】



目的から逸脱しないようダルシムから灸が据えられる。


ゲイルの出てきた7番通用口に戦車らが押し寄せ、降伏勧告を行おうとした瞬間。


伝令と思しき兵が既に立っていた。


魔導士らしいが着用しているローブの姿はなく、あくまでもインナーにしている鎧姿のまま旗を振り、こう叫び続けていた。



「現時点をもって降伏する!繰り返す、現時点をもって降伏する!」



ゲイルに細工を施したあの魔導衛生兵も、これは一種の賭けだと踏んでいた。


こうした考えはなぜ生まれたのか。

過去のガビジャバンとの闘いで一部の部隊の降伏が通用しないことがあったからである。

そう考えれば納得がいく。


帝国の思し召しでは異端軍もといSoyuzはこちら側とは相容れない違憲集団。降伏さえも通じるか分かったものではない。



勧告を聞き入れたダルシムはコンプライアンス通り了承したが、念のためにSU-152の照準を常に向ける様命令した。


投降すると見せかけて自爆などされる可能性が無いとは言い切れない。


大尉は車長用ハッチから身を乗り出すとメガホン片手に応じた。



「確かに投降を承諾した、直ちに武装を解除せよ!」



「——なんと——」



浅黒い肌をした彼の姿に帝国兵は驚いた。

確かに炭炊きのような人間がいるとは聞かされていたが、百聞は一見に如かず。


同じ人間なのかと言いたげだが、あまりの事に言葉が詰まっていた。












—————————————








——ゾルターン県 シャービル陸軍基地



ポポルタ線から北東24km行った場所にある騎士将軍ヴィッツオ配下のシャービル基地では彼の部下が二人そろって帰還していた。


あろうことか歩むことなく瞬間移動で。



「しかし見様見真似でここまでできるものよ。やはり上級魔導士は違うか。」



そこに居たのはハイゼンベルグとしてのファゴットだった。

この男がゲイル回収兵に転移魔法を教えたに他ならない。



背広を着こなし、緑色のローブを身に纏う時のような邪悪な気配がまるでなく、憑き物が落ちたかのような出で立ちと化していた。



「いえ。ファゴット様の手解きがなければ再現が難しく…。帰投できたのも奇跡としか」



彼らが持ち帰ってきたのは死体と化したゲイルだった。爆風で即死したにも関わらず、血が一滴たりとも滴っていない辺り、魔導の末恐ろしさを物語っている。



一つの亡骸を前に嫌悪することもなく一人のソーサラーがあることを聞いた。



「——前々からお聞きしたかったのですけど。その恰好は…?」



「これは私人や客人としての恰好、だと思ってもらえれば良い。あのローブは公用…動きやすいがしっくりこない…それにこの恰好、物珍しく目立つ。客人が誰なのか、配慮せねばならんだろう?それよりも急に押しかけてしまった申し訳ない。」



このファンタジー世界において真っ黒なスーツは非常に目立つ。

まして鎧や魔導士の中で絶対に埋もれない恰好をすることで見間違われないようにしているのだ。



「えぇ。魔力炉の第一人者の願い、断る訳には。では抽出作業を始めます」



ファゴットの目の前で哀れゲイルの亡骸は怪しげな器具を嵌められ、作業台の上に乗せられた。

一体、何が始まるのか。









———————————











「ほう、この品のない死体から魂を抽出するのか。機構に組み込んだことはあれど生で見るのは迫力がある。しかしその辺の雑兵ではダメなのか。」



何故死体にも関わらずソーサラー二人が嫌悪しなかったのか。忌むべき存在なのもあるが、あくまで材料としか見ていなかったからに尽きる。


このシャービル基地に持ち込まれた以上、野菜室に入ったニンジンと同じなのだから。



「ヴィッツオ様によれば名指しでゲイルをご要望だそうです。地竜は怒らせると危険ですが、温厚な生物なので。それに生き返り、他の体になっても耐えうる精神力が必要になってきます。」



