Chapter137. Like a tree taking root
タイトル【木が根を張るように】
———ウイゴン暦7月23日 既定現実7月30日
———アルス・ミド村近郊
対空兵器が投下されると、村から少しばかり距離を置いた場所で対空陣地構築を始めていた。
空という事実上の不可侵領域からやってきて、好き放題暴れて帰っていく敵から守れるのはこういった機関砲たちだけ。
レシプロ戦闘機並みの速度と機動力を出せるペガサスナイト前に、アサルトライフルと言った歩兵の自動火器はまるで意味を持たない。
射撃管制された機関砲などでようやく太刀打ちできるのだ。
こうした頼みの綱を満載にしたトラックやトレーラー便がようやく到着し、スタッフ達は配置に追われていた。
運び込まれたのは4式中戦車と同じ砲弾が使える7cm高射砲と、4連の機関砲がついたZPU-4。
そしてS-125ミサイルとレーダーたち。
「なんだか砲が空向いてると違和感があるな。よし、台車取っ払え」
グルードは物珍しい口ぶりで台座を組み立てていた。
音速ジェット機がはびこる時代に生まれた彼らが知るのはあくまで野砲であり、砲身を天高く向けた高射砲は過去の遺物と言っていい。
「よし、これでいいか。——ZPUはよく見かけたな。地面に置くより荷台に乗せてたもんだ。前までマシンガンを4つ括り付けただけかと思ってた。」
パルメドは牽引用の車輪を取り、砲を地面に据え付ける。
一通り設置を終えると管制装置に接続し、半自動で迎撃できるよう設定を行うのである。
こうして大木のようにいくつもの砲が空へと向けられていく。
「知るかよ、俺なんてこんな訳の分からん物体見たことも聞いたこともありゃしねぇんだから。——あぁコレ管制装置だっけか?つけ方がよくわからん、これっぽっちもだ」
過去の話をされてもガンテルはイマイチ分かっていなかった。
車輪がついていることは馬が引くシューターでは常識。
だがおかしな筒が4つも括りついては居なかったし、それが連発できるなどもっての外である。
機械に心底不慣れな彼に代わりながら、PALは別の作業に向かうよう指示を出す。
「だったらいい、お前は弾もってこい。14.7ってある奴だ」
「この野郎、文字が読めない俺にソレ言うか?ひっぱたくぞ」
数字すら既定現実とは全く異なるが故の問題だった。
単に銃弾の大きさが分からない程馬鹿ではないが、文字と言葉に差がある以上どうしようもない。
一瞬パルメドは悪ふざけでもしてるのかと考えたが、ヤツは向こう側の人間だったことを思い出し、かみ砕いた説明をする。
「——すまん、言い方が悪かった。馬鹿みたいに弾が入ってるヤツだ」
「初めからそういえばいいのによぉ、大体わかった」
大雑把な説明でも理解したらしく、ガンテルは首を回しながら機関砲の弾を取りに行った。
そんな刹那、PALは嫌な予感がした。PKMとRPDを混用する機会があったらと言う考えが浮かぶ。
両者はそれぞれ弾を見比べても区別がつかない程寸法が似通っており、基本的に文字で区別するものだ。それができないとしたら。
Soyuzという組織は、よく見たこともないような古い武器や兵器を使うことがあるため、一概に「ない」とは言い切れない。
今ここにないものを論じてもしょうがない。そう結論付けた彼は管制装置の取り付けに勤しむ。
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□
——村内
アルス・ミド村の片隅では老師と呼ばれた男が身支度を整えていた。
第四戦争でソーサラーとして戦線に趣き、軍事政権下ではレジスタンスとして生きていた身。
どういう形かは分からないが、今の歪な帝国を正そうという存在が出現した以上
自分の役割は終えたと考えていた。種がついに実ったというべきか。
「老師様、行ってしまわれるのですか」
ヘトゥの声が彼の後ろ髪を引いた。
「ヘトゥ、お前もだろう。——私は種をまき、ようやくそれが実った。…他の所でも種を撒かねばならん。」
本来は此処ゾルターンに反抗のミームを伝え、風のように消えるつもりだった。
何を思ったか一人の少女に肩入れし、もう5年も過ぎてしまった。らしくもない。
埃をかぶった赤いローブを纏い、フェイスベールを装着し彼女に振り向く。
「…お前の考えていることは分かっている。敵はお前のことを優先して狙ってくる。治癒の力を使うには、時にして相手の命を奪わねばならない。お前が踏み入れようとする世界はそうなのだ。正義も何もない、ただの殺し合いに加担するという事をよく覚えておけ。」
そこに遭ったのは反逆の炎を瞳に宿した、一人の聖戦士だった。
敵を打ち砕かんとする確固たる意志を宿した目は、ヘトゥにあることを問う。
