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SOYUZ ARCHIVES 整理番号S-22-975  作者: Soyuz archives制作チーム
Ⅲ-6. ポポルタ線の戦い
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Chapter136. Spooky Winds

タイトル【不吉な風】



捕虜からポポルタ線の存在を引き出したことにより、次なる標的はこの要塞になった。


今度起きる戦闘はこれまで行っていたものより大きくなるだろう、くらいは察しがつく。


大きな戦いに備えるため、両者は戦闘を止めて兵力をかき集める。嵐の前の静けさがゾルターンに渦巻く。



——アルス・ミド村



【こちらLONGPAT、本隊が到着するのはいつ頃になるか聞きたい】



【7月中では済まないのは確かだ。あくまでこれは日本時間換算だが。】



冴島と権能は今後起きる戦いについて話していた。


尋問を担当したボリスの報告によれば反乱が発生した際、ゾルターンの隅々にまで派兵できる程の拠点であるという。



発想を逆転して考えてみれば、籠城して持久戦を仕掛けるには最適と言っていい。



此処を突き進めば敵の喉元まで一気に近づけるが、証言が正しければ数百から千を超える兵士で構成されているだろう。



【了解。航空偵察を要請する】



結局のところ存在が浮上しただけで実態は深い闇の中にあるのに変わりはない。

冴島はベールをはがすべく、真っ先に航空偵察を要請した。



【HQ了解】



謎に包まれたポポルタ線を解き明かすため、OV-10が本部拠点から飛び立つ。








—————————





遠く、遠く。


Soyuzの侵攻ルートを見下ろすようにブロンコは進む。


地面のうつろう様相は県それぞれが特徴を持っていることを如実に教えてくれた。


高い山を越え、水辺や平原を越えるとアイオテの草原よりも濃い緑の草原が出迎える。

ゾルターンに侵入したことは航空写真を基にしたマップを見なくとも分かるだろう。



目標地点に近づいてくると、平原にぽつぽつと茶色いミステリーサークルのように浮かんできた。

あの一つ一つが村らしい。



対空車両やミサイルが後ろ盾になってくれるとは言っても、敵地に入れば制空権は失われる。



どんな怪物が襲ってきたとしても何らおかしくない。パイロットは一層気を引き締めて偵察地点へと向かう。



その一方、地表に潜むゲルリッツたちは偵察機の存在をいち早く察知していた。



「旦那、奴らが出てきました。どうします、もうこれ以上は我慢の限界です。」



最終調整を終えていたシムは中佐に出撃するよう促す。


あの程度の速度なら相手に出来る。そう言いたげだ。


しかし彼はその案を一蹴する。



「貴様は前に遭った騒動を知らんのか。8騎のペガサスナイトが経った一つの馬車もどきにやられた。瞬きする間に皆殺しだ」



「いいか。あの銀色以外は勝てるだろうが、我々は地上からも狙われていることを意識しなければならなくなった。その意味はわかるか、空を飛べば確実に堕とされることになる。



「それに…ヤツらは流星を使ったのをこの目で見た。——それに、あろうことか撃ちだされた物体が空の敵を追いかけていた。…私が叩き落される訳だ」



中佐はアルス・ミドでの戦闘を目撃していた。



あの飛行物体が悠々と単独で飛んでいられるのは、空ではない場所に護衛が付いているからに他ならない。



「じゃあ今からでもいいじゃないすか、旦那を叩き落したその…馬車もどき?をぶち壊せば」




めんどくさいことになってきたのは確実だが、シムは怯まない。



「貴様、この私に口を挟むとはいい度胸だな。帝国軍にいた頃、異端共の兵器についての報告が回ってきたが、ガローバンやニースすら効かないらしい」



「こうなったら杖を持ったソーサラーを飛竜に乗せて全力のヴァドムを使うしかないだろう。吹き飛ばしたところで破壊できるか怪しい、最も今の装備ではかすり傷一つ付けられん。そんな状況でお前は何ができるというのだ、答えて見せよ」



