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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-6. ポポルタ線の戦い
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Chapter143. Phase Four:Destroy them all!

タイトル:【全て打ち破れ!】

Soyuzの侵入を許したゲイル率いる帝国軍は大混乱で指揮すらままならない状況だった。


それもそうだろう、帝国にとって城壁は飛び越えるものであり、穴を開けるものではない。


特殊部隊の一斉突入に対し手も足も出ないのも当然だろう。



地形からして入り口は一つしかないため、一か所で留まる敵を一気に叩く。これがポポルタ線で通用するドクトリン(常識)


魔導師が凝り固まってヴァドムで吹き飛ばそうが、傷一つ着かない鉄壁を打ち破ってくることはまるで想定していなかった。これは県に一つずつある城にも同じことが言える。



「敵の侵入を許しまし———」



———BPhooooMMM!!!!



この一大事を騎士将軍に告げるべく伝令は前に出た瞬間、対装甲槍の矛先が兵の頭を柱に縫い付けた。



「本隊と聞いて聞いてみりゃロクデナシと案山子を寄せ集めやがって。こんなつまらんことにいちいち俺の手を煩わせるな、手が滑るだろ」



ゲイルは司令官としては最低の男である。

彼の中ではイラつきの片隅で、この戦いには負ける未来が見えていた。


一人の人間として最悪だとしても、野生の本能が嫌な空気を敏感に感じている。


逃げると言っても今更ラムジャーにどういう顔をしていいのだろうか。

傲慢極まりない口ぶりの裏で、焦りと苛立ち、深淵から絶えず湧き出る恐れで満ちていた。


覗きに来た雑兵に気が付いたゲイルは、恐るべき瞬発力で一気に胸倉を掴むと、感情のまま怒鳴りつける。



「敵を包囲、殲滅しろ!出来なきゃこの俺がお前らをぶち殺す!早くしろ!」



惨めな大声が木霊した。







———————








———ポポルタ線 城門正面



蛮族騎士に言われるまでもなく、城壁を破ってきた敵を迎撃に走る。


ここに配置されていた1個師団を誇った本隊もSoyuz側の圧倒的火力を前に、士気の下がった帝国兵は逃亡。残ったのはわずか150人となっていた。


また泣きっ面に蜂と言わんばかりに、二手に分かれて入ってきたことも数少ない部隊の分断を招いたこともあり、結果的に2個小隊強。


おおよそ70人程度の兵が装甲車両部隊に立ち向かわねばならない。



だが今更になって冴島大佐が小粒の相手をわざわざさせるだろうか。



———PheeEEEEEEEE!!!!!!


勇敢な彼らをあざ笑うかのように無数の砲弾が襲い来る。


122mmロケット、203mm榴弾。致死量劇薬の雨が一斉に着弾し、強酸が鋼鉄を蝕むかのように重装兵を文字通り溶かしていった。



【弾着確認】



ベアDが観測する傍ら、戦車部隊らは進む。

おびただしい数のトーチカが彼らを出迎えるが、彼らの目的は出来物を一つずつ潰すことではない。司令部を粉砕することに尽きる。


銀の銃によって一両のSU-152(突撃砲)が大炎上の末行動不能になってしまったが、その程度で歯止めが利く訳がない。

しいて言うなら、住民が逃亡しないよう窪地を利用したことによって陸路を制限した程度だろうか。



弱点を切り離した機甲部隊は一気になだれ込む。








———————————






——ポポルタ線内側


分散して農村部になだれ込んだ戦車たちは、無数にヒビの入った岩に染み込む液体のように城塞内部に侵入した。

降り注ぐ砲火と爆撃の加護がついている。戦場に舞い降りる女神はこういった火力。



————PheeEEEEEEEE!!!!!!———Bo-Booom……!!!



