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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-6. ポポルタ線の戦い
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Chapter139. Phase Zero: Breakthrough!

タイトル【事前段階:突撃せよ】

———ウイゴン暦7月27日 既定現実8月3日

アルス・ミド村近郊 長距離砲陣地


作戦を実行するにあたり、装甲車両の進軍と同時に航空偵察が行われていた。

どこに敵が固まっているか、重点的に破壊するべき場所は一体どこなのかを探るために他ならない。


そのため冴島大佐は203mm自走砲部隊が駐留する陣地で指揮を取る。



【OSKER01、敵拠点から29km地点に敵発見。画像を送信します】



【LONGPAT了解】



偵察機から送られてきた画像には確かに敵が映っていた。当然のことである。


冴島の知りたかったことは存在ではなく、密度。帝国側もポポルタ線はゾルターンの要だと知っているだろう。



オーソドックスにいけば分厚い防壁を張ってくるはず。

城塞29km地点。丁度村から4から5km行った場所にあたる。


そんな所で何故敵は兵士をスカスカな状態で配置しているのか。


無能でも絶対やらない手に彼は「()()()()」を察知した。


射程が届かないなら、引き寄せて撃ちあえば良いという理屈だろう。



【LONGPAT了解、砲撃を開始せよ】


その一言から、戦いの火蓋が切られた。



———ZRASHHHH!!!! ZRASHHHH!!!!———



無線一本で陣地に置かれた203mm砲が一斉に火を噴く。

反動で砲の後部が勢いよく後退し次弾装填に移る。



その傍らでは人間重機と化したアーマーナイトが砲弾を運び、わんこそばの要領で砲弾を込めていく。地味な作業だが、分厚い肉の壁を突き破るためにはこうするしかない。



空中に放たれた砲弾は自身に膨大な量の爆薬を抱えて飛んでいく。







———————





———KA-BoooMM!!!!——



主力戦車や突撃砲が凝り固まる前線では、後方から放たれた203mm榴弾が空気を切り裂きながら、着弾と同時に鉛色の爆炎と共に多くの土砂を巻き上げる。


そして煙幕からT-72らが飛び出した。


———BooooMMMM!!!!!!


ディーゼルエンジンの雄たけびと共に、車体を激しく上下に揺らしながら鋼鉄の悪魔が迫る。


前にはT-55、T-10、T-72が。後ろにはSU152が付く大火力編成だ。

一歩後ろにはツングースカやシルカ、ストレラ10が配置につく。



「来たぞ、攻撃開始!」



この一撃を察知した帝国軍側からおびただしい数の火球や弓、時に稲妻が戦車めがけて飛び交い始める。


火力の後ろ盾を得ているのは敵も同じ。

騎兵は車両との直接戦闘を避け機動力を持って歩兵を探し、重装歩兵が突貫するのだ。


その後ろにはソルジャーや勇者がつき、乱戦へ持ち込もうという魂胆である。



———ZLASHHH!!!!!——ZLASHHH!!!!!———BLATATATA!!!!!!



程なくして、機銃混じりの120mm砲の雨が前線の兵士を襲う。


膨大な炸薬量から生み出される爆発的エネルギーとその破片は、後ろにいるソルジャーを虫けらのように吹き飛ばしていった。



後ろからの砲撃もあり、装甲を持たない兵士はバスタブの栓を抜いたように数を減らしていく。


それでも敵は怯まない。

此処を突破されれば帝国に未来はないのだ、正に背水の陣と言うべきだろう。



重装兵を盾にしながら勇者は高い脚力を活かして飛び上がり、まるで水切りのように戦車部隊に迫る。


分厚い装甲に剣や斧といった武器は役に立たない。


だがあの兵器は怪物ではなく乗り物であることが判明している以上、出入口がある。

そこをこじ開けてしまえば勝機が見えてくるかもしれない。



騎兵かそれ以上の進軍速度でやってくる敵に対し、前進し続ける戦車部隊はすぐさま対処に追われる。



「絶対に肉薄されるな!機銃で対処しろ!」



常にどこかが爆発している中、ダルシムは声を張り上げる。随伴歩兵が居ない戦車は死角だらけ。自爆特攻なんてされたら堪らない。



———ZLATATATATATATAT!!!!!!——



すぐさま重機銃が放たれた。

しかし弾丸は肝心の敵ではなく、背後にいるアーマーナイトをハチの巣にしていった。あの勇者(ホッパー)は天高く跳躍し鉄の嵐を飛び越えたのだ。

バッタのように跳ねまわる相手に対し、仰角が取れない同軸機銃では分が悪い。


こんな歩兵を相手にするよう作られていないからである。


紛れもなく帝国軍も戦車について着々と学習している証だった。着地した瞬間を狙おうとした瞬間、魔導的光が収束し、T-10を激しい揺れが襲う。



———Bo-PHooooMMMM!!!!!———


ヴァドムだった。だが魔導士の姿は見えない。

答えは一つ。光学迷彩を纏った兵が攻撃してきているからだ!