これが帝国軍の限界だった。


全力で殴り合えば間違いなく負ける、策を講じなければ倒すことは不可能。


だが相手側も貨車もどきの重要性も分かっているだろう、そう簡単に隙を作るとは思えない。



「クソッ!」



無理問答にシムはいら立ちを募らせる。



「——今は出るべきでないことくらいわかっただろう。良く聞いておけ。我々が襲うのは空の護衛がついた敵だ」



そんな彼をゲルリッツはいつもの通り、説教を浴びせるつもりはなかった。

しかし、いつまでも地上を這いつくばっている訳にはいかない。



だからこそこうして観察して、着実に叩き落せる相手だけを吟味する必要があるのだ。

命を、新兵器を無駄にしない為にも。






—————————






——ポポルタ線



最後の村を過ぎると、平原は次第に形を変え山が二つ連なったかのような地形に代わっていく。


植生は相変わらず濃緑の草原だが、谷底に当たる位置にぽつんと街道が一本走っていた。


それを辿っていくとダムのようにそびえる城塞が見えてくる。



「此処か…まるで水門だな…」



証言通り迂回できそうにない、強固な城塞だ。


長城と言っても良いほどの防壁と、パイロットからでもわかる、おびただしい数のカタパルトが据え付けられていた。



よく見ると、城門に付近の土地に傾斜が付けられているようであり、徹底的に上から撃ってやるという固い意志を感じる。



迎撃が出てくることを懸念して高度を2000m程度まで上昇させた。


門を飛び越えると、そこには村が広がっていた。正確には畑ばかりだが、ドーム状の防御陣地も数多く点在している。


どれも現実世界で見るようなコンクリート製と思われ、ホールのような建物も見えるが偽装されている可能性もぬぐえない。



大方農村を接収後に統合して作り上げたと見て間違いないだろう。


如何にも、ファルケンシュタイン帝国らしい城塞だった。



「民間人が確認できません」



後部座席にいるガンナーは機長に報告を上げる。


ジャルニエ城の時もそうだったが、住民を追剥の挙句叩き出すことで物資を調達しているケースも無きにしもあらず。


世界中から難民が絶えない理由は正にここにあると言っても過言ではない。



民間人からすればとばっちりにも程があるが、軍隊の人間しかいないという事は好き放題に攻撃しても良い事になる。



何にせよ無駄なことを気にしなくてよいのはいい事だ。






—————————






———城塞司令部


偵察機が見下ろす地上では早速敵機が探知され、騒ぎとなっていた。



「ゲイル様、敵の先発が来ました!ですが…」



ペガサスや飛龍が活動できない高度に逃げられた旨を伝えようとするが、伝令の首に鋼鉄の爪が食い込んだ。



「わかり切ったことを言うな!異端が…散々俺をコケにしやがって、あの澄ましたツラ士官顔に槍を立てて革を剥いでやる」



「———さっさと準備しねぇか!Eh-HAHAHA、異端の血を今たっぷりと吸わせてやる…」


至上最悪の騎士、否。


蛮族ゲイルだった。



冴島に無様に逃げた後この城塞に流れ着いた。そして騎士将軍という立場をいいことに

勝手に指揮を取っている。何と横暴なことだろうか。


曲がりなりにも指示を下すと伝令を放り出し悪魔めいた笑いを浮かべる。



「害虫がァ…今度こそ、皆殺しにしてやる」






——————————






騎士蛮族ゲイルが取った陣形は、今までの戦法とは全く違う代物だった。


というのも防衛線を構築するにあたって、城壁を背に受けて密集陣形を組ませることが多い。


だがこの男は現代戦と言うものを知ってしまった。


報告に確かに上がっていたものの、こんなのがそんなものをアテにしていなかった。



長距離から確実に攻撃を加えてきて密集陣形はボロボロになるだろう。



そう考えたゲイルは敵のいるアルス・ミド村とポポルタ線間 34kmのうち、先方に多くの兵員を配置するのではなく、あえて5キロ先といった場所に兵を置いたのである。


城門には無数のシューターやソーサラー、銃士が配置されておりその後ろ盾を得ようというのだ。



銃やカタパルトは届かないだろうが、敵をいい感じに疲弊した先に総火力で殴ってくるように計算してある。

ただ銃士の陣形を野ざらしにおいても奴らの攻撃で全滅するよりはずっとマシだ。



新兵器を前に敵が阿鼻叫喚になる様が目に浮かぶ。


騎兵は先方に、アーマー類は後ろに配置し徹底的に奴らを根絶する。


なんと心地の良い事だろうか。


また城門を突破されたとしても、むしろそこが本番と言える。



銃兵はむしろ内部に潜ませている。あのドームから飛んできていると知っても時すでに遅し。

誰も彼もが火だるまになっているに違いない。



悪の策動が着実に動いていた。









—————————






【OSKER01、撮影されたデータを送信し帰投する。】



【LONGPAT了解】



ゲイルの与り知れぬところで冴島少佐は行動を開始していた。

部隊が到着するまでの間、胡坐をかいて居る訳にいかない。



OV-10から送信されてきた航空写真をベースに紙面上にて固定砲座の位置を書き記していく。



「カタパルトが87基…壁は推定8m。数え切れない銃眼があると考えていいな。随伴歩兵はおいそれと出せないな。内部はトーチカが凡そ54箇所、バンカーバスターが欲しくなるな。」