垂直落下して狙いを定めたシュトゥーカが死の羽音を立てながら爆弾を投下した。

ドームに着弾すると鉛色の爆炎が垂直に生じ、衝撃波が無人の村を伝っていく。



ライバルであるIl-2も負けじと、逃亡兵に向け無慈悲な機銃掃射も加えながら破壊の限りを尽くしていた。



こうして空からは爆弾を再装填した急降下爆撃機がトーチカを潰しに励むものの、いかんせん数が多い。



10km半径内でも都内のコンビニの様にひしめき合っている場所では焼石に水。自走砲の力を借りながら司令部を粉砕すべく進軍していた。


弱点をかなぐり捨てた彼らにとってドームに居る敵は相手にする価値もない。その主砲は騎士将軍ゲイルを血眼になって探る。



農村部の防御砲座では逃げも隠れも出来なくなった帝国兵が潜んでいた。


内部、それも至近距離にまで鈍い爆発と共に敵が入ってきたという事は配置された味方が全滅しこちらの押し返す力を失ったという事。



背を向けて逃げ出そうが、結局は殺されるのだ。破れかぶれの軍人としての意地がその肉体を動かしていた。


とあるドーム内では銀の銃を持ったソルジャーとソーサラーが二人一組で敵軍勢相手に抵抗を続ける。

いくらかを囮とすることで何とか生き延びることが出来たはいいが、その代償は大きい。



「来たぞ、狙えるか」



距離的にギドゥールの射程範囲に入っていたが、彼は撃とうとしない。

それには理由があった。照準となる光筋である。



コイツのせいで射程や威力と消費する魔力の割に命中精度は悪い。


脇にいる銃を持ったソルジャーの攻撃で釘付けになっている間、隕石で仕留めようという魂胆。


一つでも失敗すれば何もかもおしまいだ。



「———もう少し引き付けます」



エンジン音とディーゼル煙が次第に濃くなっていく。


————VooooMM…———



石で作られた防御砲座(トーチカ)から見える視界は狭い。

また銃の射程も相まって確実に撃破するためには限界まで近づける必要がある。



戦車の吐息と鼓動、そして履帯が軋む音までが聞こえ始めた。

ろくに外が見えないスリットから様子を伺うと、怪物についている道具箱の金具がしっかりと見える。


幸いにもこちらを向いていない、チャンスは今。


距離にして42m、ソルジャーは迷わず引き金を引いた。



———Crap…Shooo…BHOOONG!!



火打石の代わりに据え付けられた魔石が火皿に勢いよく落ちて、連鎖反応が魔弾に伝わり力強い烈火の渦が戦車めがけ飛んでいく。


T-72側面に着弾、装甲に達すると砲塔を激しく燃やした!


あまりの事態に足を止める。



やはり効き目は薄い。

アーマーナイトやジェネラルでさえ瞬時に蒸し焼きに出来る程の火力でも倒せないのだろうか。


だが、本命は違う。


銀の銃を下げた兵は意識を集中させるソーサラーに視線をやり、希望を託した。


予断を許さない状況だが、この距離であれば収束も容易。だが彼らは見誤ったことが一つある。


彼らの中ではふざけた硬さの敵は自ずと「()()」と考えられてきた。

超重歩兵の存在もそれを助長している。



——Bomm…!——


炎の渦から生じた高熱により爆発反応装甲が弾けながら、砲塔を素早く回しこちらに向けてきたではないか!


左についた大きな一つ目が陽炎に揺れ、容赦なく火を噴いた。



ZDaaAAAALLLLAHHHHH!!!!!!!









———————————






——内部2km地点



少数の抵抗を受けつつも分厚い装甲板と強力な火砲で突き進む。

鋼鉄の馬防柵が敷設されていることもあったが、履帯は容赦なく踏みつけられるか152mm榴弾砲で排除されていった。



そんな時、ボゥール率いる先軍915が騎兵の出現を察知。

ゲイルの腹心であるビッカースらで違いない。



【Beongae02、敵出現を確認。司令部推定位置を送ります】



戦車に備えられている距離測定器を使い、出てきた位置を瞬時に演算。

たとえそれが司令部ではないにしても、増援を潰せるに越したことはない。



【YOGA-01了解】



【LONGPAT了解。叩き潰せ】



報告を上げた瞬間、ソ・USEに大きなドットが表示された。


そこには反対側の城壁左側に建屋がある。今までの戦闘から司令部は地下にあると見て間違いない!