「——違う形にはなるが、私と共に地獄に行く覚悟はできたか」
それがどんなものであれ、戦場で命の奪取に直接関与したものは地獄に堕ちる。
罪悪感はついて回り、最悪の光景が悪夢として毎晩現れる。
治療に携わるからこそ、時に返り血に塗れ、介錯する一歩を踏み出せるか。あの小さな体にそれがあるか確かめたかった。
「老師様。私たちはもう地獄にいるではないですか。——もう出すものは枯れました、行く決意は出来ています」
涙が枯れたヘトゥにそんなことを聞くのは野暮なのかもしれない。
アルス・ミド村近郊で行われていた対空陣地構築は終盤に差し掛かる。
とやかく住民感情を損ないやすく、重要な設備である電探系は厳重な管理を要するため時間が掛かっていたが設置は問題なく進んでいた。
各村でも構築は完了しており、残るはアルス・ミド簡易防空基地を残すのみ。
一番遠い村という事もあり、物資の到着が遅かったということもある。
「機関砲設置完了、レーダーは8割程ですがすぐに終わります」
スタッフが冴島に報告を上げた。
「了解。完了次第、火器管制の試験を行え」
設置が終わればそれっきりではなく、動かして不具合はないかの確認が待っている。
肝心な時に役に立たなければ高性能兵器も鋼鉄の肥やしに変わってしまう。
エラーを限りなく洗い出さなければならないのだ。
「了解」
スタッフが立ち去ると、すれ違いざまに一人の少女が少佐の目の前に現れた。
「覚悟はできたか」
「はい。——私は老師様からこう教わりました。お前が戦うのは敵ではなく、死をもたらす怪我だと。その通り、私は貴方がたにつく死神と戦わせていただきます」
聖戦士のお下がりである魔導士の鎧を纏ったヘトゥは、もう薄幸の少女ではなく
一人の特殊衛生兵となった瞬間だった。
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□
ともあれ試験を実施しなければならないことは事実。
敷設完了の連絡を本部に送ると1機の無人機がレーダーによく映る凧を引っ提げてやってくると言う。
こうしてレーダーが正常に動作するか、そして標的を撃てるかを確かめるのである。
「仕事はコレで終いだろ、さっさと帰ろうぜ」
肉体労働を終えたガンテルは足早に場を去ろうとするも、グルードがすかさず横やりを入れる。
「馬鹿、これから試験があるんだ。んでダメなら不具合探してつなぎ直す、んでまたテストの繰り返しが待ってる、まだまだ終わらないぜ」
残業や居残りと言う言葉がなによりも嫌うこの男の耳に、そんな悍ましいことを囁けばみるみるうちに顔が変わっていく。
「カーッ、帰りが遅くなるのは御免だ。——ちゃんとやったからな俺は、ここに来てから俺は原則的に真面目なんだ!」
そうこう言い争っているうちに空に一筋の影が落ちる。テスター役の無人機が到着したのである。
ぽつりとレーダーに点が2つ映ると、対空兵器たちはヒマワリのように一点を向きはじめた。
「こんなバカバカしい事するために時間取ったのかよ、こんなの瞬きする間にぶち抜ける」
瞼を人差し指でこすりながらガンテルは脇から大弓を取り出す。
高度は500m程度、速力もそこまで出していない。だが明らかに狙撃できる代物ではないのも事実だ。
パルメドも無茶ぶりを前にこう投げかける。
「お前がすごいのはよくわかった、だがな、お前も人間だろ?絶対無理なことは機械に任せるんだ。それに俺も、お前もああいう兵器の怖さはお前が良く知ってるはずじゃないか」
本来ヤツは自動火器にやられたはず。
自分も機銃に追われる怖さと言うのは身に染みている。戦地において無茶ぶりは厳禁、限界を知っておくのは大事なことだろう。
だがガンテルは何も無理をしているようには見えない。
「あのクソッタレ兵器のクソさはよーくわかってんよ、——ま、此処に関してはお前らとは出来が違うってこと見せてやる。よく見とけよ」
口をすぼませて軽く音を鳴らすと、魔具を光らせながらぞんざいに矢を放つ。
どうせ外れるだろうとPALとグルードはタカを括るが、それにしては機動があまりに直線的過ぎる。次第に距離が縮まっていき、確かに凧を揺らした。
「ほぉらな、手前らとは育ちが違うってことよ。」
小憎たらしい笑みを浮かべながら厭味ったらしい口で自慢する。
山育ちのハンターにして、ガビジャバンの天馬騎士を何体も葬ってきた森の死神にしてみればこの程度の無人機はボーナスに過ぎない。
「ここにきて益々気味悪くなってきた、腕の良さは分かったが、そこをもう少し性根に回せんのか」
グルードは舌打ちする。腕は本当に良いが、この性格の悪さはどうにかならないものだろうか。
その傍ら、対空火器が一斉に火を噴いた。
————ZLDADADASHHHH!!!!! DooNG!!! DoonG!!!!———