改めて書き起こしてみると、恐ろしい程の武装が施されていることが分かる。



現代風に考えると、無数の機銃と90門の火砲がこちらを向いているのと同じ。


あくまで今回分かったのは城塞の位置と兵器配置だけだが、攻めるとなれば当然兵員が配置されることになるだろう。



次の偵察はどのような兵が配置されているかである。



課題を浮かべたのはいいとして、城門を蹴破って内部に入れば市街戦が待ち受けている。

あのトーチカにソーサラーやスナイパーが潜んでいるとなると目障りだ。




野砲の力を借りたとしても精度に劣り、地中貫通爆弾で吹き飛ばすとしても大量の防衛陣地の前では弾切れを起こす。


航空戦力としてありったけの爆撃機を寄越すとして

地上側も「戦車と共に突撃できる大火力砲持ち」が必要となってくるだろう。



数々の思惑を胸に冴島は無線機を片手に指示を下す。



【こちらLONGPAT.ポイントZ-03へ集結せよ】







——————————





ただ攻めていけばいいのか、と言われれば嘘になる。



続いて動き出すのは防空陣地の設置と空軍基地計画だ。



本部、ハリソン、ジャルニエと航空設備は確かにあるが、ここゾルターンに設置するのはやや趣が違う。



確かに空軍基地を兼ねる空港を建設する所までは同じだが、「交通」の要所としての側面を持たせている。



今までは鉄道だったのが、今更になって空港なのか。そこにはゾルターンならではの事情があった。



ロンドンの存在である。



鉄道では積み込みの際に襲撃を掛けられることや、強盗目的で線路内に侵入してきた組員との人身事故が多発することを踏まえた措置である。



ともあれ、学術旅団といった非戦闘員スタッフのみならず、旅客サービスを展開することで現地経済の復興を支える計画だ。



もう一つの防空陣地の設置はすぐさま動きつつあった。



先日のペガサスナイト襲撃事件を重く見た中将は、検疫を終えた大規模輸送船団が積んだ「本隊」が到着する前に村々に対空砲などを揃えた防空陣地を設置するように命令を下していた。



陸上の高速輸送が未発達なナルベルン-ゾルターン間では。従来通りトラックを使う輸送ではあまりにも遅い。



そのことから食糧支援を行ったIl-76とMi-12ら重ヘリコプター船団からの空中投下ないし、積み下ろしを行う事になる。



「そろそろか…」



轟音を耳にした冴島は一度腕時計で時刻を確認し、空を見上げた。


視線の先にはパラシュート、その先には黒い箱のようなモノが吊り下げられ、ゆっくりと降りていく。



それはまるで桜の花びらのように落ちていくと、草原に大きな穴を開け落下傘がしぼむ。



「おぉ!空から宝が降ってきたぞ!多分あの大将がやったんだ!」



偶然その光景を見ていた村人が声を上げた。


天からの宝札を喜ぶ声は次第に大きくなりはじめ、村を渦巻くほどになり、熱狂が包む。



「なぁ、あんたがさっきの宝を降らせてくれたんだろ!すげぇな!」



ある男が冴島に礼を言うも、彼は表情を一つ変えることなく答える。



「えぇ、確かに宝に違いないのかもしれません。我々地上を進むしかない存在にとって。」



すぐさま彼は声色を変え、部下に命令を飛ばす。



「対空兵器設置急げ!」


病み上がりとは言え、彼の仕事は堆く積もっていた…


次回Chapter137は5月14日10時からの公開となります


登場兵器


・Il-76

大型ジェット輸送機。輸送のみならず、中身を変えれば空挺部隊の降下にも転用可。

古い機体ながらもその実力は折り紙付き。

バリエーションの一つに民間旅客機が存在し、使い方に一つで機械は顔色を変えてくれることが良く分かることだろう。


Mi-12

冗談のような大きさの世界最大のヘリコプター。本来、試作機しか存在しないのだが、Soyuzのインフラ開発事業に必要と判断し、再製造した。本来はミサイルの部品を輸送するために製造された。高度2000m近くまで4t近くの物体を持ちあげた、ギネスに載った怪力ヘリコプター。


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