淡々と魂吸引器の用意を進めていく傍ら、気品のある一人の魔導士がそう答えた。



「最高の器と、都合の良い中身か。よく考えたものよの」



ファゴットは目の前で繰り広げられる合理的かつ、残虐な答えに深く感心する。



「全くです。今から魔力を増幅させ、身体から魂を抜きます。」



「ほほほ、人間をなぜ人間に至らしめるのか…実に興味深い。」



生命とは何か。

理論物理学者として、いやそれ以前に現代人として。

絶対に解けない問題の答えが、今解き明かされようとしていた。










——————————









————BPhoooooo……!——



装置を始動すると、魔力的な光を放ちながら揺れ始めた。

はたから見れば黒魔術にしか見えないが、ファゴットの目は理科実験を見つめる子供の様に目が煌めく。



魂の重さが実証されいるにも関わらず、人魂というものはつまらない西洋医学を前に否定されてきた。

存在しないと思い込まされていた物体がついにこの目で見ることが出来るのだ。


科学者の抱える夢の一つが正に叶う瞬間なのは言うまでもない。




1時間程度動かした後に機器を止め、次の段階に入る。何やら奇怪な形をした鉄瓶を取り、何の変哲もない手製の魔具にはめ込んだ。



「それでは魂の精錬に入ります。このままだと心が残らない程混じりけが多いので。

——ここから先は禁術なのでご内密に」



帝国では機動立像の自律・姿勢制御など、通常ではコンピュータで行うような機構を魂に行わせることが多々ある。



隣国ガビジャバンでは兵士の再利用計画として、死者の魂を鎧に宿らせ無人兵器を作り出そうとしていた歴史があるほどだ。


だが魂を洗練し、死人を再生することは軍人至上主義を掲げるファルケンシュタインでは禁忌とされてきた。

勇ましく散った人間を侮辱することに繋がるからである。



ただ政権が変わり、技術利用を惜しまなくなってもなお倫理に反するとして避けられてきている。



「ほう…!今まで使ってきたのは雑多なものだからか。意思が生えて居たら使い物にならん。」



魂を使った自律制御システムを搭載したイデシューが二足歩行をあまり行わなかったことにも納得がいく。恐らく質の悪いモノを使用したからだろう。









———————————








精錬作業には時間が掛かるらしく、完全な抽出には3時間を要した。



「はぁ、人間の核というのはここまで小さくできるとはな。これが禁術なのも納得よ。

生きるのがバカバカしく思えてくる。」



ファゴットは小さな小瓶をじっくりと眺めながら感想を垂れる。

この中に人格を内包した魂があるというのだ、世の中何があるか分からない。


そして彼は思うことがあった。

現実世界での禁忌ことNBC兵器。

核・細菌・化学、これは単純に惨い後遺症と残存性しか問題にならない。



だがこの技術はどうだろうか。

帝国軍で究極殺戮兵器を設計した身でとやかく言えないが、生命倫理や命の理を根底から覆す悪夢の発明と言える。



兵器の優秀性を証明するのに、人間の心を搭載するのは自分のポリシーに反すると言うべきか。


かつての師なら戸惑わないだろうが、さすがに自分は違う。



「それ故に禁術なのです。ヴィッツオ様の事ですから恐らく当てつけかと。」



目の前に騎士将軍が圧縮されているにも関わらず、この態度。


流石はゲイルを汚らわしい物体と思っている男の部下。


満足に死すら許されず、気が狂いそうな任務に充て着ける。その嫌いっぷりは尋常ではない。



「全く……こうはありたくないものよのう」



ファゴットは師であるフィリスが考え着きそうなことに茶を濁すのだった。










——————————









帝都に知られればゾルターンの風評が悪くなる事が予想されるため、偽装された上で厳重に梱包された上で、伝書と共にゲイルの魂は空を舞うことになる。



天国には余りにも遠く、地上からは遙かに遠い帝国領土を駆け、半壊したゾルターン城に届けられた。


スカッドの合間を縫って届けられたのは正に奇跡と言っていい。



回り巡って高純度の魂が内包された小瓶がヴィッツオの手に落ちると、早速ハルベルラに組み込まれるのだった。



「問題は背中のシューターが動いてくれることだが」



彼の後ろには高射砲を背負わせた地竜ダルニアン・カペルトが眠る。



思えばこの改造工事には手を焼いた。

魔力を癒着した地竜の肉体から、発射機構は物理的に動かせるようにしてある。

また地中を移動できるよう、覆いも装着した。



いかに異端が遠くに居る敵を見つけることが出来ても、さすがに地中までは及ばないだろう。



問題は魂をねじ込んで実践投下した時、戦力として役に立つかだ。



兵器の欠陥は使わねば分からない。

想像外の場所や環境、敵を相手にしたときはじめて悪さが出てくる。


兵器開発において試行錯誤は付き物だが、満足にテストしている暇があるか。


いや、作れるのだろうか。



とにかく、ゲイルが死んだという事はポポルタ線が突破されたことを意味する。


此処から先、試験できるかどうかは自分の成果に掛かってくるだろう。

念のため最終調整を詰められるだけ詰めて、不具合を少なくするのも一つの手だ。



ヴィッツオは入念に最終防壁の整備に取り掛かる。


ゾルターンの切り札はまだ姿を見せない。


次回Chapter145は7月9日10時からの公開となります

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