機関砲が莫大な量の薬莢をばらまき、空にスコールのように弾丸が突き刺さる。
その合間に高射砲の火球が差し込まれたではなかろうか。
本来はミサイルも加わり、この包囲網から逃れるには地上設備を破壊するかハイレベルのジャミングをかけるしかない。
たった一つの目標に向かって恐ろしい密度の弾幕を張られれば、矢の刺さった凧は瞬く間に消し飛んだ。
【試験終了。消費した分の弾薬を補充せよ】
スタッフ一同に少佐からの無線が入る。
「ふざけやがって、結局仕事はあるじゃねぇか!」
「やり直しよかマシじゃねぇか。さっさと終わらせて飯にしちまおう」
結局のところ、残業から逃れる事はできないらしい。
それは冴島も同じであり、まだまだポポルタ線がらみの物資類がこのアルス・ミドに到着する予定でいた。
一体それは何かと言うと、城塞を打ち砕くための砲兵部隊である。
本隊が来る前にという条件のため足が速い自走砲が選ばれた訳だが、何やら今まで見たことのない外見をしていた。
主体砲にシルエットは似ていても、それを超える長い砲身。重巡大田切の砲をそのまま走らせたかのような一本角は、誰が見ても強力という印象を目にしたもの全てに焼き付ける。
そんな2S7 203mm自走砲の大群だった。後ろについているトラックの積み荷は全て砲弾だ。あまりの砲火力故にめまいすら覚えるが、城塞を崩すにはコレくらいなければならないだろう。
ゾルターン城もスカッドを毎日のように撃ち込まれているにも関わらず、航空写真によればまだ半壊で済んでいる辺り、コレくらいの用意をしないとポポルタ線は攻略できない。
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□
冴島が到着した部隊を確認していると、村の方が騒がしくなっていた。
仮にもアルス・ミドの責任者となっていた彼は嫌な予感を察知し、足早に向かう。
———アルス・ミド村
門の近くに来ると、何やら警備スタッフとアーマーナイトが言い争っているようだった。
よく見ると帝国軍のものではない、ボリスが報告に上げていたラムジャーを許さない市民の会と言う武装集団なのだろう。
デモめいた旗を見ると、過激派と勘違いされてもおかしくない。
市民の会と言う割には正規軍にも匹敵する程の武装はやや過剰ではなかろうか。
聞き耳を立てると「代表者を出してくれ」とごねているらしい。少佐は彼らに割って入り要件を聞こうとする。
「俺がここの責任者冴島だが、一体何の用だ」
胸に拳を当て、帝国なりの敬礼と共に名乗りを上げると、ガビジャバン式の重騎士はヘルムを取る。重厚な丸顔を露わにして目的を述べた。
「我々はラムジャーを許さない市民の会、会長ロジャーであります。我々はラムジャーの支配する腐敗城塞ポポルタ線を粉砕するという情報を得て、何か前線でご協力できる事がないかと、最前線のアルス・ミド村に伺った次第であります」
船乗り以上に声が大きい人間は初めて見た。チェレンコフ大佐以上に大きく腰が思わず引きそうになる。路上演説でマイクすら要らないのではないか。
明らかに口調が過激派テロリストの言い分に違いないものの、噂やSoyuzのしている支度や聞き話を基にここまで来たとすると彼らは相当情報に長けていることが分かる。
偶然かもしれないが。
「はぁ…」
あまりに強い語気故に冴島はたじろぐ。こんな大男の集団が押しかけてくれば村は騒ぎになるだろう。話題性抜群、凄まじく目立つ。
今どき重装歩兵を輸送できる設備はないと頭を抱えていると、ある妙案を思いついた。
分厚い装甲を身に纏っても平気なアーマーナイトたち。また彼らが生む馬力は人間を超え、最早重機だ。力を活かせる仕事、砲の装填手にはぴったりだと。
「お役に立てることなら何なりと!」
相変わらず声が大きい。ロジャーという男が真人間で助かった。
少佐はそう思いつつ、顎に親指を立てながら、こう提案する。
「あなた方の目的はよく理解できました。——そこでお願いしたい役職があるのですが…」
彼が挙げた兵職とは一体何だというのか…?
次回Chapter138は5月21日10時からの公開となります。
登場兵器
・ZPU-4
大口径機関砲をそのまま4つ括り付けて対空砲に仕立て上げたもの。昨今のジェット機にはもはや歯が立たないが、低空を飛行するヘリコプターなどには効力を発揮する。
案の定というべきか、地上に向けて撃っても雑に強い。
・S-125
ソ連製地対空ミサイル。レーダーとの連携して敵を索敵し、叩き落すことができる。
例のステルス機を落としたのはコイツ。旧式ながら使い勝手が良く、相手にプレッシャーをかけることが出来る。「ある」のと「ない」のでは大違いなのだ。




