Chapter 13-3. Ticking time bomb
タイトル【時限爆弾】
戦車砲の砲撃と機関銃と機関砲の暴風雨が砦に降り注ぐ。
Bravoチーム隊長の提言の元に次の城塞を破壊すべく少佐率いる戦車隊は動き出した。
圧倒的な射程を前に魔導士やアーチャーは次々と爆風や機関銃で排除されつつあり、最初に遭遇した森で待ち伏せする敵兵は壊滅状態にあることを意味する。
重装兵とアーチャーで足止めする作戦が失敗し、反乱軍の侵入を許していた。
しかしそれはマリオネスの予想していたことだった、本来の目的はハリソンへの籠城である。
狂ったような火力を振りかざそうともそれは無限ではない。
ここで使い切らせてしまえば背後には将軍の持つ無数の兵力で殲滅すれば良いという考えだった。
想像をはるかに上回る反乱軍の攻勢に対し、森に立てこもる帝国軍は成す術もなく蹂躙されていった。
砦であろうと魔導士が鉄の嵐に恐れおののき火球を満足に発射することも叶わず、アーチャーが放つ矢も怪物相手にはまるで効果がない。
盾となるアーマーナイトも布の服のように貫通し、次々戦死していく様は恐怖と絶望の地獄そのものであった。
それに加えて森という強固な迷宮を破壊しやってくる姿は帝国兵士を大混乱の渦に叩き落す始末である。
砦を放棄し後ろへと合流したジューレンの隊。
さらに本来指揮を取るガリーシア軍曹の隊がひしめき合っていたが、まるで水に放り込んだ砂糖菓子のように溶けていったのは目に見えて減っていったのは記憶に新しい。、
放棄して次の隊へと合流すべく、兵を集めている時であった。
———BBoooM!!——
地下からくぐもった轟音と爆風が一斉に襲いかかる。
魔法などというものではない、火薬を使った特有の爆発が地下で起きていたのだ。それ即ち地下通路が反乱軍に嗅ぎつけられたことを意味する。
土煙が舞うのと同じくして兵にも混乱が波動のように広まっていった。
爆発の正体はSoyuzによるものだった。
Bravoチームが砦の地下を捜索した結果、外界と通じることのない壁を見つけた。
そこでは閉鎖空間にも関わらず隙間風が抜けていた箇所を見つけ、爆薬と水バッグを利用して爆破。
坑道のような隠し通路を嗅ぎつけたのである。
その後Bravoチームの要請により戦車隊は2つ目の砦を地上から、機械化歩兵小隊はBTRから舞台を移し地下通路方面の二方面で侵攻が始まっていた。
混沌を極める第二砦の中、伝令を担う魔道士が司令室へとなだれ込む。
あたりには叫び声と、災害のように降り注ぐ銃弾と砲弾の雨の音が森の静寂全てを流し去っていた。
混乱と混沌が混ざり合う地獄と化した砦を駆け抜け、二階司令室へと駆け込むと、伝令を担う男魔道士は息を切らしながら報告を上げる。
「ガリーシア軍曹、反乱軍の侵入を許したようです。いかがしますか」
「うろたえるな、兵を招集し迎撃体制を―――」
軍曹の指示が届く合間、その一瞬のことだった。
一階の兵員が集められていた箇所にてあらゆる龍の咆哮を凌駕するほどの凄まじい破裂音と真っ白の閃光が撒き散らされたのだ。
軍曹にはその正体は理解することができなかったが、Soyuz機械化歩兵小隊は理解していた。
突入時に投げ込んだスタングレネード。いわゆるフラッシュ・バンである。
感覚を潰すほどの音と光を間近で浴びせることによって、屈強な兵士を赤子のように無力化する兵器。
通常の人間でさえも太刀打ち出来るはずもない閃光と音に、感覚の鋭敏な魔道士やアーチャー隊にはひとたまりもない。
ほとんどの兵士は気絶しているか耳を抑えて倒れ伏していた。
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突入したデルタチームは互いの死角を補い合うようにフォーメーションを組んでクリアリングを開始。
気絶しておらず感覚が死にながらも剣を片手に振り回すような敵兵士に向け、容赦なくライフル弾を浴びせた。
その様は制圧と言うより駆除に近い。
それに伴い、Bravoチームは二階の制圧を、ALPHAチームは通路の捜索に駆り出されることになったのである。
感覚の鋭いガンテルもこれに巻き込まれる形となったが、Soyuz装備一式に巨大なガローバンと矢筒を携行し、遮音ヘッドフォンとサングラスをつけていたために難を逃れた。
少しばかりの死体と無残に転がる元味方の様を見ていたガンテルは異様にまでに落ち着いている。
自分を忌み嫌い、実力があるにも関わらず蔑ろにしてきた無様な部下や同僚を見る度、ざまあみろと思う始末。
これからは屋内戦になると考えた手癖の悪い彼は気絶していたアーチャーから鉄の弓を隊長の目には察知されないように奪い、突入に備えていた。
ほとんどの主兵力を無力化した今、司令室にたどり着くのは極めて容易であるため
混乱する指揮官と歩兵と見られる人物が確認できるほどまでBravoチームは迫っていた。