軽装甲車両とは異なり、この程度で重戦車にダメージを与えることはできない。


だが目くらましにはあまりに十分。



敵勇者は戦車まで100mを切り、この調子なら接近を許すかと思われた瞬間。


死神のサイレンと共に天から破壊の使者が援護にやってきた!



———PHHHHEEEEoooOOOOO………———BooMM……!!



直後、爆弾が投下され敵は砕け散る。

シュトゥーカの後を追うように、低空飛行するIl-2は急降下爆撃で処理しきれなかった敵を雑草のようになぎ倒していく。



【YOGA-01からLONGPAT!透明人間だ、狙撃兵かもっと砲撃してくれ!】



四六時中土砂が掘り返され、狂いそうになりながらもダルシムは無線機を取った。


重戦車には赤外線式の暗視装置が備え付けられているが、常に透明人間を始末できる余裕はない。

そのため排除要請を出したのである。



【LONGPAT了解。自走砲部隊は指定座標に向け援護射撃せよ】



冴島は大尉からの要請を了承。

爆発と破片の傘でヘリから降下する歩兵を援護しつつ、戦車の目になる狙撃兵を派遣することにしたのだった。


今まで以上に火力の雨は降り注ぐ。








———————————






——ヘリ内


グルードやガンテル、パルメドといったおなじみのメンバーや狙撃兵、軽機関銃を携行した兵士を満載にしたMi-8は村を飛び立つ。



「すげぇなこりゃ。」



そこら中で鉛色の爆炎がひしめきあう光景にグルードは圧倒された。


彼は狙撃特性こそないが、排除しに来る敵から守るためにつくことになっている。

守られていない脅威は真っ先に排除されるのが戦場の掟。


大抵護衛を着けなければ即座に始末されるものだ。



「いつもの事だ。昔を思い出す。」



しかしパルメドは慣れ切っているのかいつものような冷静さを貫く。ドンパチやってる光景は両者にとって珍しくない。


だがグルードが居た戦場では機銃があふれ、パルメドは重火砲とそれぞれ慣れている場が違う。

榴弾砲の雨をあまり見ないグルードにとって見慣れない物に違いなかった。



「お前ら、ちゃんと準備は出来てんだろうな?」



二人を見下すようにガンテルは嫌味をねじ込む。対空兵器の一件からこの男、妙に調子に乗っている。だからこそ人望がないのだが。



「お前…ここに来ても弓にこだわってんのかよ…たまには銃使えよ銃を…」



狭苦しいヘリの中で、支持棒のように巨大なガロ―バンを尻目にグルードは苦言を呈す。



「いいだろお前、対して変わんねぇんだから…」



彼は謙遜どころか悪びれることすら知らないらしい。


そんなことを言っているうちに、ランディングゾーンに到着。彼らインビジブル・キラーは砲火の傘で守られた地点にすばやく降りていった。





——————————






 背後から飛んでくる榴弾砲の勢いは増し、敵歩兵は消え去りアーマーナイトが居た場所には濡れたボール紙のように拉げた鉄板が辺り一面に散らばる。かつて分厚い装甲板だったものだ。



肉眼で見る限りでは殲滅状態にあると言えるだろう。

だが赤外線ゴーグルを通して戦場を見ると、敵影はまだ残っている。



勢いを増した砲撃で数は大きく減らしていたものの、丘陵地帯であることをいいことに

運よく難を逃れたわずかな兵が抵抗を続けていた。


そこで配置についたパルメドたちは赤外線暗視が付いたスコープを覗き、潜む敵兵を探すに至る。



後からひっきりなしに砲弾が飛び交い、そこら中を耕している車両進軍進路と比べ

狙撃ポイントは比較的に静かだと思われた。



「クソッ!」



グルードに巨大な火柱が迫る。

咄嗟に飛び込むことで避けることが出来たものの、あんなものに飲まれれば生きたまま火葬されるに違いない。


連続した丘陵地帯故、姿かたちを見る事が出来ないとなると、発見することはまず不可能。



タチが悪いことに魔法を放つとき、火そのもの自体から出ている音はあっても、発射する時の音はない。

その上肉眼では伏兵を見ることが出来ないと来ている。


視覚を使って距離感を測ることすら許されないのだ。



「気をつけろ、遠くに気を取られ過ぎるな!」



「わかってる。奴ら、想像以上に近いぞ」



強烈な熱波をかすめたというのにパルメドはピクリとも動かない。

赤外線を通して初めて見えるシルエットに対し彼はSVDの引き金を引き続ける。



———DooNG…!———


重鈍な銃声はすぐさま着弾音にかき消された。



その一方、赤外線ゴーグルを持たされたガンテルはあろうことか装備品を使うことなく己のカンだけで狙撃することに決めている。


勿論、それには理由があった。


あの戦友二人に目を向けると、か細いが魔力的光が刺しているのがわかる。


隕石魔法ギドゥールだ、直撃を食らえば命はない!