——ZDAAASHHH!!!!!———



出てきた騎士に目もくれず、装甲を纏った砲火の鬼は建屋に向け砲撃し始めた。

高性能な火器管制システムを搭載していないSU-152やT-55では追従が難しいのもあるが、少しの脅威にもならない羽虫に使う弾がもったいない。



彼らが相手にすべき存在ではないのである。



「————えっ?」



声を上げる間も許さず23mm機関砲が下劣な騎兵に襲い掛かった。


アーマーナイトが身に纏う装甲ですら段ボールように抜いてくる一斉掃射は、兵士をたちまち血煙に変えていく。


吹き荒れる鉄の嵐の前に生すらも許されない。






————————————





ゲイル直属の騎兵部隊 ビッカースはロンドン選りすぐりのゴロツキと言っていい。

射程外一方的に撃ってくる存在どころか、自分達より強力な敵に対処することを前提としていない。



所詮は弱いものイジメに特化した存在に他ならないのだ。



——ZLTATATTA!!!!!———



大空の捕食者シュトゥルモヴィークが低空飛行しながら機首を下に向け、両翼についた機関砲を浴びせにかかる。



背後の味方は馬ごと挽肉にされていった。

そんな光景を一度見てしまったからには振り向くことが出来る筈がない。


聞いたこともない悪魔の羽音が後ろから迫る。



————WEEEEEE!!!!——



「空飛んでるからって粋がってんじゃねぇ!」



音だけで敵は近いと判断した哀れな騎士はくるりと振り返り、自慢のソルジャーキラーを向けた。


彼は既に正常な判断ができない状態、まともな兵ならここで槍先を失う行動は絶対にしないだろう。



それに対しIl-2は機体を右に傾けてると、一気に加速をかけ騎兵を追い抜いた。

自動車程度の速度しか出せない馬とは比べ物にならない速度が出せるのだ。



すると翼下のハッチが開き黒い何かが投下される。



100キロ爆弾の偏差爆撃だ!



——KA-BooooooOOOOMMMM!!!!!!


確かな殺意がこもった一撃は地面に触れた途端、信管が起動し爆薬を叩き起こす。

そのまま敵兵ごと地面を大きく抉る。








—————————————






ものの見事にビッカースを全滅する様をゲイルは傍観していた。


敵の新兵器に対しどうやって対抗するべきかじっくり考えるべく、哀れな兵士たちを囮にしたのである。



「ケッ、だらしのない野郎共だ」



ただ馬が乗れるだけの連中を自分の手駒になるよう仕立ててやったのに、これではド素人以下ではないか。


そんな様を見た彼はこう吐き捨てた。

いよいよ残ったのは自分だけになる、散々射程差で苦しめられたというのに、自分から来てくれるとは好都合。



自分にそう言い聞かせながら鎧を素早く着込んでいく。

前回あれだけコテンパンにされながらもこの男は決してめげない。


と言うのも、敵陸上兵力にある程度策を練っているからに他ならない。



大げさに言っているものの、策はシンプルなものだった。



魔導衛生兵を呼び、自分と馬に対しンドロメ(回復魔法)を何回も重ね掛けすることで致死を少しでも避けるというもの。


当たっても超回復能力をもってすれば問題ない。

此処まで来ると単純どころか原始的な発想だ。



これ以外に真っ当な対策があるだろうか。

それを限界の知れた狂人に問うのは酷というもの。一度殺されたも同然の男に何を求めるのか。



「Uh-HAHAHA…今に見せてやる、俺の真価と言うものをな。」



義手を握りこむと稲妻が確かに迸る。周りでは彼の出撃を支えるべく、兵が慌ただしく走り回る。

その中でもゲイルに細工をした張本人が新品のソルジャーキラーを手渡しながら忠告した。



「ゲイル様、あくまでこれは無敵になったのではない事を念頭に置いてください。これだけのンドロメをかけておられます故、後々祟ることも———」



いくら超再生能力をもってしても、即死級のダメージを食らえば何もかもおしまいだ。


あくまでこれは機関銃対策のために編み出した物。相変わらず詰めが甘いが、小賢しい頭でようやく出した精一杯の対策なのだから仕方がない。



「———ただ刺し殺すんじゃ面白くねぇ。あの鉄鋼から引きずり出したら、血の池で溺れさせてあの世に送ってやる。Hi-HAHAHA!!さっさと手槍出せ!」



衛生兵の声はゲイルに微塵も届いていなかった。


大槍を強奪するとすかさず脇差にしている手槍を寄越すよう怒鳴る。

身体にかかった術の負荷に堪えられず、既に馬と共々魔力に蝕まれていた。かつての海原のように。



そのためか目は一層血走り、高笑いもより狂気的な磨きが掛かっている。

シャッターを閉める手つきや、眼差しは狙いを定めた猛獣の様に高ぶりを感じさせない。



「8番口、開きます!」



出撃を察知した帝国兵はまだ破壊されていない通用口を蛮族騎士に伝えると、スポーツカーを急発進させたかのような速度で飛び出していった。



「——さて、Soyuzとやらは投降を受け付けてくれるんだろうか。そもそも異端に降伏なんぞ通用するのか?」



勇ましい光景をよそに、先ほどの魔導衛生兵は諦めきった顔で部下に愚痴をこぼす。



「ダメな時はダメじゃないですかねぇ」



話を振られた兵もこの有様。

鉄壁を誇るポポルタ線には理想を掲げて戦うような兵はどこにも残ってはいない。

既にゾルターンにいる帝国兵の士気は既にガタガタになってる証拠である。



泥沼の戦いはようやく終わりが見えてきたが、向こう側の城壁でこの哀れな騎士を監視する謎の集団が動き始めていた…


次回Chapter144は7月1日10時からの公開となります

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