一瞬で指揮系統を突き崩し、有利な状態へと持ち込む現代戦で培われた技術の賜物か。
その一方司令室にいた女性魔導士ガリーシアとスナイパー兵であるジューレンは大尉の口にしていた連発できる銃の存在に確信を抱いていた。
こちらの銃と音はところどころ違うが剣で切り刻むような回数発射できる銃を持った兵士が突入してきたのである。
「反乱軍基地襲撃と同じ…か」
ガリーシアは少々の怯えを瞳に宿しながらつぶやく。
部下たちが何人も散っていった戦いを起こした存在が目と鼻の先にいる。
彼女はそのことで武者震いし始めていた。
軽口を叩くジューレンですら鋭い眼光を司令室扉に向けながらガローバンを構えている。
扉を隔てた向こう側にいるBravoチームも緊迫が薄れることもなかった。
間には遠くで砲撃の音と機関銃の音色だけが響き渡る。
グルードが扉に僅かに隙間を作った。
しかしその音もすぐかき消されたのだが、それで終わりだった。
再び、あの音と閃光のヴェールが砦を覆った。その光幕の元では人間の感覚は枯れ果て、麻痺を起こす。
————
□
光景に愕然とした。
幕が上がった時には軍曹と曹長の周りを見たことも無い、服のように薄い鎧をつけたレジスタンスとは思えぬ集団に囲まれていたのだから。
よく見るとその中に鉄の弓を構えた伍長もいる。
人を虫けら同然のように殺すことが出来る無数の黒鉄の銃を向けられている今、抵抗は意味をなさないだろう。
軍曹はその一瞬で理解せざるを得なかった。
「武装を解除し、直ちに投降せよ」
魔の殺戮兵器を持った真っ黒い兵士がこちらに向けて投降を呼びかけた。
軍曹は歯を食いしばりながらその男を睨むことしかできない。
部下を皆殺しにした連中の一員に。ここまで見下された口ぶりをされたのだ。
その瞳には果てしない悔しさと憎悪がこもっていた。
弓を下げたジューレンは確かに怒りのこもった声で伍長に向けて叫ぶ。
「お前、寝返ったのか。誇りを捨てて反乱軍に!」
肩は震え、息を荒げる姿を見せた彼はそう言い放つ。
同僚でもあり戦友の理不尽な裏切りに情を炸裂させていた。
マリオネスの言っていることはまやかしである。彼はどこかでそう思っていた。
だがガンテルは口角を上げ、憎たらしくあしらってみせる。
「てめぇ友達ヅラしておいて俺の陰口を言ってたこと忘れると思うか。このマリオネスの飼い犬野郎。第一お前みたいな友達ごっこする薄ら汚ねぇヤツは今いるトコに居ねぇのさ」
その一言がジューレンに火をつけてしまった。
たしかに帝国の名のもとに命を捧げ、上官の期待には答えスナイパーにもなった自分をここまで貶されたのだ。
まして自分より階級が下の人間に。
フラッシュ・バンが炸裂するように彼は叫びながら弓に矢を添え、弦を引ことうとした。
「貴様ァァア!」
無情であることに交戦意思があると判断された途端、一発の銃弾と一本の矢がジューレンを貫いた。
ガンテルはその姿に何も感じることはない。
帝国軍人らしい利己的で腐った姿に、憐れみすらない程にジューレンを見下していたのだから。
ヤツがガローバンで狙うよりも早く射殺出来るほど腕の悪い屑など戦地で死んで当然。
銃弾は兎も角、矢は適当な場所を狙っていたため致命傷にはなっていなかったが、激しい焼けるような痛みでジューレンは悶絶する。
壮絶で希望を絶たれた状況下に陥ったガリーシアは反抗心をガラス細工のように砕かれた。
軍人としての思考や、人間としての憎悪を遥かに凌駕する、本能的恐怖が勝っていたからである。そして絶望し、投降した。
そこには誇りなどなかった。
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二箇所目の砦を制圧した機械化歩兵小隊に安息などは与えられない。
砦が複数ある可能性が浮上したからである。
敵対する歩兵隊の司令塔を叩かなければ。無用な抵抗の挙句不必要な被害をもたらすことが目に見えている。
そんな中、上空を旋回する偵察機がもたらした一筋の無線が転機を促した。
BTRで指揮を行う少佐もまた例外ではない。
【OSKER-01よりLONGPAT】
【こちらLONGPAT】
ハリケーンが上陸したような機銃の雨を敵が潜む密林に向けて撃つ片手間で少佐は無線に応答した。敵側が何やら妙なことを始めたに違いない、少佐はそう確信する。
【作戦地域から離脱する目標を確認。数は6。ハリソン要塞へ向け高速で移動中。指示を乞う】
【LONGPAT了解。OSKER-01は監視を続行せよ】
【OSKER-01了解】
その報告はやはり、マリオネスが逃亡しているということだった。
数からして兵士を捨て駒にして、どこかに逃げ延びようという考えなのだろう。
森林を伐採しながら進んだとしても距離をつけられるばかりであろう。
冴島は冷淡な顔を貫く。