にも関わらず、奴らゴーグルでも捉えられないらしいのか、彼らは気が付いていないではないか。



「厄介なのが出てきやがってこの野郎——消えたか、うっし」



すぐさま居所を突き止めた後、反射的にガローバンを引いたから良かったが、いかんせん片方ずつ見えないものが出てくるのは面倒極まる。


たとえ見えなくとも関係ない。


スナイパーとして、そしてハンターとしての感性を極限までに尖らせて倒す。


半ば転がり落ちるようにしてガンテルは隠れるも、即座に脇の地面がえぐれた。

ソーサラーとスナイパーを組み合わせている証拠だ。


魔導で倒し切れない相手に対して対装甲弓で貫く。敵もきちんと考えて兵を配置している。

向こうが自分を爆破してくるまでのわずかな間、彼は無線機を取った。



【オイ、俺だ!お前ら気をつけろ!怪しい光が来たら強烈な一発が来る!】



【んなもん見えなかったぞ!気のせいじゃねぇのか!?】



いつもの態度からオオカミ少年のような扱いを受ける。

戦場では狂気が見せるアヤシイものの一つや二つ珍しくない。



【いいか、耳の穴をかっぽじって——クソッ、話し終わったらぶち殺してやるからな。

違う!誰か一人でいいから目に着けてるアレを外して周りを見ろ!見たこともねぇ細い光が見えたら絶対逃げろ!ソーサラーに狙われてる!狙いをつけてるヤツを殺せばギドゥールは撃たれない!】



攻撃を受けつつもガンテルは必死に気を落ち着け、話さなければならないことを叫ぶ。

血が煮えくり返っているような声色にグルードたちは悪ふざけではないと気が付いた。



【人が話してる時に割り込んでんじゃあねぇ!見えないからってイキってんじゃねぇぞ!】



既に居所は分かっている。

そうしてスナイパー側の脳天を貫いた時、彼が狙いをつけていた場所にらせん状に回転する飛行物体が迫り鉛色の煙が昇る。



「やってくれんねぇ。」



自分の早撃ちの腕をもって見れば二人の敵を同時に倒す事くらい容易い。

だが味方からの援護はありがたく受けておくに限る。



【こちらBeongae(稲妻)02 俺たちを忘れるな】



黒雲から放たれた稲妻のようにミサイルを陸から撃てる存在。

T-55といったSoyuz標準の主力戦車にこういった兵装を携行していない。


では援護に駆け付けたのは誰なのか。



ガンテルが向ける視線のはるか向こうにその姿はあった。


ソ連戦車T-62に似た車体に、曲線と直線が交わったかのような見覚えのない砲塔。




砲塔には凛々しい戦車砲と機銃だけではなく、天板には2つ据え付けられた対戦車ミサイルと連装グレネード・マシンガン。

地対空ミサイル イグラーと正面の爆発反応装甲が光る。



北朝鮮戦車「先軍(ソングン)915」だった。火力と手数を持った戦場の掃除屋(スイーパー)である。






—————————






その先軍号の中では車長からの指示が飛び交っていた。



【右旋回、歩兵援護入れ。焼け残った騎兵が現れると厄介だ、いつでもぶちかませるようにしておけ。——敵兵排除了解。俺たちが盾になる。】



【こちらBeongae02可視光でしか確認できない敵照準あり】



Soyuzの作戦行動無線は共有されている。そのため、何時・誰が・何処で・何を言ったかを隅々まで把握することが出来るのだ。


故に彼らがガンテルへ横やりを入れられたのもこういう訳である。


さらにパキスタン人車長 ボゥール曹長は突撃砲やMBTの数からして前線の火力が足りていると判断。歩兵援護に入るよう命令を下した。


それに応えてもう2両の戦車が後を追う。


かくして戦場は混沌と化すが、まだ序章も序章、物語は始まったばかり。

目次にすらたどり着いていない。そして圧倒的火力がポポルタ線を食い込み始めた。



降り注ぐ大口径榴弾砲の嵐と、向かい風のように飛来する対装甲矢や命を狩り取る色とりどりの魔法。


勝利の女神はまだ気配さえ見せない。


次回Chapter140は6月4日10時からの公開となります。


・登場兵器

先軍915

北朝鮮で配備されている比較的新しい主力戦車。Soyuzが共和国と取引して手に入れたもの。

主砲や機銃のみならず、連装擲弾銃・対戦車ミサイル・地対空ミサイルとありとあらゆる武装を揃えておりどの角度から襲ってきても返り討ちにすることができる。


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